第27話 最短距離
遅くなりました。第27話投稿いたしました。
『――地下8階の、最終隔壁が破られた!』
のどか先輩の報告が脳に直接響いているかのようにこだましている。
エレベーターシャフトまで戻っても 間に合わない。
階段を降りる? それこそありえない。
「黎! なにしてんだ、シャフトは――」
道がないなら――
獅狼の制止を背に、俺は足元の床を睨みつけた。
「ここから狙撃しながら、道を作るッ!!」
右腕の流体が瞬時に黒鋼の重火器へと組み上がる。
「のどかさん!!この床の厚さと材質は!?」
「厚さは約30㎝、大部分は鉄だよぉ」
これまでのすべてをこの一撃にそそぐ。
獅子堂の避雷針をもとにベクトル操作、振動エネルギー、流体圧変換、今まで主に使ってきた魔術を最適に組み上げ、威力を最大化し、最速で敵を貫くデバイスを作る。
「ヴィヴィ!!わかってるか!?」
『も~ちろん!!』
俺の思考と構築に合わせ、右腕に巻き付いたヴィヴィが黒い流体へと解ける。
宙で渦を巻く流体の表面に、ヴィヴィの青白い魔術刻印が素早く、かつ複雑に展開されていく。
デバイスの基盤生成。
莫大な反動と衝撃に耐えうる骨格系の銃身生成。
爆発的な流体圧へと変える【血管系】のエネルギー変換回路。
そして、放たれる威力のベクトルを真下へ完全固定する【神経系】の指向性制御回路。
さらに、弾丸として――
超高速の振動エネルギーを纏わせた『避雷針』を打ち出す!!
ガシャ、ガシャンッ! と無骨なパーツが幾何学的に噛み合い、俺の右腕ごと覆い尽くす巨大な重火器が組み上がる。
ここまでの構築、わずか一秒。
だが、まだ撃てない。見えない地下8階の敵をブチ抜くための「目」がいる。
「――繋がれッ!」
俺は自身の瞳に装着したコンタクトレンズ型の戦術デバイスと、今組み上げたばかりの重火器の神経系を、そのまま自分の片眼に突き刺し、無理やりにつなげる。
視界に激しいノイズが走り、火花が散る。
「おい!!!」
『警告:非正規の接続です。システムに深刻な負荷が――』
「うるせぇ!!」
直後、コンタクトが捉えていた立体マップのデータと、銃の照準器が完全に同期した。
視界の遥か足元、何枚もの分厚い鋼鉄の向こう側。
地下8階で激しく明滅する敵の座標が、ロックオンマーカーで捕捉される。
「ぶち抜くぞ! ヴィヴィ!!」
『全開でいくよッ!』
限界まで膨れ上がった魔力をトリガーに流し込み、引き金を引いた。
「撃ち抜けェッ!!」
鼓膜が弾け飛ぶような爆音。
極大の閃光が、厚さ30センチの鉄とコンクリートを水のように蒸発させ、真下へ向かって一直線に特務防衛局の床を貫いていく。
だが――。
ガァァンッ!! と、ひときわ重い反発音が響いた。
親父のいる地下8階へと通じる最後の防壁の直上で、弾丸となった避雷針が限界を迎え、激しい火花と共にひしゃげて霧散する。
抜けていない。あと一歩、火力が足りない。
なら――
空中で熱を帯びた重火器を、ガントレットへと形を変えていく。
「ヴィヴィ!ベクトル操作、身体強化、爆発エネルギーだ!!」
「あと、1秒ちょうだい!!」
俺は自らが撃ち抜いて作り出した、目の前にあるまっすぐの道へと、真っ逆さまに突っ込む。
迫り来る、赤熱した最後の鋼鉄。風を切る轟音が耳をつんざく。
激突まで――残り一秒。
『――完了ッ!!』
ヴィヴィの叫びと同時、右腕のガントレットがガシャンッと重厚な音を立てて固定される。
落下速度。そこへ完成したばかりのガントレットの全推力を乗せ、俺は渾身の右拳を叩き込んだ。
俺の拳を中心に分厚い鋼鉄が網目状にひび割れ、けたたましい破砕音と共に粉々に弾け飛ぶ。
視界が一気に開けた。非常灯の赤。
ひしゃげた隔壁を背に這いつくばる親父の姿。
そして、その頭上に振り下ろされようとしている丸太のような凶爪。
「親父から――――離れろッ!!!」
腕を失った化け物が大きく吹き飛び、距離が空く。
舞い散る粉塵の中、俺は静かに息を吐き、背後に倒れ伏す人影に声をかけた。
「……遅くなって、悪い」
「馬鹿野郎……完璧なタイミングだ……」




