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序章第1話 おっさんと女神居酒屋

おらァ、日下辺英雄(くさかべひでお)。しがない営業マンのアラフォーおじさんだ。

今日も今日とて外回り。我ながらクソ暑い中ご苦労なこった。

ネクタイを緩ませ、脱いだ上着を肩にかける。

食っていくために選んでいられないとは言え、何で俺ァこんな仕事してんだかねェ。

俺ァ何がしたかったんだろうな。ため息を吐きつつ空を仰ぐ。

ふと見ると街頭テレビではヒーローと怪人の戦いの真っ最中。

それを見守る手に汗握る子供たち。俺もガキの頃は憧れたもんだが・・・。

~♪ ~♪

着信音。会社の部下からだ。思い出に浸らせてもくれないようだ。

「お疲れさまっす先輩。どうっすかそっちは?」

「んー芳しくないから切り上げるところだ。そっちは何人だ?」

「4人っすけど」

時計を見る。戻る頃にはお茶の時間と言ったところだ。

「ドーナツでいいか?」

全品100円が目に入る。たまには土産の一つもいいだろう。

「いいんすか!?先輩愛してるっす!」

「そういうのは若い子にでも言ってやれ。ああ、俺ァアイスコーヒーで頼む」

「了解っす!それじゃお気をつけて」

電話を切る。自分も甘いものは好きだ。つまみにもする。

家に帰って一人での晩酌にも慣れた。どれ、オールドファッションでも・・・

信号が青に変わり横断歩道を渡り、反対側のドーナツ屋に歩き始める。

反対側から来るのは先ほどの子供たち。そしてトラック。


トラック・・・だと・・・!?

「危ねェ!」

とっさに飛び出していた。おっさん一人が飛び出してどうなるものでもない。

子供を寸でのところで突き飛ばし、その後どうなるかは火を見るより明らかだ。

気をつけろと言われた矢先にこれだ。まったくついてない。

「あン?」

それにしてもおかしい。トラックはどこに行った?俺ァ何故生きている?

