第19話
ガタッ―――――ガタッ―――――ガタッ―――――
今、俺は人生初の馬車を体験していた。
「乗り心地はお世辞にも良いとは言えないな…」
「ダグラスは未だに酔うようです。」
ティアからの有力な情報が入った。
それであのおっさんの姿がこの馬車に乗っていないのか…
今、この馬車に居るのはサラさんとティア、そして俺だ。
この馬車以外にもいくつかの馬車があるのでそれに兵士たちが乗っている。
さながら行軍である…
恐らく、どこかの馬車でダウンしているのだろう
「弱点か、覚えておいても損はなさそうだな。」
「ユウさんは酔わないのですか?」
まぁ、俺の場合は狼に乗ったりしているからな…
あれに比べればまだ楽だな。
敵の追撃を振り切る為の時は縦に揺れるのは当たり前なんだが遠距離攻撃を避ける為に指示を出すので横にも揺れる。
そういうサラさんも酔わないのかな、と思ったがケロッとしているので大丈夫なんだろう
「まぁ、色々な仲間に乗せてもらうからね…」
「というと、魔法で召喚した生き物たちですか?」
「そうだよ、おかげでどんな時でも移動には事欠かないよ。」
「兵士の話では空も飛んだそうですね。」
どうやらあの部隊長辺りがティアに教えたのだろう。
まぁ、あの飛鳥の姿は凄かったもんな…
他の兵士たちも気になっていたようだしティアの耳に届くのは当然か。
「まぁね、地上からはガルムに近づけそうになかったし」
「ユウさんの仲間たちってどれだけいるんですか?」
ん~、どれだけと言われてもなぁ
正直、想像の世界についてはその状況にあったやつらを呼んでいるから正確には俺も把握しきれていないんだよな。
「どれだけいるかは把握できてないんだけど、取り敢えず何人か紹介しようか?」
何人と言ったが、人ではないんだよな…
まぁ、信頼できる仲間だし人で数えてもいいだろう
「良いんですか?」
「私も自分の知らない生き物には興味があります。」
どうやら2人とも興味があるようだ。
じゃあ、誰から紹介していこうか?
まぁ、最初は一番の相棒である飛鳥かな…
「じゃあ、失楽園」
紋章の光と共に俺の肩に飛鳥が現れる。
「はわぁ…何もない所から本当に現れましたね…」
「あの時に私の手を阻んだ勇敢な烏ですか…よく見るととても綺麗な翼ですね。」
どうやらサラさんは驚いているがティアはもう慣れているようだ。
しかもティアはあの戦いの時の飛鳥を覚えているようだ。
(ユウ様、怪我は大丈夫ですか?)
飛鳥は開口一番、俺の身体を心配する言葉がでる。
まぁ、ステラのように自由に会話ができないからな…
(あぁ大丈夫だよ。)
(そう言えば、この前、ユウ様がガルムと一戦を交えた時から感じていた、ユウ様の中に巣くうこの変な違和感は何でしょうか?一応、敵意は感じないのですが…)
ガルムとの戦いの時からと言うとステラの事か…
そう言えば飛鳥には説明していなかったな
しかし、ステラの存在を感知出来ていたのか
(説明してなかったな。多分それは…)
飛鳥にステラの紹介をしようとしたその瞬間…
(私のことだね!)
本人が自ら名乗り上げた…
(なんですか?この者は…)
(私はユウと契約を結んだ星の悪魔、ステラだよ!これからよろしくね!飛鳥?)
飛鳥の疑うような言葉にいつものペースで応えるステラ
これからこの2人はうまくやっていけるのだろうか?
(悪魔…契約…ユウ様は何を代償に?あなたが出した対価は?)
(私が求めた代償は感情…出した対価は力だよ。)
だんだんと険を帯びていく飛鳥の声色…
本当に大丈夫だろうか?
(嘘偽りのない言葉で答えなさい。その契約は公平な物ですか?)
