第四章 優しさの選択Ⅳ 分かり合えぬと分かっているから
キラキラと、影獣だったソレは黒い粒子となって世界に溶けて行く。
影を喰い尽くされた化け物の残滓が、役目を終えて世界へと還っていく。
冬の空を舞う粉雪のように。夜の空を舞う星屑のように。命の欠片が舞い散る夕暮れ空。
思わず息を呑むような美しい世界、その中心に立つのは一人の『徒影』の少年だった。
「やっと分かったよ」
その手に握られた刀が、美しい世界のその中心であった。
装飾剣。儀礼剣。
そんな言葉が似合う、ある種の艶めかしさを秘めた、祭事や儀式などに用いられるような美しい和風の妖刀。
茜色の夕日を受けて、刃紋が揺れるように幻想的に輝く。
『徒影』、鴻上梓が手にするその『影断ち』。
真銘を『色香狂い』とするその妖艶な日本刀は、見る者を魅了する魔性の刀だ。
「ありがとう、茜。きっと僕だけならずっと気が付かなかった。いつまでも優しさの意味をはき違えたままだった。でも、ようやく思い出したよ。優しいって事は、こんなにも辛く、悲しくて、苦しい物だったんだね」
憑き物の落ちたような晴れやかで穏やかな表情とは裏腹に、滂沱と涙が止まらない。
瑞葉を斬った感触が、最後の言葉が、その最後の笑顔が、いつまでもいつまでも頭を離れてくれない。
締め付けられるような胸の痛みに、自分の人間としての感情の暖かさを実感する。
そんな、不思議な気分だった。
でもきっと、これで良かったのだ。
失った事をこんなにも悲しめる相手に出会えた事は、これ以上なく幸福な事だ。
そして、そんな大切な相手を自分の感情に流される事なく、本当の意味で苦しみから解放し、救う事が出来た。
だからこの悲しみも、乗り越えられる。否、乗り越えなければならないのだ。
だって、最後の最後。瀬戸瑞葉は確かに梓に救われたように、笑っていたのだから。
梓は瑞葉に対して、本当の意味で優しく在れたのだ。
「だから茜。僕、決めたよ」
ゆっくりと、茜の方を振り向いた梓は、迷いない瞳でこう言った。
「僕は『徒影』になる。影獣になってしまった哀れな人全てを苦しみから解放できるような、そんな強い『徒影』になるよ。だから君と一緒に戦いたい。歩んでいきたい。僕は君みたいなカッコいい『徒影』になりたいから」
「梓……」
そんな梓の言葉に、茜は複雑そうな表情を向ける。
一瞬浮かべた喜びを消して、何かを言おうとして迷い、でも踏ん切りがつかない、そんな顔をした後で、ふっと強張る顔から力を抜いて笑って罵倒するように告げる。
「ふん、馬鹿ね。『徒影』になるも何も、アンタはもう立派な『徒影』じゃない。この天羽茜が保障したげる。だから……行くわよ、梓」
これが最終決戦。
例え、本当に救いたかった者は掌から零れ落ち、得た物は悲しい結末だけだったとしても、物語は終わらない。
続いていくそれを、悲しみを乗り越えて紡ぎ続けなければならない。
言うならばこれは鎮魂歌。瀬戸瑞葉の旅立ちは幸せな結末でなければならないのだから。
「自称最強の力を笠に着て虚構の王座で踏ん反り返ってる裸の王に引導を渡してしまいましょう。このくだらない茶番劇でこれ以上誰かが犠牲になるその前に。誰かの運命が、誰かの手で強引に捻じ曲がってしまうその前に」
無言の首肯に強い意志を込めて、梓は『色香狂い』をしっかりと握り直した。
『徒影』とはつまるところ世界のバランスを守る浄化装置である。
世界なんてよく分からない物の為に鴻上梓は戦える気はしない。けれどこの街は、梓と瑞葉が共に過ごし暮らしてきた街なのだ。壊されるのを黙って見ていられるほど、梓の心は冷たくは無い。
それ以上に、胸の裡で激しく燃えるこの感情が、きっと梓がここで止まる事を許さない。
その感情が何なのか、今はまだよく分からないけれど。鴻上梓はきっと、王我最命という男を許せない。
