第18話
一日丸ごと安静にしていると屋敷内を歩き回れる程度には回復していた。
サラさんにはまだ安静にしていてくれと言われていたがベットで一日を過ごすというのも暇なので適当に歩き回ることにした。
別に激しい運動をする訳じゃないのだから大丈夫だろう。
「と言っても別に行きたい場所があるではないんだけど…」
そうだな…
あぁ、あの地下室に行ってみようかな
そうふと思った俺は自分が壊した扉の場所に向かった。
特に理由はない、強いて言うならあの旗が気になったからっていうところだ。
「まぁ流石に直っているか」
あの跡形も残らない程に破壊した扉はそんなことはなかったとでも言うかのようにしっかりと直されていた。
そう言えばここは鍵が掛かっていたんだっけ…
開いてなかったら諦めるか、特に用があるわけでもないし
そう思いドアノブに手を掛けると…
「あれ?開いてるんだな」
いとも容易く扉は開いた。
あの旗は家宝だと言っていたのでいつもはもっと厳重な警備があるのかと思ったのだが…
その予想はどうやら外れていたようだ。
ここから先には行っていいのだろうか?
警備が無い事を考えるといいんじゃないかと思うが…
まぁダメなら謝ればいいだろう、別に顔を知らない間柄というわけでもないのだし…
中は前に来た時と何も変わらない感じであの部屋に繋がる螺旋階段もしっかりとあった。
松明は掛かっていない為、足元には注意しないといけない。
そして階段を下りるとそこにはティアと全力でぶつかったあの部屋があの時と何も変わらない様子が広がっていた。
そう、旗もまだここにあった。
「あの時のまんまか…家宝ならしっかり保管するべきだと思うが…」
正直、ここじゃない所において置くべきだと思うのだが
実はこの魔法陣が持ち運びができないようにするためのセキリティだったりして…
まさかな…あの時は何もなかったんだし
(そのまさかですよ!これの魔法陣が盗難防止のセキリティになっているのです!)
その声は!
(そう考えている通り!星の悪魔のステラです!)
この元気な声は間違いない…確かにあのステラだ。
だが突然出てきたな…
(なんでステラ話せてるの?あのステラの世界に行かないと話せないと思ってたんだけど?)
(誰もそんなこと言ってませんよ?大体、それだと暇じゃないですか!)
なんで話せるかの答えになっていない気がするのだけど…
(まぁ、私は一応、あなたの中に居ますが想像上の者ではなくしっかりと自分を持っているから。)
まぁ俺の想像の中にステラなる者はいない…
(そうでしょ?だからあなたに呼び出されなくともあなたの視界を共有できて喋れる訳です!あなたの魔力があれば現実に顕現することも可能なんだけどね。)
(ホントに?)
(ホントだよ?まぁかなりの魔力が必要だけどね…)
そうなのか、ステラも俺の中じゃ暇だろうしいつかは顕現させてやりたいもんだ。
まぁそれまでは、俺がステラの暇を癒すとしよう。
これからお世話にもなるだろうし…
(そう言えば、なんであの魔法陣がセキリティだって言えるんだ?)
(まぁなんたって悪魔だからね!こんなのお茶の子さいさいに決まってるじゃない!)
凄い自慢げだ…
まぁ確かに悪魔だもんな、そりゃ専門だわ…
それでも一目で分かるなんて凄いよな
(どういう物なんだこの魔法陣は?)
(えーっと、これは封印術式!簡単に言うと対象を魔法陣から外に出せないようにする類の物ね。)
(それは凄いな…確かに警備は要らないかもしれないな…)
だけど、警備があることに超したことは無いだろう。
まぁ、何か他に理由があるのだろう…
(これ…かなり凄い術式ね…それこそ何年もかけて掛けるような…封印術式だけでもレベルが高いというのに幾重にも隠蔽術式が掛けられて…しかも封印術式も一つじゃない…)
本気のトーンで話すステラは初めてだ…
そうとう凄い物なのだろうだけど…
(隠蔽出来てないよね。これ…)
(一見そうだけど、これでも良く出来てる)
えっ、そうか?じゃあ何を隠蔽してるんだ?
旗はしっかり見える。
どこか歴史を感じさせるような装飾で赤黒い血のような色をしていて中央には何かの紋章がある。
もしかして旗以外の物を隠蔽してるんじゃ…
(それは無いわ。隠蔽されているのはあの旗。普通なら視界から消えるくらいの隠蔽なんだけど…あの旗が異常みたいね。)
おいおい、それって隠そうにも隠せないってことか?
だけどそんなことってあるのか?
(かなり高位の物……普通なら村の外からでもこの場所にこれがあると分かる程の物なんだけど…屋敷に入るまで私も存在に気づかなかったわ。)
確かに、前に旗を見た時の記憶があやふやだ…色などの記憶にぼやけがあるが…
んー、よく分からない領域だな…
それに高位って言っても旗だぞ?
掲げるしか使い道がないのに高位も何も無いだろう。
(それがこれ…魔力媒介で。簡単に言うならば魔法使いが使う杖みたいな物なの。)
こんな杖使えるのか?
持ち運びとか勝手が悪すぎるだろうに…
と言うか杖があったんだな。
俺の知っているメンバーの中には杖を使う奴は誰もいないが……
まぁ、俺の周りが少ないだけか…
(まぁ、魔力媒介なんて使うのはスタイルが魔法に寄っている人だけだから。ユウの周りはスタイルが近接格闘でしょ?…魔法は二の次なんだろうね。)
まぁティアもダグラスもゲイルも剣を使うからな…
しかし、魔法媒介ってどれくらい効果があるんだ?
(確か、一般的な物が1.3倍程度…良質な物で1.5倍と言ったところかな。)
(へぇ~それなりにあるって感じか、ちなみにこの旗は?)
