第14話 嵐の前の猶予
ちょっと入れたい内容ができたのでラストを修正しました。
特務防衛局、第3ブリーフィングルーム。
無機質な灰色の壁に囲まれた部屋の中央には、巨大なホログラムモニターが浮かび上がっている。
俺たちが指定された時刻に入室すると、すでに隊長である蛍が腕を組んで待機していた。
その表情は、先ほどの訓練の時よりもさらに数段、冷たく険しい。
「全員揃ったわね。席につきなさい」
蛍が手元の端末を操作すると、ホログラムモニターに世界全体を覆うような分布図と、二つの不気味な紋章が映し出された。
一つは、深海を思わせる禍々しい触手の紋章。もう一つは、無数の目が描かれた混沌とした紋章だ。
「……今日、お前たちをここに集めたのは他でもない。私がなぜ、わざわざこの灰原小隊という部隊を新設し、お前たちを集めたのか。その本当の理由を話すためよ」
蛍の言葉に、隣に座る獅狼がゴクリと唾を呑み込む音が聞こえた。俺の肩に乗った黒猫のヴィヴィも、空気を察して息を潜めている。
「現在、水面下で世界規模のテロを企てている二つの巨大なカルト教団がある。一つがクトゥレヴィア教団。そしてもう一つがハリストゥール教団」
「……教団? ただの狂信者ですか?」
獅狼が眉をひそめる。だが、のどかさんがいつものふんわりとした笑顔を消し、静かに首を振った。
「ただの宗教じゃないよ、獅狼くん。彼らは、本物の神を信仰してるの」
「本物の、神……?」
蛍が冷徹な声で引き継ぐ。
「そう。かつてアダムカドモンと戦い、この世界に降り立った外からの侵略者たちの神、クトゥレヴィアとハリストゥール、その神が……今もなお、この世界の奥深くで眠りについている」
俺は息を呑んだ。
俺のルーツであるネフェリア族が戦った相手。それが、今もこの世界にいるというのか。
「クトゥレヴィア教団とハリストゥール教団の連中は、その眠れる外宇宙の神々を信仰対象とし、目覚めさせようと企んでいる。最近になって奴らの活動がかつてないほど大規模かつ組織的になっている」
「だが、おかしいだろ」
俺は思わず口を挟んだ。
「信仰する神が違うなら、普通その二つの教団は対立するんじゃないのか? なんで同時に大規模なテロを起こそうとしてるんだ」
俺の指摘に、蛍は氷のような瞳を細めた。
「その通りよ、黎。そこが一番の異常事態なの。本来なら相容れないはずの二つの狂信者集団が、まるで一つの軍隊のように連携して動き始めている」
「……それって、つまり」
「ええ。二つの教団を裏で完全に統率し、外宇宙の神々を利用して何か途方もない計画を進めている黒幕が存在するということよ」
蛍はホログラムの紋章を消し、俺たち三人――そしてヴィヴィを真っ直ぐに見据えた。
「……だからこそ、私は既存の枠組みを無視して、特務防衛局の中からあえて規格外の能力を集めたのよ」
「……ん?」
「どうしたの?……獅狼、今私はまじめな話をしているのよ」
「いやいや、黎とのどかさんは分かりますけど、俺そんな規格外の能力ないですよ?」
「あなた、気付いていないの?」
蛍が珍しく、心底呆れたような表情を見せる。
「昨日の怪我……カルテを見たけれど、骨にヒビが3箇所、筋断裂が2箇所起こっていたはずよ」
「?はい」
きょとんとする獅狼に、俺とのどかさんは顔を見合わせ、完全にドン引きしていた。
「いや、怪我した後は、肉食って一晩寝れば治るだろ?」
「治るかバカ!!」
俺は思わず大声でツッコミを入れた。俺の体ならともかく、純度100%の人間が骨のヒビと筋断裂を一晩寝て肉を食うだけで完治させるわけがない。
のどかさんも、引きつった笑顔でこめかみを押さえている。
「あはは……獅狼くん、それ普通の防衛局員なら全治一ヶ月以上の重傷だよぉ……昨日、普通に歩いて帰ってたから全然気づかなかったよ……」
本気で驚いている獅狼を見て、蛍は深く、ひどく深いため息をついた。
「……あなたのその異常な筋密度と、ほかに類をみないレベルの細胞回復速度。あなたはただのちょっと頑丈なだけだと思っているようだけど、防衛局の医療チームからは突然変異のミュータントとして報告が上がっているわ」
「俺、バケモノ枠だったんスか!?」
「ええ。だからこそ、どんな理不尽な攻撃を受けても即座に前線に復帰できる規格外の盾として引き抜いたのよ」
蛍の言葉に、獅狼はショックを受けたような、それでいて少し誇らしげな、なんとも言えない顔をして黙り込んだ。
「うわぁ……やっぱりこの部隊化物しかいないじゃん」
「「お前には言われたくない!!」」
ヴィヴィがドン引きしたような声を上げ、俺と獅狼の声が見事にハモった。
「……話を戻すわよ」
蛍は冷たい声で空気を切り裂き、再びホログラムモニターを起動させた。
先ほどのコメディめいた空気が一瞬で消え去り、ピリッとした実戦の緊張感が部屋を支配する。
蛍は冷たい声で空気を切り裂き、再びホログラムモニターを起動させた。
先ほどのコメディめいた空気が一瞬で消え去り、ピリッとした実戦の緊張感が部屋を支配する。
「教団の動向は、現在情報部が総力を挙げて解析中よ。具体的な作戦行動に移るまで、まだ数日の猶予があるわ。それまでの間、お前たちには――」
蛍はそこで一度言葉を切り、俺の肩に乗ったヴィヴィをじろりと睨みつけた。
「黎……ヴィヴィとの同化訓練と、連携のすり合わせを命じるわ。あの性能試験で見せた以上の連携ができなければ、神の眷属はおろか、狂信者の群れにすら押し潰されると思いなさい」
「……はい」
「それから黎、ヴィヴィ。局内にいる間は構わないけれど、防衛壁内の居住区に出る際は、絶対に暴走させないこと。少しでも魔力異常を起こせば、私が直接処分するわ」
「……善処します」
俺がそう答えると、蛍は端末の電源を落とし、解散とだけ告げて足早にブリーフィングルームを去っていった。
本作における世界とは、巨大な空間である次元世界の中に複数存在する、独立した空間のことを指します。それぞれの世界は一つの国のような役割を果たしており、各世界にはそこを統治・管理する1柱の支配者という神が君臨しています。
まぁイメージがしにくい人はエ○ァの第一始祖民族が支配者です。




