青き馬、一世代上の菊花賞を予想する
菊花賞、それは牡馬クラシック最後のレースだ。例年、皐月賞やダービーの春のクラシックで活躍した馬に加え、夏の間に力をつけてきた馬が集まる。また菊花賞は皐月賞やダービーとは違い長距離の上に京都競馬場という地形から豊富なスタミナと騎手の判断が重要になってくる。故に最も強い馬が勝つとまで言われている。
しかし最近は長距離レースが少なくなり、中距離のレースが多くなったのでこのレースでレコードを出すか、あるいはこれの他に手土産(GⅠ勝利or良血の血統)がなければ種牡馬入りは厳しい。
『昔は天皇賞秋の前週じゃなく、翌週にやったんだよな…』
そんな中、マジソンがポツリと呟いた。そうかつては菊花賞は天皇賞秋の翌週に行われていた。そのせいでシンボリルドルフは三冠を制した1984年のJCを取りこぼしてしまった。それだけでなく、前年三冠を制したミスターシービーに至っては不出走。あまりにもローテがキツ過ぎたのだ。しかしJCの週をズラしても今度は有馬記念に対するローテがキツくなる。ではどうするか?簡単だ。菊花賞をズラしてしまえばいい。結果、現在のように天皇賞秋の前週に菊花賞が行われるようになった。
「そうだな…確か2000年から菊花賞が秋天の前週になったはずだ。…グリーン産駒の当歳っ子達を見に行こうとしたら菊花賞が秋天の前週に変わってて行けなくなったって風間さんに報告したら、騎手なのにそんなことも知らないのかって、怒鳴られた。結局、カーソンに乗せてもらえたけど暫く口を聞いて貰えなかった…そんな苦い思い出があってかいつ菊花賞が秋天の前週に変わったのか未だにおぼえている。」
『そりゃ苦い思い出だな。でもそのおかげで菊花賞からJCのローテがきつくなくなったよな。』
ボルトがそう指摘すると武田も頷いた。
「偶にはJRAも本気出すってことだ。菊花賞から緩いローテで参加すればJCの質も高くなるように考える。少なくとも今の腐った政治家よりか優秀だ。」
『JRAにも政治家にも失礼だぞ…それ。』
「まあそれは置いといてだ。リセットが一番人気なのは変わらねえが…マジソンやお前みたいに長距離血統じゃねえのはわかるよな?」
話を逸らすことでボルトのツッコミを躱し、新聞を開いてボルトに見せる。
『父がフェブラリーS勝ち鞍のファイナルキングに母父がダイワメジャー…確かに酷えな。この血統表見ている限りじゃ芝で走ったとしてもマイラーの馬にしか見えねえ。』
ボルトはリセットの父親と母父の部分を見て思い出す。リセットの父はトウカイテイオー唯一の後継種牡馬であるが零細血統であることとダートのマイルGⅠを1勝しているだけなので種付け料も安い。地方ではその産駒達は活躍していて中小牧場に人気だが、中央競馬の重賞レースにその名前がでているのはリセットのみである。
『よく読めるな新聞…でも中には例外だってあるんだぜ?スプリンターと言われた奴がダービーを勝ったりしている。』
『そりゃそうだ。血統が全てじゃねえのはわかっている。今でこそ流行血統だが糞みたいな血統だったサンデーサイレンスが一番の証拠だろうが。』
「まあその辺にしておけ。そろそろ始まるぞ。」
そして武田がTVをつけるとちょうどパドックの途中だった。
【さあ今年の牡馬クラシックをリードしているのが牝馬のリセット。単勝オッズ1.0倍。馬体重は前走より29kgプラスと太りましたね〜。】
『女の子に向かって太ったって言うなんてサイテー!』
ミドルが声を荒げ、不機嫌になる。もしかしてこの馬、前世はボルトと同様に人間だったのだろうか?
