姫騎士への招待状
無事に防衛結界が張られたことで、王都グレナディアは連日連夜復興作業に追われていた。ラウニャドール襲撃の心配が消えたからか、各地から物資が届く日数がいつもより短い。
おかげで予定よりもかなり早く復興は進んでいる。
「……なにこれ」
ロゼアリアも騎士団の一員として作業に加わっていたためここのところは忙しかった。そのため、彼女宛の手紙がどっさり来るまで気づけず。
「お嬢様にご令嬢の方々からお茶会のお誘いが届いてます。今朝もこんなに。お伝えしようと思っていたのですが、お忙しそうでなかなかお伝えできず」
フィオラが新たな招待状を持ってきた。宛名を見れば、ロゼアリアもよく知っている侯爵令嬢から。
白薔薇姫であった頃も誘いは受けていたが、今はその倍以上の招待状が来ている。
「なんで?」
白薔薇姫でなくなってから、こういった招待状はパタリと途絶えていたはずだが。
「もしかしてお嬢様、ご存知ないのですか? ご令嬢の間では先日のお嬢様のご勇姿が話題になっているそうですよ」
「先日の私の勇姿?」
「もちろん私としては、お嬢様に危ないことはしてほしくないです。ただなんでも、お一人であっという間にラウニャドールの群れを退けられたとか、気絶されたヘレナ様をお抱えになって走られたとか」
「ああうん、やった。どっちもやったけど……」
そのどちらも、貴族の令嬢として有り得ない行動だ。なのになぜ。
「きっと皆様にはその時のお嬢様が王子様のように輝いて見えたのかもしれませんね」
「ええ……」
フィオラが微笑ましそうにしているが、ロゼアリアは全く笑えない。それにこの招待状も、本当に好意的なものか怪しい。
「とにかく、一枚開けてみられては?」
フィオラに促され、ロゼアリアが招待状を一通開く。
フィオラと一緒に内容を読んでみたが、やはりよく分からなかった。
「きゃ! やっぱり熱烈なファンレターですね!!」
「ふぁんれたぁ??」
そこには、送る相手を間違えているんじゃないかと疑うほど熱い恋文が。
「これほんとに私宛? 他の人に送るのと間違えてない?」
「はい、封筒の宛名もお手紙の宛名もばっちりお嬢様宛です!」
他の手紙も同じような内容ばかり。特に熱がこもった手紙を送ってきているのはあの時助けた令嬢達。ヘレナの取り巻きの少女達だ。
だが助けた覚えのない令嬢からも手紙が届いている。本当に姫騎士としてのロゼアリアの話が広がっているらしい。
「お茶会に行かれてみては?」
「え〜。今はそんな場合じゃないし行かない」
手紙を封筒に戻すロゼアリア。白薔薇姫だった頃から貴族のお茶会などつまらないだけだ。
「ですが、お嬢様がお嬢様らしいお姿で社交界を席巻するチャンスかもしれませんよ!」
「別に席巻しなくても、ロードナイト伯爵を継げばとりあえずは大丈夫でしょ」
ヘレナのように取り巻きを侍らせたり、自身の勢力を持つ気はない。騎士として在ることにそれらは必要が無いと思った。
「お茶会より復興作業の方が優先。当たり前でしょ?」
「そうですけど〜」
フィオラは不満そうに頬を膨らませていた。その膨れ顔は自分じゃなくオロルックに見せてやれば良いものを。
お茶会など行かない。そう決めたのに。
「ロゼ、久しぶりに招待状をいただいたのでしょう? 顔を出してはいかが?」
「お母様まで……私は騎士団の仕事があるので忙しいのです。お茶会には行きません」
「けれど、こんな機会もう無いかもしれないのよ? 社交界にもすっかり顔を出さなくなってしまったし、他のご令嬢と交流を持つにはまたとない機会よ」
「必要ないです」
朝食の席で母にも勧められる。
助けを求めるようにカルディスを見るが、父も妻の言葉に頷いていた。
「ロゼッタの言い分も正しい。たまには、騎士団以外の貴族とも交流を持つべきだよ」
