22話【お前が側にいれば至福だ】
アビスとアメリアは、赤い椅子に座って、空を飛びながら氷龍による領民の被害状況を確認していました。
風が彼らの髪を揺らし、空は青く広がっていました。アビスは手にしたメーベルを駆使し、周囲を見渡しながら、領民たちの安否を確認していきます。
アビスは深刻な表情で、周囲を注意深く見渡しました。一方でアメリアは一見すると大人しくアビスの膝の上に座っているように見えました。彼女の姿は静かで、穏やかな表情を見せています。しかし、その内面では静かな表面の裏に、激しい感情が渦巻いていました。
『アビス!!あっち!!家が壊れてる!!こんなに寒いのに家が無いなんて可哀想だよ。早くなおしてあげて!!』
アビスは落ち着いた表情でアメリアを見つめました。そして、彼女の心の叫びに耳を傾けながら、ゆっくりと口を開いて説明しました。「待って、魔法はリアが思ってるような便利なものじゃないからさ。家の構造が頭に入っていないと、見掛け倒しの砂山になる。」
彼の声は穏やかでありながら、その言葉には深い真理が込められていました。彼の言葉は、魔法が持つ複雑さと危険性を示唆しており、アメリアにとっては少し驚くべきものでした。
アメリアは少し驚きながらも、アビスに問いかけました。
『じゃあ、頭が良くて物を知ってないと家を建てたり直したりできないって事?』
アビスは穏やかな笑みを浮かべながら、彼女の質問に答えました。「その通り。魔法は知識と技術の結晶で、それを使う者はその力を行使するために深い理解が必要なんだ。」彼の声には確信が込められており、その言葉の裏には長い経験と知識が感じられました。
夜が訪れ、星々が闇の中に瞬く中、アメリアとアビスはようやく全ての確認と修復作業が終わった。彼らは疲れ果てたが、達成感に包まれていました。
アメリアは手に聖なる光を灯して周囲を照らし、アビスは魔法で修復した建物の構造をしっかりと確認しました。彼らの周りには、昼間の騒がしさから一変し、静寂が広がっていました。
『やっと終わったね。アビス、お疲れ様!』
アビスは珍しく疲れた表情を浮かべていました。その瞳には一日の騒乱と労働の疲れがにじみ出ており、彼の姿はいつもよりも重く映りました。
「一日で終わらせることができて良かった。これで帰還できるな」と、アビスは少し疲れた声でつぶやきました。
アメリアは彼の言葉に微笑みながら、優しく彼の手を握りました。
『ちょ、ちょっと!どうしてそんな簡単に手を握れるの!?』
アビスは彼女の手を感じながら、少し安堵の表情を浮かべました。
そして、彼は静かに言葉を紡ぎました。「帰ろうか。」
『え!?今から!?明日で良いじゃん!!夜だし、アビスも疲れてるじゃん!!どっかに泊まって帰らない!?』
彼女の提案は合理的で、理解できるものでしたが、アビスの心には不安が渦巻いていました。彼は自分が眠っている間にエルキースの策略によってアメリアが連れ去られるのではないかという恐れに駆られていました。その不安が彼の心を掻き乱し、気が静まることはありませんでした。
「どうしても今日帰りたい」と、アビスは決意を込めて言いました。その声には、不安と緊張が交錯していましたが、彼の言葉には明確な決意が感じられました。
『アビス・・・。』
アメリアは自分の体が制限されていることを感じながらも、アビスの苦しみを癒したいという強い願いが心に宿りました。彼女の中にある聖なる力が、その願いを受け取り、彼女の体を通じて溢れ出てきました。
力強く、純粋な聖なるエネルギーが、アメリアの手からアビスの身体に流れ込みました。そのエネルギーは、アビスの体を包み込み、優しく癒しの光を放ちました。彼の苦しみや疲れは、次第に消え去り、代わりに心地よい安らぎが身体を満たしていきました。
アメリアは全身の力を込めて、アビスを癒すことに集中しました。
アビスの顔には、心地よさと安らぎが広がり、彼の目には驚きと感謝の表情が浮かびました。
『私もやる時はやるんだから!!』
「800年もの歳月を生きてきたが、こんな気持ちにさせられたのは初めてだぞ」と、アビスは驚きと感謝の表情を浮かべながら言いました。彼の心には、アメリアに対する深い感謝と尊敬が溢れ出ています。
