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第2章 幽霊と白い月


 風鈴の音が鳴る。アパートの前にある杉の木が葉擦れの音を奏で、その涼しい風が網戸を通り抜けて入り込んできた。網目状の風景の外には真っ白な月が満点の星空と共に照っている。時折聞こえる線路の踏切や、電車の通り過ぎる音が小さく響いてきた。

 部屋の中に視線を戻すと、1人話し続けるテレビや机に向かって熱心にも勉強をしている留衣の姿が視界に入ってきた。鬱陶しいと1つに結んだ留衣の髪も外からの微風に揺れている。

 清々しい外の空気に俺はふと満月の月を見上げた。太陽の光を反射して光るその球体は闇に包まれた夜空を飾る、星々の中の主の飾り物のようだった。煌めく星達の中で最も大きなその球体は太陽という全く別の存在とバランスを合わせるかのようにそこに存在し

自分達のいるこの地球を何億年も前から見つめ続けている。

 輝く星達の中でも月だけは静かで、どんなに星達が自身の光りを競い争うことがあっても、そこだけは変わることなく澄んで見える。その月光はまるで優しい視線のように地上に降り注いでいる。ずっと変わらぬ、その場所から。

 ふと眼下の道路を見やるとそこには水たまりに映った2つ目の月の姿。電柱から落ちた梅雨の雫に波紋が広がり、一瞬姿がかすれた月はまたすぐその居場所に舞い戻ってくる。


(……月)


 その時俺の脳裏に浮かんだのは記憶の始まりのあの朧月。霞んだ月のあの姿。ふと地面に浮かんでいた月が消えた。空を見上げると、さっきまで都心の住宅地を照らしていた月が雲の切れ端に包まれてその姿を隠している。


(あ…)


 儚い光を漏らす雲の隙間。けれど月はその輪郭全てを雲の中に消してしまった。

 風鈴の音がまた響いている。杉の木の揺れる音とガラスを叩く高い音色がやけに切なく反響していた。


「ちょっと」

『…え?うわっ、留衣、いつの間に』


 先程まで机に向かっていたはずの留衣がいつの間にか俺の後ろに来ていた。あまりに突然だったので大声をあげた俺に留衣はいつも通りの「うるさい」という決まり文句を吐く。


「これからコンビニに行くんだけど、あんたは?」

『えっ、あ、俺も行く』


 大慌てで返事を返す俺。その答えを確認した留衣は窓のカーテンを閉め、テレビを消す。蛍光灯を1つずつ消していくと、反対にカーテンの隙間からは小さな灯りが差し込んできた。玄関の明かりにそって外に出ると、やはりあの杉の木はその大きな影を盛大に揺らしていた。先を歩く留衣の背中を追いながら、俺はふと夜空を見上げる。

 いつの間にか雲間から逃れた月がその姿を現し、また地上をその月光で包み込んでいく。その白い球体は地面に反射し、第2の月がまた水たまりの中に浮かんだ。


 コンビニが車道を挟んだ反対側に見えてくると、俺の意識は月からコンビニへと移った。車の通りすぎる音が何度かしてから、留衣は横断歩道を渡る。どの店よりも強い光を放つ営業24時間のコンビニには客が2、3人しかおらず、店内を流れる宣伝の音楽以外は静かなものだった。


『そういえば留衣。何か買う物あんの?』

「別に。ただ勉強の気休めに」


 商品の立ち並んだ棚を一つ一つ見つめながら、俺は留衣の後ろをついていく。別に、なんていいながらも留衣の買う物は最初から決めていたらしく、迷うことなく今日の夜食らしきものを手に取っていた。

 時折聞こえてくる車道の音と、店員の「いらっしゃいませ」の言葉。ふと視線を棚から入り口の方へ向けると、留衣と同じ考えのコがいるのか、夜食を買いに来た女子高校生の姿があった。留衣とは違う灰色のスカートに、開襟シャツの制服。雑誌の棚の前で足を止めているその後ろ姿を見て、俺はふと呟く。


