3
登場人物
末堂礼 (すえどうれい) 20歳 退魔師
末堂美瑠 (すえどうみる) 16歳 高校1年生
園田栞 (そのだしおり) 17歳 高校2年生
※以下、順次追加
昼休みの高校の廊下を、茶道部部長・湯島さつきが駆けていく。
本当ならば、部の用事を済ませてから、友人の栞と昼食を食べるはずだった。
しかし、部室から戻ったさつきは10分ほど前に栞がいじめっ子たちに連れていかれたとクラスメートに聞かされ、今、必死に栞の姿を探していた。
彼女にいじめっ子たちをどうこうできるだけの力はない。
だが、少なくとも栞をいじめっ子たちから引き離し、手を出されないように監視することはできた。
(多分、ここ……!)
さつきは特別教室が集まった階にある、利用者の少ない女子トイレの前で立ち止まった。
トイレのドアを開けようと手を伸ばした瞬間、大きな悲鳴とともに栞をいじめていた女子生徒たちが飛び出してきた。
「何なのよ、あれっ!!」
「知らないわよっ!」
「あんなの、ヤバすぎだって!」
口々にわめきながら、彼女らは一目散に逃げていく。
「な、何……?」
呆然として立ち尽くすさつきだが、逃げていく女子生徒たちの顔は見ていた。
あの中に、栞はいなかった。
さつきはまだバタバタと揺れているトイレのドアを凝視した。
(この中に、栞がいるの?)
恐る恐るトイレに入ったさつきは、一番奥で立ち尽くしている園田栞 (そのだしおり) を見つけた。
「栞、あなた……」
そう言って絶句するさつき。
栞は変わっていた。
「さつき……、これ、どうしたらいいの……?」
どう見ても、まともではない姿に。
◇
数日後――
「よろしく……おねがいします……」
美瑠に付き添われ、礼の事務所を訪れた栞が消え入りそうな小さな声で挨拶した。
「こちらが、湯島先輩から相談を受けた園田栞さん。お兄ちゃん、ヘンな真似しないでよ!」
そんな美瑠の言葉など耳に入らずに、礼はなめるように栞を見つめていた。
(いい! いいねえ、栞ちゃん)
小柄でほっそりとした体つきの栞は、男から見れば守ってあげたくなるような雰囲気の少女だった。
おずおずと上目遣いでこちらを見る表情が、彼女の大きな瞳にとても似合っている。
ねっとりと栞を眺める礼の視界に、美瑠がいきなり割り込んできた。
「だから! そういうの禁止って言ってるでしょ!!」
「ったく、うるせーなー。だいたいなんでお前がここにいるんだよ」
「当たり前でしょ! こっちはお兄ちゃんがインチ……」
隣りにいる栞を見て、美瑠が慌てて言い直す。
「は……半人前だって知ってるんだから! 役に立たないようだったら、すぐに栞先輩には帰っていただきますからね!」
「おーおー、きびしいことで……」
うんざりした表情で言いながら栞の前に立つと、礼は満面の笑みを浮かべてぐっと顔を栞に近づけた。
「さて、園田さん」
「ひぃっ」
先ほどからの兄妹のやり取りを前に、すっかり怯えきっていた栞が思わず悲鳴を上げる。
「あなたに何が起こったんです?」
「あ、あの、私……」
「ふんふん」
相槌をうちながら礼が栞の後ろに回りこむ。
内気な栞が話しやすいように、ではない。
女子高生の体を360度から眺めるためだ。
「自分でも、何でかわからないんですけど……ひぃっ」
後ろに回った礼が栞の肩に手を置くと、ビクンと栞の体が跳ね上がった。
「ふんふん」
「身体から、ヘンな……ものが、生えて……」
今度は栞の耳元に顔を寄せ、ささやくように質問する。
「ヘンな、ものですか?」
「は、はい……」
「それは、何ですか?」
さらに礼は、あろうことか、くんくんと栞の髪の柔らかなシャンプーの香りを嗅ぎはじめた、その瞬間……
ボコッ!!
「ぐへえ!」
何かが思い切り礼の横っ面を殴り、礼は無様に尻餅をついた。
「イテテテ……、いったいなんだあ!?」
「ちょっ、お兄ちゃん! それっ……!」
「!?」
礼を殴ったのは、栞だった。つまり、栞の腕だった。しかし……
「腕が、3本!?」
制服姿の栞の右肩から、うっすらと、だが先端に行くにしたがってはっきりとした3本目の腕が生えていた。
栞が尻餅をついたままの礼を振り返り、消え入りそうな小さな声で聞いた。
「私……、どうすればいいんですか……?」
あっけにとられていた礼と美瑠が顔を見合わせる。
「お兄ちゃん、これって……」
「相談者の錯覚じゃない、2割のほう……」
礼と美瑠は声を合わせて絶叫した。
「「本物だ~~~~!!」」