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第26話 ロリレズビアとロリリリス(僕はロリコンじゃないですから)

 魔王城へ帰り、それから銭湯に入ってさっぱりしたあと、


「私は隣の部屋で魔術の研究をしている。リリスは先に寝てていいぞ。もちろん私のベッドでだ」

 と、レズビアが言う。


「えっと、これからもずっとレズビアのベッドで寝ていいの?」


「ああ。やっぱりリリスを抱き枕代わりにしてねるほうが気持ちいいからな」


「やっぱ僕抱き枕なんだ」

 でも、例のかったいベッドで寝るよりはずっとマシだ。


「寝るのがまだ早いというのなら、適当に好きにやってていい」


「そんなこと言われても、特に楽しむようなものとかないし」

 僕はレズビアの部屋を見渡す。


 ゲームもないし、漫画もないし、パソコンもない。

 何すればいいんですかね。「びっくりするほどユートピア!」とかやればいいんですか。やらねーよ。


「そうだな」

 レズビアは、少し考えるようなそぶりをする。

 そして、いったん実験室に入って、何かを持ってきた。


 日本の写真週刊誌だった。


「前にペロンチョ界から召喚したやつだ。まあ、暇つぶしにはなるだろう」


「物を召喚するっていうのかな」

 僕はそれを受け取る。

「これ、5年前のやつなんだけど」


「そうなのか? 最新のをピンポイントでというわけにはなかなかいかないからな。もっとうまくいくようにいろいろ試行錯誤はしてるのだが」


「えっと、僕が元の世界に戻れるような、そんな研究とかはしてくれない……よね?」


「まだそんなことを言っているのか」


「もし僕が『伝説の勇者』として召喚されても、魔族のことを殺しまくるなんてことはしないから」


「信用できんな」


「ほんとだって」


「まあ、リリスが楽しめるように、いろいろと善処はする」


「はぁ……そりゃどうも」

 僕は「ありがとう」とは言えなかった。


 だって、勝手にひとを誘拐して、欲しいものは全部与えてやるから満足しろみたいに言われても、感謝なんてできないじゃないか。


「私も済まないとは思っているさ」

 と、言うと、レズビアは実験室に再び入っていった。



   ※   ※   ※



 僕はベッドに腰掛けて、写真週刊誌を読み始める。


 そういえばあの芸能人不倫してたよなーとか、政治家の汚職事件とかあったなーとか、ちょっと前の記憶がよみがえる。5年前の話だし、別にだからってどうしたことはないんだけど。

 週刊誌の連載小説も、この一回だけ読んでも前後が気になるだけだ。

 もう読むべきところはない。


 何だか眠くなってきちゃった。今日も疲れたからね。


 僕は週刊誌を枕元にぽんっと放り出し、ベッドに横になった。

 そして、すぐに意識が薄くなっていった。


 ……………

 …………

 ………

 ……

 …


 近くには大きな煙突があった。魔王城の銭湯にあるやつだ。

 どうやらここは銭湯の裏手らしい。黒っぽい雑草が繁茂していて、建材のようなものが放置されている。

 空には星がまたたいていて、二つの月が輝いていた。


 ふと、誰かがやってきた。


 僕はとっさに建物の影に隠れる。


 白のワンピースを着た小さな女の子だった。小学校低~中学年くらいに見える。


 ピンク色のロングヘアをしていて、頭には渦を巻いた角、背中には翼が生えており、そして、先端がハートマーク状になった尻尾がある。


 え? リリス……の幼いときの姿?