『…留衣。あれ、どこの学校?』


 インスタントラーメンの棚を見つめていた留衣が振り返る。俺が指差している方向に視線を向ける。


「さぁ?同じような制服の学校はたくさんあるから、よくは分からないけど」


 都内に高校は数多く存在する。私立、公立、都立…その中で同じような制服の学校はたくさんあるから、一つ一つを把握していない、そう留衣は言った。


「…ここの近くの学校だとしたら城東学院か、佐山の高等部か、桜丘か、私立の常和あたりじゃないの?」

『…ふーん…』


 また視線を棚に戻した留衣のカゴの中にはいつの間にかスポーツドリンクが1つ、入っていた。家でも滅多にジュース類を飲まないのに珍しいな、と俺が思った時。


「…あんた、明日どうするわけ?」

『……明日?』


 間抜けた声を出した俺を呆れた表情で見返して留衣はレジへと向かう。なんのことかさっぱり理解できていない俺は、留衣が精算を終わらせて戻ってくるまで困惑しているしかなかった。


『る、留衣…明日って、なんかあったっけ…?』


 留衣はコンビニのドアを押して、外に出た。横断歩道を横切りながら留衣はため息をついて呟いた。


「…バスケがしたいって言ってたのは何処の誰?」

『えっ、もしかして…』


 今日は金曜。明日は土曜。確か島崎は土曜の練習試合に出て欲しいと言っていたハズ…と、いうことは。


『し、試合に出させてくれんの!?』


 思わず大声で叫んでしまい、留衣の一瞥をくらった。


「点差離されたらすぐ代わってもらうけど…あんたバスケ出来るんでしょうね?」


 中途半端な返答をすれば、留衣の気が変わりかねない。俺は一応、と小声で前置きしてから言った。


『ルールは全部覚えてる』


 嘘はついていない。バスケのルールは全部頭の中に入っている。ただ、それが出来るかどうかまでは、記憶にない。


「…それで何で自分の名前を覚えてないんだか…」

『…』


 留衣は息をついて足早に歩き出した。足下の水たまりが跳ねて音を立てた。俺は留衣の後ろ姿を見て、ふと空を見上げる。暗闇に光る真っ白な月がやけに大きく、そして儚く見えた。





『……次、どうするんだ?』



 誰かがそう言った。

 街路から空を見上げた俺は、ふと真っ白に輝く満月を見つめて、足を止めた。



『…そうだなぁ…。あれなんかどうかな?』



 指差した先を見て、誰かが笑った気がした。



『お前、本当に月が好きだな』



 その「誰か」は一緒に月を見上げて、俺の頭を軽く叩いた。



『痛っ』



『ま、お前の描く月は嫌いじゃないけどな』



『素直に上手いって言えよ。正直じゃないな』



 2人で笑い合いながら、俺達は帰路に就く。

 見上げた真っ白な球体は、いつもと変わらない光で地上を照らしていた。



(………月にしよう)


 心の中で俺はそう呟いた。





 翌日の天気は快晴だった。初夏の日差しが光綾のグラウンドを照らしている。野球部やソフト部、テニス部といった屋外スポーツの部は休日も登校してきて部活に励んでいた。校庭を囲む木々からは蝉の鳴き声が木霊し、もうすぐ梅雨が明けることを暗示するかのように

気温は上昇しつつある。

 体育館の2階の窓から外を眺めていた俺は、更衣室から出てきた留衣に手を振った。階段を昇り、こちらに歩いてくる留衣は「光綾」と書かれたユニホームにジャージを羽織っていた。長い髪を一つに結び、邪魔にならないようにしている。

