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第49話

 公都ミレティアス。

 シンフィールド家所有の別荘にて……


「どうするの?」

「どうすると言われても俺には……」

「……ゴメンなさい。」

「すまねぇ……」


 項垂れ謝罪するダグラスとシエル。

 しかも、ダグラスはベットに横たわっている。

 俺と姉ちゃんとティアは顔を見合せ悩む。


 事の顛末はこうだ。

 屋敷に着くなりダグラスはシエルに模擬戦を挑んだ。

 前に会ったときにシエルの力の片鱗を感じ取りその力量を知りたいと思ったのだろう。

 だが、これが第一の間違い。

 ダグラスは気付くべきだった、シエルの未熟さに……


 なんの気まぐれかシエルもそれを承諾し模擬戦を始めた。

 だが、シエルは未熟さ故に相手の力量を測れず姉ちゃんとの模擬戦と同じ感覚で模擬戦をしてしまった。

 ここが第二の間違い。

 シエルは知るべきだった、姉ちゃんとダグラスの力の差に……

 相手が男であるという事も相まって力を入れすぎダグラスは腰にダメージを受けてしまう。


 そして模擬戦を中断し、ダグラスはシエルの大鎌に興味を持ってしまった。

 ここが第三の間違い。

 シエルの大鎌は高性能で他人にはとても持てない重さになると言うセキュリティがあった。

 それを忘れていたシエル。

 それを知らないダグラス。

 あまりに持ち上げるために力を入れすぎたダグラスは……


「ぎっくり腰とは……」

「本当にすまねぇ……」


 だが、正直な話……

 ダグラスのぎっくり腰ごときでこれほど深刻な雰囲気にはならない。

 では、何故これほど深刻な雰囲気なのか?

 それは……


英傑の饗宴(ヴァルハラ)への出場は二人一組……しかも、超越者達の宴(エクシード)からはもう一人は自分の家の者から出せと言う命令まで出ている……」


 申し込み(エントリー)は明日が締め切り。

 三日後には開催だ。

 つまり、ティアと出場するはずのダグラスが出場できなくなったのだ。


「そうなると、もう悠しか居ないと……」

「いえ、他にもゲイルや他の兵達が居ます。」

「失礼ながらティア様、ゲイルさんには少し荷が重いかと……」


 そうなのだ。

 ダグラスが居なくなったシンフィールド家で適任なのは俺だけだ。

 いい加減な人選ではシンフィールド家が侮られかねない。


「悠が決めなさい。」

「……意外ですね。あなたなら反対すると思いましたが……」

「ここは公都、そうそう下手な手出しはできないでしょう? ユウの自主性に任せようと思っただけよ。」


 誰も反対せず、適任は俺だけ……

 となれば答えは決まっている。


「俺が出るよ。」

「……分かりました。その力、思う存分英傑の饗宴(ヴァルハラ)にて揮ってください。」

(あぁ、出ちゃうんだ……)


 突然、頭に聞きなれた声が響く。

 屋敷に来た辺りから喋っていなかったから休んでると思っていたが案外すぐに出てきた。

 しかし、出ちゃうんだとはどういうことだろうか?


(いや、あの悪趣味な聖遺物に出るんだと思うと……)

(聖遺物?だけどティア達は何かの催しのように言っていたけど)


 申し込み(エントリー)だと出場って言っていた。

 もしかすると違う何かとステラは勘違いしているのかもしれない。


(いいや違うよ、あれは繁栄をもたらす聖遺物……代償として定期的に戦いを奉納しないといけないの……それがあの闘技大会の本質。繁栄の代償に戦いを求める聖遺物なんて悪趣味でしょ?これだから神や天使(あいつら)は……)


 そうなのか……

 しかし、この事をみんなは知っているのか?


「ティア、英傑の饗宴(ヴァルハラ)についてもっと詳しく教えてよ。」

「そうですね。出場するのならば詳しく知るべきですね。確か、武を競う大会と言う事は説明しましたね。」

「あぁ、馬車でその辺りは聞いた。」

「この大会には特別な事があって開催場所が聖遺物なのです。英傑の饗宴(ヴァルハラ)と言うのはその聖遺物の名前なのです。」


 つまり、大規模な聖遺物の上で戦うと言う訳か……

 聖遺物と言う事も知っているようだ。

 ティアはさらに説明を進める。


「内容が決まっておらず当日になるまで誰であろうと内容を知る事は出来ないなど、英傑の饗宴(ヴァルハラ)を出れば死んでいない限り傷は絶対完治と言う恩恵があるなどの特異性から老若男女、身分を問わず人気を誇る大会です。」


 ……ん?