ゆっくりと目を開ける。そこには異様な光景が広がっていた。

「なんだァこりゃ・・・周りが固まってやがる」

先ほどまでの光景そのまま。尻餅をついた子供、目の前にはトラック。

「夢でも見てんのか俺ァ・・・冗談きついぜ・・・」

この止まった世界の中で動いているのは自分だけのようだ。

これが現実だとしたら、こんな馬鹿な話があるか。

「もしもし・・・英雄様でいらっしゃいますか?」

どこからか声が聞こえる。いや、直接脳内に。

「お、おう・・・誰だ?」

「突然のご無礼をお許しください。事情はこちらで説明いたします」

何もない空間にドアが出現する。ああこれはあれか青い狸の・・・。

「ど○でもドアかよ・・・」

「はい?」

「いや、何でもねェ・・・。何にせよ他に選択肢はないみてぇだな」

俺は女の声に従いドアを開け中に入った。

そこはがらんとした白い空間。中央には椅子とテーブルが置かれていた。

「まだ夢でも見ているようだな・・・」

辺りを見回すがそれ以外何も見当たらず、入ってきたドアも消えていた。

とりあえず椅子に腰掛ける。奥のほうから声の主が何かを持って現れた。


「とりあえず生でよろしいですか?」

ガタッ! その問いかけにコントのごとく椅子からずり落ちる。

「あン・・・?何だここは居酒屋か?」

よく見ると手にはビールジョッキが握られている。

「お嫌いでしたら焼酎、ワイン、ウィスキーと取り揃えておりますが」

「嫌いではないが・・・いやそういうことじゃなくてだな」

何を言っているのか分からず呆れて肩をすくめる。

「まずはお近づきの印に一杯どうぞ」

中ジョッキが置かれる。このクソ暑い中歩いてきたわけだ。美味くないわけがない。

が、ここは俺も営業マン。染み付いた悪習が邪魔をする。

「これを飲むということは条件を飲むということだよな?まずは説明してくれないか?」

目を光らせる。女は涼しい顔で続けた。

「まずは名乗らせていただきます。私はマーサ。女神をしているものです」

「女神ねェ・・・」

半信半疑だがその容姿は個性的なものだ。少なくとも日本人には見えない。

ブロンドの髪に蒼い瞳。服装も特徴的でシスター?神官?何にせよコスプレのようなものだ。

「で、その女神様がこんなくたびれたおっさんに何のようだ?金ならないぞ」

自分で言っていて薄給が悲しくなってきた。怪しい宗教にお布施する余裕はないのだ。

「ずばりですね英雄様。あなたには帰還していただきます」

「帰還?こんな所に連れて来て元の世界に返すだけなのか?」

やはりただのコスプレ居酒屋だったのではなかろうか。

「はい元の世界に戻っていただきます。あなたの成すべきことをしていただきたいのです」

「営業マンを続けるのはやぶさかではないが・・・」

「元の世界アルカマリナへ」

「ある・・・何だって?」

聞き慣れない単語。噛み合っているようで噛み合っていない会話。

「アルカマリナ。あなたはここで言う異世界の住人なのです!」

ビシィ! と言う音がするかのごとく指をさされる。あー、頭痛がしてきたぞ。

「お姉ちゃんお勘定・・・」

諭吉を置いて席を立とうとする。

「ま、待ってくださいまだ話が!」

「釣りはいらねェよ」

背を向けてひらひらと手を振った。今まで入った中で一番やばいタイプの店だ。間違いない。


「英雄様あなた子供の頃の記憶がありませんよね!?」

必死に食い下がる女神(仮)。そもそも出口ないじゃねェか・・・。

「何故それを知っている」

声のトーンを落とし席に戻る。おいおい、個人情報はこんな所にも漏れているのか?

「知っていますよその黒髪も・・・」

「髪の話はするな!!」

「ヒッ!?」

最近部分的に薄くなっているのが気になっていたのだった・・・。

「すまん大人気なかった続けてくれ・・・あんた、俺を知っているな口振りだが」

「はい。あなたは物心ついた頃に文化体系が近い世界に送られました」

確かに幼い頃の記憶はない。育ったのも身寄りのない子供たちが暮らす施設だ。

記憶がないことも両親がいない事も悩んでどうなることでもなかった。

腐らず生きてこれたのも自立するまで世話してくれた院長先生のおかげである。

その後結婚して家庭を持つことになったが・・・その話はまた今度にしておこう。

「にわかに信じがたい話だが・・・送ったってのはどういうことだ?」

「転移魔法による異世界転移・・・と言ってご理解いただけますか?」

「魔法・・・か」

ふぅ・・・と息を吐き出す。こんな話をされてはとても素面ではいられない。

「一杯貰おうか」

「どうぞ」

キンキンに冷えたままのビールを流し込む。

ここに来てから少し経つが冷えたままのビールだ。

「かぁーっ!この一杯のために生きてるなァ!」

この一杯がいけなかった。どこのどいつだ?条件を飲むだのうんちく垂れ流していたのは・・・。

「おかわりもありますよ?」

「おう、じゃんじゃん持ってきてくれ!昼間っから飲む酒は最高だなァ!」

その姿もはやただのオヤジである。3杯目に手をつけたところで話に戻る。

「で、転移魔法だったか?遠くに物を運ぶ技術なんだろ?どういう仕組みなんだ?」

「エーテル化した物質をマナの流れに乗せて運び再構築した後・・・」

「ガハハ!さっぱり分からんと言うことが分かった!」

「ですよねぇ~私も大掛かりな魔法は使えないので」


ちょうどほろ酔い程度になってきた所で話を戻す。酒は飲んでも飲まれるな、だ。

「さて、俺ァその異世界とやらに里帰りして何をすりゃいいんだ?」

どんな無理難題が飛び出すのやら。

「封印が解けた後魔王を倒していただきます!」

「あー、魔王か魔王ねェうん・・・」

ほいきた魔王。昔やったゲームの世界にでも迷い込んじまったのかァ?

残りのジョッキを一気にあおる。

「あの大封印から30年そろそろ解けたり解けなかったりする時期なのです!」

なんだよ解けなかったりって・・・。

「ここで話は転移魔法に戻るのですが、英雄様のご両親が魔王を封印した余波なのです」

「つまりはなんだ、俺ァ巻き込まれ事故だったと・・・?」

「事故だったとも神のお導きだったとも言えます。ご両親は魔王討伐に向かった勇者でした」

「とすると俺ァ勇者の息子でサラブレッドだったわけだ。何でガキの俺がそんな危険な場所に?」

子供が魔王とやらの根城に付いて行くというのはおかしな話だ。

始まりの町から橋を渡ってすぐ根城なんていう馬鹿げた話でなければだが・・・。

「攻め込んで来たんですよ魔王自ら・・・」

「随分とアクティブな親玉だな・・・」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

おっさんの物語開幕。おっさんは駄弁っているだけでいつ出発するのか?

次回もおっさんとぐだぐだに付き合って貰う・・・。



初投稿です。書きたいものを書きたいときに気の向くままに書いています。

行き当たりばったりの拙い文章ですがよろしくお願いします。

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