第27話 ラブレター(僕は書いたことも、もらったこともないですよ)
僕は昨日と同じように、中庭に洗濯物を干しに行った。
そして、その帰りに、レズビアのお兄さんのベリトさんとまた遭遇した。
普段、この時間、この辺を散歩してるのかな?
ベリトさんは頭に包帯を巻いていた。
「どうしたんですか。その包帯は?」
と、僕は聞いた。
「これかい? ちょっと転んで、角を折ってしまってね。根元からばきっとね」
「痛そうですね……」
「まあ、また生えてはくるんだけどね。しばらくはかかるだろうね。ただ、もう別に生えてこなくてもいいんだけど」
「どうしてですか?」
「角なんて邪魔じゃないか。寝返りもうまく打てないし。リリスちゃんはそう思わないかい?」
「たしかにちょっと邪魔に思うときもありますけど、でも、角があったほうがかっこいいです」
「そうかな」
「そうですよ。角とドリルは男のロマンです」
あと、合体したり、変形したり。合体って卑猥な意味じゃないですよ。
「ええと、リリスちゃんは女の子だよね?」
「え? まあ、そうですけど。男の子が考えるようなロマンってことです」
「ロマンにしてはほとんどの魔族には角が生えているけれど……」
「えっとですね。とにかく、ベリトさんは角が生えていたほうがかっこいいってことです」
流れで男のことかっこいいとか言ってしまった。これもビッチ的な言動かな? そんなつもりはないんだけど。
「ありがとう、リリスちゃん。リリスちゃんは、自分が魔族だってこと、どう思ってる? 淫魔族のこと、差別してくるやからもいるみたいだし」
「つらいことも多いけど、クラスメイトはけっこう優しくしてくれます。だから、別にどうとも思ってないです」
さすがに僕は元々は人間で、今の魔族の身体を捨てて元に戻りたいです、なんてことは言えないので、ちょっとした嘘をつく。
「異界の人間の言葉にこんなものがある。『神よ、変えることができるものに挑むための勇気を、また、変えることができないものを受け入れるための落ち着きを、そして、変えられるものと変えられないものを見分けられる賢さを、私に与えてください』」
「いい言葉ですね」
僕の今の状況、変えることができるものなのか、それとも変えることができないものなのか。でも、変えるためにチャレンジするしかない。
「そうそう、僕のところのメイドになるって話は、どうかな」
「ごめんなさい。お断りします」
「そうか。レズビアはいいメイドさんを雇ったみたいだ」
「いえいえ、僕はまだまだ駄メイドです。それじゃあ、失礼いたします」
僕はそう言って、ベリトさんのところから立ち去り、レズビアの部屋に戻った。
※ ※ ※
そして、登校二日目。
僕はレズビアとふたりで堕落街を歩いて、魔界学園に向かう。
「ねえ、レズビア?」
「何だ?」
「やっぱりレズビアってすっごくかわいいよね」
「な!? 何だいきなり、気持ち悪っ!」
「レズビアってツインテール似合いそうだよね」
「私には似合わない」
「リボンとかすごく似合いそう」
「おい、やめろ」
「ほら、あそこにアクセサリー売ってるお店があるよ」
僕はレズビアの手を取って、そこまで引っ張っていく。
「待て。あんまり時間がないぞ」
「ちょっとだけだからさ」
おばあさんの魔族が露天にいろいろなアクセサリーを広げていた。
ネックレスとか、ブレスレットとか、指輪とか、ヘアピンとか、バレッタとか、カチューシャとか、あと名前よくわかんないやつとか。
「このヘアピンにリボンついているやつとかどうかな? レズビアにはこの黒いやつとか似合うと思う。ほら、こうやって角の根元のところに」
「おい、やめろ。つけようとしてくるな。リリスこそ、この色違いの赤いやつとかどうだ?」
「おやおや、おふたりともかわいいねぇ。若いっていいねぇ。お代はふたつで12ペロだよ」
と、おばあさんが言う。てか、魔界の通貨単位、ペロっていうんだ。
