第31話 ピクニック(って、やる機会ほとんどないよね)
教室の前まで来ると、カーミラが後ろから僕の両肩にぽんっと両手を置いて、
「リリスちゃん、おはおは~」
と、挨拶してきた。
ああ、今日もカーミラはかわいいね。
僕は振り返って、
「カーミラ、おはおは~」
と返す。
「レズビィちゃんもおはおは~」
「おはお……おはよう」
「ねえねえ、今日のお昼はみんなで森の中で食べよう? ピクニックってやつ」
そういえば、ピクニックってやったことないな。僕は「どう?」といった感じでレズビアを見る。
「まあ、いいが」
「じゃあ、決まりだね。あとはスーちゃんと、テレちゃんと、オキュラちゃんにも伝えてくる」
カーミラはそう言うと、ぴょんぴょんスキップしながら、教室に入っていった。
「舞踏会の話、カーミラとスウィングにも言わないとね。時間ないし」
「本気であのふたりを連れていく気か?」
「もしかして、連れていかない気だったの!?」
「三体のお守りをするのは面倒だ」
「少なくとも、僕は手のかかる子じゃないからね」
「自覚ないのか?」
と、レズビアが言う。
「まあ、しかたないな。三バカトリオを連れていくことにするか」
「じゃあ、みんなで行くの? やった」
でも、僕はバカではないですからね。何度でも言いますけど。
「リリス、嬉しそうだな。そんなにエッチいドレスを着て、みんなに披露したいのか?」
「やっぱりエッチいやつ着させようとしてるんだ」
「それは当然だ」
「えー」
予鈴が鳴ったので、僕とレズビアは慌てて教室に入った。
※ ※ ※
昼休み、まずはみんなでサンドウィッチなどを購入しに売店に行った。
「リリスちゃんは当然これだよね」
カーミラが手に取ったのは、触手のサンドイッチ。超にこにこしてるし、超目がきらきらしてる。
「う、うん……」
やっぱりそれかー。でも、カーミラの笑顔を見ていると、断れない。
レズビア、スウィング、オキュラ、テレーズもそれぞれ好きなサンドウィッチを購入する。
ちなみに、スウィングの分はカーミラのおごりだ。
で、僕はみんなの分の袋を持つ。僕、メイドさんだからね。とほほ。
「リリスちゃん、持とうか?」
「大丈夫。重いもんじゃないし。それに、角のところにひっかければ、いっぱい持てるし」
僕は自分の角に袋をひょいと引っ掛ける。
「それ、すっごく便利だね」
「ただ、寝返り打ちづらいけどね」
※ ※ ※
森といっても、風光明媚なところでもなんでもなくて、黒っぽい葉をつけている木々が鬱蒼と茂っていて、空は赤で、雲は黄色だ。おまけによくわかんない動物の、絹を裂くような鳴き声が聞こえてくる。
まるで魔界じゃないか。
……あ、ここは魔界だった。
しばらく歩くと、ちょっと開けた場所に椅子とテーブルが置いてあった。
みんなでそこに座ることにした。
「今日はいい天気だし、すっごく気持ちいいね」
いい天気、なのかな? あと、この景色、ちょっと気が滅入る。
僕はテーブルの上にランチョンマットを広げた。
「サンドウィッチシャッフルして、好きなの食べよ」
と、カーミラがサンドウィッチをランダムに並べていく。
ただ、テレーズのゴムのやつだけは勘弁。
「そういえば、もうすぐお城で舞踏会があるわね」
と、オキュラがレズビアに言う。
「まあ、そうだな。三日後だ」
「あんた、いつも出てないけど」
と、スウィングがレズビアに言う。
「さして興味ないからな」
「スウィングはいつも出てるの?」
僕は触手サンドを食べながら言う。
そういえば、最近まではお金持ちだったって言ってたな。
「毎年出ていたけれど、今年は出られないわ。招待状が来なかったのよ。ちょっとうちの財産が減ったからって、薄情なものよね、まったく」
「ちょっとどころじゃないだろ」
と、レズビアが言う。
「スウィング、出たいか? 王族は三体まで魔族を招待できるのだ」