『影断ち』を構える『徒影』が二人。
そしてそれを迎え撃つは、絶対を誇る隻腕の王。掟を破りし『欠損持ち』の『徒影』。
「見事だ」
今までの嘲弄とは違う。勇気ある者を湛えるハリのある声が、戦場に厳かに響く。
「貴様の覚悟、しかと見た。鴻上梓、貴様を愚弄した数々の言葉、全て撤回させて貰おう」
重たい腰を持ち上げ、王座から立ち上がった王我は、笑みを引っ込めた真剣な顔付きで鴻上梓を見下ろしていた。
「王我最命。殺し合う前に一つ、聞いてもいい?」
「なんだ。何でも聞け」
「お前はやけに強さにこだわっているように見えるけど、それはどうして? 何がそこまでお前を戦いに駆り立てる?」
「どんな問いが来るかと身構えてみれば……、ハッ、くだらんな。強さに何故こだわるのか? 当然であろう。なぜならそれは強さこそが絶対にして世界の正義だからだ」
それはきっと王我最命という男の中に在る一つの芯なのだろう。
真っ直ぐに、折れる事無く頭の先から身体を貫く、揺るがぬ信念。
彼が戦うに値する理由にして、進むべき道を指し示す絶対の指針。
「この世にあるのは善悪などでは断じてない、弱肉強食――強いか弱いかだけだ。正義など遅れて後から付いてくる付属品よ。正義とは正しさの強要だ。力でもって他者の正義を踏みにじり、己の正義を振りかざす。正義を語る事を許されるのは勝者のみ。力の伴わない正義など悪にも劣る欠陥品だ。故にオレは強さを愛する。強く在ろうとする意志を、強き者を、その貴賤を問わずに古今東西全ての強さをオレは敬愛している。なぜなら、それらを踏み越えて押し潰す事が出来たならば、オレの正義はそれら敬意を表すべき強さを上回る最強の絶対正義だと証明する事が出来るからだ」
王我最命は王座から自ら飛び降り緑のグラウンドに降り立つと、戦端を拓く為、右手の絶対法の王権を力強く振るって、
「故にオレの礎となれ、誇り高き強者よ。その正義を存分に振りかざし、そしてオレの正義の前に沈め。さすればまた一つオレは強くなれるのだから!」
梓の鼻先にその長大な剣の切っ先を突き付けた。
そしてそれが、全ての合図となった。
それは怒涛の勢いで迫るドス黒い津波だった。影が、王我最命の従える数多の影獣が王の号令の元に一斉に二人の『徒影』に襲いかかったのだ。
だが、
「――片腹痛いわね」
脇目も振らずに梓に突っ込んで来たイヌ型の影獣、その身体が空中で一時停止するかのように止まる、そんな錯覚を覚え。
冴えわたる双撃の前に、影獣がその真っ黒な身体を爆発四散させ消滅した。
そもそもの話。一〇〇を超える数居たハズの影獣は尋常じゃない強さを見せる茜によって既に半数にまで減少している。
一〇〇体居ても問題なく捌き切れたのだ。物量で押しつぶそうと言うには、些か物足りない。この程度の数ならば、茜一人でも十二分に片づけられる。
「――なら、これならどうだ?」
――あくまでそれが影獣のみならば、の話ではあるが。
「茜ッ!?」
「分かってるわ、本命……!」
警告するように叫ぶ梓に応えるように、茜が振り向きざまに己の背後へ回転の遠心力を加えた全力の一撃を放つ。
いつの間にそこへ移動していたのか、既に茜の背後の死角に潜り込んでいた王我の重い一撃の軌道に割り込むように双剣による斬撃が走り、ぶつかり合う鋼と鋼が甲高い金属音と火花を散らした。
一瞬だけ力が拮抗して、しかしその膂力の差に茜の小さな身体が吹き飛ばされる。
追撃の為に王我が全身を撓め、繰り出された大跳躍が、茜の後を追う。
一連の攻防に梓は危機感を募らせた。ただでさえ王我最命は格上の強敵だ。茜も梓も、影獣などに気を取られている余裕はない。
ならばどうするべきか。吹き飛ばされる茜に、無理を承知で梓は叫ぶ。
