第20話
今俺の前には大きな壁と門があった。
前に来た時もそうだったのだが街と外を隔てる壁を建ててあるのだ。
この世界だと魔物が跋扈しているからな…まぁ当然か。
「ここはエリアスって街なんだ…」
「はい、今は父と母の友人が治めている領地で前に建てられた別荘がまだ残っていますのでここでしばらく逗留します。」
恐らくここは元シンフィールド領だったんじゃないだろうか?
いや、考えても仕方のないことか…
「検問が終わるまでお待ちください。」
門に到着すると兵士が手慣れた様子で馬車を調べていく。
まぁこれだけの人数が居るのだ。
すぐには終わらないだろう。
「この馬車も調べさせていただきます。」
そうやって俺たちが乗っていた馬車も調べにきた。
どうやら貴族であるティアがいるので早めに終わらせようと人海戦術で調べるようだ。
すると、ティアが近くに居た兵士に声を掛ける。
「最近ここに魔物の群れが来ませんでしたか?」
どうやらあの襲撃がここには来てないのかの確認だろう。
ほとんどがガルムの出現で散り散りになっているのでここにもとばっちりが来ていないか。
自分の領地で打ち漏らした魔物がここを襲撃していれば多大な迷惑を掛けた事になる。
「いえ、そのような話は聞いておりませんが。」
「そうですか。助かりました。」
どうやらさっきの心配は杞憂だったようだ。
すると兵士たちが調べ終えたのだろうか、全員引きあげていく
「終わりました。ようこそ、エリアスへ」
どうやら終わっていたようだ。
優秀な兵士たちなんだろうな。
「では行きましょう。」
「そうだな。」
「観光もいいですが一度、別荘に向かわないといけませんよ?」
そうだった。
一度、別荘に向かわないと馬車ごと観光に行くわけにもいかない。
「確かに、どんな所なのかって言うのも気になるし。」
「アルカディアよりは小さいですが充分寛げると思います。」
まぁ、貴族の別荘だもん…
心配なのは大きさじゃなくて気後れしてしまう可能性だよ。
狭くてもいざとなれば廊下で寝るくらいは出来るが…
廊下まで豪華絢爛だったりは嫌だな…前に建てられていた事からして可能性あるし…
「今日は野菜が安いぞ~!」
「お前ら!今日の標的はゴブリンの…」
「明日から劇場で舞台があるよ~!旅団雪月花のヒイラギ ミチが出るよ~!」
街から喧騒が聞こえる中、気になる言葉があった。
「柊か…すごい偶然だな…」
「ん?どうしたんですか?旅団雪月花に興味があるんですか?」
「あぁ…ちょっと、ヒイラギって言うのが気になってさ…」
ヒイラギ ミチ…この世界にも日本人みたいな名前があるのか…
それにやっぱり柊と言うのは特別だからどうしても気になってしまった。
「どうやら、結構人気みたいですよ?巷での人気もさることながら、貴族での催しでもたびたび呼ばれているようですし」
「私は知りません。」
「まぁ、ティア様は他との関わりを最小限にしてましたから。」
それなら仕方ないよな。
ティアもいろいろ大変だったんだから…
だけど、貴族にまで人気だとは凄いな。
さっきの呼びかけを行っていたエルフの少年の元には多くの人が集まっていた。
巷での人気は見ればすぐに分かる。
「ちょうどいいです。どこに行けばいいか迷っていたところです。明日、見に行きましょう。」
「いいの?領主にも挨拶しに行くとかいろいろありそうだけど。」
「それは今日行きます。ガルムは他の物が競売に掛ける予定です。」
どうやら見に行けるみたいだ。
じゃあ、今日の所はお預けだな…
「今日は街を周れないですが…」
「大丈夫だよ。むしろ今日我慢しただけで舞台を見に行けるなんて嬉しいよ。」
「それなら良かったです。目的地を変えて領主の館に向かってください。」
「分かりました。」
そうやって御者に目的地の変更を告げる。
そう言えば領主ってどんな人なんだろうか?
街の様子を見る限りでは獣人や小人、森人などこの種族には特に偏りは無いのだが
人間、吸血鬼、竜人の3種は殆ど見えない…
吸血鬼は日中だから姿を見せないのだろうし竜人は数が少ないと書いていた。
そしてやはり、あの本の記述通り人間の数は少なめなようだ。
むしろティアの周囲に人間が多いだけでこれが普通なのだろう。
という事は獣人か小人、森人の可能性が高いのか…
正直なところ、領主の前で粗相をしそうなので眼に着く場所には行きたくないがそれは俺が選ぶ事じゃない。
俺は選ばれた役割をこなさなければならない。
「どうしたんですか?小難しい顔をして?」
どうやら顔に出ていたようだ。
心配したサラさんが声を掛けてくれた。
ちょうどいいだろう。サラさんに色々教えてもらおう。
「サラさん、その…貴族に対する礼儀っていうのが分からなくて…」
「えーっと、いつも通りではダメなんでしょうか?」
この人…ティアの所じゃなければメイド出来ないぞ…
可愛く首を傾げているが本当に大丈夫だろうか?
