36話 赤毛
「その勾玉は?」
レンカの話に気になって、僕もその勾玉に興味があった。
その勾玉には血の色が溢れる。
まるで勾玉の中で充血しているようだ。
「これはね、霊能者が悪霊を封印する媒介のようなもの。特にこれは霊能者一族が所有してたもの」
「ば、媒介…」
女の子が言った媒介という言葉に、何故かレンカは怖がっている。
服の袖を引っ張ってくれるレンカが、怯えている顔をしている。
そんな泣きそうな表情に、僕は何だか辛くて切ない。
「レンカ、どうしたの?」
思わず手を伸ばして、レンカの涙を拭こうとする。
「兄さん、ありがとう。私、大丈夫だから」
「無理しないでね」
「うん、ありがとう」
レンカが笑った。
でもそれは、嬉しそうには見えない。
ただ、僕を心配させたくないため、作った笑顔。
…
「朔夜様でしょうか?」
いつの間にか、一人の知らない人に近づかれて、声かけられた。
一見、僕より少し年上のかっこいい男の人だ。
長い赤髪を肩まで伸ばしており、変な服装を着ている。
教会の法衣には見えるのだが、異なるデザイン。
そもそもここは教会の勢力の範囲外のはず。
いや、それは… キャソックかな。
「何のご用?」
いきなり名前を呼ばれて、僕は目の前のこの男を警戒せざるを得ない。
「そんな怖がらなくてもいいです。わたくしは小御門家の者です。お嬢様の命令を従い、朔夜様とレンカ様を迎いに参りました」
「お嬢様?もしかして葵姉ちゃんのこと?」
レンカが僕の後ろに隠れ、その男に問った。
「そうです。小御門葵様の命令です。小御門様との仲がよろしいようですね」
男が少し微笑みを浮かべていた。
「どうぞ、わたくしについてきてください」
「兄さん、どうすれば…」
「悪意は感じないが、何だか頼りない感覚。でも行くしかない」
「うん、そうだね。行こう。兄さん」
「お客様、またのご来店お待ちしております」
僕の後ろから露店の女の子の声が聞こえた。
…
「今からはエレベーターで6階に上ります」
赤毛の男がそう言った。
「レンカ、行こう」
レンカの手を繋いでいる僕は、その手の熱さを感じた。
レンカが僕の手を強く握りしめている。
痛いほど強く握りしめている。
…
「あのっ、ここは?」
ここは鬼市であることを、そう思っているが、
その男に問い、自分の推測を確かめようとする。
「ここですか?ここは小御門家の管理している霊物の市場です」
「やはり、鬼市だったのか?」
「そうですよ。でもそういう言い方は、久々です」
 




