30話【こんな俺なんかの昔話に興味を持ってどうする?】
朝の陽光が王城の窓から差し込む中、アビスは重要な話があるためにルティーを自分の部屋に招いていた。 ティアンナの気まずそうな表情と、ルティーの心を揺さぶるような動揺が、部屋の雰囲気を重くしていた。
アビスは厳かな表情で、ティアンナとルティーに向かって話を始めた。 彼はまず、王国内で起こっている混乱の全貌を説明した。 側室の子供が生まれ、それに伴う王位継承争いが勃発し、継承権第二位にあるティアンナが命を狙われる状況に置かれていることを綿密に説明した。
彼女を守るために付けられたメイドや護衛たちも、死か裏切りの二択を選択させられてしまい、ほとんどの者が死亡してしまったと告げる。 ティアンナはこの過酷な状況を、2年間一人で耐え忍んできたのだと。
ルティーはその説明を聞きながら、驚きと悔しさを顔に浮かべていた。 彼はティアンナが好き放題に振る舞っていると思い込んでいたが、今回の事実を知って自分の愚かさを痛感した。 アビスの言葉は、彼にとって目に見えるものだけが真実ではないことを思い出させ、自らの誤解と無知を痛感させるものだった。
アビスは、ルティーに対して穏やかな口調で語りかけた。 「君が自分を変えようと思ったように、これからも変われる。それが人生だ」と。 その言葉に、ルティーは深く頷きました。 自らの愚かさに気づき、ティアンナに向かって謝罪の言葉を述べました。
最初は強がりを見せていたティアンナも、ルティーの真摯な謝罪に触れ、ついに心の壁が崩れました。 彼女の目から涙が溢れ出し、長い間抱えていた感情が一気に解放されました。
アメリアは、そのような会話を聞きながらも、メイドの仕事に興味を抱いていました。 ティアンナのメーベルが放つメイドから、彼女は様々なことを学び、部屋の中を掃除したり、時にはアビスたちの飲み物を用意したりすることに喜びを見出していました。
『どうしてメイドの仕事気に入ってるの!?この体!絶対気に入ってるでしょ!私もソファーに座ってアビスの話に集中したいよぉ…。』
アビスはもちろん、そんな声にも気づいていました。 しかし、兄妹が和解しようとしている最中なため、彼女に直接命令することはできませんでした。 それでも、アビスはジェスチャーや微細な合図で、自身の感謝や謝罪の気持ちを伝えるよう努めていました。
アビスは物事が一段落ついたと感じ、アメリアを優しく腕に抱き上げ、自分の膝の上に乗せました。 そして、「さて、もう一つの本題に入るよ」と告げましたが、その真剣さとは裏腹に、彼の態度からはまるで本題に取り組む気がないかのような雰囲気が漂っていました。 ルティーとティアンナは驚きと疑問の表情を浮かべ、心の中で「その状態で?」と内心ツッコミを入れながらも、彼らはアビスの話に耳を傾けました。
アビスは深いため息をつきながら、「もう知っている人もいるかもしれないけど、俺は神の国出身の人間だ」と告げました。 神の国といえばクラリアス家が有名で、不老不死の血筋であることはよく知られています。 「俺は実際、不老不死ではない。魔法でキルエル・クラリアスから寿命を得ていたまがい物だ。 聖女であるアメリアの力によって俺の魔法は解かれて、今人間と同じ時を生きている」と続けました。
ルティーとティアンナはアビスの言葉に驚きました。 アメリアが聖女であることが明らかにされ、その事実に戸惑いを隠せませんでした。
アビスはゆっくりと語り始めました。 「神の国の記憶といえば、でっかい神殿で母上と俺にそっくりな父上とで大切に育てられていた記憶しかない。何か特殊な魔法が使えたわけでもない。 ただ、魔法の使い方が少し特殊だった。 メーベルを使わずに強い思念で魔法を使う。 そんな国だったような気がする。 昔過ぎて、覚えていないんだ。 俺はその後何故かケイロス帝国の地にいた。 名前も神の国を出てから勝手につけたものだ。 アビス・・・だけが本名だったはず。」
