表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『バラの精霊、ネザ』 ~バラの精が教えてくれた美しい生き方~  作者: あばらぼう
第3章 砂漠のアルター
38/42

第10話 心の声

 おれたちは、崖伝いに早足で歩いた。その間、おれはずーっと考えごとをしていた。

 〝伏せて!〟確かに聞こえた。ウヤータの心の声だ。おれも王子もほぼ同時にその声に従った。ということは、王子にもそれが聞こえたということだ。心の声ってなんなのだろう、直接心に聞こえるってどういうことだろう。いくら考えてもおれにはわからなかった。

 しばらく行くと林と岩場がある場所に出た。最後尾のウヤータは、ハァハァと少し苦しそうにしながら歩いていた。

「休もう」

 アルターの号令で、岩場で休憩することにした。大人の背丈ほどもある大きな岩が組み合わさっていて、おれたちを周囲から隠してくれた。

「大丈夫かい」

 アルターがウヤータに声を掛けた。おれは兵士たちが落としていった松明を拾っておいたが、ここで火をつけて暖をとることにした。昼の暑さのお返しとばかり、夜の砂漠は冷える。

 灯りをつけるとウヤータの足から血が流れ、血は砂地にまで染み込んでいた。太もものあたりがザックリ割れている。敵兵の槍にやられたようだ。おれは着ていた服を破いて包帯を作った。とにかく血を止めなければ。こういう生きる知恵は、アルターよりもおれの方が上だ。

 ウヤータは、おれが包帯を巻いている間、おとなしくじっとおれを見ていた。こんな非常時にも、おれはなるべくウヤータの足に触れないように気をつかった。ウヤータが怒るとちょっと怖いのと、包帯を巻くのにかこつけて、太ももに触ったとか言われたくないからだ。

 ウヤータの表情を伺うと、黙っておれを見つめている。やっぱり黙っているウヤータはかわいいな。急にそんな考えが浮かぶとウヤータが、

「ありがと」

 と言った。包帯を巻いたことに対して言ったのか。もしかしたら、おれの心の声がウヤータに聞こえて、かわいいと思ったことに対して言ったのか。

 アルターが、明るい声を出して言った。

「ろくよんだよ」

「はっ、ろくよん?」

 おれの、すっとんきょうな声に答えてアルターが、

「包帯が6、かわいいが4。だよね、ウヤータ」

 と笑いながら言った。

 ウヤータは横を向いてしまった。が、消え入りそうな小声で、

「ハズレ、よん、ろく」

 と言って、そのままうつむいてしまった。

 おれにとっては、気まずくていられないその場の空気を、薪がパチパチとはぜる音が救ってくれた。暗闇の中に居る三人の瞳に、焚き火の炎が一瞬、一瞬、形と色を変えながら映った。

 おれは、燃える炎に照らされるウヤータの顔を、横目でチラッと見た。ウヤータはうつむいたまま、炎を見つめていた。戦闘のせいで髪の毛は乱れ、普段は見えない、うなじと耳たぶが見えた。おれは横顔もかわいいと思った。

 ウヤータは、

「ヤヒト、心の声はみんなで同じ思いを共有できちゃうから、王子にも聞こえちゃっているよ」

 と言った。

 なんで急にこんな能力が発揮されるようになったのだろう。いったい何がどうなっているのだろう。

 アルターが言う。

「命を脅かすほどの非常事態に遭遇したことで、生命力に根ざした特殊な力が目覚めた。でも、本当はぼくたち三人には最初から備わっていた能力だと思う。それから、もう一つは、ぼくの父が星から来たことを知り、自分たちもかつて星の住人であって、この星に何かやりたいことや、使命を持って来ていることに気づき始めたからだと思う。

 ぼくたち三人はどんなかたちかは別として、この星で出会うべくして出会ったんだよ。きっと共通の目的があるんだと思う」

 このアルターの言葉でおれは遙か昔の出来事を思い出せそうな気がした。でもフィルターのようなもの、もやのようなものに阻まれて、思い出すことができなかった。空の彼方、小さな船のような乗り物の中で、誰かと話をしている。そんな記憶だった。

 アルターは両手を前に出して、手のひらを見せて、

「君たち二人に出会えて本当に良かったよ」

 と言った。このポーズはこの周辺では普通の挨拶の習慣だ。おれもウヤータも、両手を前に出し、手のひらを相手に向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