第20話 打開策
お待たせしました、第20話投稿いたしました。
「この足止めも長くは続かねぇ、対策を練るためにさっさと情報をまとめるぞ」
獅子堂さんが、焦げたアスファルトに避雷針の石突きを突き立てて口を開いた。
「敵さんの所属は見当がついてる。クトゥレヴィア教団とハリストゥール教団だ。この2つの教団がタイミングを合わせたように今回の魔術戦争を仕掛けてきた、そしてその目的は信仰している神の顕現ときた」
「……はい。はあっ……はあっ……。そして、あいつらが殺し合って死んだ死体から出る魔力は、霧散せずに……地下へ向かって吸い込まれていく……」
地に突き立てた大剣にすがりつくように体重を預け、獅狼が苦しげな息を吐きながら言葉を継ぐ。先程までの激戦のダメージは深く、まだ体力は回復しきっていないのか、その声はひどく掠れて震えていた。
「この魔力が、神を顕現するための……魔術に使われている……ッ」
「ちょっと休め、獅狼……体力を使いすぎだ…」
「あぁ、悪い……」
荒い息を繰り返す獅狼に肩を貸しながら、俺も現状を口にした。
「つまり、この交差点を巨大な祭壇に見立てて、神に捧げるための莫大な魔力を自動生産し続けるのが真の目的」
俺の言葉に、獅子堂が忌々しげに顔を歪める。
「にしても、この作戦を考えた奴は狂ってるな……人の命をなんとも思ってねぇ、ただの狂信者か、何らかの目的のため神を召喚しようとしているのか……」
俺は「狂信者」という言葉に、引っかかるような違和感を持った。
(狂っている? いや……)
この地獄絵図のような戦場、相反する属性を持つ化物たちを同士討ちさせるシステム。それはあまりにも合理的で、無駄が無さすぎる。
「確かに作戦そのものは狂気的です、しかし狂っているというにはこの作戦は完璧に設計されている」
「つまり、どういうことだ?黎」
獅子堂の鋭い視線が俺を射抜く。
「このテロの黒幕は、盲目的な狂信者なんかじゃない。後者です。神の顕現という現象を利用して、さらにその先にある本来の目的を達成しようとしているはずです」
「ふむ……。信仰そのものが目的ではなく、手段か。確かにな、その線は濃厚だ」
獅子堂さんは顎を撫で、俺の推測に理解を示した。だが、すぐに避雷針を担ぎ直し、眼下の化物たちを睨みつける。
「だが、それよりも今は、この状況を何とかしないといけねぇ。黒幕の目的が何であれ、ここで神を完全に顕現させちまったら、その瞬間で俺たちは詰みになる」
「でもどうやって止めるんです?奴ら今は止まってますけどこれが解けたらまた殺しあいますよ」
先ほどまでの体力は回復したのか、息を整えながら獅狼が疑問を投げる。
「まぁどちらにしろ殺さねぇってのは無理な話だろうな、だったら死体から出てくる魔力自体をなんらかの方法で消費させちまえばいい」
獅子堂さんはニヤリと凶悪な牙を剥き出しにして笑うと、地中へと吸い込まれていく魔力の奔流を見据えた。
「でも、俺らは自身の体内に巡っている魔力しか扱えないです、どうやってこの魔力を集めるんですか?」
最前線で部隊の陣形を指揮していた副隊長が、呆然とした顔で声を上げた。
普通の隊員にとって外部の魔力を直接操作するなど、人間にはできない芸当。ましてやそれを自らの体外に留めるなど、空に絵を描くようなものだ。
「あぁ~、ちょっと待て」
「?」
「あ、あ~こちら獅子堂、聴いてたろ蛍、お前んとこの新人の力ばらしてもいいか?」
『……ええ。状況が状況よ、許可するわ。ただし、隊員の口止めをしっかりするようにね』
インカム越しに響いた蛍隊長の渋々といった声に、獅子堂さんがニヤリと笑う。
「だそうだ。耳かっぽじってよく聞けよ、お前ら」
獅子堂さんは肩の避雷針をトンッと叩きながら、俺を人差し指で指し示した。
「そこの黎とヴィヴィは特別でな、デバイスを好きな形で作れる特注品だ。こいつを使えば、地表に漂う魔力を根こそぎかき集めるデバイスをこの場で作れる」
隊員の中にどよめきが広がる、この中で俺のことを知っているのは獅狼と、おそらくだが獅子堂だけだ。
「デバイスをこの場で作れる?それって昔、失敗した自律再編型・疑似生命体デバイスですか?でもあれって生成するときに莫大な魔力を使うって話じゃ」
「だからそこの黎しか使えねぇんだよ、黎の魔力は底なしと言っていい、この前の任務でその肩に乗っている猫を拾ったんだそうだ」
(ヴィヴィを隠れ蓑にすることで、俺の存在から意識を背けたのか……ありがたい)
『ふふん! 私は自律再編型・擬似生命体デバイスのヴィヴィだよ! そして黎は私の完璧な相棒! どんな無茶でも形にしてみせるよ!』
俺の肩の上で、ヴィヴィが胸を張って得意げに言い放つ。
