青き馬の会話集
牝馬三冠最後のレース、秋華賞も終え、今度は菊花賞が始まろうとしていた。菊花賞の大本命、リセット陣営は万全の状態で挑もうとしていた。
「リセットの記事だけで他に書くことはないのか?スポーツ紙はよ…」
だが武田はそんなことはどうでもよかった。武田が気にしていたのは菊花賞の翌週マジソンの出走する天皇賞秋の各馬の情報だ。
『天皇賞秋に外国馬がわざわざやって来るってのに内容がこれだもんな』
その内容は【リセット史上初の牡馬三冠達成なるか!!?】や【大本命リセットに一点の曇り無し!】、【リセット三冠確定!?】などなどと同じように言っている。その理由は東京優駿、つまり日本ダービーにある。
リセットは牝馬でありながらレースレコードで日本ダービーを勝った。それはクリフジも(出遅れたにも関わらず)なし遂げている。しかし内容はリセットの方があまりにも凄かった。大差勝ちに加え、大雨重馬場の中で2分22秒9を叩き出すということをしでかした。通常大雨、しかも重馬場となればタイムは落ちるものだ。それこそ出遅れるよりも…しかしオークスレコードを出したボルトの母アルパナですら2分23秒3(ダービー時のディープインパクトと同タイム)であり、リセットは日本ダービーのレースレコード(ドゥラメンテの2分23秒2)を大きく塗り替えた。
ちなみに二着争いをしたゴールデンウィークとトロピカルターボもタイムは2分25秒7であり同条件下のロジユニヴァースのタイムを大きく上回っている。
故にリセットは日本史上最強牝馬としてではなくもはや日本史上最強馬と呼び声が高く、いかにして菊花賞を勝つかが期待されていた。
『確かに中央競馬の重賞レースは国際レースになったが外国馬が参加するのはJCや安田記念…他には高松宮記念くらいか?少なくとも天皇賞で外国馬が参加するのは初めてのことだぜ』
JCは元々日本が世界に近づく為に最初に設立された国際レースであり、その2005年までは外国馬が優勢に立っていた。その為カモにされていたが2006年のディープインパクトの勝利を境に日本馬が勝ち続け、いつしか外国馬のレベルが低くなった。そんなある年に一流の外国馬がJCを勝利した。カルシオだ。カルシオは凱旋門賞を勝利し後香港カップ(10F)や香港ヴァーズ(12F)よりもJCを選んだ。その理由は日本に輸出することが決まっていたと理由に他ならない。
日本国内ではJC>香港カップor香港ヴァーズという評価だ。
その評価の理由はJCの勝者にある。JCの勝ち馬はシンボリルドルフ、トウカイテイオー、アイグリーンスキー、スペシャルウィーク、テイエムオペラオー、シンキングアルザオ、カーソンユートピア、ディープインパクト、アドマイヤムーン、ウオッカ、ブエナビスタ、ジェンティルドンナと名馬がずらりと並ぶ。
それに比べ香港カップや香港ヴァーズは日本馬の中でも二流と呼ばれるような馬しか勝利していない。その理由は有馬記念の存在とステイゴールドが主な要因だ。香港国際レースに参加する馬はローテのキツさからJCと有馬記念を回避することを前提にして挑まなければならない。しかしJCも有馬記念、どちらも日本国内でもトップクラスの馬が集まるレースだ。その上有馬記念はグランプリであり出走出来るのは投票数が多い順に10頭残りは外国馬だが出馬した例は皆無といっていい。それ以外はJRA所属馬・地方競馬所属馬は「通算収得賞金」+「過去1年間の収得賞金」+「過去2年間のGI競走における収得賞金」の総計が多い順に出走できる。
話しは変わり、今でこそオルフェーヴルの父として有名だが当時は二流馬だったステイゴールドが香港ヴァーズを勝ち、二流馬でも勝てるという認識が出来てしまい、香港カップと香港ヴァーズは有馬記念に出走出来ないor勝てる見込みがない二流馬が挑戦する舞台となってしまった。
話を戻そう。JCに勝利したカルシオはそのおかげで評価が高まり、凱旋門賞を勝ったことや良血馬ということもあり8億円で売れた。これは繁殖牝馬としてはとてつもない値段であり、サンデーサイレンスが売却された時の三分の一以上と言えばわかりやすい。日本国内で繁殖入りする際に日本国内外のGⅠで勝つことが大切かということがご理解頂けただろうか?