 いや、この僕の今の身体はレズビアが作りあげたものだ。幼いときの姿なんてあるはずがない。


 しばらくして緑色のパジャマを着た一人少女がやってきた。


 青い肌をしていて、頭には黒い角が生えている。

 顔立ちはレズビアにそっくりだった。


 もしかして、子供のときのレズビア? ロリレズビア? けっこうかわいいじゃん。


 ――ちなみに、僕はロリコンではありませんからね。断じて。


「リリィちゃん、待った?」

 ロリレズビアがロリリリスに言う。


「ううん」

 ロリリリスは首を横に振る。


「これ、持ってきたんだ。かわいいでしょ?」

 ロリレズビアがお花で作った冠を取り出した。


 そして、ロリリリスの頭に載せる。


「ありがとう」

 と、幼いリリスが面映そうに言う。


「すっごくかわいいよ」

 と、幼いレズビアが嬉しそうに言った。


「レズビアちゃんのほうが似合うと思うよ」

 と、言って、今度はリリスがレズビアに花の冠をかぶせる。


「私はこういうの似合わないよ」


「そんなことないって。レズビアちゃん、お姫様なんだから」


「私なんかより、リリィちゃんのほうがずっとお姫様にふさわしいと思うけどね」


「私はダメだよ。淫魔族だし」


「リリィちゃん、自分の種族のこと気にしてるの? 私はリリィちゃんが魔界でいちばんいい子で、いちばんかわいい子だって思うけど」


「そんなことないよ。私だって、大人になったら……今とは全然変わっちゃうと思う」


「リリィちゃんはリリィちゃんだよ! これからずっと。それで私たちはずーっと友達」


「そうならいいんだけどね」


「そんなこと言わないでよ」


「ごめん、レズビアちゃん」

 幼いリリスは、幼いレズビアの手を取る。

「でも、こうやって隠れて会うのも、いつまでできるかわかんないし」


「私が、お父様にも、お兄様にも、お姉様にも、メイドさんにもみんなに、リリィちゃんはスラムの子でも、淫魔族の子でも、すっごくいい子だって言うから」


「たぶん、うまくはいかないと思う」


「リリィちゃん、私は……」


「ねえ、レズビアちゃん、お星様を見ましょう?」


「お星様?」


「うん。今日はとってもきれいだから」


 それからふたりは並んで座って、星空を見上げた。


 僕も建物の陰から星空を眺める。

 月もふたつあるし、この星空は僕のいた世界のものとは違うものなんだろう。

 もしかしたら、この魔界は別の次元じゃなくて、同じ次元の違う惑星なのかもしれない。ただ、僕にはそれを確かめるすべがない。


 ふと、何やらごそごそと物音がした。


「誰!?」


 ロリレズビアが立ち上がって、そちらのほうを向いた。


 僕のほうではなかった。僕とは反対側の建物のほうだった。


 何者かの影がすっとその場から去っていくのが見えた。


 ……………

 …………

 ………

 ……

 …


 痛っ!


 痛て痛て痛て痛て痛て!


 何? 何? めっちゃ痛いんですけど!


 目を覚ますと、尻尾を引っ張られていた。


 レズビアが僕の尻尾を腕にぐるぐると巻きつけている。


「起きろ、駄メイド」


「痛いからやめて。引っ張らないで。ちぎれちゃうから。お願い、後生だからやめて。ううっ……」


「そんな泣き顔を見せるな。私がすごく悪いことをしたみたいではないか」

 レズビアは僕の尻尾を手から離す。


「すごく悪いことしてるからね?」

 僕は尻尾の付け根をさする。こんな乱暴な扱いをされて、かわいそうな僕の尻尾。

「もうちょっと普通に起こしてくれないかな」


「私もいろいろと試してみたのだがな。昨日のように乳も揉んでみたが、まったく起きなかった。もう揉まれなれてしまったのかもしれないな」


「ううっ」

 そんな慣れいらないんですけど。

「あの、レズビア」


「何だ?」


「えっと、何でもない」


「言いたいことがあるのか?」


「おしっこ」


「いちいち排尿の宣言なんかするな。勝手に行け」


 僕はベッドから起き上がり、トイレに行く。

 さっき言いかけたことは、僕がレズビアの夢の中に入ってしまったということだ。

 でも、とっさのところでやめた。どうせ「キモい」だのなんだのと言われるだろうし。


 それに、僕も他人に夢の中に入ってこられたら、「うわっ、キモっ! 人の夢の中に入ってくんなし」って思うだろうし。


 でも、あの夢は何だったんだろう。レズビアの願望なのかな? 

 小さいときから僕と遊びたかったとか?

 子供のときから友達がいなくて、それであんな夢を見てたの?


 寝起きで尻尾引っ張られたことはムカつくけど、今日はちょっとレズビアに優しくしてやってもいいかな。

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