『え!?どんな気持ち?』
「アメリア、俺をぎゅっと抱きしめて。」
アビスの唇から溢れる命令は、優しさと懇願の折り重なる響きを持ちました。彼の声には、深い愛情と不安が滲み出ていました。
アメリアはアビスの命令に頷き、しっかりとその身を彼に寄り添わせました。彼女の手は彼の首に優しく触れ、彼を安らぎの中に包み込むような抱擁を与えました。
『あ!ちょっと!!何を命令してるの!?』
アビスは微笑みながら、照れくさい表情で言いました。「帰るぞ。」
その言葉には、少しの照れ隠しと、彼の心の中に温かな感情が滲み出ていました。
ハイドシュバルツ公爵の城に戻ったアビスは、暗闇に包まれた部屋で、寝ているアズレイを見つけました。彼は静かに彼のそばに歩み寄り、手に持っていたステッキを振り、魔法の言葉を囁きました。
すると、アズレイとそのベッドはゆっくりと浮遊し始めました。部屋の中を静かに舞い上がり、窓の外へと向かって流れるように移動していきます。
アビスとアメリアは、ハイドシュバルツ公爵の城を後にし、アズレイの後に続くように、アメリアと共にその背後を追うのでした。
真夜中の闇に包まれた王都に、アビスとアメリアは静かに帰還しました。軍の宿舎の前に、アズレイの眠るベッドを優しく、安全な場所に置きました。彼らはアズレイの安全を確認し、その後、自分たちの部屋に戻るために進みました。
そして、アビスは部屋に入るとすぐにベッドに身を投げ込みました。その身体は疲れきっており、彼の心もまた疲弊していました。
「もう…動けん…」と、アビスは呟きます。彼の声は静かで、しかし確かな疲労と満足がその声に滲み出ています。
アメリアはアビスの姿を見つめながら、その疲れを癒すために自らの聖なる力を行使しようと決意しました。
静かな祈りの中、アメリアの手から光が放たれます。その光は彼の心身を優しく包み込むように広がっていき、疲れや痛みが徐々に癒されていくのがわかります。
『アビス、大丈夫?』
「問題無い…」 アビスはぶっきらぼうな口調でつぶやきました。彼の声は疲れと安堵が混ざり合ったように聞こえました。それは彼が心の奥底でアメリアのケアに感謝していることを示しているようでしたが、彼の口からはそれ以上の言葉は出てきませんでした。
アメリアは彼の反応を理解しながらも、彼の疲れを少しでも和らげようと、静かに彼の身体を癒していきました。
アビスはアメリアの癒しの手によって心身が楽になったのか、ゆっくりと起き上がりました。彼の身体からは疲れが抜け、新たなエネルギーがみなぎっているようでした。彼は心地よい微笑みを浮かべながら、部屋の中でメーベルを解放しました。部屋の中には色々な結界魔法が次々とかけられ、空間は彼の意志で守られるようになりました。彼の手によって繰り広げられる魔法の輝きは、部屋に奇跡的な光景をもたらしました。
『綺麗・・・』
アビスの顔には満足げな表情が浮かんでおり、彼の手元には彼の魔法の力が宿ったメーベルが輝いていました。
「さて、寝ようか。ここまですれば誰も邪魔できない。勝手にドアをノック無しにバンバン開かれる事もない。」
彼の言葉には自己満足感が漂い、安堵の表情がにじみ出ていました。この部屋は今や彼の安息の場であり、彼の力で守られた安全な領域となっていました。
アメリアはアビスの言葉にうなずき、静かに寝る準備を整え、ベッドに横になりました。彼女の行動は穏やかで、落ち着いた雰囲気が漂っていました。
『あー、ちょっとー!!どうしてこんな無理矢理帰ってくる必要があったのか聞きたかったのに…。』
アメリアはやがて眠りに落ちました。その穏やかな寝顔は、安らぎに満ちた姿を示していました。彼女の深い眠りに包まれた部屋では、静寂が漂いました。
アメリアの穏やかな寝息が部屋に響く中、アビスは静かに呟きます。「お前にとって、どちらが悪か、わからないな。」その言葉は、彼の心に抱えた複雑な思いを表しているようでした。彼は自分自身と向き合いながら、深い考えに耽ります。