「茜、今は王我に集中して! 残りの影獣は僕が注意を引きつけて時間を稼いで隙を作る。だから君は、機を見計らって影獣にトドメを……!」
「くっ……! アタシは別に構わないけどっっ、……らぁッ! ……アンタ、そんな事出来るのッ!?……くッッ」
「ほう、戦いの最中にも関わらず余所見にお喋りとは随分と余裕だな。ならば、これにも付いて来れるのだろう?」
梓の意図を正確に理解したのだろう。
茜は空中で体勢を整え衝撃を殺して着地、その瞬間を狙い振るわれた王我の斬り下ろし――からの、剣閃でブイ字を描くように切っ先を払い上げる斬り上げの二連撃を、刀身の短い双剣で必死に受け流しながら、どうにかそう答えた。
梓は、冷や汗を滲ませながらも茜のその返答に満足げに笑みを浮かべた。
「大丈夫、……みんな彼女に誘われる」
そう言った梓の周囲では、よくよく観察してみれば既におかしな現象が起きていた。
王我のしもべであり兵隊でもある影獣が、何かに誘われるかのように血走った目で鴻上梓のみを注視している。
王我が影獣に命じたのは、二人の『徒影』の殲滅。だと言うのに、影獣達は一匹たりとも吹き飛んだ天羽茜の追撃へ向かっていない。
まるで梓一人の事しか目に入らないとでも言うかのように、王我の支配下にありながらも、その支配の強制力さえ押しのける程のナニカがこの場に働いていた。
狂ったように理性を失った影獣達の視線の先にあるのは、徒影の少年が握る一本の儀礼用刀剣。
艶やかな妖しささえ内包したその美しい刀に、全ての意識が釘付けになり吸い寄せられて――
カラン、と。鈴が鳴るような清らかな幻聴と共に、その切っ先が僅かに空気の上を滑ったその刹那。
抑え切れない欲望を刺激された影獣達が、誘蛾灯に集まる羽虫のように『色香狂い』目掛けて一直線に殺到した。
理性を完全に放棄し、獣欲に塗れ我先にと他を圧し抜け蹴落とし掻い潜り、まるで狂った肉団子のような纏まりになって影獣の群れが押し寄せる。
しかし、警戒も無しに踏み込むその領域は、既に鴻上梓の間合いに他ならない。
「――誘え、惑い。狂い裂け……!」
気合と共に、複数の斬撃が乱れ桜の如く迸った。
獣達の苦痛の叫びが耳朶に響き、墨汁のような影が飛び散る。
知性を失いただ直線的に突っ込んでくる影獣は、戦闘経験の少ない梓をして格好の的となった。
襲いかかる爪牙をひらりと身を後ろに引いて躱し、タイミングを外した瞬間に一歩踏み込み切り払う。走る斬撃は未だぎこちなさが残るものの、着実に影獣の身体を斬り裂き、その影を散らせる。
難しい動きは必要ない。神がかった回避も、一撃必殺の斬撃も、達人めいた足捌きも、鴻上梓には必要ない。
『色香狂い』誘われた哀れな影獣達は、自らその身体を斬撃の軌道上に投げ出してくるような物なのだから。
飛んで火に入る夏の虫。
食虫植物がただそこに存在するだけで獲物を狩るように、『色香狂い』の色香に惑わされた哀れな被害者達は、自ら死地に飛び込んでくる。
事実、徒影の膂力を駆使した半ば強引な連撃は、素人臭さの抜けきらない、中途半端な物であった。けれど、『色香狂い』という『影断ち』一つがその大前提を覆す。
素人の振るう一振りが、達人が剛剣を振るうような致命的な斬撃へと変貌する。
あくまで速度と手数を重視した乱撃が乱れ咲き、梓に襲いかかった影獣全てを平等に切り刻んだ。
真っ赤な鮮血の代わりに、ドス黒い墨汁のような影が、数多の傷口から霧のように噴出する。
苦しげな嘶き、遠吠えが至近から響き、斬り裂かれ喰われ尽した影獣達は、その身を爆発四散させ――る事はなかった。
……ダメージは与えた。確かに全ての斬撃は、等しく影獣の身を引き裂いた。
だがそれだけ。
食い尽くせない。倒しきれない。殺し切れない。梓の与えた傷はその悉くが浅く、致命傷には届かない。