 けれど表情はやっぱり留衣。面倒くさい、というのが顔に出ている。


『相手校は?』

「今到着したらしいけど」


 慌ただしくなる部員達を横目で見て、留衣はふとこちらに言った。


「体貸してやるんだから失敗しないでよ」

『努力します…』


後が恐いから。ふと1階の方に視線をやると、ユニホームに着替え終わった生徒達が顧問の先生の所に集まっていた。留衣は俺に目配せをして、目を瞑る。1つに結んでいた長い黒髪が風に揺れた。


「さ~ちゃ~ん!」


 留衣を呼ぶ島崎達の声と、熱風に揺れる体育館近くの木々の葉擦れが、やけに耳につく。足先から床に足をつけている感触、手の動く感覚が蘇ってくる。『留衣』を動かす意志が、俺に委ねられる。指先に2階の手すりの感触。何度か右手を動かしてみて、俺はふぅ、と安堵した。1階に目をやると、下でぴょんぴょん跳ね回っている島崎キャプテンの姿が見えた。


「さ~ちゃん、さ~ちゃん。先生が呼んでるよぅ!」

「今行く」


そう答えると俺は1階への階段を駆け下りながら、意識の奥底で傍観している留衣に話しかける。


「もし点差離されたら、やっぱ強制的に…」

『体外に弾き出すから覚悟しといて』


 なんの抑揚もなくそう言い切った留衣に俺は冷や汗をかく。階段の最後の段に足をかけると、相手校の生徒達が館内に入ってきているのが見えた。黒を主としたジャージを着ている顧問らしき人物と、ぞろぞろと後ろからついてくるバスケ部員達。所々にマネージャーらしき生徒もいる。

 俺は1階の床に片足をつけた瞬間、そこから動けなくなった。


『…?』


 頭の奥から響いてくる留衣の怪訝そうな気配も、首をかしげて駆け寄ってくる島崎や藤堂の姿も、俺の意識の中には入ってこなかった。


「 ──── !」


 相手校の女子バスケ部員達の数十名が、学校指定のジャージを着ていた。青を基調としたそのジャージの胸元にはそれぞれの名前が刺繍してあり、右肩の袖には白い文字で学校名が記してあった。


「さーちゃん?どうかした?」

「具合でも悪いんですか?」


 寄ってきた2人の不安そうな表情を見て、俺はやっと我に返った。


「…な、なんでもない…。それより、あの学校は?」


 留衣のふりをすることも忘れて、俺は素に戻って2人に尋ねた。顔を見合わせた島崎と藤堂は相手校を見て、振り返る。藤堂が答えてくれた。


「桜丘高等学校、都内ベスト4の強豪ですよ」


 彼等のジャージには、Sakuraoka - High school …つまり『S・H』としっかり表記されていた。





 無常にも俺の混乱した思考回路を整理させる時間はなく、試合はすぐに始まった。審判の笛と共にボールが宙を舞う。ゆっくりと天井へ放たれたボールが降下し始めた瞬間、2つの手がそれを弾いた。 ボールを先に取ったのは桜丘。光綾の選手の数人が走り出す。俺はボールに視線を向けてはいたものの、やはり先程の『桜丘』の文字が頭を離れなかった。集中できないまま、試合の流れを見つめているしかできない。


(……桜丘?)


 桜丘高校のマネージャーらしき女子生徒達の中に、制服を着ている者も数人いた。その開襟シャツの胸ポケットに書かれた、『S・H』の文字。俺の来ていた制服と全く同じ校章。俺の目は桜丘の方にしか向いていなかった。


「留衣さん!」


 ボールが跳ねるあの特有の音と共に、目の前にオレンジ色の球体が跳んできた。慌ててそれを受け取った俺の視界に、マークされている島崎と藤堂の姿が映った。どうやら桜丘はチームの主戦力であるこの2人の動きを止めて、攻めるつもりらしい。

