これからも3
次回、最終回です!
その頃、閻魔殿の広間では、閻魔がぐったりと机に身体を預けていた。
「つ……疲れた……」
「閻魔様。暴動の後処理、お疲れ様でした」
閻魔庁に戻ってきていた珠美が、苦笑して閻魔を労う。
「そういや珠美、手の怪我はどうなった?」
「ああ、おかげさまで、すっかり良くなりました」
珠美は、傷跡の消えた右手を笑顔で翳した。
「なら良かった」
閻魔がホッとした表情で言うと、広間の扉が開かれた。
「只今戻りました、閻魔様、珠美様」
そう言って広間に入って来たのは菖蒲。側には薬草園の園長もいる。
「お帰りなさい、菖蒲様。謹慎、しなくても良くなったんですね」
珠美が声を掛けると、菖蒲は笑を浮かべて応えた。
「ええ、おかげさまで。亡者を唆したのが私ではないと、つい先程証明されました」
菖蒲は、閻魔の方に向き直ると、深々と頭を下げた。
「私の無実を最後まで信じて下さり、本当にありがとうございました、閻魔様」
「礼を言われる事じゃないさ。私が、お前の無実を信じたかっただけだからな」
「それでも、有難かったです。……あなたの補佐官になれて良かった」
菖蒲は、穏やかな口調でそう言った。
「あ、園長もお疲れ様でした。暴動への対応、大変だったでしょう?」
珠美が園長の方を向いてそう言うと、園長はヒラヒラと手を振って答えた。
「ああ、大した事なかったので大丈夫ですよ。拳銃を持ち出されていたらさすがの私も困りましたが、私が対峙した受刑者は皆素手か、武器を持っていても刃物でしたから」
「ん?」
珠美は疑問に思った。てっきり、園長は避難誘導や従業員への指示をしていたのかと思っていたが、受刑者の制圧に直接参加していたというのか。
「……あの、園長は、剣術や武術の心得が?」
珠美が聞くと、園長は笑いながら言った。
「ええ。これでも、生前は結構な腕前だったんですよ」
すると、閻魔が呆れたように口を挟んだ。
「何が『結構な腕前』だ。結構どころか、もの凄い才能があっただろう。亡くなる前の半年間、私はほとんどお前に剣で勝てなかったぞ」
「え? え?」
珠美は混乱した。まるで、閻魔が生前園長と剣の手合わせをしていたような言い方。そんな珠美の様子を見た閻魔は、笑みを浮かべて言った。
「珠美には言っていなかったか。園長は、私の弟の忠行だ」
「ええええええ!?」
話によると、忠行は死後閻魔庁に来た際、秀行が閻魔の見習いになったと聞き、自分も秀行の役に立ちたいと申し出たらしい。忠行は最初獄卒になろうとしたが、もっと平和な仕事をしてくれと秀行に懇願され、色々模索した結果、薬草園で働く事になったという。
最も、忠行が薬草園で働き始めたのは、しばらく賽の河原の刑を受けた後だったが。
「……忠行、お前、薬草を届けに地獄に来た際、私の良い噂を流してくれていただろう。……ありがとう、助かった」
閻魔が頭を下げると、園長はゆるゆると首を振って言った。
「いや、大した事はしてないから……。あ、そろそろ極楽に戻らないと」
「そうか。……忠行、これからはもっとこちらに顔を出せ」
「分かったよ。じゃあ、またね。……兄上」
そう言うと、園長は広間の入り口に向かって歩み出した。
「あ、私、門まで園長を送ります!」
珠美は、そう言うと園長の後を付いて行く。
園長は、珠美の隣に並ぶと小声で聞いた。
「連城さん、地獄で働き続けたいっていう話は今しなくていいんですか?」
「……閻魔様、今日は疲れているみたいですし、相談するのは明日にします」
「そう……」
珠美が歩いていると、その背中を見つめていた閻魔が突然ガタンと立ち上がり、声を上げた。
「珠美!!」
珠美は、クルリと振り返る。そこには、何かに縋るような切実な表情の閻魔がいた。
「どうなさいました? 閻魔様」
珠美が尋ねると、閻魔は戸惑ったような顔で珠美を見つめた後、小さな声で言った。
「……いや、何でもない」
「はあ……そうですか……」
そして、珠美はまた背中を向けて歩き出した。
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