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第67話

「ふぅ……そうか……面白いよ。ユウ君。君には違う意味で興味が湧いた。」

「はぁ……?」

「何をするつもりかは知らないけど、おかしな事をしてみなさい……潰すわよ。」


 興味?何故、興味を持たれたのかは理解し難いが……

 問題は姉ちゃんの本気の声が出た事だ。

 それが意味する事、それは油断ならぬ相手と言う事。

 しかし、姉ちゃんはまだ友好的に接していくつもりはあるみたいだ。

 なら、ある程度は俺も友好的に接するべきか……


「僕だってバカじゃない。君と事を構えるつもりはないよ。ただ……」

「ただ……?」

「一つ、ユウ君……君のお姉さんは本当に何を出しても靡いてくれなかったんだ。それこそ、仏か何かかと思えるほどに欲求が無かった。しかし、それが嘘のように君の事となると欲望が見えてきた。それで興味が湧いた。それになにより……ミチ君が弟好き(ブラコン)とは……盲点というか何と言うか……」

「何よ、文句あるの?」


 これ以上、ここに居てはいけない気がする。

 適当に切りあげてどこかに逃げよう。

 冗談でも弟好き(ブラコン)と胸を張って言う姉の隣には居てはいけない気がする。


「あ、そうだティアの所に行かないと。」

「ちょっと……」


 その声に答えず、走り去る。

 先ほどまで、どこかに消えていたティアの元へと向かう。

 とは言え、大体の行き先については予想はついた……

 ティアが向かっていた方向は何やら顔を見せている者がそれなりにいる場所だった。。

 顔を完全に隠さない者の大体は貴族だ。

 しかし、ティアは堂々ではなくヒソヒソと向かって行った。

 つまり、ティアはベルナンド侯爵の偵察に行っていたのだ。

 ダグラスの言っていた運命の日は着実に近づいていると言う事だ。

 しかし、その日はもう訪れない。

 訪れさせない…………

 案の定、貴族と思しき者達の集団の方向から帰ってくるティアの姿が見える。


「ティアどうしたの?」

「えっ、あぁ、ユウでしたか……少し知り合いの姿を見かけたので挨拶に行ってました。」


 挨拶か……

 しかし、ここでは行動は起こさないだろう。

 いや、今日が行動を起こさないだろうと予想できる最後の日だ。

 これ以降の日付はもういつ、何をしでかすか分からない。

 今日は警備が厳重だ。

 わざわざ、ティアがこの日を選ぶこともないだろう……

 ならば、俺が行動を起こすのは今宵……


「そうだティア。紅茶の茶葉を買ってさ、今日帰ったら淹れてみるつもりなんだけどティアもどう?」

「帰ったらですか? 明日ではダメなのですか? 私としても嬉しいのですが別に急ぐ事ではないと思うのですが……」


 ……ダメなのだ。

 今日、今宵なのだ。

 朝では都合が悪い。

 俺は適当な理由をでっちあげる。


「少し、大事な話があってさ……」

「……2人きりでですか?」

「……うん。」


 ティアは誠実で優しい。

 こんな願いでも聞いてくれる事だろう。

 その良心を利用する。


「分かりました。」

「じゃあ帰ったら、ティアの部屋に行くから待ってて。」

「はい、では楽しみに待っています。それとは別にユウ、一緒に踊りませんか?」

「残念ながら、俺は踊れないんだ。」

「では、私が教えながら踊りましょう。」


 ダンスの誘い。

 いつもなら踊れない事を理由に頑なに断ったかもしれない。

 だが、今日は……今この時くらいは……


「じゃあ、教えてもらおうかな……」

「では……」


 そうして、俺とティアの円舞曲(ワルツ)が始まる。

 あわよくばこの時間が永遠に続けばいいのに……








「はぁ……」


 カウンター席に腰かけ、気の抜けた溜め息を吐く。

 今、俺はバーのような一角に来ていた。

 ティアとの円舞曲(ワルツ)を終えてからここに来ていた。

 せっかくの仮面舞踏会(マスカレイド)も楽しめないのはもったいないと思いつつも、こうして溜め息を吐くのは、ティアたちの事が気になるからだろう……

 それにも関わらず、彼女たちから離れ、こんな所にいる。

 本末転倒どころの話ではないな。


「はぁ……」

「せっかくの仮面舞踏会(マスカレイド)ですのに溜め息とは、何かありましたか?」


 二度目の溜め息に答える声。

 一体、誰かと思い振り向くとやはり知らない女性が立っていた。

 そのまま、女性は隣の席に腰かける。

 衣装は肌の露出が多く、仮面はその美貌を隠し切れていない。

 まるで、男を誘惑する魔女のような姿である。


「今日は大切な人達の事が掛かった重要な日なんですよ。それなのにこんな所でと思うと……しかも、その大切な人達の元にも行けなくて……すいません。こんな話、初対面の人に話す話じゃありませんでしたね。」

