29.不可解な魔術構造と新参敵
久々のシリアスだぁー
それにしても、この街は平和ボケしている。
ついこの間までリヴァイア率いる第八部隊との戦争の火の中だったはずなのに、活気と生気に満ち溢れている。
まぁ、いつ死ぬかもしれないこのご時世、どんより緊張しっぱなしの毎日もつまらないだろう。
そう考えれば、この街の人たちの笑顔というのは僕みたいに作ったのもの、偽りのものかもしれない。
だが、とにもかくにも笑顔でいることはいいことだ、と、悪魔に似付かないことを考えてしまった。
『人間なんて種族、弱っちくてやりがいがねぇ』
そんなことを思っていた時期もあったな、と、苦笑してしまうこともある。
さて、そんな内面のことは置いておき、今僕らは『キルジスの監視塔』の見学をしている。
内装は軍用のものとは思えないほど快適で、僕らで言うところの『守護塔』に匹敵する。
「ほあーー。これはまたまた」
最上階の窓から外を眺めるミューがそんな感想をこぼす。
僕ら以外にも一般客というのは多いが、見たところ他国の軍人や研究者だろう者たちがほとんどだ。
この『キルジスの監視塔』はおよそ2世紀ほど前にキルジス・フィーハワード・レティックという者が建てた建物で、どういう魔術構造を練り込んだのか、並大抵の魔法では傷一つ付けられない要塞だ。
その魔術構造を解明するために多くの研究者が訪れたが、成果は皆無。
事実、この僕が解析魔法で調べようとしても全く分からないのだ。
キルジスは今はもうこの世から亡くなっているが、この『キルジスの監視塔』は今世に生きる者たちの課題の一つとなり存在する。
そして、この魔術構造を解明したら人間の軍力はぐんと上がるだろう。
まぁだとしても、僕にとってはオバケとかじゃ無い限り相手にもならないと思うけど。
でも、正直焦りはしている。
この魔術構造は女神テルトナが理解しているらしいが、流石に天界でもSランククラスの極秘事項で、『女神テルトナの書庫』の『禁書庫』に保存させているため、テルトナからの許可は下りなかった。
このご時世、まさか僕でも知らない魔術構造があるとは……所詮、僕も聖人君子では無いな、と思ってしまう。
そんなブルーな気分になって、僕は外の気を吸おうとミューの側に行き、窓の外を眺める。
目の前には、人間界と魔界の境界、そして、『奈落の樹海』が広がっていた。
空は手前が青く、奥が黒い。
その境界線というのは無く、青→藍→紫→黒と少しずつ変わっていっている。
いつか、どちらかの色で統一されるだろう空。
いや、決して統一されないかもしれない。
紫ーー二つの空が混じり合った空になるかもしれない。
そんな思いは気付いたらもう50世紀以上も続いている。
この戦争に満ち溢れた世界、それもまた、世界の答えの一つとして正しいのだろう。
今は転移魔法というのが普及し、魔族や人間がこの境界線そのものを越えることはあまり無い。
超えた矢先、直ぐそこにはお互いの戦線本拠地があるからだ。
人間界側は『都市フィリップ』、魔界側は『第七守護塔』と『奈落の樹海』。
『第七守護塔』は小規模だが、『奈落の樹海』に生息する魔物は基本人間にとって敵となる。
まぁときより魔族も襲われるが、脆い人間より個体値が強い魔族の方が『奈落の樹海』では優位だ。
「ご主人様、ご主人様、ちょっと」
気がついたら、ミカエルが手招きをしていた。
これは……耳を貸せって意味かな?
背を屈めミカエルの近くに頭を寄せる。
でもミカエルの口と僕の耳は少し離れていて、ミカエルが背伸びしてなんとか届かせる。
踏ん張る様子は愛らしいが、言ってきた内容に少しばかり緊張を覚えることとなる。
「(サンダルフォンと、メタトロンが、近くにいる)」
「……!」
サンダルフォンとメタトロン。
『七大天使』の二人で、一人一人の力は脅威では無いが、二人で力を合わせたとき、天界でも有数の戦闘力を誇ることになる。
そう、『女神テルトナの書庫』にはあったはずだ。
だがサンダルフォンとメタトロンは双子で、離れ離れになることはほとんどない。
確か先代の第九部隊隊長がこの2人にやられた筈だ。
「ミュー」
「…………はい」
僕の真剣な顔を見てミューも少しばかり緊張な顔つきになっただろうか?
「『七大天使』だ」
「……今回は、どうされるのですか?私といたしましては、ベン様お一人に任せるのは些か気が引けるのですが……」
前回はミカエル相手に僕一人でパパッと片付けてしまった(いやまぁ少しアクシデントはあったけれども)。
ミューは僕の部隊……第零部隊の名誉なことに初めての仲間だ。
そんな大切な仲間を僕は失いたくない。
だが、それでは成長はしない。
誰だっけか……そう、ガルドとやり合ったときに僕は手出しをしてしまったが、毎回僕が側についているわけではない。
ときには自分で解決しなければいけないこともあるだろう。
その時のために、僕は子を崖から突き落とす親のようになる。
「二人相手だけど……いける?」
「………分かりました」
少し顔を引きつらせるが、肯定の意を示す。
流石に無理だと僕も思う。
だが今では上官と部下という関係。
『いける?』などと聞いたがこれは命令に近く、拒否はできない。
だから、上官は部下の能力に見合った報酬を渡す必要が出てくる。
「見事討伐、もしくは撃退に成功したら一つだけなんでも言うことを聞こう」
「本当ですかっ!……………すっ、すいません」
見事な食いつきだ。
これもサキュバスとしての性か……
サキュバスは他人を誘惑することに長ける。だからこそ、自分達こそ誘惑に弱かったりする。
しかし、言っておきながらなんだが正直達成することは難しいだろう。
「ミカエル。ミューのサポートをお願いできる?」
「ん。分かった」
正直ミカエルを他の『七大天使』の前に見せるのは避けたかったが、仕方ない。
『七大天使』の絶望はもう少し熟成したかったが、未熟ながら頂くとしようか。
「なぁ、ワイは何するんや?」
あ、忘れてた。
「…………あれだ。僕のマッサージ?」
「ざけんなや」
作者「第三章は長くなる予定ですね」
ベン「めんどくさいのは嫌だよー。あと、セリフ増やしてよ。内心事情なんか正直どうでもいいんだからさ」
ミュー「確かに、それも進行が遅い原因でもありますしね」
作者「仕方ないだろ?なんか書いてるとと自然とそうなっちゃうんだから」
ミカエル「じゃあ一話一話の長さを長くすれば良い」
作者「………尽力する」
プチィーニ「まぁせめて一話あたり4000字は欲しいなぁ……」
作者「観葉植物は黙れ」
プチィーニ「おばけかぼちゃやない!ジャック(ry」
ベン「えっ⁉︎オバケ⁉︎怖いよぉ!」
ミカエル「よしよし」
サンダルフォン「さて次回はいよいよアタイらの登場ね」
メタトロン「次回……2/25。ブックマーク……高評価……コメント……質問……よろしく」