第25話 二柱の神迎え撃つは人類最強チーム 一
遅くなりました、第25話更新です。
黎たちがエレベーターに向かっていくのを見届けた直後、私たち三人は本局を飛び出し、できる限りの速度で激戦の中心地へと向かっていた。
少し遅れて崩落したビルの瓦礫を乗り越え、ようやくその戦闘地点に辿り着き、その光景を目にした時。
「なんだ、これ……」
隣で息を呑む気配がした。思わず誰かの口から、そんな乾いた言葉が漏れる。
それもそのはずだった。私たちの視界に飛び込んできたのは、町が破壊されているのではなく『消し飛んでいる』光景だったからだ。
そこで起こっていたのはまさに蹂躙。人間が蟻を踏み潰すような、戦いですらない一方的な光景が広がっていた。
クトゥレヴィアから溢れ出した半透明の黒い水は建物の壁を這い上がり、その重みだけで鉄筋コンクリートを粉砕している。逃げ遅れたB級隊員たちが放った魔力弾は、神が纏う圧倒的な質量の前に届くことすらなく、その津波に呆気なく飲み込まれた。
さらに上空では、ハリストゥールが引き起こす暴風が触れたもの全てを無差別に切り刻んでいる。
その風は大気を歪め、色を奏でていた。
真空が光を狂わせ、砕け落ちるコンクリートの鈍色や引き裂かれた魔力防壁の淡い光、そして宙に舞う赤黒い血飛沫を、不気味な極彩色の万華鏡に変えて空一面にばら撒いている。
その異常な光景を前に、修羅場をいくつも潜ってきたはずのA級隊員たちでさえ、足が震えていた。
ただ、三人を除いて……。
「起きな、鬼神虚魔……やっぱり可愛くないねぇ、この名前」
「まだそんなこと言ってんすか」
「だってアタシ、可愛いのが好きなのに。まぁいいや、あの不細工な神様を三枚におろせば、少しは可愛く見えるでしょ」
いろは先輩が冗談めかして笑うと、その華奢な体から赤と青の凄まじい魔力が噴き出した。
獅子堂先輩も肩に担いだ巨大な避雷針を片手で軽々と回し、体に電光を迸らせる。
「……私、獅子堂先輩、いろは先輩以外のA級隊員はただちに後退! 防衛線を再構築して、市民の安全確保に専念しなさい!」
私の一喝が、恐怖で金縛りにあっていたA級隊員たちを正気に戻した。
「ここから先は、私たちが引き受けるわ。……第7神装『アポロン』」
私がそう呼ぶと、手に一本の筒が作り出され、周囲に黄金の光を帯びた無数の光学レンズが出現する。
「「「了解!!」」」
A級隊員たちが一斉に背を向け、新たな防衛線を構築すべく統制の取れた動きで散開していく。
私はアポロンの光学レンズを敵の周囲に展開し、観察を始めた。
敵の総質量、魔力量、魔力の流れ。敵の情報がレンズを通して私の脳内に直接刻み込まれていく。
クトゥレヴィアの体組織はほぼ水分で構成され、ハリストゥールのほとんどは実体を持たず、大気を歪ませて姿を見せているだけのものだ。
「クトゥレヴィアの攻撃手段は体全体を使った質量攻撃、水系統魔術。ハリストゥールは風系統魔術と、大気の操作です。そしてどちらも、その体の中に固形物を感知できます。おそらくそれがコアでしょう」
「ほんと便利よねぇ、そのデバイス」
「便利ですけど、私自身の処理速度があってこそですよ。普通の隊員が使えば一瞬で倒れます」
私は周囲に浮遊するレンズを2枚残して直列に繋ぎ合わせ、光の矢を手の中に生み出す。
「私が一撃大きいのを撃ちます。それと同時にクトゥレヴィアはいろは先輩が、ハリストゥールは獅子堂先輩が対応してください。私は二人の後方支援に回ります」
「オッケー、任せんさい!!」
「ハッ、風なんざ俺の雷に追いつけるかよ!!」
「――『陽光の雨』」
手元の筒から放たれた光の矢がいくつものレンズを通り、極大の光となって上空へと打ち上がる。そしてそれは花火のようにはじけ、数千の降り注ぐ光となって堕ちていった。
それはまさに光の流星群。
神聖なる光はクトゥレヴィアの水を激しく蒸発させ、ハリストゥールの狂風を熱量で制圧し、神々の理不尽な進撃を大地に縫い留めた。
降り注ぐ光を縫うようにして、二つの影が疾走する。
「遅い遅いッ!!」
赤と青の軌跡を残したいろは先輩が、光に焼かれて身悶えするクトゥレヴィアの真正面へと躍り出た。
黒い津波が彼女に迫るが、彼女はただの剣圧でそれを真っ二つに両断する。
一方、上空ではハリストゥールが空間を明滅させ、不可視の刃で獅子堂先輩を切り裂こうとしていた。
「見え見えだっつってんだろォがッ!!」
獅子堂先輩が咆哮と共に跳躍し、避雷針を天に突き上げる。極大の雷光が、ハリストゥールの引き起こす暴風と空間の亀裂へ真っ向から激突する。強烈な電光が空間の断裂に干渉しその理不尽な力を相殺した。