「サラはそれでいいのです。あとここの領主はそんな些細なことを咎めないので大丈夫だと思います。」
「そうです。それが言いたかったんです。」
本格的にサラさんが心配になってきた。
ティアは少し甘すぎるんじゃ…
まぁ、それはさておきここの領主はどうやら豪気な気質なのだろうか?
どちらにせよ気にしないというなら大丈夫だろう。
(まぁ、いざとなれば私が力を貸すから!ファイト!)
おぉなんだかステラが心強いな
(礼儀とか詳しいのか?悪魔はやっぱりいろんな事に詳し…)
(貸すのは逃げるための力だけどね!)
さっきのセリフを今すぐ撤回する。
どこも心強くない!逃げる為の力?なにそれ?解決になって無いじゃん!
(いざとなれば私がアドバイスを…)
その気持ちは嬉しいが…
一つ重要な事が抜けている…
(いくら豪気な貴族が相手でも部屋の中には連れていけないよ飛鳥…)
(………逃走ルートの確保くらいは…)
なんなの?戦闘を避けれないのは決定してるの!?
なんでこんなに俺の仲間は荒事に特化してるの?
(別に良いでしょ?死ぬことを避けれるんだから)
(申し開きもございません…)
まぁステラの言い分も確かだ。
今生きていられるのはみんなのおかげだし
戦闘が苦手な俺なんだからこれくらいは自分で何とかしないとな
「まぁ、ダグラスと同じで少し武闘派ってところが無ければかなり良い領主なんですが…」
(さっきはすまないステラ。お前が頼りだ。)
豪気な貴族?誰がそんなこと言ったんだよ。
脳筋なだけじゃねぇか!
(どうしよっかなぁ~私は荒事しか協力できない悪魔だから~貴族との会話なんて繊細なことは専門外かなぁ~)
(普通の会話じゃないよ!拳で語り合いなんて俺には無理だって!頼むから!)
ヤバい…なんであんなこと言ったんだよ俺!
急いでご機嫌を良くしてもらわねば!
(大丈夫です。いざとなれば私が突入して何とかします。)
(おぉ!さっきはあんな事言ってすまない!俺が全部悪かった!)
飛鳥は神か…
いや、神にすごい近い存在だった。
だがそんな事はどうでもいい。
この感謝をどう表現すればいいかと思い取り敢えず飛鳥を抱きしめた。
(ちょ…ちょっと…気持ちは嬉しいですが…は、放して…苦しいです。)
(ゴメン、ゴメン。)
そう言ってバタバタともがく飛鳥を解放する。
すると拗ねたような声でステラが呟く。
(なんか私が悪いみたいじゃない…せっかく私も力を貸してあげようと思ったのに…)
(そんな事無いって、ありがとなステラ?)
(そうよ!それでいいのよ!)
これでもしもの扉を開けてすぐの戦闘にも対応できるはず
まぁ、そうはならないのが一番なのだが…
ダグラスと一緒…武闘派…
どうも嫌な思い出のせいで気になってしまう。
「どうしたんですか?急に飛鳥ちゃんを抱きしめたりして…?」
「精一杯の感謝を告げようとした結果だよ。」
「大丈夫ですよ。ダグラスよりは状況判断能力が高いはずです。」
どうやらティアは何を考えているか分かったようだ。
まぁ、それでも心配なんだよね。
しかし、ティアが的外れな事を言うとは思えない…
「そうだよな。ダグラスが少しずれてるだけだもんな。」
「否定はしません。」
「ご歓談中すいませんが、到着しましたよ。」
会話をしているとどうやら領主の館に着いたみたいだ。
時間と言うのは経つのが早いな…
屋敷はやはりティアの屋敷より大きかった。
「では、向かうとしましょう。」
「今思えばいきなり来て大丈夫なのか?こういうのは前もって知らせておくものじゃ?」
「大丈夫です。街を出る前までにならいつでもいいと聞いてますから。」
おいおい、領主さんよ…
領主なんて大変な仕事に就いているのに大丈夫かよ?
普通は嘘でも忙しいと言うのをアピールするものだろうに…
「フットワークの良い領主だな…」
まぁ、誰が領主でも今、俺はシンフィールド家の者としてここに居るのだ。
俺の恥はティア、ひいてはシンフィールド家の恥…
ティアやシンフィールド家に恥をかかせないように頑張らねば!
「ティア・シンフィールド様ですね?ご案内します。」
どうやら兵士も領主の事は分かっているらしく戸惑うことなく案内を受ける。
いちいち説明しなくていいのは助かる。
屋敷の中には武器や防具が所々に飾られている。
刃引きされていない所を見るとこれを飾り以外の用途で使う可能性を示唆しているのだろう。
「ティア様をお連れいたしました。」
案内の兵士はある扉をノックし伺いを立てる。
すると、それに答える声が聞こえる。
「入れ。」
声の低さからしてどうやら男のようだ。
歳も若いって訳ではない…
それこそダグラスと同い年くらいの歳だろう…
「失礼します。」
案内の兵士が扉を開けるとそこには引き締まった肉体の豹人が居た。
「よく来たな、ルーカスとセレスの忘れ形見。」
2016年 5月8日(日)00:00 更新予定




