第24話:暗黒の旧支配者
この物語はフィクションですが、
登場する人物・団体・名称等は、
実在のものが意識されています。
本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく
全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。
この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を
作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。
「魔王様が、消えた?」
彼の失踪は、4人にショックを与えた。
退屈な毎日に意味を与えた存在の消失は
自分たちの今を否定されたようにすら感じられた。
「どこに消えたのか追跡できませんか?」
「宇宙の本棚にアクセスして
ログを検索するだけですぐに見つかる。
問題は、その俺達が全員そのアクセス権限を
自らの手で放棄してしまっていることだな」
特撮を楽しむため全知たる神の力を放棄した故に
特撮の楽しさを教えてくれた魔王を追いかけられない。
彼等にできるのはもはや、
特撮の中でしか見たことがない探偵という職業のように
地道にその足を使って魔王の足取りを追うことだけだ。
それでも……
「仮に地球にいるとしても、
この宇宙の中における地球は
恒河沙の中の一粒に過ぎません。
探し出すことは、不可能としか言えませんね」
4人に沈黙が訪れる。
もう、会えない。
世界を、そして、自分たちを壊した、あの魔王には。
「……いえ、方法はあるわ」
「ff0000?」
ノアの迷いは消えた。
やることも、やれることもひとつしかない。
「探し出すのが無理なら、帰ってきてもらえればいい。
魔王様は仰っていたわ。
自分は人を驚かせたかっただけ。
その人が消えた今は本望ではないと。
それなら……もう一度世界を作り直すのよ。
魔王様が支配するための世界を。
私たちの特撮のための、世界を」
そしてフィルムが今、回り始める。
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目的がまるでわからない魔王軍の行動。
『わからない』を打破するため、
そして何よりサノシ教授を救うため。
行動をはじめるリンネなのだが。
(現状の謎解きの糸口が皆無だ。
ならまずはひたすら情報を集めるしかない。
まずはサノシ教授とその周りを
徹底的に調べるところからだな)
と、探偵の真似事をはじめようとするリンネだったが。
事件は思ってもいない形で解決する。
「えっ!? サノシ教授が退院したぁ!?」
救う以前にあっさり退院。
そもそも入院した理由は精神錯乱と
止められない自傷だったのだが。
「どうも学長。心配おかけしたようで申し訳ありません」
「あ、ドモドモ」
完全に精神錯乱状態は回復しており、
自傷をはじめる様子も皆無。そして何より。
「ここ数週間の記憶が、ない?」
「そうなんです。私の最後の記憶は前回の大講義。
あぁ、私が恐竜絶滅の理由を質問した時ですね。
覚えてらっしゃいますか?」
「もちろんです! よく覚えてます!」
当日はまるで気にしていなかったが
入院してからその時のことを聞いて思い出しましたとは
口が裂けても言えないリンネである。
「なら、あの論文のことを覚えてらっしゃいますか?」
「論文?」
「並行世界への転移というタイトルの論文です」
「ヘイコウ、セカイ?」
教授は首をかしげて。
「知らない言葉だな」
すなわち、あの論文を書いたのは
サノシ教授ではない、第三者ということになる。
さらに言えば、サノシ教授の言葉を聞いて
論文を代筆したという看護師すら存在していない。
そしてその論文も今や行方不明。
つまり、病院に入院中の情報が
すべて夢幻だったようにそのまま抜け落ちていて、
何も残っていないのである。
(本当に何も残っていない……本当に?)
教授と別れ、入院していた病室に戻ったリンネ。
白いクッションで囲まれた部屋と、
教授が着ていた拘束衣だけがそのまま残り、
論文はもちろん、あの時のヤカンヅル、
もとい、ティーポッドも存在しない。
「あの辺にあったよな……ティーポッド」
すべてが意味不明だが、
一番わからないのはヤカンヅルだ。
それ以外の要素は何か繋げると
ストーリーを感じるような気もするのだが
唯一このヤカンヅルだけ完全に浮いている。
物語的にも物理的にも。
そもそもあんなところに突然ヤカンヅルが
現われたところで。
「私がついそれを見てしまう以外、意味がない」
口にすることで、リンネの中で推理が加速していく。
今回の一件が魔王軍の仕業である可能性は高い。
それを前提で推理を進めるなら、
今回もやはり何か特撮に関するものの可能性が高い。
ならば。物理的に手元に何もなかろうとも。
残っているものは、ある。
「映像は……残る」
たとえフィルムがなくなっても、
録画したビデオテープが擦り切れても。
永遠に保存できると言われたレーザーディスクが
実はせいぜい50年程度しか残らなかったにしても。
記録媒体を変えて、映像は残る。
何千年先の、未来にまで。
「まさか、私は……」
その極めて不愉快な結論に辿り着く、直前。
「リンネ学長! 大変です!