だから、それだけ。それきりで、終わり。それこそが、異常だった。
下手をすれば掠り傷程度のダメージしか受けていないであろう影獣達が、梓の一撃を受けてそれきりピクリとも動かない。
まるでメデューサの瞳に魅入られたかのように。麻痺毒を流し込まれたかのように。
そしてそれは、千載一遇のチャンスであった。
「――茜!」
「どんな手品を使ったか知らないけど、褒めてあげる……!」
その一声で全てが伝わった。
王我の猛撃を後手に回りつつもどうにか凌いでいた茜が、一際力を籠めて一撃を受け止めると、今まで敢えて抑えていた膂力を全力解放。
返す刀で、僅かに王我の想定を上回る力でもって王我を押し返すと、生じた隙に付け込み声高々に叫ぶ。
「――影歩……!」
目標を梓の影に設定した影歩が発動。
引力のような力に引かれて大地を滑るように茜の身体が走り、王我の脇を瞬時にすり抜ける。そのまま麻痺したように硬直し動かない影獣達の眼前へと躍り出ると、
「死ね……!」
凌ぎ難きを凌ぎ堪え難きを耐え溜めに溜めた反撃の一撃。
カマキリの鎌のように双剣を逆手持ちに握った茜は、腕を顔の前で十字架を象るように交錯、解き放つように振るわれた十字薙ぎ払いの一閃が、明らかに得物の長さからは考えられない広範囲を無慈悲に斬り裂いた。
一塊にされていた残党の影獣達が、断末魔の叫びすらあげられずに瞬時に食い尽くされ消滅していく。
弾け、欠片となって世界に溶け入る漆黒の粉雪の中に凛と佇む徒影の少女。そんな美しくもどこか残酷な光景が、梓の瞳に焼き付いた。
梓は命懸けの戦闘中という事さえ忘れ、その光景に、天羽茜という『徒影』の少女に魅入ってしまっていた。
それはきっと、一番初めにも抱き、感じた感情だった。
憧憬のような、敬意のような、梓の心を圧倒する何か。
それが何なのか、無意識のうちに探ろうとして……。
「……その『影断ち』。随分と面白い特性を持っているようだな」
掛けられた声に我に返った梓に、担ぐようにして絶対法の王権を構え直した王我がどこか感心したような瞳を向けていた。
王我の言葉の通り、鴻上梓の影断ち『色香狂い(いろかぐるい)』には真銘開放時にのみ常時発動する特殊能力がある。
無条件で周囲の影獣の敵意を自分に引き付ける『蠱惑』と、
『色香狂い』の斬撃を受けた対象を一定時間硬直させる『魅了』。
この二つの特殊能力こそが、『色香狂い』の真の武器だ。
『魅了』に関しては、何回も斬撃を受け続けると耐性ができて、硬直時間が徐々に短くなっていくという弱点もあるが、それでも強力な能力である事に変わりは無い。
王我の影獣達を倒すことが出来たのも、この二つの能力のおかげだった。
己の兵隊全てを食い尽くされた事で、一度区切りとするつもりなのだろう。
王我は奇襲や攻撃を仕掛ける素振りも見せずに、まるで梓と茜を讃えるような笑みを浮かべている。
「王我最命。アンタご自慢の兵隊はもういない。それってつまり、影を回復する手段も失ったって事よね? そしてアタシの力がアンタに通用するって事もこの前の戦闘が証明している。ついでに数的優位も場の勢いもこっちにあるわ。……一応聞いておいてあげる。抵抗せずに楽に頭をぶち抜かれるのと、抵抗した挙げ句苦しみ抜いた果てに頭をぶち抜かれるの、どっちがお好みかしら?」
そんな茜の挑発に対しても王我は愉快げな哄笑を上げるだけだった。
「ふはははははは!! 愚問ここに極まれりだな天羽茜! いちいち考えるまでもない。オレが貴様ら二人を叩き潰す。それ以外の答えは却下だ!」
嬉々として迸る圧に、空気が震える。
だが、そんな空気を恐れる事無く鴻上梓は一歩前へと踏み出した。
明確な境界線を破壊するような確かな一歩。