(いいや、違うよ。損をするのも得をするのもユウだけだよ。私に益はない。)
そうなのか?損をするも得するも俺次第という事か…
まぁそれでも後悔はないけどね。
(私にとって感情は対価を払う為の物だからね)
(分かりました。ユウ様も別に構わないようですし…出来る事ならまずは私に一言通して欲しかったですが…)
(うぅ…すまない…)
(まぁいいですよ。それほどユウ様を追い詰められてしまった私達の落ち度ですから)
なんとか飛鳥は納得してくれたようだ。
そこで忘れていた彼女の声が入る…
「ユウ、どうしたのですか?」
すっかりティアとサラさんの事を忘れていた…
2人とも不思議な顔でこちらを見ている。
「ゴメンゴメン…すっかり飛鳥と話しこんじゃってて…」
「飛鳥と言うのはその烏さんの名前ですか?」
そうだな、改めて紹介しようか。
「あぁ、紹介しよう。飛鳥だ。主に偵察役なんだけど、空を飛んだ時に乗ったのはこの飛鳥なんだ。」
「えぇ!どうやって乗ったのですか!?」
「兵士の話では、もっと大きく黒い羽は輝いていたと言っていたのですが…」
まぁ、それは楽園昇華を使って強化を掛けた結果の飛鳥だからな
それを知るはずのない兵士たちの話ではこの飛鳥に乗って空を飛んだと言っても分からないだろう。
「それは楽園昇華っていうので強化を施した結果なんだよ。」
「そう言えば先程、その飛鳥と話していたと言っていましたがその楽園昇華と話を出来る能力はもしかして、失楽園の派生ですか?」
惜しいな…
片方はそうだけど片方は違う。
「楽園昇華は多分、ティアの思っている通りだよ。だけど飛鳥たちと話しているのは失楽園の一部なんだよ。」
「では、ユウさんはこの短期間に能力を派生させたのですか?」
まぁ自分の力じゃ無いんだけどね。
悪魔との契約のおかげで無理やり強くなったから殆ど努力はしていない。
「一応、そうだよ。」
しかし悪魔との契約の事は話せない。
ステラには悪いが悪魔との契約と言うのは人聞きが悪い。
(いいよ。私もその方がいいから)
(本当にすまない。助かるよ)
ステラは顕現しない限り俺や俺の想像の中にいる仲間たちとしか関わる事はないのだ。
だけどそれは悲しすぎる。
だから、俺は絶対にいつかステラを顕現させなければならない。
「それでこちらの動きが筒抜けだったのですね…空は盲点でした。」
どうやらティアはあの時の戦いに納得がいったようだ。
失楽園の一部ということは最初から飛鳥たちとの意志疎通が出来たということ。
それに気づいたのだろう。
「他にも小動物たちを送り込んだりと偵察は入念にやったからね。」
「他にはどんな可愛らしい動物たちが居るんですか!?」
凄いなぁ…サラさんが身を乗り出して訊いてくる。
かなりテンションが高くなっているようだ。
しかも、可愛らしいってのは前提条件なのね…
うーん、誰を呼ぼうか…
可愛いっていうならなの三人か…
「失楽園」
呼び出したのは、猫だ。
まぁ可愛いと言えば猫は王道になるはず…
呼び出された猫はそのままサラさんの元に向かって歩いていく。
「あぁ~可愛いですね~!」
どうやら喜んで頂けたようだ。
早速、じゃれあっている…
じゃあもう一匹!
「失楽園」
呼び出したのは、タヌキだ。
俺的にタヌキはかなり可愛いと思っている。
果たして伝わるのだろうか?