『アビス、本名だったんだ!』
アビスは続けました。 「そこでキルエルと出会って、二人でケイロス帝国を作り上げた。800年間のうち実は2回は滅びている。 1回目は科学を発展させ過ぎた事により、人間が衰退してしまった。 二回目は魔法を発展させ過ぎたせいで、異端児が生まれ、制御不能になり、国を燃やされた。 そんな歴史を踏まえて、発明や発展を抑えて、変わり映えのしない日々を過ごさせて、国を回していた。 それがケイロス帝国だ。」
ルティーはその話を真剣に聞いていました。 ティアンナもまた幼いながらも理解しようと頑張っていました。 彼らはアビスの口から語られる歴史とその背後にある複雑な背景に驚き、興味を持ちながらも、彼の過去の謎に迫ろうとしていました。
ルティーは興味津々の表情でアビスに問いかけました。 「結婚はしなかったのですか?」彼の問いに、アビスは少し考え込んだような表情を浮かべながら答えました。「最初は考えたが、不老になってからは、世継ぎが必要ないので、作る必要がないと思ったんだ。それに、今メロウト王国で起こっているように跡継ぎ争いが起きて、死人がでてしまう事を恐れた。」 彼の言葉に、ルティーとティアンナは一瞬考え込んでしまいました。
ティアンナは興味津々の表情でアビスに問いかけました。 「キルエル・クラリアスから寿命を得ていたあたりを詳しく教えてくださいまし。二人は仲が悪いと聞いていましたが。」
アビスは深い哀愁を帯びた表情で、ティアンナたちに事の経緯を語りました。 「どうやら、神の国は外の人間に深く干渉してはいけないらしくてな。 国なんて作ってみろ、人間界の歴史がぐちゃぐちゃになる。 実際に発展させ過ぎて衰退させてしまった歴史もあるわけだからな。 俺も一度罰せられた。 記憶を奪われて、国をうまいこと回すだけの傀儡になっていた。 キルエルはもっと早い段階でそれを恐れて、ケイロス帝国を滅ぼそうとしたが、俺が人間に対して深い愛情を抱いていたせいで、キルエルの寿命を吸い取る呪いをかけてそれを阻止した。 しばらくキルエルの姿を見なかったが、ある時一番仲良くしていたメロウト王国に住み着いてケイロス人が通れない結界をはりだした。 まぁ、先日キルエルとは和解した。 安心してくれ。」
その言葉に、ルティーとティアンナの胸には安堵の息が漂いました。 アビスの過去やその複雑な関係が明らかになり、彼らの心には一つの謎が解けたような感覚が広がります。
その時、アビスの言葉が部屋に響き渡った。 まるで重い風が吹き抜けるように、彼の告白は二人の心をざわめかせた。
「ただ、今、キルエルの子孫らが、なぜかアメリアを… 聖女を狙っている。 クラリアス家の血筋に聖女の血を加えたいそうだ。」 アビスの言葉に、部屋の空気が一変する。 驚きと緊張がルティーとティアンナの顔に浮かび上がった。
「キルエル曰く、彼らは俗世に染まりすぎて、本質を見失っているらしい。」アビスは言葉を続けた。 彼の表情は真剣そのものであり、その言葉には深い憂慮が込められているようだった。
「キルエルが急ぎ、狙わないように忠告しに言ってくれているはずだが、どこまでそれが伝わっているかわからない。」アビスの声は静かでありながら、その中には不安が滲み出ていた。
そして、アビスは決意に満ちた表情で続けた。 「俺はアメリアを守るために、ここの第二王子になり、近々婚約式を挙げ、リアを完全に護ろうと思っている。」その言葉に、部屋の空気が一層凝り固まるようだった。
ルティーとティアンナは、アビスの言葉に対し、微妙な感情を抱いた。
心の中で、ルティーは不信感を募らせ、ティアンナもまた同様の思いを抱いた。 「大義名分を掲げているけど、絶対好きだから束縛したいだけじゃないか」と、二人はしらけた顔をする。
彼らはアビスの行動に対し、純粋な意図ではなく、自己の欲望に基づくものではないかと疑念を抱いた。 彼らには、アビスの言動に対する疑念が残り、不穏な空気が部屋に漂い始めた。