魔王軍の魔法放送に……南方調査隊が!」
報告に来た事務員の慌てようから一大事と判断し
とりあえずは思考を中断。
道中で概要を聞くに、どうも南方調査隊の伝書鳩が
とにかくとんでもない報告を届けたとのこと。
この時点で純粋な心配が半分になり、
残りのうち嫌な予感半分、顔のにやけが半分になる。
「学長! とんでもないことが……」
「とにかく見せてください」
普通に考えて、まともな合理主義に生きる教授陣が
とんでもないと適当な言葉で報告するのはおかしい。
ただ、ひとつだけそうとしか言葉にできなくなる
ケースに心有当たりがあった。
「あぁ……やっぱり……」
そう、名状しがたき宇宙的恐怖との遭遇である!
「……これ、届けた鳩は本物ですか?」
「おそらく……」
「では、向こうの担当のサインは?」
「ちょっと見せてください」
保管したサインと手元の手紙のサインを
しげしげと確認する事務員。
彼はリンネの意図を汲めている。
すなわち、これが嘘であり、
偽の手紙と疑っているという話である。
この恐怖が真実であって欲しくない。
その期待がバイアスとなり「サインは偽物だ」と
言ってしまいたくなる事務員だったが、
結局顔を青くしたまま弱々しく首をふる。
「……いえ、残念ながら本物です。
2つのサインはまったく同じものでした」
「良かった。じゃ、偽物ですね」
「えっ!?」
何を言っているんだと手元のサインを
改めて確認するが、どうみてもサインは瓜二つ。
いや、瓜二つどころかまったく同じ……
「あっ! そ、そりゃそうですよね!」
「はい。サインなんてその時の体調や心情で
多少の誤差が生まれて当然のもののはず。
まして、恐怖に駆られている状況で書いたなら
必ず普段より弱々しくなる。
それが瓜二つということは、
それ自体が本人が書いたものではないという証明です」
実はこれ、リンネが魔王軍のかけた罠の1つだった。
彼らが未来人であるということは、
現代人以上に文字を手書きする機会がなく、
機械での印刷に頼ってしまうはず。
特にサインともなれば、より本物に近づけようと
100%完全なコピーを作ってしまう。
が、サインはそんなことにはならない。
曖昧で適当な本人確認手法だからこそ、
厳密に真似れば偽物だとバレてしまうのだ。
「ということは……」
「はい。間違いなく魔王軍の……」
「学長! 魔王軍の魔法放送で
南方調査隊の様子が!」
「そらきた!」
この時点でリンネの胸は期待で満ちている。
何のために大学名をミスカトニックから取ったのか。
これもある意味罠でありある意味で振り。
特撮オタクがクトゥルフ神話を未履修であるはずがなく
ミスカ大学からの南方調査隊ともなれば、
もう餌に飛びつかない方がおかしいのだ!
(あの人のガチクトゥルフが見られる!!
あの人の恐怖山脈が見られる!!)
魔王軍四天王の面々はリンネの憧れの監督達
本人ではない。しかしただのファンでもない。
未来人ならばこその完全再現がされているはず。
特にクトゥルフともなれば、
撮るのは間違いなく牙狼やゼイラムのあの人。
その映像ともなれば、間違いなく。
と、一通りオタクとして大満足の反応を見せるのだが。
「学長! あれは……あれは全部嘘なんですよね!?」
恐怖に体を震わせる人々を見て、真顔に戻る。
(そう……なんだよなぁ。特撮もクトゥルフ神話も、
嘘だとわかっているからこそ楽しめているだけで、
本物かもしれないという前提で見てしまえば
ただの恐怖映像でしかない。
そもそもホラー映画もある意味特撮だけど、
嘘だとわかっていても怖く見せてくる映像は、ある)
魔王軍には何かしらの目的がある。
少なくとも平和的な目的ではあるらしいのだが、
それでも彼らはリンネの敵。
今回もあくまでリンネへの嫌がらせ兼趣味として
ホラー特撮特集をやっているに過ぎないのだが、
実際のところこの方向転換は
魔王軍の予想に反する効果を産むことになる。
「うわぁぁぁぁあああん! 怖いよぉぉぉお!」
「こ、今回のは……まじで怖いな……」
「あぁ……嘘だとわかっていても、やばい……!」
当初の魔王軍は恐怖で世界を支配する
かのような動きを見せていた。
その野望はリンネの活躍により打ち砕かれ、
すべて嘘だと暴かれた結果方向転換を余儀なくされた。
しかし、最初から恐怖を与えるために作られた
ホラー特撮は、嘘だとわかっていても恐ろしい。
すべては特撮。すべては嘘。
あるいはいずれ自分たちも手に出来る超科学。
頭でそうわかってはいても、
怖いものが怖いという絶対的事実を前には。
(またしてもすべてが覆された……!)