「ですが、復興作業がまだ残っています。私だけ遊びには行けません」
「ロゼが抜けた穴は僕が賄うよ。星祭りの前から働き詰めだったんだ。たまには、他のことをしてみても良いんじゃないかな」
「そうよロゼ。熱烈なお誘いを受けてると聞いたわ。顔を出してらっしゃい」
面倒な。それに、資材をもりもり運ぶロゼアリアが抜けるのはそこそこの痛手ではないのか。今度はフィオラではなくロゼアリアがむくれる。
どうせお茶を飲むなら、着飾りまくった令嬢ではなくアルデバランとスピネージュの花茶を飲みたい。
市街へ向かう馬車の中でも、ロゼアリアは不満そうだった。
とはいえ自分の行動にも心当たりがある。ヘレナに急遽誘われたお茶会でふざけすぎてしまったか。あんなラブレターまがいの招待状を受け取る羽目になるとは思っていなかった。
(その場に人がいたから助けただけで、美しい花のために駆けつけたわけじゃないのに)
仕方ない。考え方を変えよう。変な噂がこれ以上広まらないよう、自分で止めに行くだけだ。
父と馬車を降りて復興作業をしている現場に入る。明日にはここも片付くだろう。
「殿下」
ジクターが訪ねていたらしい。カルディスと共に最敬礼をジクターに送る。
「おはよう。順調そうだね」
「はい殿下。間もなく完了するかと」
カルディスと和やかに言葉を交わした後、ジクターの表情がふと真剣なものに変わる。
「魔塔の支援や地方都市からの支援で街の復興もかなり進んでいるだろう。そこで、私から陛下にある提案をしたんだ」
「提案、ですか」
二人の会話に口を挟まず、ロゼアリアもジクターの話を聞く。復興作業を初めて一週間ほど経つだろうか。無惨に崩れた建物も、大半が修復されている。
「三日目のランタン飛ばしが中止になってしまっただろう? そこで、陛下に改めて開催できないか進言したんだ」
パッとロゼアリアが顔を上げた。もし開催されれば、リブリーチェと買ったランタンが無駄にならない。
「五日後を予定している。ぜひ参加してほしい」
五日後。予定を空けておかなくては。それと、リブリーチェにも伝えないと。今から楽しみになってきた。
……アルデバランも、誘えるだろうか。まだあのピアスを渡せていない。
ジクターを見送り、今日の作業に入る。その頃には、ランタン飛ばしのことばかりでお茶会は頭からすっかり忘れていた。
「──う、そうだった……」
今日の作業を終えて邸宅に戻ってきたロゼアリアは、手紙の山を見てお茶会のことを思い出した。とりあえず適当に返事を書くか、と今一度宛名を確認する。
参加するなら王太子派の貴族だ。どんどん手紙を仕分けていく。やはり一番はヘレナの取り巻きのお茶会だろう。社交界でも名のある派閥だ。こちらに対し好意的ならば、交流を持って損はない。
さらさらと返事を書き、フィオラに渡す。
「これお願い」
「お嬢様、お茶会に参加されるのですね! しっかりお出しします!」
参加しなくていいならしない。参加するお茶会もあれだけだ。他は全部断る。
「そうだフィオラ、王太子殿下が五日後にランタン飛ばしを開催できるよう取り計らってくれたの。一緒に行かない?」
「まあ、ランタン飛ばしをですか?」
「うん。結局、今年はフィオラと星祭りを回れてないし」
どうせオロルックに誘う勇気は無いだろう。このナイスアシストを感謝してもらわなければ。
「お誘いはとても嬉しいのですが、ランタンは……」
「大丈夫、フィオラの分も買ってたの。リブに預けてたから無事」
「本当ですか! さすがお嬢様です!」
この楽しみがあればお茶会も無事乗り越えられる。早いうちに魔塔にも行こう。リブリーチェがランタン飛ばしの話を聞いたら、きっと飛び跳ねて喜ぶに違いない。
目を閉じればぴょんぴょん跳ねて喜ぶリブリーチェの姿が簡単に想像できた。