『BCターフは天皇賞秋よりも良い条件だから絶対参加しないと思っていたんだがな…』
ボルトの言う通りBCターフは天皇賞秋よりも評価は高い。BCターフは米国で行われ、欧州や米国の芝馬達がJCに比べ比較的集まりやすく凱旋門賞と同じくらいレベルが高くなり、その分勝てば評価も自然と高くなる。
「ドラグーンレイトやアブソルートがいるレースよりも勝てるレースを選んだんだろ…」
その為、天皇賞秋には凱旋門賞に出られなかった弱い馬が集まっていると海外の馬主は思う。
しかし日本国内の生産業界では天皇賞秋とBCターフの種牡馬の違いはほとんど大差ない。むしろJCにすら劣っている。確かに日本馬がBCターフを勝てば凄いが外国馬が勝って日本に繁殖にやってきたところで大成功するとは限らない。ファンタスティックライトがそのいい例だろう。
その一方、天皇賞秋を勝って種牡馬として失敗した例もあるが日本にやってきたBCターフ馬よりも成功しやすい。
その理由は天皇賞秋は2000mという距離と東京競馬場という地形からスピード、スタミナ、パワー、瞬発力全てが求められるレースだからだ。マイラーのジャスタウェイが勝ったのは2400mまで持ちこたえられるスタミナがあり、翌年のJCで二着という結果をだしている。
その一方でBCターフは12Fの洋芝寄りの遅い芝生の上で走らなければならない為パワーが必要だ。その上直線が短くスピードや瞬発力よりも先行して押し切るスタミナが求められる。
故に天皇賞秋馬が日本の種牡馬としてBCターフ馬よりもまだマシというレベルであるが成功しやすいのだ。
だがこれは主に日本人が考えていることなのでBCの本拠地の海外の馬主からみれば天皇賞秋はGⅡくらいにしか見えないくらい格下なので天皇賞秋に参加する意味すらないのだ。それをするということは…少しでも高くスターヘヴンを種牡馬として日本に売却したいと考えられる。BCターフと同じくらいのJCもアブソルートが出てくることを危惧して回避したのだろう。
『ってもマジソンの敵じゃねえだろ?日本と洋芝は別のもんだし』
「だからこそ怖い。スターヘヴンはイレギュラーの血統の馬だ。確か父親はオフィサーっていったか?」
『どマイナー過ぎてわからん……一体どんな馬なんだ?』
「オフィサー自身は9戦6勝。種牡馬としての成績は重賞クラス。日本でも京王杯2歳S勝ち鞍のアポロドルチェを輩出してるな。ただ……」
『ただ?』
「あのインテント系だ」
インテントと言われてもボルト達はいまいちピンとこない。その理由は日本ではあまり有名ではないからだ。ボルトも競馬の知識を持っているが例外ではない。
「こう言えばわかるか?マンノウォーの直系の子孫の種牡馬ってな」
『あのマンノウォーの子孫か!?』
それを聞いたボルトは驚いた。マンノウォーと言えばセクレタリアトと同様、ビッグレッドの渾名で有名だ。むしろ最初にビッグレッドと渾名をつけられたのはこちらの方だ。
マンノウォーは米国三冠馬相手に100馬身差で勝利したことやベルモンドSを20馬身で勝利したなどなどの競走馬としての成績と米国三冠馬ウォーアドミラル、日本のリーディングサイアーを獲得した月友を送り出し自身もリーディングサイアーとして活躍した。その結果、米国でも語り継がれる伝説となっている。
だがそれとこれとは別にマンノウォー系は徐々に衰退していき、今はもう零細血統の仲間入りな状況となった。ボルト達が驚いたのもその為だ。
「だからスターヘヴンはイレギュラーなんだよ。血統も寂れたもんだし、今更日本の高速馬場に適応出来ないことはない。」
『だとしたら怖いな…』
ボルト達の会話はしばらく続き、数日後いよいよ菊花賞の日がやってきた。
オフィサー、インテント、アポロドルチェは全て作者が考えた架空馬ではなく実在馬です。




