第48話「タイダルウェーブ」
津波の描写があります。苦手な方は読むのをお控え下さい。
町から旅立つ数日前の夜。リリーはラクスの寝室を訪ねていた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、なんでお兄ちゃんはそんなに強いの?」
「そうかなぁ、お兄ちゃんはそこまで強くないと思うよ。世界にはきっともっと強い人がいっぱいいると思う」
「お兄ちゃんは強いよ。町の誰よりも強いと思うよ。たぶん世界一だよ」
「はは……そうか、ありがとう。リリーの期待に応えて世界一になってみせるよ」
横になっているお兄ちゃんは天井を見上げていたが、その先の空を見ているようだった。
「お兄ちゃんはどうやってあんなすごい魔法を使っているの?リリーはこうなったら良いなって思いながら使うとできるよ?」
「そうだな、それが大事だ。想像するんだ。魔法の形をハッキリと想像する。そして魔力を注ぐとそれが魔法になる」
「そーぞーってなに?」
「リリーが言った通りだよ。こうなったら良いなって強く思うことだ」
「そっか、そーぞーかぁ」
ラクスは苦笑いして、たぶん良く分かってないなと感じていた。
「リリーはね、もっと強い魔法が使いたい。お兄ちゃんみたいに強いの!いつもは使わないよ、ぜったい!もし何かあった時にお兄ちゃんがいない時に、お父さんとお母さんと町のみんなを守りたい!」
「リリーは天才だ。教えたらすぐに凄い魔法を使えるだろう。水属性の魔法はとても強い、と思う。回復魔法も使えて攻撃魔法も強いとなると世界一強いのはリリーかも」
「リリーじゃない。お兄ちゃんが世界一」
ラクスは間もなく町を出ていく。この町に何かあったときにすぐに駆け付けられないかもしれない。そうなったら後悔はとてつもないものだろう。だがこの年齢の子に攻撃魔法を教えて良いものだろうか?危険じゃないだろうか?と不安を抱えていた。
「リリー、魔法はさ、人を守ることもできるし、人を簡単に殺すこともできるんだ。攻撃魔法は絶対人に使っちゃいけない」
「うん」
「魔法全部に言えることだけど、思ってたよりも魔法が大きくなったり小さくなったりするんだ。無詠唱魔法だと特に。魔力を強くしすぎちゃうと、もしかしたら魔法で町全体まで傷つけてしまうかもしれない」
「うん」
「だから……うーん……」
(教えるべきか、やめるべきか……リリーがキチンと判断してくれるだろうか……いや、また間に合わないのはダメだ)
「うん!今から教える魔法は絶対に使っちゃいけない。本当に父さんや母さん、町のみんながピンチの時だけだ」
「うん、分かった。絶対使わない」
「じゃ、こっそり練習するか。見つからないように裏の丘まで行こう」
「うん!」
2人はこっそり家を出て、裏の丘の先へ向かう。
「水の魔法ってお兄ちゃんはあんまり得意じゃないんだ。これから見せるのは、たぶんリリーが使える魔法の小っちゃいやつだ。リリーはもっと大きく使えるはずだ。だから町の中では使っちゃいけないよ?」
「分かったってばぁ」
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「す、すごい………水の壁が一気に流れて行ったよ。わぁ!あの辺ぐちゃぐちゃになっちゃった」
「そうだね、お兄ちゃんが苦手な水魔法でもこれくらいになっちゃう。ちょっと元に戻しとかないとおこられそうだね」
土魔法で抉れた部分を元に戻していく。
「リリー、この魔法を見ててどう思った?」
「町で使っちゃいけない。人に使っちゃいけない」
「そうだ、使うときは自分の命を守る時、家族の命を守る時、町のみんなを守る時だけだ」
「約束する!絶対!」
「そうだ、この魔法の名前を教えておこうか。この魔法の名前はね……」
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「タイダルウェーーーーーブ!!!!!!」
リリーが叫んだ瞬間、門の前が真っ暗になった。夜だからではない。門の前に巨大な水の壁が出来て、月の光が遮られたためだ。
「なん……だ!?」
そびえ立つ水の壁は門の高さよりも数倍大きい。20mに達するかと言うほど巨大だった。水の壁は一斉に魔物に向かって流れ始める。
ゴゴゴゴゴゴゴ………
恐ろしい勢いで流れていく水の壁は魔物と激突した。魔物はなすすべなく押し流されていく。その洪水のような水量は魔物を巻き込んで、全てを押し流していった。岩も木も何もかも。溺死してしまう魔物、岩や木に押しつぶされる魔物、魔物の大群全てを飲み込んだように見えた。
しばらく呆気にとられたリオンは「ハッ!」と気を取り直すと
「今……リリー、今の洪水はリリーの魔法なのか?」
「うん!お兄ちゃんがね、絶対に使っちゃいけない魔法って教えてくれたの!リリーとお父さんとお母さんと町のみんなを守る時だけって!内緒だよ!」
「ラクス……お前は……。リリー、ありがとう!ほとんどやっつけたぞ!あとでお兄ちゃんにもお礼言おうな!」
「うん!」
傷つき、蠢く。それでもこちらに向かって来る魔物が100体弱。
「いったい何なんだ、何のためにこちらに向かってくる!」
リオンは傷ついた魔物がそれでもこちらを目指してしることに酷く憔悴した気分になった。
リリーはリオンにおんぶされる形で、向かってくる魔物次々と倒していく。後ろを見ると、討伐隊が続々と到着している。
(これならいける!)
「魔物はほとんどリリーがやってくれた!残りは100体程度だ!!やれるぞ!!!」
「「「おおお!!!!」」」
月が照らす中、魔物と討伐隊の戦いが始まる。今まで魔物とこうやって戦ってはいなかったため、数人が魔物にやられてしまう。だがリリーがおんぶされながら傷ついた討伐隊へ手を向け「フン!フリャ!」と言うと、一瞬で傷が癒えているようだった。
(リリー、頼りになる!)
リオンは娘がこんなに強かったとは思いもしなかった。徐々に討伐隊が優勢になっていく。
森から何か出てきた。また魔物かと思っていると人のようだ。
「父さん!リリー!!」
「ラクス!お前なんでそっち側から?」
「お兄ちゃーーーーん!!!おーーーい!お兄ちゃーーーん!……邪魔!どいて!!!」
ズバババババン!!!!!
魔物が一瞬膨らんで次々と内側から爆発していく。その場にいる全員がドン引きしたのだった。