もはやクトゥルフ特撮が見れた喜びに
浸っている場合ではない。
一刻も早く勇者として魔王軍に立ち向かわねば
またしても世界が恐怖で支配されてしまう。
(でももうちょっと見たい……)
しかしリンネは勇者である前に特撮オタク!
ウルトラマンティガや魔法戦隊マジレンジャー、
あるいは間接的にコズミックホラーの影響を受けた
深夜特撮シリーズやVシネマは無数に存在する。
それがあの監督の魂を宿した未来人によって
作られるとなれば、もっと見たいと思ってしまうのも
ある意味の必然としか言いようがない。
(あの人達はぶっちゃけただの
未来の特撮オタク仲間ですし……
その目的が邪悪でない以上、
なぁなぁに対応するだけでも別に……)
と、心がぬるま湯に浸りかけた、その時。
『ではここでもう1本見ていただこう。
貴様ら人間が慕う勇者リンネ、
彼女が見た本物の恐怖を!』
「は?」
予想の外から来た言葉に
頭がガツンと叩かれる。
そこから始まったのは……
『恐竜は何故滅びたんだ……?』
「サノシ教授!?」
先日まで奇妙な心神喪失に襲われていた
サノシ教授本人だった。
『そうか……恐竜は絶滅などしていない。
彼等は異世界に逃れたのだ……
この血液を使って!』
「あの論文に書かれていたもの……まさか!?」
映像の前半ではだんだんと狂気に侵食されていく
サノシ教授の研究室内での描写が続いた。
恐竜の真実に気付いたサノシ教授が、
その血液の入った小瓶を手に取った瞬間。
画面が切り替わる。
『あ、そういえばサノシ先生の
お見舞いに行った後の話なんだけどぉ……』
「!?」
画面に写ったのはあの時の少女たち。
その後ろに写る姿は、間違いなくリンネ自身である!
そして画面の中のリンネは、
その時の記憶と同様に。
『ちょっとあなた! その話、聞かせて貰えますか!?』
『勇者リンネ様!?』
「ああっ!?」
映像はそのままに、
セリフの一部が差し替えられている。
その声には若干の違和感こそあるものの、
高度な合成音声は本物とほぼ遜色がなかった。
『あー、うん。ちょっと今はまともな状態じゃないよ。
看護師さんがちょっと目を離した隙に
自分で自分の体を傷つけちゃうみたいで……
やっぱり研究が行き詰まってたせいで、
ストレスでおかしくなっちゃったのかなぁ……』
『ストレス……自傷……』
ここまで来ればリンネにもすべてがわかる。
「くそっ!! やられたっ!!」
そう、彼女は、自身の預かり知らぬところで
物語の登場人物にされていたのだ!
そもそもリンネが魔王軍の誘いを断った理由は
神に等しい未来人である彼等の傲慢さに
生理的な嫌悪感を覚えてしまったからだった。
たとえその目的が邪悪ではないとしても、
超越した力で意思と行動を制御される不快感は
多くのSF作品で神に抗うモチベーションとなるように
リンネにも魔王軍を拒絶する理由となった。
私がこの世界に招かれたのは
彼等の遊びなのかもしれない。
そんな漠然とした苛立ちが今、
映像の中で現実になる。
映像の中の私は彼等の台本に従うかのように
サノシ教授の調査を進めていき、1つの仮説に至る。
『サノシ教授はおそらく、
自らの体を実験台とした……!
しかしその力は恐竜たち爬虫類にのみ現われ、
人間には中途半端な形で現われてしまう……
その結果が今のサノシ教授だとすれば……
サノシ教授の肉体は今、
半分だけ恐竜たちの世界にある……!