 おかしいぞ?

 恩恵は繁栄だったはず……


(彼女にも情報を公開していないのでしょうね……)


 繁栄を得る為の奉納祭ならばむしろ大々的に公開すればいいはずなのに……

 何故、闘技大会として……?


(あの聖遺物は奉納される戦いが増えればより大きな繁栄を得れる……あの中で奴隷を戦わせれば、さぞ簡単に繁栄を得れる事でしょうね……)


 ……えっ?

 そんな手が認められていいのか?

 いいや、認められていいはずがない。


(けど、この世界はそうやって発展するしかないの……元の世界(あちら)が技術で発展した世界ならこの世界(こちら)は魔法で発展していく世界……)


 故にこのような方法しか思い浮かばないと……

 納得はできないが理解は出来るのだ。

 そして発展しきっていないが為、このような不完全で悪趣味な物でも縋るしかないと言う事も……


「どうかしましたかユウ?」

「あっ……うん、大丈夫。」


 割り切れ……俺には何も出来ない。

 それを悪と断じる事すらも俺には出来ないのだ。

 今、俺に求められているのは自分勝手な正義を押しつける行為ではない。

 ティアの為に戦う事……それが俺に求められている事。


「私も参加しようかしら……」

「えっ!? 姉ちゃんも参加するの?」

「シエル、あなたも来なさい。」

「……えっ?」


 唐突な言葉に小首を傾げるシエル。

 姉ちゃんは本当に思い付きで参加しようと言っているの?

 先ほどの負い目がある為かはっきりと断れないシエル。


「そして、負けた悠を優しく慰め……」

「……ミチ、心の声が漏れてる。」

「あら、涎が……」


 聞こえない。

 と言うか聞きたくない。


「既に勝ったつもりですか?」

「えぇ、悠には申し訳ないけど勝ったも同然よ。悠にはティアに会うまで剣なんて持たせた覚えは無いもの。そして、シエルはかなり強いわよ。」


 戦闘経験の差……圧倒的な差になるだろうな……

 しかし、姉ちゃんとの戦い……俺には勝算があるように見える。


「姉ちゃん、それは取らぬ狸の皮算用だと思うよ?」

「ふーん……言うわね。なんなら賭ける?」

「いいよ、チップは?」

「んー……本物のお金を賭けるのも面白くないし……一回限りの互いへの命令権でどう?」


 ん?似たような事をティアとしたような……

 結果は引き分けだったけど……

 というか、姉ちゃんに命令権とか与えちゃって大丈夫か?


「ユウ、止めましょう。あれは姉の目ではないです。ユウには申し訳ありませんが、あれは変質者の目です」

「あら? 失礼ね。ユウ、お姉ちゃんが信じられないの?」


 ……ティアが正しいかもしれない。

 何と言うか目が血走ってる。

 そんなに命令権が欲しいのだろうか……

 大抵の事は言われればするのに……


「それに……勝てばいいだけの話でしょ?」

「……分かった。その賭け乗った。」

「……ミチ、勝っても負けても嬉しそうな感じなのは何故?」


 どう言う事だ?

 シエルの言っている事は確かだ。

 もしや……勝っても負けても姉ちゃんが得をするような仕組みを作られたか!?


「ユウからの命令……逆らえない私……ふふ……」


 小声でよく聞こえなかったが……

 あの薄暗い笑みからして、物凄い下らない感じがする……


「……やはりこの勝負、降りましょう。変な命令はダメだと思います。」

「姉ちゃん相手に別に変な事はしないよ!?」

「……するの?」

「だからしないって! お願いだから勘違いでその軽蔑するような眼差しを向けるのはやめて!?」


 聞き分けのない子どもに言い聞かせるように言うティアと軽蔑するような眼差しでこちらを見るシエル。

 酷い言いがかりだ。

 理不尽にも程がある。

 何かを呟いた本人は何故か糾弾されず幸せそうな顔をしている。

 だが俺は何故か、シエルに絶対零度の如き視線を送られるのだ。

 世の中とは何故ここまで理不尽なのか?


