第49話「コール少佐」
ラクスが目覚めて2日後の朝。
コンコン。
「はぁーい」
「はいはい、どちら様ですか?」
「失礼。バルクロイド領、魔物調査派遣部隊隊長のコールと申します。ラクス殿が目覚められて、話しもできるくらいに回復されたと伺いましたので、面会させていただけないかと」
「はい、伺っております。中にどうぞ」
「失礼します」
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緊急事態が発令された当日、魔物襲来による全軍召集がかかり、コールもその内の1人だった。軍での階級は少佐。王都士官学校を出て、同期よりもやや遅れてではあるが、昇進したばかりだった。領主様から次々と指示が飛んでいるようである。軍上層部より役職者へ配置先と命令書が手渡されていく。聞こえてくる編成人員単位は「万」だった。
(万?相当な数での対応だな、これは骨が折れる任務になりそうだ……)
次はコールだった。
「コール少佐、南部僻地への魔物活性調査を命じる。なお、編成人員は1,000。騎馬1個中隊、歩兵4個中隊を率い、本日0330時より出立せよ!」
(1,000だと!?活性調査?魔物が侵攻しているのではないのか!?)
「は!了解いたしました」
指示を出したグレード少将が小声で話しかけてくる。
「コール、気を付けろ。南部はまだ伝達が届いておらん。魔物の数が分からんのだ。領都の守備もあるため人員はこれ以上割けん。すまん」
「貧乏くじには慣れてますよ。ありがとうございます、おじさん」
「……これはあまり期待できんだろうが……先日地竜を1人で倒した少年がいただろう?そいつは南部僻地出身だ。お前の隊に合流させるという話しも出ている。まだはっきりせんが……」
「はは……少年1人追加ですか……心強いです。では出立準備を行ってきます」
「うむ、頼んだぞ。死ぬな、生きて帰ってこい」
「は!」
(完全に貧乏くじだ。もし仮に魔物が1,000だとして、総当たりになった場合必ず被害が出る。戦争とはそういうものだが戦いは数だ。劣勢になった場合一気にやられる可能性が高い。退避したとして人なら追ってこないだろうが、魔物は違う。まして魔物が1,000以上の場合は……騎馬200をどう活かすか……)
「手紙書く時間もないな……すまん、アリーシャ、サリナ、マナト。地竜の少年か……期待せずに期待しよう。はぁ、何言ってんだ俺」
「コール少佐ッ!出立準備完了であります!」
「よし。フランクド王国兵士諸君!聞け!只今より南部僻地への魔物活性調査に出立する。既に諸君も知っていると思うが、北と西で魔物の大群が押し寄せている情報が入った。南は未伝達であるが魔物が襲来している可能性が高い。一刻も早く到着し、魔物から領民を助け出す!!この命は王のために!!!」
「「「「この命は民のために!!!!!」」」」
「出立っ!!!!」
「「「「おう!!!!!」」」」
出発してしばらく後、空から大きな音がして南へ向かう一筋の光を多くの兵が確認した。コールも見ていた。(凶星か?はぁ……星まで味方してくれないのか。士気が下がるな……)
事実、派遣部隊内で不吉だと騒ぐものもおり、行軍に若干の遅れが出た。
出立した日、朝日が完全に上った頃、後方より早馬が来ていると報告があった。早馬からの報告だと、地竜の少年が恐ろしいほどの速さで南部へ向かったとのこと。こちらの部隊と合流命令が出ていたが、来ていないか?とのことだった。当然来ていないと答えると、いったいどこへ行ったのか?と途方に暮れていた。
冗談で
「朝日が昇る前、空に南部方向へ一筋の光を確認した。もしかしたら少年は空を飛んで行ったのかもな」
「真面目に考えてください」
とキレられた。冗談が通じないやつだ。だがたかが少年1人。多少戦えたとしても使い物にならん。どうでも良いと早馬は帰した。行進あるのみだ。
3日目の朝、斥候より報告。やはり魔物が襲来していたようだ。だがハロルドタウンが約500もの数の魔物を討伐。驚愕だった。
(500だぞ!?1000の部隊であたるべき数だ)
ハロルドタウンは異常だという話しを聞いたことがある。バルクロイド領に来て数年になるが、領都学校にハロルドタウン出身者2名が入学し、あらゆる記録を更新したと聞いた。それも圧倒的にだ。あの町には何かあると噂されていたが、今年に入って教育制度改革があると聞いた。ハロルドタウン出身者がその相談役に就くと。
(500の魔物を討伐か……話しを聞いてみなければ……地竜の少年は…ハロルドタウン出身者?まさか相談役ってそいつか?)
ハロルドタウンから更に南にある村は壊滅したとのこと。
(やはり魔物襲来はあったか……すまない……)拳をギュッと握りしめ「それでそちらの魔物は?数は?」と聞くと「ラクス殿が約500を殲滅したとのことです」と言う。
「聞き間違いか?約5、と言ったか?いや、地竜を倒すくらいだ、約50か?」
「いえ、500です。1人で」
「1人だと!?」
「そうです」
「どうやって!?」
「申し訳ございません。分かりません。現在ラクス殿は激しい戦闘後、傷つき眠っている状況とのこと」
「生きてはいるんだな?」
「は!」
「では派遣部隊本体も南の村へ調査に向かう。戻り次第、ラクスの回復を待って面会すると町長へ伝えよ」
「は!」
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「君がラクスか」
「はい」
(10歳にも満たない少年だ。本当にこの子が500もの魔物を……)
「私は魔物調査派遣部隊隊長のコールと言う。階級は少佐だ。今回の討伐の件、君が来てくれなかったらハロルドタウンや我々派遣部隊も無事ではすまかっただろう。礼を言う」
「いえ、私も間に合いませんでしたので」
「南の村については残念だが仕方ない。あの村は廃村とする。村民は全員丁寧に弔ってあった。先ほど町の討伐隊隊長である君のお父さんにも礼を言ったところだ」
「そうですか。私は魔物を倒すことしかできず、目の前で母親と赤ちゃんが……うっ…くッ…」
話しをしている途中でラクスが胸を抑えながら苦しそうにする。戦場に行って悲惨な状況を見た兵士によくあることだ。トラウマになっており、回復するのに時間がかかる。そもそも回復するかどうかも分からない。
「ラクス、悲惨な現場を見たのだろう。そこの記憶を辿るな。それ以前とそれ以後の話しを聞きたい」
「………はい……」
苦しそうにしているが、話しはできそうだ。ラクスの母親がお茶を入れてくれた。ラクスに一口飲ませて落ち着かせる。
「まず、領都からいったいどうやってここへ来た?隊に合流した兵から聞いたが、領都からいきなり消えたと聞いたぞ」
「はい、まず領都内は走って駆け抜けました。それで領から出た後は空を飛んでここまで来ました」
「は?……空を、飛んで?え?」
「空を飛んでここまで来ました」