「じゃあ、このふたつをくれ」
レズビアはおばあさんに銅貨を支払う。
「おい、こんなことしている時間はない。急ぐぞ」
僕らはお店をあとにし、急いで学校に向かった。
※ ※ ※
教室に入ると、カーミラが、
「リリスちゃんとレズビィちゃん、それおそろい? 超かわいいね」
「おい、やめろ」
レズビアが髪飾りを外そうとする。
「何で取るんだよ」
「そうだよ、そのままのほうがかわいいよ」
「恥ずかしい」
「今日一日くらいはつけててもいいじゃん」
「わかった。今日だけだぞ」
レズビア、満更でもなさそうじゃないか。
ふと、机の中から何かがはみ出しているのが見えた。
引き出してみると、がさがさがさがさがさがさと大量の手紙が崩れ落ちてきた。
「何これ……」
僕はそれらを拾い上げ、机の上に広げた。
その内容は――
「一目ぼれしました」「僕と付き合ってください」「大事な話がある。今日の放課後、体育館裏で待っている」「結婚してください」「一発やらせてください」「将来に向かって歩くことは僕にはできません」「この手紙と同じ内容を10日以内に5人に送らないと不幸になります」「ご不要になった家電を買い取ります」
ひえっ、なんすかこれ……。
ラブレターなんて初めてもらった。わーい……なんてならねーよ。
レズビアはその手紙群ちらっと見ると、すぐにびりーびりーびりーと破いていった。
「いきなり破んなくても」
「もしかして、この中に興味あるのがあったのか?」
「ひとつもないけどさ、でも断るならちゃんと断ったほうがいいし」
「こんなのにいちいち付き合ってたら、きりがないぞ」
「そうかもしれないけどさ」
ラブレターを書いた男子の気持ちを思うと、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
あ、僕は書いたことないですよ。
「ずいぶんとモテるみてーだな。さすがは淫魔族だ」
と、隣にいるアルビンが言ってくる。
「男子にモテたくなんてないんだけど」
「そうなのか?」
アルビンが意外だといった感じで言う。しかし、すぐにかぶりを振って、
「まあ、そうかもしれねーな」
「もしかして、この中にアルビンのやつもあったのか。それはすまないことをしたな」
と、レズビアが言う。
「ちげーよ。んなわけねーだろ」
※ ※ ※
午後の数学の授業のときだ。
尻尾がなんかむずむずしてきた。
え? 誰かに触られている? 尻尾フェチ?
隣にはアルビンしかいないけど……まさか。
ん? 何か尻尾に結びつけられている感じがする。
僕は尻尾をひょいっと動かして、手元に持ってくる。
そこには紙片が結び付けられていた。
僕はそれをほどいて、開いてみた。
――大事な話がある。今日の放課後、体育館裏で待っている。
え? じゃあ、朝のあの手紙、マジでアルビンのだったの?
てか、普通に渡せや。
まあ、レズビアに容赦なく破り捨てられて、かわいそうだったね。
僕の答えは、はなっから決まっているけどさ。ちゃんと断ってあげるのが義理ってもんだよね。アルビンは若干ムカつくやつだけどね。
あ、そうそう、僕もアルビンに用があるんだった。元の世界・元の姿に戻るための方策を聞くっていうやつ。
あー、でも交換条件とか持ちかけられてきたら厄介だな。
※ ※ ※
それで放課後になった。
アルビンは先に教室から出ていった。
どうにか僕はレズビアから離れないといけない。
「ちょっとトイレ」
と、言って、僕はレズビアから離れた。
ちなみに、トイレ行きたかったのはほんと。
そして、トイレで用を足すと体育館の裏に向かった。
※ ※ ※
ちょっと迷ったけど、校内の案内掲示板を見ながら、なんとか体育館裏にたどりついた。
はたしてそこには、アルビンが待っていた。
僕はアルビンと対峙する。
「何?」
と、僕は聞く。
アルビンは、鋭い目つきで、僕の目を見据えて言った。
「お前、本当に淫魔族か?」