二人が二柱の意識を完全に惹きつけたのを確認し、私はすぐさまレンズを敵の周囲へと展開し直す。
「よし……! ここからは私が敵の情報収集を続けます! 二人は全火力を叩き込んでください!」
私の網膜に、再び魔力の奔流と、敵の情報が鮮明に可視化されていく。
だが、相手は不完全とはいえ二柱の神格。光の雨による制圧から復帰した彼らの反撃は、より理不尽で凶悪なものへと変貌した。
クトゥレヴィアが、自身の巨体から瀑布のような塊を切り離した。水は意思を持つかのように空中をうねり、巨大な球体となって、前衛に飛び込んだいろは先輩を全方位から包み込もうとする。
「せまーい! アタシ、こういうジメジメした窮屈な場所って嫌いなんだけどッ!」
不満げな声と共に、彼女の左手に握られた小大剣の魔術刻印が青白く発光する。それは冷気を放ち、周囲の水を瞬時に凍結させた。
「だから、さっさと吹き飛べ!」
凍結の直後、右手に握られた黒き大剣が下から獰猛に跳ね上げられる。
分厚い氷を内側から粉砕する凶悪な一撃。さらに刃が氷を捉えた瞬間、魔術による極大の爆発が引き起こされ、頭上の氷壁を跡形もなく吹き飛ばした。
四散する雨を抜け出し、彼女は全く速度を落とすことなくクトゥレヴィアの懐へと肉薄していく。
その裏で、ハリストゥールも空間を不気味に明滅させ、獅子堂先輩へと牙を剥いていた。
彼の周囲の大気が一瞬にして消失し、不可視の真空の刃を伴った暴風の竜巻が発生する。
「チッ、チマチマした風なびかせやがって……!」
だが、獅子堂先輩は迫り来る死の暴風を前にしても、獰猛な笑みを崩さなかった。
「男ならド派手に来いってんだよォッ!!」
獅子堂先輩は自身の魔力を流し込んだ避雷針を、迫り来る竜巻の壁へ向けて力任せに投げた。
直後、彼が指を鳴らすと、上空の黒雲から自身の避雷針へ向けて極大の落雷が突き落とされる。
彼の体と避雷針を経由した膨大な電磁の熱量が、周囲の空間ごと大爆発を起こした。雷の圧倒的なエネルギーが暴風を内側から食い破り、真空の刃を完全に吹き飛ばす。
「...........…見えた!」
私は一つ、光の矢を射出した。
アポロンの矢はレンズを通るごとに威力が倍々になっていく。1枚では貧弱な威力でしかないが、すべてのレンズ、総数15枚を通った時それは何にも防げない絶対の光に化ける。そしてこの時、私から戦場を俯瞰する観察機能は失われる。
そして、このレンズは光を当てる面によって性質が異なる。
裏に当てたとき、光は収束する。
表に当てたなら、光は反射する。
光はまっすぐにしか進まない。しかし、レンズを使うことによって自在に方向を変えることができる。そして――表のレンズで反射した光は、ただ軌道を変えるだけでなく、その速度を限界まで引き上げていくのだ。
何より、この技最大の強みは、レンズによる『敵の観察と同時に行える』ことにある。
「倒れなさい……!!」
光は幾何学的な軌道を描きながら戦場を縦横無尽に飛び交い、反射を繰り返すたびに恐ろしいまでのスピードを獲得していく。
極限まで加速した光が、クトゥレヴィアの装甲とハリストゥールの空間の盾をすり抜け、二人の攻撃で脆くなった部位を正確に打ち据えた。
威力はさほどない。だが、正確かつ避けることすらかなわない速度。
この二つを持った攻撃は、確実に二柱の体勢を崩すに至った。
「今です!!」
私の声がかかる前に、二人はすでに動き始めていた。
「ナイス!蛍ちゃん」
「迅雷葬」
いろは先輩がその双大剣で無防備となったクトゥレヴィアの巨体を十字に切り裂く。
同時、雷をまとった獅子堂先輩が高速で突っ込み、激しくバランスを崩したハリストゥールの虚無の顔面を真っ向から吹き飛ばした。
しかし、土煙が晴れた先には、先ほどと何一つ変わらない二柱の姿があった。
まるで、今まで何もされていなかったかのように。
「……魔力量、総質量ともに減少ゼロ。コアへの直撃もありません」
レンズから得た情報を読み上げる私に、二人は焦るどころか、どこか納得したような声を返した。
「まぁ、そうだろうねぇ」
「これぐらいで死ぬなら、不完全とはいえ神格とは呼ばれなぇよな」
獅子堂先輩が獰猛な笑みを浮かべて避雷針を肩に担ぎ直し、いろは先輩が呆れたようにため息をつきながら双大剣を構え直す。
「おそらくですが、コア以外の攻撃はほぼ意味がありません」
「オッケー。じゃあ、コアが露出して可愛くなるまで何度でも三枚におろしてあげる」
「ハッ、サンドバッグにし甲斐があるってもんだろ!
これからは2週間に1話くらいのペースで書いていこうと思います。




