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礼「腕が、3本になる、心霊現象は、ありますか」
ぬうべえ「腕が生えるってこと?」
寺生まれのDT「そういうのは聞いたことないなあ」
あだむすきー「同じく」
トイレの花ちゃん「ですねぇ」
オカルト好き「あ、でも」
ぬうべえ「?」
オカルト好き「魔物や妖怪も含めるなら、3本脚のカラスっていうのはいますよ」
寺生まれのDT「ああ、それなら尻尾が2本のネコってのもいるね」
栞の『腕』はどうやら常に生えているわけではないらしく、礼を殴った後、ほどなくして消えてしまった。
「殴られた頬を冷やしてくる」と言って洗面所に引っ込み、礼はさっそくオカルトコミュの面々に話をふってみたが、礼本人も驚くほどに、あっさりと必要な『答え』にたどり着いた。
「……つまり、園田さんの状態から考えられる可能性はふたつ……。3本の脚を持つといわれる霊鳥・八咫烏か、2本の尾を持つ妖怪・猫又、このどちらかがあなたに取り憑いてその現象を引き起こしているのです」
応接用の安物ソファに座っている栞を前に、自分のデスクについた礼がもっともらしく説明を始める。
が、礼の横に立っている美瑠には、栞から見えない死角にカンペよろしく置かれたスマホが丸見えだった。
画面に表示されたウィキペディアをチラチラと盗み見ながら、礼が続ける。
「八咫烏は一般に、霊格が高く、神の使いであるとか、導きの神であるといわれています。正直、人間に危害を加えるとは考えにくい。しかし、あなたのその『腕』は、いじめっ子をビンタし、吠えかかる犬にゲンコツをし、私を殴った……」
「神様だっていうなら、お兄ちゃんが殴られたのは天罰でしょ」
横から鋭く突っ込む美瑠をキッとにらみつけ、さらに礼が続けた。
「ですから、もしあなたに取り憑いたのが好戦的な魔物なのだとすれば、もう一方の妖怪、猫又である可能性が高いのです」
「……はい」
我が身に突然起こった災難に、恐怖でいっぱいの栞の声はかすれ、震えていた。
栞がうつむいている間を利用して、礼は素早くスマホの画面を切り替える。今度は猫又に関する資料だ。
「今言ったとおり、猫又は人を襲う好戦的な妖怪で、その正体は長生きをした猫の尾が2本に分かれて妖怪化したものと言われています。それも、人間に飼われていた猫が」
そこまで言って、礼はズイと体をせり出し栞を見た。
「ズバリお聞きします」
「ひゃい……!」
恐怖に怯えながら話を聞いていた栞は、いきなり声をかけられ思わず返事と悲鳴が同時に出てしまった。
「園田さん、あなたは猫を飼っていましたね?」
(お兄ちゃん……、もしかして、上手くやってる?)
お目付け役として礼の行動を監視していた美瑠だが、内心では正直驚いていた。
話を聞く限り、礼の言っていることは栞に起こった怪現象の正体に迫っているようにみえた。
これはもしかしたらうまくいけば……
「いいえ……、ないです……」
「では、犬を飼っていましたね?」
「いいえ……」
「ハムスターを飼っていましたね?」
「いいえ……」
「ミドリガメを?」
「いいえ……」
「グッピーを?」
「いいえ……」
「シベリアンハスキーは?」
「犬は飼ってないって言ってたでしょ!」
美瑠の鋭い突っ込みで、礼の尋問はあえなく終了した。
(やっぱりダメか……。あ~あ、期待して損した)
やれやれと言った表情で、美瑠は小さなため息をついた。
その後も栞からの聞き取り調査は続いたが、礼がセクハラスレスレの質問をしては美瑠からダメ出しされるばかりで、当然ながら怪異の解明には至らなかった。
唯一わかったことはといえば彼女の趣味がゲームであることぐらいで、プレイに没頭してしまうことも多い栞には、やはりペットの世話などとてもできそうになかった。
そのため、彼らは後日、栞の家に場所を変えて調査を続けることを決め、その日は終了となった。
退室の間際、栞がおずおずと礼に声をかけた。
「あの……、さっきは、ごめんなさい……。痛かった、ですよね……?」
「いやあ、なあに……」
「あんなの、栞先輩がやったことじゃないですよ! だから気にしないでください」
「コラ、美瑠! お前、俺の邪魔ばかりするなよ!」
もはやこの兄妹のやり取りにすっかり慣れた栞は、くすくすと笑った。
「本当に、仲のいい兄妹なんですね」
「そ、そんなことないですよっ! こんなバカ兄貴!」
必死に否定しながらも、美瑠は栞がここに来たことで少しだけ元気を取り戻したことにほっとしていた。
「それでは、失礼します」
そう言って歩みだした栞の足がもつれ、転びそうになる。
「きゃっ!」
「!」
漢の勘でいち早くそれを察した礼は、栞を胸に抱き止めるべく、両手を広げてサッと前に回り込んだ。
「ふご!」
またしても現れた栞の『腕』が礼の顔をがっとつかみ、おかげで栞はバランスを持ち直した。
「ご、ごめんなさい……! 私……」
「いやあ、ははは……(こいつ、結構役に立ってるじゃねーか)」
最後の最後まで邪魔をされ、礼は消えていく『腕』をいまいましげに睨みつけた。
◇
それから数日後──
約束の調査の日、美瑠は不安な足取りで栞の家に向かっていた。
肝心の礼は準備があるから少し遅れるということで、学校が終わった美瑠はその足でひとり栞の家に向かうことにした。
平日の今日、栞は学校を休んでいた。湯島先輩によれば、2、3日前から欠席が続いているという。
「何かあったのかな……」
栞に起こったことを考えれば、何事もないことのほうがむしろ考えづらいと言えた。
(お兄ちゃん……)
歩きながらふとそんな言葉が心に浮かんだが、いい加減な兄のことを思うとさらに不安になった。
美瑠は礼のことなんぞを思い浮かべたことを後悔し、残りの道を急いだ。




