第43話「転生記Ⅰ」
この本を手に取る者がいるとしたら日本人だろう。きっとそうであってほしい。
この世界の言語では書けない、書かない方が良いと判断し、日本語で記すことにした。
私の名前はヘラクレス。
フランクド王国南部にある僻地で生まれた。生まれたと言っても転生したと言った方が良いか。なぜ転生したのかは分からない。前世の記憶を持ったまま生まれ変わったのだ。現在18歳。王国士官学校を卒業し、学んだ仲間と共に間もなく戦場へ赴くこととなるだろう。
もとは日本人だ。1999年12月31日大晦日、あれは恐らく事故だったのだろう。私は死んだ。
その年は「ミレニアム」といった言葉が世の中盛んに飛び交っていた。世界中のコンピュータが2000年になって誤作動を起こすかもしれない「2000年問題」で、壊滅的な出来事が起きるかも、なんて言われていたが、その瞬間に立ち会えなかったことが心苦しい。まぁ大きく変化することもないだろうが。
フランクド王国はあと10数年で建国500年になる。他の国々もあるがここまで長きにわたり続いている国は中央大陸では他にないだろう。小国は争いを続けており、時折フランクド王国の豊かな土地を奪おうと領土へ侵入してくる。全て返り討ちにしているが。
転生後すぐは自分で言うもの何だが、壮絶な人生だった。
始めは訳も分からず過ごしていたが、転生したと分かり、ついうっかり魔法をつかって親にバレたのだ。ちなみにこの世界には魔法の概念がなかった。身体強化はあったが、それは魔力ではなく気力と呼ばれていた。※なお魔力も気力も同じものである。
私は目の前に火の玉を浮かべることができ、とても嬉しく喜んでいたと思う。気味悪がった親は私を森へ捨てた。せっかく魔法が使える世界に来たのにもう死ぬのかと思っていたが、捨てる神あれば拾う神ありというもので、通りかかった夫婦に拾われた。この夫婦には男の子がいたが、その子も拾った子らしい。夫婦には子どもが出来なかった。義父は「神からの思召しだ」と言っていた。このときにヘラクレスと名付けられた。大層な名前だ。
それから3年は村で平和な生活を送っていたのだが、突如魔物が群れを成して襲来。村は蹂躙された。義父も義母も義理兄も、村の全員が殺されてしまった。
またしても死の危機だったが、冒険者に助けられ生き延びた。冒険者から「すまない、俺たちのせいで……もう少し早く着いていれば……」と何度も謝られた。どうやら冒険者が迷宮探索を行った際、深層から次々に出てくる魔物を処理しきれず、出入り口から出て行ったらしい。通常、迷宮の魔物はそこから出ない。ありえないと思いつつ追ってきたが村が蹂躙されている最中だった。
冒険者はお互いをガル、アル、ナナ、マークと呼び合っていた。
ナナとガルは「こんな子どもに言っても理解できないでしょ。それよりこの子どうするの?」
「俺の責任だ。俺が引き取る」
「はぁ?ガル、あんた子ども育てたことあんの?そもそもあんたがまだ子どもでしょ!?」
「だが見捨てることなどできん」
「もう……勝手にしなさい」なんてやり取りをしていた。いや……もっと揉めていたような気もする。
ガルは献身的に私を育ててくれた。3歳で普通に話せたのが驚かれた。ナナには「あんた物分かりが良すぎるのよ、気持ち悪い」と言われていたが、ナナも意外と子育てに協力的だった。たぶんガルのことが好きだったのだろう。
また、ガルとアルは身体強化の達人だった。2人とも王都学校に通っていたらしく、優秀過ぎて貴族から嫌われたため王国騎士の夢をあきらめて冒険者になったらしい。
赤ちゃんの頃から魔法が使えた私は、魔力の流れや感じ方を自然と自分のものにしていた。繰り返し使っていたせいか、3歳時点で既に大人と同じくらいの魔力があったと思う。そんな私にガルやアルは「お前は天才だから、その才能を活かさないといけない」と言われ、身体強化を叩きこまれた。
身体強化は、ある条件をクリアすると進化するようである。後述するが、体には魔力の出やすい箇所と出にくい箇所がある。私はなぜか全ての箇所から多少の大小はあるものの、平均的に魔力を出せた。1箇所しか出せない者、2箇所、3箇所と、魔力出力箇所の多さ、また魔力の多さが総合的な「強さ」となるようだ。アルもガルも手・足・頭の3箇所から出せるようだった。
まず魔力とは何か、と・・ところか・説明・なければなら・・だ・う。・・とは・・・・・が・・・・部分・・・・・・・生・・・・・・れて・る。・・・
(ここから数ページは虫食いと破れで読むことができない)
以下に記す内容は習得した「足」に関する身体強化の進化だ。レベル表記する。
足の身体強化は段階を経て、次のようになる。
レベル1:脚力の強化。素早く動く、高くジャンプするなど。
レベル2:高質化して破壊力を上げる。
レベル3:足音を消す。足から伝わる振動を感知する。
ガルやアルはレベル2までしかできなかった。そこから先は独自の研究で編み出したものだ。これらの段階強化習得方法を以下に記す。
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現時点でレベル3までしかできないが、その先もあると考えている。更なる研究が必要だ。
それから「魔法の概念」をこの4人には教えた。はじめはとても驚いて気味悪がっていたが、教えてほしいと言われた。水魔法や火魔法は冒険をしていく上で非常に便利だと気付いたようだ。
教えるうえで魔力の流れは問題ないのだが、顕現が難しいようだったので、呪文にすることで強制的に顕現できないか試したところ、これが正解だったようだ。呪文……言霊のようなもので、ある言葉を組み合わせることで、意志と関係なく体内の魔力を動かす力があるようだった。組み合わせを考えるのがとても難しい。間違えると強制的に一気に魔力を持っていかれる場合がある。丁度よい匙加減の呪文が完成すると、生活で使える程度の魔法が顕現でき、皆にこれを教えるとすぐにできた。
転生記Ⅱへ続く




