第25話 アイドル(もなかなかたいへんでしょうね)
それから僕らはデパートの飲食店街にあるハンバーガーショップに入って、夕食をとることにした。
カウンターにレジが並んでいて、その上に、バーガーの写真が映っている看板が掲げられている。ただ、マンドラゴラとかクラーケンとかコカトリスとかやばそうな名前が踊ってる。うーん、やっぱ魔界なんだなって。
僕らはレジの前に並ぶ。
「あの触手ドッグとかいうのはどうだ?」
と、レズビアが上に掲げられているメニューを指差す。
「どうだ、と問われたら、嫌だ、と言いますけど」
「じゃあ、触手ドッグで決まりだな」
「ううー。僕の意見聞いてくれないの」
てか、また触手。どこまでお前は俺につきまとってくるんだい?
レズビアと僕はふたり並んでレジに行く。
そして、レズビアが注文をする。
「クラーケンバーガーのセットで、サイドメニューはポテトフライ。飲み物はコーラ。それと触手ドッグのセットで、触手のフライ、飲み物はマンティコアの精子のシェイク」
「って! ダブル触手じゃん! それに精子のシェイクとか名前露骨過ぎるでしょ。えんがちょ過ぎるでしょ。もっとオブラートに包んでよ!」
「店員、このおっぱいの言うことは気にするな」
「は、はぁ……」
店員さんは困惑気味に言う。
「ほかのひとにおっぱいって呼称使うのやめて」
「ぐちぐちうるさいからだ」
「絶対精子のシェイクなんて飲まないからね。てか何、マンティコアって」
「どうせまた涙を流しながらうまいと言うくせに」
「そんなこと言わないからね」
※ ※ ※
「うまい……」
何でうまいと感じちゃうんだ。ううー。また涙出てくる。
ちなみに、またまた僕らはスウィングに餌を与えてやった。「哀れなトカゲだな」「誰がトカゲよ」みたいなやりとりがあったけれど、毎度のことなので割愛。
僕がホットドッグを食べるのをレズビアが見て、
「リリスが細長いものを食べているのは、ずいぶんとエロい感じがするな」
「レズビア様の食事もずいぶんとエロい気がしますね。子供のころと比べて、ずいぶんと大人の色気が出ていると思いまーす」
「おい、やめろ。それに私の子供の頃なんて知らないだろうに」
「リリスちゃんって、かわいいからアイドルとかできそうだなーって思う」
なんてことを急にカーミラが言い出す。
「アイドル?」
「うんうん、魔界にもアイドルグループいっぱいあるけど、リリスちゃんならトップとれるかもね」
「いやぁ、そんなことないと思うけどね」
と、言いながら、僕は妄想する。
………
……
…
「みんなー!!!!!! 今日は僕のライブに来てくれてありがとー!!!!!!」
「うおおおおおおお!!!!!! リリスちゅあああああああああん!!!!!!」
「みんな大好きだよおおおおおおおおお!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「それじゃあ、一曲目いくよおおおおお!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「スターダスト・ハルシネーション!!!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
てんつくてんつくてんてんてん。
軽快なリズムが流れる。サイリウムが振られる。
まるでカラフルな精霊流しのようだ。
舞台から火花がぱーんと上がって、僕は軽快にジャンプ!
おっぱいがばゆーんと揺れ、口元に持っていたマイクを吹き飛ばした。
あ……。
………
……
…
「カーミラが言っているのは、歌って踊ったりするアイドルよね?」
「そうだよ」
「でも、リリスはどっちかっていうと、グラビアアイドルって感じよね」
「グラビアアイドルねえ……」
………
……
…
ぱしゃぱしゃぱしゃとカメラのフラッシュがたかれる。
「いやぁ、リリスちゃん、女豹のポーズ似合ってるねぇ。いいよいいよ」
「もっと顔もこう、上目づかいで誘うような感じでさ」
「こ、こうですか……」
僕は恥ずかしさをこらえて上目づかいをする。
「いやぁ、すっごいいいよ。超エロいよ」
「あの、そろそろいいですか。けっこう恥ずかしいんですけど」
「いやいや、今度はもうちょっと身体を傾けて。おっぱいを床にむにっとつぶす感じで」
「でも、僕は……そんな……」
「恥ずかしがってるところも初々しくていいねぇ。でも、これ仕事だからさ。君もお金もらってるんでしょ」
「ううっ、わかりました……」
僕は身体を傾けて、おっぱいを床にむにっとつぶす感じのポーズをとる。
「いいねいいね。ほんとにリリスちゃんは1000年にひとりの逸材だよ」
何で僕がこんなことしてるんだ。うえーん。
………
……
…
「魔界中の男子のオナネタにされそう……」
「あんたそんな単語言わないでよ。ほんと下品ね」
「しかしすでにもうクラスの男子のそれにはされてるだろうな。むしろAVとか似合いそうだな」
「おい、やめろ」
さすがにAV女優の姿は妄想できないよ。
「やったねっ、リリスちゃん」
「カーミラ、何にもいいことなんてないからね」
「そういえば、今日アルビンがずっとあんたのこと見てたわよ。もしかして好かれてるのかしら? それともアレ? 淫魔の能力で男を落とすってやつ」
「何であんなやつにそんな能力使う必要あるんだよ。まったく興味ないんだけど」
でも、好きな女の子に「まったく興味ない」とか言われたらめっちゃショックだよね。
ちなみに僕はそんなこと言われたことないよ。言われたのは「あんた私のこと好きなの? うわぁ、マジでキモい」だから。
「しかしアルビンがリリスのことをずっと見てたってことを知っているということは、スウィングもあの兎男をずっと見ていたということではないのか?」
と、レズビアがスウィングのことを半目で見る。
「ち、違うわよ。そんなんじゃないわよ」
「あ、スーちゃん、リリスちゃんのこと見てたんでしょ」
「否が応でもその駄乳が視界に入ってくるからよ」
「誰が駄乳だ」
「レズビアこそ、アルビンと幼馴染なんでしょう?」
と、スウィングが聞く。
「ただ昔から知っているだけだ」
「もしかして、三角関係ってやつ?」
スウィングが口に手を当ててにやつく。
「おい、イモリ、黒焼きにするぞ」
「だからイモリでもヤモリでもないわよ。何よ、黒焼きって」
アルビンの話題になって、ふと思い出したけど、彼って魔術の成績がこの学園でいちばんなんだよね。レズビアが僕をここに呼び出して、この姿に変身させたのも、魔術。つまり、アルビンに頼めば、元に戻れる方法を見つけ出してくれるかもしれない。
うーん、でもあの男に頼み込むのって、何か癪だなあ。
※ ※ ※
デパートから出て、僕らは帰途につくことにした。
僕の手には紙袋がいくつも握られている。
僕、メイドさんだからね。荷物運びとかしないといけないからね。
ちなみに、カーミラとスウィングは魔界学園の寮に帰るということだった。
カーミラは帰りしな、
「今日はすっごく楽しかったね。もっともーっとみんなで遊ぼうね。海とか山とか谷とか川とかカラオケとかボーリングとかダーツとかナイトプールとか」
「そ、そうだね」
「リリスちゃん、どうしたの? 何か浮かない顔してるけど」
「そんなことないよ。今日はすっごく楽しかったよ」
と、僕は言う。嫌なこともあったけど、楽しかったこともあったのは事実だ。
このまま魔界でレズビアとカーミラとスウィングと一緒に過ごすっていうのも、ちょっと考えてしまう。でも、そういうわけにもいかないんだ。
元の世界に帰って、父さんと母さんに魔界の土産話……は、ちょっと聞かせてあげられないかな。