「本当に?」
「ああ」
「やったわ。これで社交界に返り咲きね」
「出たいか、と聞いただけで。連れていくとは言ってないぞ」
「きーっ!!! 何よ、性格悪いわね」
スウィングは、人面野菜のサンドウィッチをいらだった様子で噛み千切る。
今、ちょっと悲鳴が聞こえた気がする。うん、聞かなかったことにしよう。
「オキュラとテレーズはどうだ?」
と、レズビアはふたりに尋ねる。
「私は塾に行かないといけないから」
と、オキュラが言う。魔界にも塾ってあるんだ。
「わ、わたしはただの人形ですし……。こんな無機物の木偶の坊が舞踏会なんて出過ぎた真似です。ああ、暖炉の燃料くらいならお役に立てますけれど……」
「テレーズ、今の時期は暖炉は使わないぞ」
「そういう問題!?」
「しかたないな」
レズビアはやれやれといったふうに言う。
「リリスとカーミラとスウィングを連れていくか」
「いいの? レズビィちゃん? あたし、そういうとこ似合わない気がするけど」
「そんなことはない」
「うんうん、カーミラはどんなのでも似合うと思うよ」
「ありがとう、リリスちゃん。じゃあ、あたしも行くね。ありがとう、レズビィちゃん」
「レズビア、い、いちおうは感謝しておくわ。ありがとう」
と、スウィングが言う。でも表情には明らかな喜びが浮かんでいて、隠しきれてない。
「連れてってやらんぞ」
「わかったわよ。ありがとうございます。レズビア様。これでいいかしら?」
「トカゲにしては上出来じゃないか」
「くっ、舞踏会でトップをとってやるから、覚えてなさいよ」
舞踏会のトップって何だろう。
「リリスちゃんはどんなお洋服着るの?」
「超エッチいのだ。背中がものすごくはだけているやつだ」
「今でもわりとはだけているんですけど」
このメイド服、翼を出すために背中がぱっくりと開いている。ちなみに言うと、ブラ紐も見えちゃってます。
「もう尻のほうまではだけているやつだ」
「それ童貞殺しのやつじゃん」
「何だ、それは」
「ううん、何でもない」
「リリスさんがうらやましいです。私のお尻なんて、ただのシリコーン、誰の興味も引かないただのむなしい物体ですから……」
「人形がいいって男もいると思うよ」
ラブドールとか集めているひともいるし。
ちなみに、僕のアパートには、けっこう美少女フィギュアとかが飾ってある。ラブドールはないですよ。買うお金もないし。
「ぶっちゃけ、痴女よね、それ」
と、スウィングが言う。
「まあな」
「認めちゃうの!?」
「教育上よくない気がするわ」
と、オキュラが言う。
「オキュラもそう言ってるし、尻出すのはやめよう?」
「そうだな。舞踏会の雰囲気が壊れるな」
「自分で提案したんでしょ!?」
「ほんとに楽しみだな~」
カーミラがすっごく嬉しそうに言いながら、血のしたたってるサンドウィッチをほおばる。
「うん、楽しみだね~」
僕も触手サンドをもぐもぐ食べる。
もし、この三日以内に元に戻れる方法が見つかっても、舞踏会までは、元に戻るのはよしておこう。
「リリス、そればっかり食べているではないか」
と、レズビアが指摘する。
「え?」
あ、たしかに僕、触手サンドばっかり食べてる。
でも、ほかのやつもゲテモノばっかりだし、しょうがないじゃん。
そのとき、後ろから気配がした。
僕の対面に座っているオキュラ、テレーズ、スウィングが青ざめたような表情をしている。
ん?
後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。
「何? レズビア?」
「私は何もしてないぞ」
「カーミラ?」
「あたしも何もしてないよ」
「え?」
「リリスさん、後ろ……」
オキュラが震える声で言った。
何? 僕に興味ある男子がちょっかい出しにきたとか?
いやぁ、モテる女子はつらいね。
僕は後ろを振り返った。
ひえっ……。




