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ぎゃくさつ! ~JKのどきどき紛争傭兵ライフ~  作者: ルト
第五章 ラストミッション
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罠(2)

「チャンスとうらーい」


 沙希は笑った。

 ベルナルドの進む道を先回りして道をふさぐ。

 指定どおりの封鎖ポイント。アメリアたちにトラブル発生。対応は沙希ひとりだけ。

 アサルトライフルの銃口を向けて待ち構える。

 だがすぐに顔は怪訝に曇った。

 車が来ない。エンジン音すら聞こえない。


「まさか……途中で車を捨てて逃げたとか!?」


 慌ててブーストを噴かして道をさかのぼっていく。

 アメリアたちが釘付けにされている区画の一ブロック隣。大きなマンションに隠された角で、

 ベルナルドは車を止めて待ち構えていた。

 タヒチに豪邸を構える実業家のようなワイシャツ。足の長い白のスラックスで、ボンネットの外れた車のフロント部に腰掛けている。

 肩に大きい筒を担ぎ、野太い弾頭に生えるつぶらなシーカーが虚ろに沙希機を見つめていた。

 対FHミサイル。


「あ……」


 くたばれ。

 ベルナルドの舌なめずりが、閃光にくらんだ。

 一直線に突き進んでくるミサイルの軌道を見る前に、

 沙希は迷わずイジェクトレバーを引く。

 機体の下腹から突き刺すような弾頭が「くにゃり」と潰れて、内部に爆発的な火焔の奔流を吹き込んだ。人型の装甲が内側から膨れて赤熱し、あっけなく弾け飛んで爆発する。

 直前。

 うなじから吐き出された白煙はくるりと角度を変えてパラシュートを開く。

 完全に開かれるより早く建物の壁に接触し、転がり落ちるようにシートは地面を転がった。

 計算された重心で背もたれを下敷きにアスファルトを滑っていき、やがて止まる。


「ぃ、ぐお……おああ」


 沙希は身もだえして、シートベルトのバックルを殴りつけるように外す。

 打ち身、擦り傷、切り傷、火傷。あらゆる負傷は寸でのところで高機能パイロットスーツに受け止められた。


「さすが高価(たか)いだけのことはある……ッ!」


 沙希の手はまっすぐシートに伸びる。

 サバイバルパックではなく、救難信号発信機でもなく――ケースに収められた突撃銃(AK47)を。

 ベルナルドはグロリアの爆発を前に、両手を広げて笑っている。


「はっはは! 呆気ないな、サイコキラー! 死んでしまえばそこまでだ!」

「そうだね。死んでいればね」


 高笑いが凍りつく。

 ベルナルドが沙希を見つけるのとほとんど同時に、沙希はAK47をフルオートでぶっ放した。

 反動に暴れる銃の先で、素早くしゃがみ込んで頭を抱えるベルナルド。

 風切り音が爆ぜ、アスファルトが穿たれ、衝撃波の生み出す不気味な風がベルナルドのシャツをなぶる。

 発砲をやめた。


「あ?」


 ベルナルドはうずくまった身体を少し起こした。

 腕、足、そして全身をくまなく確かめる。

 出血はない。怪我もない。

 一発も当たっていなかった。


「は……はは! そうだろう! 俺を殺したらお前は、」


 顔をあげたベルナルドの瞳に、

 銃床を振り上げる沙希の姿が映り込んだ。


「死ねッ!」

「がッ!?」


 ぼきり、と鈍い音ともにベルナルドの頭は強制的に伏せられる。

 うつむいて震える男の口から、血と涎にまみれた奥歯が転がり落ちた。

 その頭頂部に熱を持った銃口を押しつける。


「私、銃を撃つの苦手なんだよね。だから、当たる距離まで近づかないといけないんだ。これなら当たるかな」


 ベルナルドの背中が震えた。

 そっと。


「降参だ」


 ベルナルドは両手を挙げる。


「命だけは助けてくれ……」

「あは。面白いねソレ。――絶対許さない」


 引き金に力を込めた沙希を、

 顔をあげたベルナルドが嘲弄した。


「お前にそんな権限があるのか?」


 嘲り切った目、余裕に溢れた力の抜けた態度。殺されないという確信。

 沙希の指が止まる。

 誰でも警戒心を焚きつけられる洒脱な態度を見て――笑う。

 銃口をベルナルドの鼻先に押しつけた。


「口先だけで他人を操れるつもり?」


 ベルナルドの微笑が強張る。

 目と目でにらみ合った。(にじ)む汗が垂れるより早く、


「沙希、やめろ!」


 駆けつけたライザが制止を叫ぶ。

 顔を動かさなかった沙希のかわりにベルナルドが横を向いた。こめかみを銃口で小突く。

 マンション団地を抜けた道路から、ライザが息を切らせて駆けつける。


「抵抗の意志がない人間を撃つのは『違法』だ」

「知るかボケ」


 連なる土煙がベルナルドの肩をかすめた。

 銃をライザに蹴飛ばされた。

 駆け寄りざまに沙希の銃口を逸らしたライザが、沙希を突き飛ばして吐き捨てる。


「せめて見えないところでやってくれ! こっちまで『殺人』で逮捕されるのはごめんだ」

「さぁつじんんん??? こいつが何人死に追いやったか分かってるんですか?」

「司法権は人間性に関わらねえよ! それに、お前ひとりの怒りで済ませていいクズじゃないだろう……」

「アメリカのヒューマニズムは品がないな」


 ぱんっと。

 軽い銃声におびえたように、ライザの身体が震える。

 一歩、二歩と後じさりする。力なく膝を突いた。

 ぱんぱんぱんと連射される。


「っ、ベルナルド! ぅあ!?」


 撃とうとした沙希の腕が弾かれた。撃たれた。

 プロテクターは貫通しないものの、激痛に握力がほどける。引き金から右手が外れた。


「舐めるな!」 


 沙希は体をひねる。

 ストラップで身体に巻き付けるように銃を跳ね上げた。引き金を左手で横合いから握り込んで、発砲。


「馬鹿が」


 空へ飛んでいく銃弾を無視し、ベルナルドは沙希を蹴り倒す。沙希は尻もちをついてあっさりと転がされた。

 ベルナルドはライザにさらに発砲しながらAK47を踏みつける。

 沙希の額に拳銃を押しつける。

 ごり、とアスファルトと銃に挟まれて沙希の頭蓋骨が鳴った。

 ベルナルドは引きつったように笑う。


「八津沙希。お前だけは殺したかった」



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本作は金椎響様「さよなら栄光の讃歌」をもとに、本人の許可を得てスピンオフとして描いた作品です。

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