「いえ、実は私も今日はあまり気が乗らないんです。ですが、仕事ですから……」


 どうも口が軽くなってしまった。

 初対面にも気軽に話す事が出来るのが仮面のいいところなのだろうが……

 それにしても、彼女はさぞかしかなり凄い仕事についているのだろう。


「仕事でなければこんな場所には来ていなかったでしょうし、着慣れない服を纏い、口調も変えなければならないのは辛いです。」

「そうなのですか? とてもよく似合っていますよ? このような場所には慣れているものとてっきり……」

「嬉しいですが、私の居場所はここにはありません。“ここには”と言うより“この世には”と言うべきでしょうか?」


 居場所が無いか……

 今の俺の状況と似ているかもしれないな……

 しかし、彼女は俺とは違う気がする。


「…………」

「貴方は不思議な人ですね。」

「そうですか? 自分ではかなり平凡なつもりなのですが……」

「こうして女が弱みを見せれば男は甘い言葉で女を騙すと言いますから、このような場だと尚更。」

「残念ながらそんな甘い言葉をつらつらと浮かばせる事が出来ないもので……おかげで恋愛経験もありません。なんならご教授願いたいくらいです。」

「ふふ、面白いですね。男を惑わす方法なら考えますよ。」

「はは、恐ろしい魔女に会ったもんだ。」


 男を惑わすあげく、その術を男の俺に教えようと言うのだから業が深い。

 俺は社交性なんて皆無だからなそんなものは持っていないが……

 面白い人だ。

 もっと前に会っていたなら友人にもなれたろうに……


「まぁ、それも教わったもので実践に生かせてはいないのですけどね。」

「何故また、そんな技を教わったんですか? そんな技なくとも数多くの男を魅了してそうですが?」

「ありとあらゆる力が欲しかった。どんな力でも良かったの。自分の居場所を作る為に……ってゴメンなさい、つい口調が……」

「いいんだよ。俺もこの口調は苦手なんだ。貴族みたいな高貴な生まれでもないしね。そっちでも良いと思うよ?」


 つい、本音がと言った感じで彼女の本当の口調が出る。

 その言葉には力が籠っていて、親しみは感じるのだが、やはり自分とは違うのだと思わざるを得ない。

 しかし、彼女は自分とは違うとは言え、今の素の彼女の方が好ましく、まるでティアのように輝いてみえた。


「嬉しいけど仕事だから。そこはしっかりするわ。だけど貴方の前だけならいいわよね?」

「ははは、嬉しいよ。独占だ。」

「そうよ。貴方には何故か親近感を覚えるの。初めて会ったのに不思議ね。」


 どうやら俺の感じていた親近感は彼女も感じていたようだ。

 もしかすると、何か意外な共通点があるのかもしれない。


「ん~、あんまり思い当たる節はないんだけどね。」

「そういえば、貴族じゃないのにここに居るって言う事は英傑の饗宴(ヴァルハラ)で勝ったの?」

「まぁね。運良く生き残ってこれたんだよ。」


 運良く、あの彼らから逃げ切れて、運良く倒せる相手が敵になった。

 ただそれだけの話。

 大体、この力すらステラあっての話だ。

 とてもじゃないが生まれもっての実力とは言いはれない。


「運良く……ね? 私の知ってる限りでは運だけで勝ち残れるものじゃないわよ?」

「強いて言うなら、少し仲間に恵まれていただけだよ。」

「じゃあ、そう言う事にしておきましょうか。少し同業者かと思ったのだけどやっぱり違う気がするわ。」


 同業者か……

 まぁ、ありえない話ではない。

 しかし、多分違うと思うが……


「従者だよ。拾ってもらってね。」

「従者……じゃあ、違うわね。私の仕事は代行業だから。」


 代行業?

 それはまたあまり聞きなれない仕事だな……

 ここにも代行で来てたりするのか?


「代行業って主に何をしてるの?」

「そうね……主に掃除よ。今日は下見みたいな感じね。」


 何か答えるまでに時間差があった気がするが……

 気にする事じゃないか……

 しかし、掃除か……掃除は苦手なんだよな……

 これじゃあ、親近感なんて感じないだろう。


「それにしても貴方は色々と事情があるんじゃないの?」


 あぁ、拾ってもらった事か……

 本当の事を言っても仕方がないので適当にぼかすしかないが……


「一人だった俺を拾ってくれたんだよ。御蔭で生き別れの姉ちゃんとも再会できたし……」

違うわ(・・・)。過去の話も興味があるけれど、私が行ったのは現在(いま)の話よ。」

現在(いま)?」

「そうよ。詳しい事は分からないけど何か困ってる……いや、惜しんでるみたい。」


 一体、どうすれば分かるんだろうか?

 姉ちゃんと言い彼女と言い……

 エスパーか何かなのか?


「なんで分かったの?」

「ふふ、それじゃあ自分で認めているのと一緒でしょ? いつか騙されるわよ? まぁ、簡単な話よ。あなたの顔とここで溜め息を吐いていた事を考えただけ……確証なんて無かったわ。」


 はは……いいようにしてやられた訳か。

 完全に負けたよ。

 こうやって姉ちゃんにも怒られた事がある気がする。


「……はぁ、言われたとおりだよ。もう少しで仕事を辞める予定なんだ。」

「その様子だと気にいってたみたいね。」

「まぁ、かなり気にいってたんだけどね……仕方ないよ。」

「そう…………なら、困ったらロマリア帝国との国境にあるマレリアって街に向かうといいわ。もし、出会う事があったら少しくらい相談に乗ってあげてもいいわよ。それにあそこは何かと職に困らないから。」

「ははは、そうか。ありがとう。もし困ったら向かうとするよ。」

「じゃあ、私はそろそろ仕事しないといけないからいくわね。さようなら。」

「バイバイ。マレリアで会う事があればよろしく。」


 軽く手を振り、別れを告げる。

 しかし、マレリアか……

 まぁ、向かう事はないだろうが覚えておくのもいいかもしれない。

 一つの旅の指標ぐらいにはなるかもしれない。


「はぁ……」


 話相手がいなくなり訪れる寂しさ、そして再び溜め息……

 理由は単純明快。

 良い出会いをしたにも関わらず、仮面舞踏会(マスカレイド)に出たにも関わらず……



 今宵が良い夜となる事は絶対にないのだから……




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