恐らくこんなとこに封印しているという事は2倍くらいあるんじゃないだろうか?
まぁどれだけ凄くても3倍がいいところだろう。
(分からない…だけど軽く5倍はあるはず…)
5倍を超えるか…
凄いな…想像ができない…
(実際に触れれば分かると思うけど……)
ここまで来たら知りたくなるのが人の性というもの
俺は旗のすぐそばに行きその旗に手を掛けようとした時だった。
「それは触らない方がいいですよ。」
そう声を出したのはティアだった。
いつの間にか来ていたようだ。
「あっ…ティア?こっ、これは盗もうとかそんな事は…」
これは確実に勘違いされてしまう…
どう考えてもこの状況は盗もうとしているようにしか見えない。
いまからどう弁解しようかと頭を悩ませるが…
「分かっていますよ。ユウが盗もうとしていない事は」
「えっ、何故?」
弁解をする必要が無くなったのはいいのだけれど
これは、勘違いされても文句は言えない状況なのに…
「だってユウがこの部屋に入ってからずっと後ろで見てましたから。これから盗みを働こうとする人はもっと警戒していて、しかも迅速に動くはずですから」
どうやら見られていたようだ。
まぁずっとステラに気を向けていたいたからな、迅速に行動も警戒もしていない
ここはティアの観察力に感謝だ。
「そう言えば、触らない方がいいってどういう事?」
「実はその旗は物凄い物で人工の聖遺物なんだと言われているのです。」
人工の聖遺物?どういう事だ?
(どういう事!?)
頭にステラの驚く声が響く
どうしてこんなに慌てているのだ?
(聖遺物は奇跡によって出来る物で奇跡を起こす為の依り代だと言われている物の事…魔剣なんかみたいに魔法や技術で出来るものではないの…)
(例えば、ティアの剣や祢々切丸みたいな物の事か?)
(いや、それはまだ魔剣と同じ領域、しかし成長していけば聖遺物になれる可能性は秘めていると思う。多分それには物凄い功績か物凄い年月が必要だけど)
だけど奇跡ってどういう物の事何だろうか?
奇跡にだっていろいろあるし…
(まぁ、人の領域を超える事ができれば奇跡って感じだね…)
じゃあこの旗は何をしたのだろうか…
その疑問に答えたのはティアだった。
「この聖遺物にはいろいろな逸話があってその中でも有名なのが死者の蘇生ですね。」
「(死者の蘇生!?)」
俺の声とステラの声が重なる…
死者の蘇生なんて言われたら流石に驚く…
だってそんな事はありえない…死んだらその先はない。それが普通だ…
(どういう事?死者の蘇生なんて…確かに事実なら奇跡だけど…)
ステラにも心当たりはないようだ…
まぁ、もしあったら堪ったもんじゃないけどね…
「まぁそれが事実かは分からないですが、しっかりとした能力はありますよ?」
なんだ…確証はないのか…
しかし、どんな能力があるのだろうか?
「その能力は単純で魔法を異常な程に強化をするというものです。」
「それだけなの?」
少し拍子抜けだな…
何か物凄い能力があるものかと思ったんだけど。
「えぇ、そうなんです。しかし、案外これは侮れないものなんです。確か、あの旗を持って拳大の焔を出そうと思ったところ…」
まぁ強化だけなんだからさぞ凄い威力が出たんだろうな。
そうじゃなきゃこんな厳重な魔法陣は張らないだろう…
だが強化だけじゃ奇跡とは…
「見渡す限り一帯を焼き払ったそうです。」
(倍率二桁はいってるね。)
えっ…?どれだけ強化されているんだよ!
そんなのもう災害じゃないか!
それで身体を蘇生できたなんて噂が立った訳か。
「しかし、あの旗はどうやら無茶な量の魔力を汲みあげ続けるようで…その後、間もなくして灰になったそうです。」
「えっ?灰に?」
(命の焔さえも魔力に変えられたみたいだね…)
そんな無茶苦茶な…
勝手に吸い取ってしかも灰にまでされる…
考えたくないな…
「しかも、あれには触っただけで術者にのみ干渉する負荷を掛けるようです。その魔法使いは1秒もしない内に地に倒れたそうです。」
俺の負荷と一緒だな。
まぁ力は旗の方が上みたいだが…
「それで止めてくれた訳か…」
「特に今のあなたには耐えれないでしょう。」
まぁ今はそんなのお断りだな…
だけど俺があの戦いの時に触っているんじゃ…
「なぁティア?じゃあなんで俺があの時触ったのにその負荷を感じなかったんだ?」
「あの時は特殊な魔法具で旗を覆っていたのですよ。まぁ旗の強化の恩恵も消えますが負荷も受けないのでかなり便利なんですよ。まぁ本当は風化や汚れから対象を保護する魔法具なんですが…」
あぁ、それでか…
という事は今はそれをしていない訳か…
それなら盗めないな…
封印と旗の呪いじみた負荷の二段構え。
「それなら警備をあてる必要もない訳か。」
「まぁ、盗まれても使えないのでほとんど意味がないですから。」
家宝なのに散々な言われようだな…
まぁ、使えば死ぬ武器なんて誰も欲しがらないか
(まぁ、珍しい物見れたし良かったね。)
(そうだな。だけど……)
(だけど?)
(いや…なんでもない。)
不吉な事が頭に過ったがそれを誰にも伝えたくなかった。
伝えてしまうと現実になってしまいそうで
「それではもう戻りましょう。ここに居ても身体に障るだけです。」
「そうだな…」
ティアの身体を気遣う言葉に大人しく従い嫌な気持ちのままその場を後にしティアに言われるがままその日、ベッドから出る事はなかった。




