4 森と俺そしてあの子との出会い
私の拙い話を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
次話を出す度、『ありがたい』って、思っています。
感謝しかありません。
ノアの森の周りと中では、漂う魔素が全く違う。
森の奥に行く程、更に魔素が濃い場所もある。魔力を持たない者は、息をするのにも苦労をする程の濃さだ。
そして、厄介な事に、日によって魔素の濃くなる場所が変わるのだ。
木や草も、この森でしか、見ない物ばかり。
薬草も多いが、魔石を持つ魔物も多い。魔石獲りは、危険も多いが、取れれば危険を冒しただけの、見返りはある。だから、森に入るものが後を絶たないが、奥に入るほど、魔素が濃くなる範囲も広がっているから、命からがら森を出る羽目になる奴が多い様だ。最近では、森の周りか、すぐに抜け出せる浅い場所で薬草を探すだけにして、奥に入る者は少なくなっている様だ。
あの森で生きられるのは、多くの魔力を持つ生き物だけだ。魔物や魔獣、そして会った事は無いが、精霊もいると聞く。
そして、はるか昔は、この森に魔族達が、住んでいたらしい。
今は、もう住んではいない。
いや、1人だけは住んでいるか…
現在、殆どの魔族は、幾つもの山を超えた先に国を作り、そこから全く出る事無く、生きている。
魔族は、人と関わりたがらない。なぜなら、人が貪欲過ぎるからだ。
力を求める人は、魔族の大きな魔力に魅了され、求める。そして、畏怖し、嫌悪する。
魔族は、怒ると見境がなくなるが、本来は争いを好まない穏やかな種族だ。
魔族は、人と関わらず、自分達だけの世界で生きることにした。
悠久の時を、ゆったりと、生きている。
だが、たまに本来の姿を変えて、人の国で生活する者もいる。
魔族も変わり者がいる。
そして、人と関わり、愛し合い、子孫が出来る。
その子どもは、人だが大きな魔力を持つ場合がある。
そんな時は、皆その力を隠す。
ある程度の魔法なら、使える者はいるが、死にそうな者を復活させる程の治癒や、大きな火を出す攻撃魔法、洪水を起こす程の水を出したり、雷を落とす、そんな魔法を使える者が近くにいたら、利用しようとするか、恐怖の対象と見られるだけだ。
だから、魔族の血が混じっている者は、秘密にするだろう。
……人は、自分と違いすぎると、排除したくなるようだから……
俺の祖父は魔族だ。
魔族は寿命が長い代わり、繁殖力はかなり低いらしい。そのせいか、魔族の国では、あまり変わらない顔ぶれで、緩やかに過ごすばかりで、変化には乏しいらしい。
魔族は、変わらぬ生活を好む者が多いらしいが、祖父はそんな生活に飽きたらしく、人に紛れて生活をした。そこは、魔族の国とは違い、人の活気に溢れて、賑やかで、貪欲だった。
祖父は、姿を変える魔法を使いながら、色んな国で過ごした。
どの国にも長く住まずに、喧騒を楽しんで、国に帰るつもりだったらしい。
しかしスビリジーナ国で、祖母に出会ってしまった。
もう、祖母以外と一緒にいる事など考えられなくなってしまった。そして、2人はノアの森近くに家を建て、生活をし、娘が生まれた。
娘は、父の魔力を受け継がず、ほぼ魔力の無い人だった。そして、結婚をし、出て行った。しかし、娘の身籠った子は、父の魔力と同等の力を持っていた様で、娘の身体は、魔力耐性がなかったのか、魔力で身体が蝕まれ、子どもが産まれたと同時に亡くなってしまった。
その子どもが、俺、ウールスだ。
どうやら、俺の母は、自分の父親が魔族というのは、秘密にしていたようだった。
祖父が、俺を引き取りに行ったのも、そこが関係してるのかもしれない。
祖父は、生まれた俺を引き取ることにした。
その時に、父とどんなやりとりがあったかは、わからない。
そして、祖母と2人で、俺を自分の家で育てた。
父母が居なくても、祖父母がいて愛情を注いでくれたから、俺は満足だった
祖父母は、俺を大切に育ててくれた。
俺が成人を迎えた頃に、祖母は亡くなった。
悲しんだ祖父は、ノアの森の奥深くに、住まいを移し、そこに母の墓を建て、住んでいる。
元々住んでいた、ノアの森近くの家は、今は、俺が1人で住んでいる。祖父は、たまにやってきては、話をして帰る。
静かな暮らしだ。
俺は、ノアの森の中に生えている薬草を採取し、加工する事を生業にしている。たまには、魔石も獲り、魔力を込めた物を、街のギルドに卸している。
街にも親しい人はいるが、関わりすぎないようにしている。
祖父の事を知っている者もいるかもしれないが、家族の話はしない。
その事に関しては、俺は口を開かない。
大好きな祖父母の事を、噂のタネにされたくはない。
そういう生活を1人で続け、俺は死んでいくのだろうと思っていた。
あの日までは。
あの日、祖父のルーンが俺の元にやってきた。
「コモンヘルンデス国近くの森に、古い馬車が置き去りにされてる。その中には、守護結界を張っている者がいるようなんだよね。ウールス、見てきてくれよー。僕は…ちょっと用事があるんだよね」
そこまでわかってるなら、自分で行けば良いのに。
だが理由はわかってる。祖母の墓のそばを離れたくないんだ。
亡くなっても、愛し続けてるその執着具合が、半端ない。
俺の事は大切に思ってくれてるのはわかるが、祖母は別格なんだろう。
俺は、ノアの森に入る準備をし、コモンヘルンデス国境近くの方角に向かっていった。
いくら、俺に膨大な魔力があっても、ノアの森には、魔物や、魔獣もいる。
だから、いつも魔法無力化付与の剣を持ち、自らの体に身体強化魔法を掛けて、森に入る。
かなり歩き、ようやく見つけた。
古い馬車の中で、大きな魔法が使われているように感じた。
馬車の扉をそっと開けて見た。
そこには、大きな繭のような、守護結界を張っている何かがいた。
金色の繊細な糸が、守り包んでいる。
そう感じた。
あまりの綺麗さに、目を奪われた。
その繭を、剣で、そっと撫でた。
糸がハラハラと解けるように、結界魔法が解けた。
そこには、頭とお腹を守るように、小さく蹲る1人の少女がいた。
声を掛けて、肩を手を置いて見たが、意識が無いようだ。
あれだけの魔法を展開していたのなら、魔力も枯渇寸前だろう。
その子を、そっと抱き上げ、家で看病をすることにした。
それが、俺とあの子の出会いだった。
読んでくださって、ありがとうございます。
感謝、永遠に……