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ディヴァイン・アーカイブ~罪の影を斬り、黎明を呼ぶ者~  作者: するめ
第1章 魔術戦争編

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第13話 力の壁

俺はゆっくりと腰を落とし、ヴィヴィと同化した漆黒の刀を鞘に納め、抜刀術の姿勢をとる。


(昔、護身用にって、親父からいろんな武器の使い方を叩き込まれておいてよかった……)


一つ息を吐き、神経を極限まで研ぎ澄ませる。


これまでは足全体に銀の流体を巡らせて力任せに圧縮していたが、今回は違う。デバイスとして俺の肉体と同化したヴィヴィが、俺の魔力回路や神経系にまで深く干渉し、サポートしてくれている。そのおかげで、自分自身の肉体をかつてないほど精密に、まるで指先を動かすように自在に制御できる。


俺は銀の流体の圧縮を、両足の母指球にのみ集中させた。踏み込みの際の無駄なブレを完全に殺し、前への推進力だけを極限まで高めるための姿勢にする。


(前みたいに速く突っ込んで斬るだけじゃ、このマスターには絶対に届かない。身体能力のバフをどれだけ重ねたところで、あの身体能力に勝てる未来なんて見えない)


鞘の中で【流体圧変換】の魔術を起動する、刀身を覆うヴィヴィの黒い流体が、俺の莫大な魔力を吸い上げて極限まで圧縮。


(真っ向勝負で勝てないなら、見切れないほどの隙を強制的に作らせる……!!)


「ヴィヴィ、まずは先制だッ!!」

『アイアイサーッ!!』


ーーー


「こんなことってできるか?空気抵抗を減らすんだ」

「ん~つまりは空気に対する摩擦力をへらせばいいんだよね?できるよ~」

「よし!たのむ」


ーーー


俺は一気に刀を抜き放った。

並行して発動した【摩擦力軽減】の魔術が、常軌を逸した神速の抜刀を可能にする。鞘走りと同時に、限界まで圧縮された流体を一気に解放し、前方の空間へと撃ち出した。


空気を引き裂く甲高い絶叫とともに放たれたのは、漆黒とシアンが混ざり合う巨大な飛ぶ斬撃。

高圧の流体刃が床を抉りながら、瞬きする間に二十メートル先に立つ彼女へと殺到する。


しかし彼女は――迫り来る死の刃に対し、手にした木剣をただ軽く振るっただけだった。

それだけで、俺たちの渾身の魔術刃はまるで薄紙のように真っ二つに裂け、霧散する。


『嘘でしょ!? あれをただの木剣で斬り捨てるの!?』


ヴィヴィの悲鳴のような声が脳内に響く。

だが、ここは想定内だ。


俺は母指球に溜め込んでいた爆発的な反発力を、ついに解放した。

――しかし、音は鳴らない。


足元から生じるはずの踏み込みの衝撃。そのすべてのベクトルを魔術で前方へと指向させ、摩擦力を軽減することで推進力を異常なまでに跳ね上げる。俺の身体は音もなく、一陣の風と化して床を滑空した。


音速を超える突進。

だが、ここで正面から切り込めば、初日の模擬戦と全く同じ結果になる。どれだけ速かろうと、直線的な動きは彼女には通用しない。


(しかし、今の俺は魔術が好きなように使える。……おまけに、魔術の処理をヴィヴィが肩代わりしてくれている!)


俺は空中でベクトル操作を連続で起動した。


慣性の法則を完全に無視した、鋭角で不規則な軌道変化。

ベクトルを曲げ、一瞬にして蛍の背後――完全な死角へと回り込む。


(獲った……!!)


無防備な背中を晒す隊長に対し、俺はヴィヴィと同化した漆黒の刀を横薙ぎに振るう。最後に刀身を極限まで震わせる、【振動エネルギー変換】を起動させる。


触れるものすべてを断ち切る超高周波の刃を、背後から攻撃する。


「まず第一に」


彼女の体が沈む。刃が空を薙ぐ。


「抜刀の時点で近づくか飛ばすかの二択。次に」


下から木剣が跳ね上がる。超振動する刀の側面を打ち抜き、へし折る。


「振動エネルギーは横からの力に弱い。さらに」


前のめりに崩れた俺の鳩尾を、彼女の膝が穿つ。


「ガハッ……!」


「目眩ましもせず格上に斬りかかる。その時点で悪手」


背中に叩きつけられた強烈な衝撃。

肺から空気がすべて絞り出される。


「ガッ、アハッ……!」


俺の体は床を跳ねるように転がり、壁際でようやく止まった。

砕け散った漆黒の刃がドロドロの流体に戻り、怯えたように俺の皮膚の下へと逃げ込んでいく。


「……ゴホッ。マジで、底なしのバケモノかよ……」


「……速度と発想は評価してあげる。ただの力押しよりは、いくらかマシになったわ」


微かな、本当に微かな称賛。

だが、その瞳はすぐに冷徹な上官のものへと戻る。


「ヴィヴィとのデバイスの同化、そして魔術の切り替え。基礎的な連携と性能は確認できたわ。……お前のその異常な魔力があれば、実戦でも十分使える兵器ね」


蛍は、純白のコートを翻して訓練室の出口へと背を向けた。


「午前の訓練はここまで。……体を治したら、予定通り第3ブリーフィングルームに来なさい」


カツ、カツと、冷たいヒールの音が遠ざかる。


自動ドアが開き、彼女の姿が消える。

圧倒的なプレッシャーから解放され、俺はその場に仰向けに大の字になって倒れ込んだ。


「ぷはぁっ……! し、死ぬかと思ったぁ……!!」

「怖かったぁぁぁあああ」


俺の胸ぐらから、黒猫の姿に戻ったヴィヴィが這い出し、涙目でブルブルと震えている。


「あはは、黎くん、ヴィヴィちゃん、お疲れ様〜! 惜しかったねぇ!」

「おい黎! 生きてるか!」


防音ガラスの向こう側から、のどかさんと獅狼が駆け寄ってきた。

獅狼は俺の惨状を見て、顔を引きつらせている。


(次は絶対に一撃いれてやる……)


俺は痛む腹を押さえながら、獅狼の差し出した手を掴んで立ち上がった。

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