教授の体から突然血が流れる理由は……』
ここでそれまで論文を読むリンネを
写していたカメラが。
緊迫感のある音と共に
机の上へゆっくりズームしていき。
注射器が重低音の音と同時にアップされる。
ここでリンネは実際に注射器を手に取り
自らの腕に血液を打ち込んだわけではない。
にもかかわらず、この演出をされた結果、
すべての視聴者は見てもいないそのシーンが
完全に頭の中で再生されてしまう。これこそが。
「映像の、原則だ……!」
白黒フィルム映画の時代に構築された
映像の嘘で視聴者を騙す方法。
セットや合成など使わずとも、
カメラワークだけで人は騙されてしまう。
カメラワークだけで、特撮になってしまう。
すなわち、特撮に必要なものはたった2つ。
カメラと、発想力なのだ!
「でも私にはカメラがない……!」
ゴメス・ザ・ライドの時のような
大掛かりな施設を用意してやっとの対抗。
結局、カメラがあるかないか、
その差は絶望的なまでに大きい。
『あっ!? ああああああ!!
来る! 奴らが! 奴らが来るっ!
あああああああああああああ!!』
『教授!?』
そう悔しさに駆られるうちに
映像はクライマックスを迎える。
本来リンネがここで見るのは
血を流して慌てる教授と、
何故か部屋の中に現われたヤカンヅルなのだが、
もうリンネはその本当の意味を理解している。
すなわち。
合成のため視点の位置を、指定されていた。
「あぁ……」
そう、特撮を使うのは。
ほんのワンカットで十分なのだ。
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「許せない許せない許せない!」
何故SFに登場する人智を超越した神々は
善性悪性に問わず登場人物に嫌悪されるのか。
それは、彼等の超越した技術が
キャラクターの自我同一性を侵食するからだ。
実際にやっているかどうかは関係なく、
出来てしまうだろうことがわかる時点で
我思う故に我ありの人間の意思の大原則が崩される。
故にキャラクターは、神々に嫌悪するのだ。
リンネが見た世にも奇妙なホラー映像は
物語として見る分にはとても面白いものだった上に、
単純に映像作品として極めてテクニカルなものだった。
映像の原則を利用し、特撮は最後のワンカットだけ。
その登場人物が自分自身でさえなければ、
間違いなく大歓喜のスタンディングオベーションだ。
「出来がいいだけに許せない!」
そんな映像を勝手に作られ、
フェイクムービーとして利用された今、
出来の良さで構築されたプラス感情が
そのままマイナス感情へと反転してしまう。
「絶対に! 絶対にあなた達には負けませんよ!
見てなさい、魔王軍!
あなた達は私の……敵です!」
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「やっと火がついたな、リン姉ちゃん」
「そうね。彼女には私達の敵であって
貰わなければならない。
互いのためにも、馴れ合ってはいけないのよ」
悔しさと怒りに燃えて走るリンネの背を
微笑ましく見守る2人は魔王軍四天王、
キッカとノアである。
「まったく。これだからオタクはダメなんだよ。
敵だっつってんのに、つい馴れ合おうとしちまう」
「そういう意味でシグも流石ね。
ヘイトの買い方を完璧に理解している」
「ほんとお前ら仲いいなぁ」
やれやれと両手を空に向けるキッカ。
ノアは軽く笑顔を見せるが、
目の前の光景を前にすぐに真剣な顔に戻る。
「ともあれ、リンネに嫌がらせをすると同時に
勘違いしたあの子の目を覚まさせるという
目的自体は達成された。けど、少しまずいわね」
「そうだなぁ……」
2人の視線の前にあるのは
ここまでのホラー特撮に怯える人々の群れ。
嘘だとわかっても怖いものは怖い。
その恐怖は、人々を狂わせ、
コントロールの効かない方向へ
暴走させてしまいかねない。
「これだから文明が後れた人類は」
「そういう言い方は良くないわ。
思っていても口にしちゃダメ。
良い意味で純粋なのよ」
尤も、リンネがより苛立つのは
ストレートなキッカの嘲りよりも
半端に優しいノアの言葉なのだが。
「どうするよ。
出来ることはいろいろあると思うが……」
「そうね。マッチポンプだけど、
ここから私達の都合のいい方向に
世界を進めることはできるわ。けど……」
ノアはにやりと笑って。
「私達は悪の魔王軍よ。
ここからは勇者の活躍を見守りましょう」
再び異世界に牙を剥く特撮の嘘。
カメラのないリンネは、
この危機にどう立ち向かうのか?
戦え勇者リンネ!
まだ怒りに燃える闘志があるなら
巨大な敵を、討て!
この物語は毎週日曜日9時に公開しています。
気に入った方は前作もよろしく。
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