その姿を見て僅かに眉を顰める王我を、梓はしっかりとその瞳で見据えていた
「……王我最命。やっぱり僕はお前が憎い。あぁ、そうだ。確かに、間違いなく、狂って壊れ果ててしまった僕の中にも、憎悪という感情は存在している。僕は、お前と言う男をこの上なく憎んでいる。優しい人間になりたいとか、誰かの為になる事をしてあげたいとか、それ依然の問題で、僕はお前を殺す機会があれば一〇〇回中一〇〇回殺すんだと思う」
戦いの最中、心のどこかで考えていた。
――強さこそが絶対にして世界の正義だ。
王我最命は強さに拘るその理由をそう語った。
ならば鴻上梓は。鴻上梓はなぜ優しくありたいと願ったのか。
――その人の為を思って、本当の意味でその人の為になれる事を、その人の為にしてあげられるような人になりたい。
けれどそんな願望を梓の心の中に象った要因は、他の誰でもない梓の愛した人達だ。
始まりはたった一つ。
母の、ひまわりのように咲く満面の笑みが見たい。その笑顔で褒められたい。
ただそれだけ。それだけから全ては始まった。
そして母が居なくなってからは、梓の太陽はいつしか瀬戸瑞葉になっていた。
瑞葉の笑顔を、知らず心で求めていた。
だから。
大切な人を奪われた怒りは、憎悪は、殺意は、消えてなくなったりなんかしない。
どれだけ綺麗ごとのような願望を掲げていても、その信念を持ってしても許容できない事はある。
狂って、壊れて、終わってしまっていても、それでも鴻上梓は人間だった。
これはただそれだけの話。
梓に僅かに残る『人間』が、瀬戸瑞葉の仇を許さない。許せる訳が、無い。
――王我最命が憎い。
鴻上梓という男の想い。心に抱いた感情。
その答えがこれだ。
これこそが鴻上梓の正直な心の内であった。
「……鴻上梓は瀬戸瑞葉が大好きだった。だから、お前を殺すというこの選択は、僕の心が勝ち取った自由。誰に強制される訳でもない。掟に縛られる訳でも無い。己の掲げた信念さえも捻じ曲げて、この僕が、僕の為に戦うただ唯一の復讐劇だ!」
『色香狂い』の切っ先を突き付けて、声高々に復讐の狼煙をあげる。
「行くぞ仇敵。勝者が正義になると言うのなら。敗者が悪になると言うのなら。僕は絶対に正義を掴みとってみせる。『徒影』として、鴻上梓として、そして、一人の男として。お前にだけは僕は負ない……!」
その宣言を言い終えて、鴻上梓は足りなかった何かが胸の奥にストンとハマるような錯覚を覚えた。
その宣言を聞いて、天羽茜はどこか嬉しそうに笑っていた。
その宣言を聞いて、梓の握る『影断ち』の中の彼女(、、)が、艶やかな微笑を浮かべた気がした。
その宣言を聞いて、王我最命はこれまでで一番愉しげな笑い声をあげた。
「くはっ、あはははははははははははははははははは!! そうか、勝利宣言と来たか! 実に愉快だ。憎悪を宿した刃はよく斬れると相場は決まっている。ならば来いるがいい、宿敵。憎悪のままに絶対強者たるこのオレを打倒し、貴様の望む正義を手に入れてみせろ!」
両者の主張は決して交わらない。
なぜなら、分り合う事そのものを両者が拒んだから。
仲良く手を取り合える未来よりも、己が敵として眼前に立ち続ける事を、互いが互いに望んでいた。
言いたい事は全て言い尽くした。だからもう言葉は必要ない。
後はただ、己の行動でその決意を示すのみだ。
だからこれは当然の帰結。
『鴻上梓』と『王我最命』。
『色香狂い』と『絶対法の王権』。
大地を蹴る音が、二つ。
二人と二つの『影断ち』が二点を結んだ一直線上、その丁度中間地点で甲高い金属音を響かせ、二振りの『影断ち』が正面衝突した。
ぶつかり合う運動エネルギーが行場を求め、同心円に広がる衝撃波が世界を撫でる。
二人の『徒影』と一人の『欠損持ち』による死闘。その第二ラウンドが始まった。




