罠(1)
アメリアと車両部隊がベルナルドの乗るセダンを追いかける。
伝統的な街並みをジェットで焦がして飛ぶアメリアに、通信越しの沙希の声。
『アメリア!』
「沙希! 私たちで追い込むわ。確保して!」
『了解!』
「確保よ!? いい!? か、く、ほ!!」
『信用ないなぁ』
笑い声とともに情報共有を終えた通信が遠ざかる。
狭いコックピットの中でアメリアは唇をかんだ。
(わかった、とは言わなかったわね)
メインスクリーンに目を向ける。
ベルナルドの車は、ガザ市のマンション団地を猛スピードで走っている。
ハンドルさばきをひとつ間違えるか、道路の散乱物を踏めばスリップしてクラッシュするだろう。
無理な追い込みはできないが、決して引き離されてはいけない。危険なカーチェイスを差し交していく。
『心配するな』
ライザは落ち着き払って、走るジープを制御しながらアメリアに通信する。
『あたしらで捕まえれば、万事解決だ。そうだろ?』
「そう……そうね!」
アメリアは操縦桿を微調整し、ブーストの出力を上げた。
マンションに挟まれた長い直線。仕掛けるなら今しかない。セダンに覆いかぶさるように飛ぶ。
たとえスポーツカーでも、巡航速度と燃費を度外視したFHには敵わない。
操縦桿に力をこめて、アメリアはメインスクリーンに見た。
ベルナルドが口を大きく動かす瞬間を。
今だ! と叫ぶような動きを。
同時に、直線の終端、前方の教会鐘楼に二足の影が跳びあがった。
「ウォーキーボックス……? いや、違う!?」
シルエットはウォーキーボックスそのもの。
ただし、素材は金属製。エンジンブロックは一回り大きく、構える銃に至っては異質な長大さを誇っている。
なによりも違っているのは、
「コックピットブロックが守られてる……!?」
使い捨てではない機体。
卵型の胴体はまるでコックピットブロックから直接足が生えたかのようだ。
強化ウォーキーボックスが身体を前に投げ出すように伏せた。
直後。
桁違いに重い衝撃がアメリア機を撃ち抜いた。
「っきゃあああ!!?」
機体の安定が吹き飛び、かたわらのビルに接触。削るように窓という窓を削ぎ落す。
相対速度の生み出す致命的なダメージが機体を軋ませる。アラートが悲鳴を上げた。
『対戦車ライフルだ!』
WBではないWB……フォーミュラフレーム・ウォーキータイプは化け物ライフルの反動で立ち上がり、隣のビルへと飛び移った。ばたっと再び身体を投げ出し、
『避けろライザ!』
『わァってるッ!!』
ブレンデンとライザが叫ぶ。
車が射線を逸れた瞬間に、
爆発。続いて轟く砲声。
直撃こそ避けたジープだが、道路を砕いた余波に煽られて車体が揺れる。
アメリアは背筋を凍らせた。
「機動猟兵……!」
電撃的な侵入によって最適な位置を確保し、戦術優位性を獲得する狙撃兵。
その兵科にFWが名乗りを上げた。
平地での走破性こそ人の足より多少速い程度だが、軽量小型な本体と強力な走破性、バッタと同じ脚部構造が生み出す縦軸方向への機動力。
それらは市街戦において殺人的な効果を発揮する。
「ぐ、くぅう!」
再び痛撃にグロリアが揺れる。
今はまだ貫通していないが、被弾箇所と角度によっては貫通しうる威力があった。
アメリアはずいぶん遠ざかったベルナルドを見る。
「このままじゃ逃げられちゃう……!」
『追うな!』
老いた声が喝破する。
『屋根で踊っているのはブラフだ』
マンションの窓が狙撃銃の銃弾に砕ける。ブレンデンの銃弾だ。泡を食って建物を壊しながら移動する騒音、そして沈黙。
周囲の建物に隠れていた殺意が濃密に突き刺さってくる。
身をすくめるアメリアに対し、ブレンデンは獰猛に笑う。
『やはりな。狙撃兵が臥している。 五機か? 気をつけろ、あの口径は危険だ』
『ミスタ・ブレンデン。ベルナルドは沙希に任せるってのか?』
ライザの問いにブレンデンはしばし沈黙
し、
『ライザ。車を降りて行ってくれるか?』
『オイオイ、ウォーキーボックスの駆け回る戦場をのんびり徒歩で突っ切れって? ――任せろよ』
獣のうなるような勇ましい声とともに、車を降りる音がする。
「私は……」
『すまない、アメリア嬢。あの口径を食らっても生き残る目があるのはグロリアだけだ。いましばらく付き合ってほしい』
ブレンデンの念押しにアメリアは唇を引き締めて顎を引く。
「見捨てるつもりはありません。みなさんの突破を支援します」
『……ありがとう』
さあて、と老獪な狙撃手の声が冴え渡る。
『狙撃手の目を舐めるなよ、ガキども……』
「沙希、ごめん。あとはお願い……!」