 光綾でフリーになっているのは俺だけ。他の選手達も動ける状態じゃない。ここまできて、俺はやっと相手は都内のベスト4だったことを思い出した。早く動かないと、相手が集まってくる。走り出した俺に、まわりのディフェンダー達が追いかけてくる。けれどやはり、島崎達のマークは外れない。ボールの跳ねる音がやけに大きく木霊する。

相手の選手達に阻まれ、俺はいつのまにか身動きが取れなくなっていた。首筋を汗が伝う。混乱する思考回路でこの状態から抜け出す方法を探すけれど、頭で考えているうちに動きが鈍くなった。


「!」


 ゴムボールが床に叩きつけられるあの特有の音。そして同時に手の中の球体の感触が消えた。桜丘のベンチが沸く。光綾のゴールへと走り出す選手達。バスケシューズで床を走るいくつもの音が反対方向へと駆けだしていった。その様子に立ちすくんでしまい、俺は点差がつけられるのをただ呆然と見ているしかなかった。


『…何してるの』


 歓声が上がる桜丘ベンチ。声を掛け合う光綾の選手達。そんな中で留衣の声が頭の中に響いた。頭が混乱していたから、留衣が怒っていたのか、呆れていたのか判断できなかった。


『動揺してどうなるわけ?』


 俺の思考はいつも留衣に見透かされている。悩んでいる時も、今みたいに混乱している時も。何も言わなくても留衣は全部見透かしたかのように冷たく言い放つ。


『考えたって仕方ないでしょう?』


 分かってる。留衣の言っていることが正しいことも、考えたって状況が変わるわけじゃないことも。けど俺は留衣のように冷静じゃないから、ただ動揺するしかないんだ。

 立ちすくんだまま動けなくなっていた俺に、留衣の落ち着いた声が聞こえてきた。


『あんたは今、榊 留衣なんでしょう?名無しの記憶喪失の幽霊じゃない』

「けど…」


 小声の呟きは試合再開の笛の音の中に消えた。


『考えることなんて後からいくらでも出来るでしょう?』


 選手達の足音、歓声、声援、審判の笛、体育館の中に木霊するもの全てが、どこか遠くから聞こえてくるかのように小さく聞こえた。

 頭の中で、留衣のため息をつくような気配がした。動くことのできない俺の中に、留衣の声が響いてくる。


『何のために体貸したりしてたか分かるの?』

「 ── え?」


 誰に発したか分からないその呟きは、きっと誰にも聞こえなかったと思う。


『あんた1人で考え込んでまともな答えが出るなんて期待してない。だから考えるなって言ったんだけど?』


 留衣の呆れ声が体育館内の雑音を全て消し去った。


『それに……』


 誰の声援よりもその声は大きく響いた。


『あんたは今1人じゃないでしょう?』


 視界に入った電光掲示板の文字は2対0。島崎達の奮闘で未だ点差は開いていないが、時間が刻々と減っていくなかでこの2点は大きい。桜丘のゴール前で奪われたボールが今度は光綾側へと走り出してくる。突っ立っていた俺はもちろんノーマークで、相手側の注意も薄い。ボールを弾く音と共に相手が足を止めた。桜丘の選手が振り返るのと同時に俺はもう一度桜丘のゴールに向かって駆けだした。

ボールを奪われた選手達は瞬時にそれを理解して集まってくる。

 ボールの硬質な感触が右手から伝わってくる。どんどん近づいてくる敵に俺はそれを左手に持ち替え、周りを見つめた。攻めにまわっている島崎のマークは外れない。かと言って守りに精一杯の藤堂に回すわけにもいかない。


(……どうする?)


