青き馬、GⅠレース出走馬の確認
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ボルトがスタートするその瞬間、余りの勢いに高橋がバランスを崩し、ボルトはそれを庇うように足を止めてしまった。
『嘘だろ? 現役の騎手が俺のスタートで落とされるなんて……』
「高橋、確かに問題だな……今思えば計算して疲れた時にスタート練習していたんだが、間違いだったな。騎手時代の俺や諏訪ならともかくお前らに扱えるもんじゃないな」
『嘘だろ? 厩務員の諏訪が現役の騎手よりも評価されているなんて……』
「諏訪は減量が下手すぎて騎手になれなかったが腕だけはピカイチだ。学校でも減量が下手くそでなければ超天才騎手になれたとまで言われているほど惜しまれたからな。その伝で諏訪を取れたのは美味しいかったが」
「実際、現役の俺達よりも上手いしな」
『そうだったのか……しかしどうするんだ? このままだと問題大有りだぞ』
「今教えてもお前とこいつとのコンビの為にしかならねえから特訓しても無駄だ。ボルトに乗るのは橘と決めている以上、調教は別の機会にやる。それよりもミドルだ。ミドルの調教をやらなきゃ話しにならん。その為に高橋を呼び寄せたんだからな」
その通り、高橋を呼んだ理由はあくまでもミドルの調教の為。ボルトが空馬にならないように高橋を乗せるだけでしかない。
「とは言えボルトに落とされた理由を説明しなきゃ俺が乗った意味ありませんし、説明させて貰いますよ」
「ボルトに落とされた理由は体高──首と背の境から足元までの高さ──だろ?」
「ええ、武田先生の仰る通り。ボルトはあまりにもデカ過ぎる」
『どういうことだ?』
「サラブレッドの平均体高は160~170cm。サラブレッドでも大柄とされるボルトの祖父ニジンスキー──トムフール産駒のニジンスキーという同名の馬がいるがこちらのニジンスキーはノーザンダンサー産駒──でも170cm超。しかしボルトは2m前後の超大型。その高さから一気に下に重心を落とされかつターフが剥がれんばかりのパワーで引っ張られたらバランスを崩すのは当たり前でしょう。橘が落馬しなかったのが奇跡的です」
高橋がボルトの手綱を持ち、元の場所に戻ろうとすると武田もそれに付いていく。
「てことは橘の野郎を誉めなきゃいけないのか。嫌だな」
『子供かお前は!?』
「誉めて調子に乗らせた夜は絡み酒になるからな……」
「武田先生も被害あったのか……わかる。物凄くわかる」
「俺だけじゃなく諏訪もだ」
被害者二人が歩きながら遠い目をして、空を見る。それだけ橘の酒癖が酷いことが伺える。
『どんだけだよ……』
ボルトはこの時、酔っ払った橘に近づかないことを決意した。
そして時は流れ阪神JF。
【ミドルとモーター、モーターとミドル。二頭の一騎討ちだ、二頭の一騎討ちだ。追い詰めるミドルテンポ、逃げるモーターボート二頭並んでゴールイン!】
『ライスシャワーというよりもブエナビスタになったな。オークスか秋華賞かはわからねえがな』
ボルトとの併せ馬によってパワーアップしたがそれでも接戦。モーターボートという馬はゴールドシップの長所をそっくりそのままコピーしたような馬だったが故の結果だ。事実二頭は他の馬達をぶっちぎり、一騎討ちとなった状態でゴールしている。
【さあ勝負の行方はこの判定に委ねられました。どちらにしてもレースレコードです】
『レースレコードと来たか。まあ当然だろうな。何せ俺と併せ馬したんだからな』
ふんぞり返り、ボルトはミドルとの併せ馬を思い出す。高橋の精密機械のような体内時計のペースを利用し、最後のスパートで力を出すと言う特訓を繰り返して。その努力がこの結果である。
【ああっ、決まりました。一着ミドルテンポ、二着モーターボートです。あれだけの追い込みで届きました。凄まじい執念です】
『……しっ!』
手あれば握りこぶしを握っていたであろうと思えるくらいにボルトが喜びの声を上げる。
「ボルト、いるか?」
武田が馬房に入り、ボルトを呼ぶ。その手には新聞紙が握られていた。
『おっさんどうした?』
「ああ。ホープフルSのメンバーが大体出揃ったからな。報告しておこうかと」
『どんな奴らだ?』
「まず無敗で挑む奴らから発表する。お前ことボルトチェンジ、オルフェーヴル産駒のゴールデンハザード、ロードカナロア産駒のオーシャン……だがお前以外のこの二頭は無敗ってだけで重賞は勝ってない」
『OP馬が挑戦して勝つなんて例もあり得なくはねえだろ?』
「ああ。むしろ無敗のOP馬が伝説となる例なんてごまんとある。一番いい例はアグネスタキオンだ。アグネスタキオンはこのレースに勝って弥生賞、皐月賞へと歩んでいった……そのせいでシンキングアルザオがどれだけ苦しめられたことか……!」
マジソンの父であるシンキングアルザオは弥生賞、皐月賞でアグネスタキオンの二着と遅れをとっており、中距離では
アグネスタキオン>シンキングアルザオ
という評価がなされている。そんな評価にしてしまった武田はアグネスタキオンのことを忌々しく思っていた。
『そう言えばおっさん、アルザオの主戦騎手なんだっけ?』
「ああ。強い馬だったよ。長距離ならお前の親父やアルザオの父マックイーンすらも凌ぐくらいだ」
『なるほどな……』
「おっとそんなことよりも、重賞馬だ。函館2歳Sを勝ったディープブリブリテ」
『ぶっ! なんだよ、ディープブリブリテって……おかしい、おかしくて腹が捩れそうだ!』
「ディープブリブリテはディープインパクト産駒じゃなくその子供、ディープブリランテ産駒の馬だ。おそらく父親の名前を真似したんだろうな」
『くくくっ、おかしい。おっさん今度からその名前言わないでくれ。いや笑い堪えるのに必要だから』
「わかった。次だ。デイリー杯2歳Sを勝ったブルータイタニック。この馬はモーターボートと同じくゴールドシップ産駒だ」
『ゴールドシップ大人気だなおい』
「東スポ杯2歳Sのバイオリニリア、京都2歳Sのノットストップ」
そしてボルトは明らかな異変に気がついた。
『ちょっと重賞馬多くないか?』
「マオウが朝日杯に出るからこっちに来て勝ち目のあるレースにしようって魂胆だろ。要はお前が嘗められている証拠だ」
『そうか。ならちっとお仕置きしておかないとな……』
「入れ込み過ぎるなよ? 入れ込み過ぎて負けたなんて言い訳聞きたくないからな」
『わかったよ』
「朝日杯でマオウの弱点になるものがあるか確認しておけよ」
武田がそう告げ、その場を去っていく。一週間後、マオウが朝日杯FSを勝ち、その日のボルトの調教がいつもよりもキツめになったのは余談である。
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