「そう言えば、仮面舞踏会(マスカレイド)の準備はいいの? 急いでたみたいだけど……」


 俺は逃げるように話を逸らした。

 これ以上あの目で見られ続けられたら死ぬかもしれない。

 死なないまでも泣けてくる。


「そう言えば言ってませんでしたね。もう特に急ぐ必要は無いんです。ドレスの注文はもうしましたから。」

「ドレスの注文を急いでいたの?」


 確かに姉ちゃんから女の子の服選びは時間が掛かると教えられた。

 だが、明日にやる訳でもないのだからそこまで急ぐ理由もなかった気がするのだが……


「えぇ、ミーシャに注文しましたから。」

「ミーシャ?」

「アルカディアで服屋をやっていたのですが……会ってませんか?」


 あの場所で出会った人はそれほど多くない。

 しかし、ミーシャなんて人は知らない。

 だが、服屋と言うと一人心当たりがあるのだ。


「あの本能的な恐怖を感じさせる人か……」

「どうかしましたか?」

「いいや、なんでもないよ。」


 言っては何だが、あそこは狭い……

 服屋を営む店が二つ以上あるとは考え難い。

 あの人なんだろうな……


「そう言えば彼女も度々、仮面舞踏会(マスカレイド)に出たいと言っていましたね。」

「あれ? 一般人は入れないんじゃないの?」


 そう言うのは栄華の限りを極めた者達しか参加できず、厳粛なドレスコードを越えてやっと参加できるものだと思っていた。

 当然、今まで仮面舞踏会なんて体験はおろか聞いた事すらほとんど無い。

 精々、創作(フィクション)の世界で登場する程度……


「貴族は無条件で参加可能なのは確かなのですが、一般人でも“とある条件”を満たせば参加できるんです。」

「とある条件?」

「まぁ、毎回同じ条件でなく、いつも一週間前に発表されるんです。」


 それで一般人にもチャンスがある訳か……

 突如、どんな感じなんだろうか?と好奇心で胸がうずき出す。


「この国の女の子は多いもんね。仮面舞踏会(マスカレイド)に憧れる子。」

「そうですね。顔を隠し、身分も隠すと言う特殊なパーティなんて仮面舞踏会(マスカレイド)くらいですから」

「それにいくつも仮面舞踏会(マスカレイド)をきっかけに始まる恋物語があるから……私たちもいくつかやったわ。」


 サラっと何食わぬ顔で妄想の世界から帰ってきた姉ちゃんによるとかなり仮面舞踏会(マスカレイド)は物語の中でメジャーな舞台らしい。

 だが言われてみれば、貴族などの存在する階級社会の中では正体を隠すと言うのは新鮮な事なのかもしれない。


「身分の低い女の子が王子様と結ばれるものや、その逆で貴族の女の子が一般人や従者と結ばれるもの……禁断の恋と分かってはいるのですが、やはり憧れます。」

「えっ? そうなの?」


 ティアが禁断の恋に憧れ?

 ティアなら……

「禁断の恋なんてダメです。」って言うと思ったが……


「意外ですか?」

「うん、かなり意外だった……」

「軽蔑しますか?」

「あぁ、勘違いさせたらゴメン。軽蔑なんてしてないよ? ただ、ティアはそう言うのに厳しいイメージがあったからさ……」

「私は禁断の恋の先にこそ本当の恋があるのだと思っているのです。まぁ、一度も恋をした事はないんですけどね……」


 禁断の恋か……

 それは、きっと孤独と戦わなければならなくなるのだろう……

 それは、とてつもなく辛いものになるだろう。


 恋人と言うものがどれほどに信頼を置けるものなのか……

 それすらも俺は知らない。

 それがその辛さに見合うものなのかどうかすらも……


「確かにそうよね。私も憧れるわ禁断の恋……嗚呼、姉弟は結ばれるべきと言う事が何故、みんな理解できないの?」

「それはダメです。」

「いいや、私は身分違いの恋の方がダメだと思うわ。」

「貴女には理解できないのでしょう。主と従者の信頼関係は強固だと言う事を……」

「そんなもの、姉弟の関係に比べれば塵芥同然よ。」

「いいえ……」


 あぁ……始まったよ……

 もうこうなったら今日一日はこの謎の論争と理論が耳を支配するに違いない。


「シエル、少し手合わせしてくれない?」

「……いいの? 二の舞……」


 そう言ってシエルは一応休養しているはずなのに耳元で騒がれるダグラスに目をやる。

 流石にここまで来ると可哀想だが、助ける手段は無い。


「お手柔らかにしてもらえると助かる。」

「……そのつもり、だけどまだ慣れてないから」


 男に慣れていない為、咄嗟に力加減が出来なくなるかもしれないと言う事だろう。

 だが俺自身、制限時間付きでダグラスを圧倒できる程には強くなった、だから大丈夫……なはず。

 少し不安を残しながらもシエルと部屋を後にした。




原動力と参考の為に評価や感想をもらえると嬉しいです!

これからも楽園の狂詩曲(ラプソディー)をよろしくお願いします!



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