↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された勇者、戦友の令嬢から溺愛される  作者: アレセイア
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/28

第25話

「何故だ、何故、こんなにも欠席者が多い――!」


 国王執務室。そこでは怒鳴り声が響いていた。

 その怒鳴り声の主はこの国の主であり、シグバード・ル・フォン・ルーデンドルフその人である。その勘気に王の前に立つ男は身を震わせた。

 顔面蒼白にしながら男は絞り出すように言葉を続ける。


「も、申し訳ございません……! ただ、招待状の返事が欠席なのもまた事実でして……ただいま、その原因を調べておりますが、その……」


 男は逡巡してから、小さく言葉を続ける。


「一部の貴族は明確に『マーロック家の茶会に出席するため』と申しております」

「――っ、何故だっ、子爵家の茶会より、王族の夜会の方が優先すべきだろう!」


 苛立ちを載せて荒々しく拳で机を叩く。その音に男は再び身を震わせて平伏さん勢いで頭を下げる。


「い、今一度招待状を送るなどの対応を致します故――」

「いえ、少々お待ちください」


 男の震えた声を遮ったのは、部屋の壁際に待機している一人の男だった。シグバードは不機嫌さを隠そうとせず、視線を男にぶつける。


「ドリウス、何か意見があるのか」

「ええ。ひとまず陛下、お怒りを収め下さい。彼に当たり散らしても利はありません」

「当たり散らしてなど――」


 そう言いかけ、自身の言動を顧みてシグバードは首を振った。それから感情を押し殺して手を振って告げる。


「下がれ。また追って指示を出す」

「ははっ――!」


 報告に来た男を下がらせてから、シグバードは改めてドリウスを見る。


「それで――近衛隊長、何か意見があるのだろうな?」

「無論です。陛下。まず、夜会の欠席者のほとんどですが、理由がどうあれ、マーロック家の茶会に出席する模様です」

「ふん、たかだか子爵家の集まりに何故――」

「それがどうにも、勇者が茶会に出席するらしく」


 その言葉にシグバードの頭に一瞬にして血が上った。気づけば机に手を叩きつけ、椅子から腰を浮かせていた。


「またあの勇者か……!」

「お気を鎮め下さい。陛下」


 王の勘気を前に、ドリウスは落ち着いていた。部屋に置かれていた水差しからコップに水を注ぐと、シグバードに差し出して告げる。


「今、欠席しようとしている貴族たちは去就に迷っているだけのこと。ここで王が動揺を見せたら、相手の思う壺でしょう」

「……む、むぅ……」


 シグバードはその指摘に呻きながら、水の入ったコップを手にした。それを飲むと、冷たい感触が喉を滑り落ち、冷静さを取り戻させてくれる。


(――さすがはドリウス。認めたくはないが、俺のことをよく分かっている)


 ドリウスはシグバードの乳兄弟にあたり、まさに弟妹以上に兄弟のように過ごしてきた。それだけに性格や宥め方を熟知している。

 だからこそ、シグバードは彼を近衛隊長とし、常に傍に置いていた。

 無論、頭の回転も速く、シグバードの弱点を把握して戒めてきた。


「ならば――ドリウスよ、気にするな、というのか。我らが主催する夜会に欠席者が多いとなれば、王家の沽券に関わってくる」

「今はそれしかないかと。ただ、欠席者たちの名はきちんと控えておき、いずれは白黒つけるべきでしょう。そして、次に備えて手を打つべきかと」

「なるほど、して、次に備えた手とは?」


 シグバードが催促するが、ドリウスは一息ついてから慎重な口調で訊ねる。


「――その前に陛下のご存念をお伺いしたく」

「ふむ、答えよう。問うといい」


 鷹揚に頷けば、ドリウスは低い声で訊ねる。


「勇者はこれまで魔王軍に対する切り札でした。ですが、戦況は好転した今、必ずしも勇者は必要ではないと思えます――それを踏まえた上で、陛下」


 ドリウスの目が淀んだ光を放ち、その問いを投げかけた。


「勇者はまだ必要と考えますか?」

「……なるほど」


 シグバードは側近の意図を正しく汲み取った。その上で確認するように訊ねる。


「勇者を、排除するか」

「はい。今やあの男はこの王家にとって癌になりつつあります。そして、王家に不満を抱えている者たちはその男の周りに集まりつつある。それが現状にございます」

「茶会は、その表れか」

「ええ――ただ、今はまだ勇者という存在を中心に集まっているだけ。その中心点がなくなれば、自ずと連中は空中分解するに違いありません」

「――なるほど。一理ある」


 このまま、団結を許してしまえば、王家といえど彼らを無視し続けるわけにはいかない。どこかで要求を呑むなり、妥協せざるを得なくなる。

 それはつまり、王家の威光の敗北を意味する。

 それは断じて認めるわけにはいかない。


(勇者の利用価値は、魔王軍との戦い。だが、今は戦況は好転している――)


 しかも勇者が前線から離れてすでに一か月が経ち、それどころか前線の将軍たちも隙を見て王都に来ている。つまり、魔王軍の圧力はそれだけ減っているのだ。

 ならば――勇者などはもはや不要ではないか。

 ふふ、とシグバードの口の端に笑いが込み上げた。

 それを見てドリウスが静かに声を掛ける。


「――陛下、お命じ下されば、我ら証拠を残さずに実行します。丁度、絶好の機会があります。狙われているとも知らず、のこのこと姿を現す日が」

(なるほど、確かにおあつらえ向きだな)


 ドリウスの言わんとする日が分かった――茶会の日だ。

 確かに勇者が出てくると公言されているのであれば、まさに絶好の機会だ。シグバードはますます邪悪な笑みをこぼすと、ドリウスに鷹揚に告げる。


「命ずる――ドリウスよ、勇者を抹殺せよ。できる限り大々的にな」

「承知しました。恐らくはどこかで勇者に注目が集まるときがあると思います。そのときに必ず奴を仕留めて見せます」


 その言葉にシグバードは想像を膨らませる。

 王家に不満や反感を抱く者が集まる茶会。その連中の目の前で勇者を暗殺する。そうすれば、連中はどんな顔をするだろうか。

 そして、敏い者はすぐに気づくだろう。王家に逆らえばどうなるか。


(はは、今に見ていろ。勇者め――)


 シグバードは笑いを抑えながら椅子にふんぞり返るように座る。その前にいたドリウスは頭を下げると静かに退いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。