「わかりました。空気中の魔力を収集して結晶化させる装置を作ります。……ただ、この交差点は広すぎる。巨大な装置一つだけじゃ、全域の魔力は吸いきれず地下に漏れてしまいます」
俺は交差点の四方を見渡し、頭の中でヴィヴィと設計図を組み上げながら口を開いた。
「交差点の四隅に、魔力収集装置を複数設置します。そして最後に、陣形の中央にそれらを束ねて石に変える結晶化装置を造ります。……時間を掛けたくないので移動しながらの作業になります」
獅子堂さんがニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。
「上等だ。野郎共! 黎が四隅に装置を置くための道を開け! 麻痺が解けかかってるバケモノどもを蹴散らして、このイカれた職人を護衛しろ!」
「「「了解ッ!!」」」
大隊の隊員たちが一斉に動き出す。獅狼も大剣を構え直し、俺の隣に立った。
「行くぞ黎! 遅れるなよ!」
「あぁ、頼む!」
俺たちは円陣を解き、交差点の端へ向かって駆け出した。
獅子堂さんの雷による麻痺から徐々に回復し、ピクピクと動き始めた化物たちが、俺たちの動きに反応して再び殺意を向けてくる。
「オラァッ!!」
獅狼が大剣の腹で鳥型の化物を殴り飛ばし、副隊長たちが強固な盾で深海の化物たちの突進を弾き返す。彼らがこじ開けた一瞬の隙間を縫って、俺は一つ目のポイントの地面に両手をついた。
「ヴィヴィ、一つ目!【指向性魔力誘引】と【魔力転送】!」
『サブデバイス、生成!』
俺の腕から銀の流体が零れ落ち、瞬時に高さ1メートルほどの細いアンテナのような収集装置へと組み上がる。
「よし、次だ!」
獅子堂さんの雷撃が道を切り拓き、俺たちは戦場を駆け抜ける。
二つ目、三つ目、四つ目。
大隊隊員たちが防衛線を押し上げている間に、俺は交差点の四隅に銀のアンテナを設置して回った。
「大隊長! 四隅の設置完了しました!」
「よし、中央に戻れ! 仕上げだ!!」
再び大隊全員で中央へ陣取る。四隅のアンテナによって、交差点全域を囲い込む巨大な結界の準備は整った。
「ヴィヴィ! 四隅のサブデバイスと同期しろ! 【多重並列接続】そして【高密度物質変換】だ!」
『分かった!!でもすっごく魔力使うから覚悟してね!』
「あぁ、遠慮なく持ってけ!!」
俺は体をかがめ、両腕を陣の中央のアスファルトに叩きつけた。
両腕から残りの銀の流体が全て零れ落ちる。それは意志を持つ生き物のように蠢き、シアン色の幾何学模様を明滅させながら、瞬く間に複雑な立体構造へと組み上がっていく。
四隅のデバイスとのリンク、そして結晶化という高度な演算。今までになくデバイス生成に長い時間がかかり、それと共にとんでもない速度で魔力が消費されていく。周りの隊員たちが息をのみながら、俺を護衛しつつその様子を見守っている。
やがてそのデバイスが、高さ2メートルほどの無骨な多面体の機械塔――メインコアとなり完成する。
と同時に、俺から完全に力が抜け、地面に倒れ込んだ。
「で、できた……はぁ、はぁ…」
『魔力ほとんど無くなっちゃったね』
「まぁ、それだけで済んだのは朗報だ」
俺が手をかざして起動するための魔力を流し込むと、機械塔は低い駆動音を鳴らしながら外殻を展開し、中心のコアがゆっくりと回転し始めた。
途端に、交差点全域の気流が乱れる。
地下へ向かって重力のように落ちていこうとしていた膨大なの魔力が、凄まじい引力に引かれ、中心の機械塔へと次々に吸い込まれていく。
「まじかよ、ほんとに成功したのか……」
「ハッハッハ!!やっぱりとんでもねぇやつだな!」
地下へ流れるはずだった莫大なエネルギーが中心のデバイスに集中している様子を見て、獅子堂さんは耳元のインカムを叩いた。
「こちら獅子堂。蛍、見てるか? お前んとこのトンデモ新人がやりやがったぞ、魔力の流れが明らかに変わった」
『……ええ、こちらでも計器で観測したわ。地下への魔力の流れが完全に変わった……素晴らしい成果よ、獅子堂大隊諸君、黎、ヴィヴィ、獅狼、よくやったわね』
「これで敵が押し付けてきた盤面は完全に粉砕した。これでこいつらは殲滅してかまわねぇな?」
『えぇ……もう手加減する必要はない。残存する全脅威を殲滅しなさい』
「了解!!」
インカムを切った獅子堂さんは、肩の避雷針をバチバチと紫電で帯電させながら、凶悪な笑みを戦場全体へと向けた。
「黎、ヴィヴィ、獅狼、お前らは消耗がでかいだろう、休んでろ……さぁ、こっからは俺らの時間だ!!こいつらを眠らせてやるぞ!!」
「「「オオォォォォォッ!!」」」
死体を気にして抑え込んでいた隊員たちのフラストレーションが、今、明確な殺意と歓声になって戦場に爆発した。
ちょっと紛らわしいとこがあったので表現を変更します。