『怒るなよ。ミドル。そういうもんだからな?』
『ふんっ!』
【おそらく筋肉がついたのでしょう。菊花賞のローズキングダムなんかはそうでしたから…】
『ダービー二着馬が菊花賞を勝つ。よく言われているけどそうでもないよな?ローズキングダムもそうだよな…』
「奴に人気が集まったのは前走勝ち、良血、無敗で2歳王者に輝いたっていうのが大きい。グラスやエルコンほどじゃないにしてもかなり期待されていた。…だから体重が増えてもプラスに考えたんだろう。」
『…なあ、マジソン。菊花賞を勝った経験からどの馬が勝つと思う?』
『強い奴だ。』
『…確かにな。』
ボルト達は苦笑し、TVの方に意識を向ける。
【さて本馬場入場です。1枠1番サードメンタル。神戸新聞杯で2着とイマイチ勝てないイメージを払拭できるか?現在単勝オッズ60倍、4番人気です。】
『60倍!?4番人気で60倍って…やばすぎだろ…』
「全くだ。」
『確かにな…』
上から順にボルト、武田、マジソンの順にそう頷く。
『何がヤバイの?』
機嫌が直り始めたミドルがそれを聞くとマジソンが答え始めた。
『普通、圧倒的1番人気がいても4番人気は15倍前後程度だ。その4倍ってことはそれだけリセットを支持している奴がいるってことだよ。』
『それじゃ…超がつくほど支持されているってこと?』
『…この様子だとメイズイ超えだな。』
ボルトがそう言うとTVがいきなりやかましくなりそちらを見た。その入場馬は誰もが知っている馬だった。
【さあ大歓声に迎えられたこの馬、3枠6番リセット!手元に届いた資料によると支持率は86.1%!四捨五入して90%は史上初です!当然ながら単勝オッズは1.0倍、ダントツの1番人気です!】
「ついに人気でメイズイすらも超えたか…だがレースもメイズイのようにならないといいがな。」
メイズイ。その馬は菊花賞史上最高となる単勝支持率83.2%を出した馬だ。その支持率は後の三冠馬達…シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクト、オルフェーヴルですら出せなかった。メイズイがそこまで支持された理由はリセットとほぼ同じく、良血馬のいるダービーの舞台で未知のレースレコードで圧勝(メイズイ7馬身、リセット11馬身)かつ三冠にリーチという状況だ。更に強力なライバルも弱体化(リセットは不在)で恐れるものは何もないという状態だった。
しかし、そんな状態が悲劇を生む…その時の菊花賞馬はメイズイではなかった。ダービー二着馬、グレートヨルカという大種牡馬ネアルコを母父に持つ超良血馬、メイズイのライバルだった。そんなグレートヨルカのはるか後方にメイズイはいた…結果は6着だった。この結果に観客も調教師も唖然し、グレートヨルカが勝ったことよりもメイズイが負けたことにショックを受けた。
さてそんなメイズイが負けた理由についてだがいたって単純。コウライオーという馬に絡まれてしまい超ハイペースになってしまった。どのくらいハイペースかといえば800m、1000mのラップタイムが11秒7、11秒5という逝かれた(誤字にあらず)スピードを出してしまった。これがどれだけ速いか理解できるだろうか?
これを足して2で割り3倍すると34秒8…ちなみにミスターシービーが天皇賞秋で出したラスト3Fが34秒8であることから相当な逝かれ具合かわかるだろう…そんなハイペースで最後まで持つはずもなくメイズイは6着に沈んだのだ。
『だからってブルボンみたいにビビって逃げないと思うか?』
ミホノブルボンも似た状況に置かれたが騎手がそのことを知っており、メイズイの二の舞にならないように逆に抑えたが結果は敗北。逃げ馬は負けるというジンクスはメイズイ、ミホノブルボンから出来上がったとも言っていい。
「ウチとしては逃げなきゃ困るし、ここで逃げなかったらウチのマジソン以下だって言ってんのと同じだ。」
しかし後にセイウンスカイが勝ちそのジンクスを取っ払い、マジソンも気持ちよく逃げ切った。ここで逃げ切らなければJCでも逃げることが出来なくなる。
【5枠9番、前走神戸新聞杯、前々走札幌記念を勝ち上がってきた夏の上がり馬タチノフーム。現在二番人気、単勝オッズは22倍です。】
【5枠10番はセントライト記念勝ち鞍のテノカサブランカ。現在3番人気、単勝オッズは23倍…】
そして各有力馬が本馬場入場を終え、ゲートに収まった。
【第81回菊花賞スタート!】
最強世代vsリセットの三冠最後のレースが始まった。
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