「変わった子ですね。私の所に来るなんて…」
どうやらタヌキはティアが気に入ったようだ。
ティアも変わった子と言いながらも満更でもないようで、タヌキの事を撫でながら優しい瞳で眺めていた。
「良かったですねティア様。今まではほとんど…いや全ての動物がティア様には近づこうともしなかったのに」
それはそれで凄いな…
全てが近づこうともしないって…
だからあんなにも優しい瞳で撫でていたのか。
きっと動物を飼いたかったんだろうな…
「名前はあるのですか?」
「そうですね、私もこの子の名前が知りたいです。」
そう言われてもなぁ…
飛鳥と違い名前をつける必要がなかったからな。
「それが無いんだよな…あっ、2人が名付け親になってくれよ!」
「良いんですか!?」
「良いのですか?」
どうやら2人とも乗り気みたいだ。
なら迷うこともない。
コイツらもそれで良さそうだし
「いいよ。コイツらもそれを望んでる。」
「そうですか…やはり変わった子です。」
「どうしましょうか?悩みますね~」
2人とも一生懸命考えてくれている。
良かったなお前ら…名付け親が良い人で…
こうやって一生懸命悩んでくれているのを見るとなんだか嬉しくなってくる。
そう言えばアイツも呼ぼうか。
「失楽園」
俺が呼び出したのは、あの時の狐だ。
最後にガルムを瀕死にまで追い込んでくれたのに俺が不甲斐ないばかりに強制的に消えた天狐だ。
当然、今は楽園昇華を使っていないので今は恐らく普通の妖狐のはずだ。
「あれ?今度は狐ですか?」
「コイツも活躍してくれたし名前をつけてやらないとなぁって思って」
呼び出してすぐに俺の側にすり寄ってきて寛いでいる。
やっぱり一番可愛いなぁ…
名前はどうしよう。
「ん~稲荷…稲荷でどうだ?」
少々安直かもしれないなぁ…
狐と言えば稲荷だもんな。
だが、とても嬉しそうに跳ねている。
案外気に入ってくれたみたいだな。
しかし、稲荷は楽園昇華以外の時は何故か喋らないんだよな…
あのとき以外に稲荷とは話した事がない…
嫌われていたりするのだろうか?
(それはないでしょう。彼女は…いや稲荷はユウ様を好きな気持ちでは五本の指に入るレベルですから。)
(そうなのか?っていうかその言い方だと他の奴らとも面識があるみたいだけど…)
恐らくだがそんなコミュニケーションを取らせるなんて時間はなかったはず…
しかも俺はそんなに仲間を召喚してはいないはず…
(ありますよ?あなたの想像の世界に普段は居るのですから。)
(そこって他の奴らとコミュニケーションとれたんだな…)
(じゃあ、また今度機会があれば理由を聞いといてくれよ)
(分かりました。まぁ答えるかは分かりませんが)
好きな気持ちが五本の指とやらは気になるがお世辞とかだろう
何故かは知らないがみんな忠誠心高いし…
「イナリですか。良い名前です。」
「……決まりました!このネコの名前はリオです!どうでしょうか?」
「良い名前だ。リオも喜んでるよ。」
どうやらサラさんはやっと名前を決めたようだ。
頭から湯気が出そうなくらい物凄い必死に悩んでたなもんな…
リオの方は欠伸をしたりとのんびりしているが“まぁ良いんじゃないの”みたいな感じで満更でもなさそうだ。
「大丈夫でしょうか?何かつまらなさそうな顔をしているのですが…」
「まぁ、照れ屋?だからね。」
「はぁ~可愛いですね~癒されます。」
もうサラさんは別の世界にトリップしてしまった…
これはしばらく戻ってきそうにないな…
そう言えば、ティアはまだ決まってないのかな?
「ティアはどうなんだ?決まったのか?」
「はい、ジオなんてどうでしょうか?」
「良いんじゃないか?ジオもそれで良さそうだし」
なんというかジオは…よくわからない…
一応、満足している…というのは分かるのだが…
変わった奴と言うのは案外、的を射ているかも知れない。
「相談があるんだが…俺は2人にソイツらを預けようと思っているんだ。」
「良いんですか!?」
凄い…一瞬で戻ってきた…
どれだけリオが気に入ったんだよ…
「まぁいざという時の連絡役としてね?」
まぁ正直なところコイツらが連絡役に適切かと言われれば違うのだが…
2人とも気に入ってくれたみたいだし、コイツらも気に入ってるみたいだし…
なんか引き離すのが申し訳ないんだよなぁ…
「大丈夫なんですか?負荷は。」
「まぁ、このくらいなら無いのと変わらないよ。」
「では、サラも気に入っているようですし、お言葉に甘えるとしましょう。」
そうしている内にどうやら街に近づいていたようで御者の声が聞こえてくる。
「そろそろエリアスに着きますよ~」
2016年5月3日(火)00:00 更新予定