 留衣に聞いたわけじゃない。自分自身に問いかける。けれど体は意識が答えを出すより先に動いていた。あの時、始めて見た留衣のシュートが脳裏をかすめる。

 ここで決めれば、逆転出来る。相手のプレッシャーになるのは確かだ。ボールを強くバウンドさせるとそれは床で跳ね返り、両手に収まった。


 ただこのボールをあのリングの中に通すことだけを考えて


 ボールを持つ手を額の上へともっていく。腕の力を抜いて、膝を曲げて、それを伸ばすのと同時に手首のスナップでボールを空中に押し出す。

 スローモーションのように弧を描くオレンジ色のボール。静かになる場内。桜丘の選手も、光綾の選手達も、そのボールの行く末が決まるまで動けなかった。頭の中で巡っていたややこしい複雑な考えも、今はいらない余計な思考も、この時全てを忘れて、俺は視線をボールへと向けていた。

 弧を描いたボールは、リングの真ん中へ糸に引かれるかのように落ちていく。リングに入る音がした瞬間、大きな歓声が光綾側のベンチから上がった。

 電光掲示板の光綾の点数が0から3にかわり ──── 逆転した瞬間だった。





 体育館の2階の窓からは夕方の少し涼しくなった風が入ってきた。過ごしやすい気温になりつつあるようだ。着替えに行った留衣を待つ間、俺は2階からバラバラと帰っていく桜丘のバスケ部員達を眺めていた。

 試合はあの後も続いたけれど、結局あのまま点差が動かず光綾の勝利。圧勝、というところまではいかなかったけれど、都内ベスト4を相手に勝利できたことは光綾にとってかなりの収穫だ。校門へと歩いていく桜丘の一団は少し落胆したような表情を浮かべていた。無理もない光綾はまだ無名校なのだから。


『あ、留衣』


 階段を上がってくる留衣の姿が視界に入って俺はそう言った。今日のことは礼を言った方がいいかな、と少し考えてみたりする。

 けど、留衣は心なしか機嫌が良いようには見えなかった。


『…どうした?』

「…バスケ部の勧誘」


 疲れた、と書かれた顔で留衣は1階を指差した。俺が指先を追って更衣室の方を向くといつもより更に笑顔の島崎が超高速で手を振っているのが見える。


「さ~ちゃぁんっ!考えといてねぇ!」


 その隣では藤堂が苦笑していた。留衣はその様子にため息をつく。


『…なんか言った?島崎に』

「しつこく勧誘してくるから、考えとくって答えたらああゆう感じに」


 だからいつもより更に熱烈な部活勧誘を受けているわけだ。島崎に曖昧な言葉は通用しないのだろうに。帰っていく島崎と藤堂を見送って、留衣はこちらに視線を向けた。


「…で?あんたは何か思いだしたわけ?」

『それが、何にも…』


 試合後、バスケ部員達を眺めてはいたけれど、知っている顔は一つもなかった。顧問の顔も覚えていない。夏の夕焼けに染まってきた空が、やけに虚しく感じた。蝉の鳴き声が体育館の中にまで入ってくる。怪訝そうな表情をした留衣は、こちらを向いて言った。


「で?知りたいんなら調べるけど?」

『…へ?』


 振り返った俺に、留衣は呆れ顔をしてみせる。窓の側まで寄ってきた彼女はそこから吹いてくる風に髪を揺らしながら外の風景を見つめた。


「あんたが知りたいんなら調べてみるけど。まぁ、知りたくないなら別に…」

『知りたい!』


 思わず大声で叫んでしまって、留衣に煩いと怒られた。一息ついてから留衣は口を開く。


「…それじゃ、桜丘の生徒ってことで調べてみる」


 1階に戻ろうとし始めた留衣の後ろ姿を見て、俺は改めてあの時の留衣の言葉を思い出した。


『あんたは今1人じゃないでしょう?』


 気付いてなかったんだ、そう言われるまで。


『留衣、あのさ…』


 これは一つの決心だった。言ってしまえば、取り消せなくなる。

 けれど、けじめをつけておかないと、ずっとこのままになってしまう気がする。


『昔のことが分かったら…決めるよ』


 この時、留衣は驚いた表情も何も見せなかった。ただ、窓の外を見つめたまま、


「…そう」


 と、言っただけだった。

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