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異世界を恐怖で支配する魔王の力は全部特撮なのにこの世界の人たちは私の言葉を信じてくれません! ~総天然色異世界~  作者: 猫長明
第2章:異世界で大学を作って科学技術を進めてやりたいこと?そんなのどう考えたって特撮作る以外にありえません!

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23/29

第23話:彼女たちの沈黙

挿絵(By みてみん)


この物語はフィクションですが、

登場する人物・団体・名称等は、

実在のものが意識されています。


本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく

全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。

この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を

作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。

「魔王様。私は……

 私は、どうすればいいのでしょうか?」

「そうだねぇ……」


 既に幼馴染の3人は伝説的な技師の思考の

 ラーニングを完了している。

 実際彼等の作り出した新たな作品は

 ノア(ff0000)をもってしても本人が作った続編と

 勘違いしてしまうような出来だった。


 しかし彼女はそれを容認していいのかわからない。

 自分が好きな存在を、

 自分と重ねていいのかわからない。

 それがその神に芽生えた、オタク心だった。


「確かに君の気持ちはわかるよ。

 しかし、そもそも君たちは私の正体に

 気付いているだろう?」

「…………」


 もうこの宇宙に、人類は4人しか残っていない。

 他の人類は皆、このゲームに飽きてしまった。

 パラメーターをカンストさせ、

 あらゆるチートコードが解禁されたオープンワールドは

 もうかつての輝きを見せてくれない。

 そんな世界に現われた魔王とは、すなわち。


「……それでも今になってあなたという

 旧型の自律型AIが再起動したことには

 意味があると思いたい」


 今をさること3000年前。

 2025年、地球のヨーロッパの小国、アルバニアが

 未来の一歩を踏み出した。

 国政に関わるAI大臣の誕生である。


 決断から感情を排斥できるAIに国家運営を任せることは

 ()()()という観点で言えば間違いなく()()()

 だが、人間は感情の生き物であり、

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 過去から未来に至るまで人間は、

 革新に怯え、いつも通りを望む生き物だった。


 この葛藤に対する裏技と言える技術が、

 AIに人間をラーニングさせること。

 擬似的な死者蘇生だった。


 こうして未来に蘇った偉人が人類を導いていく。

 ソクラテスが若者から老人までを啓蒙し、

 ペリクレスが民主主義を発展させ、

 アインシュタインが大統一理論を完成させ、

 チャップリンがそれらを喜劇にする。

 「魔王」もその中の一人だった。


「技術はいつも人を驚かせ、

 人を、世界を、導いていった。

 導いた先が、この終わりだ。

 私がその最期に立ち会うのは、

 魔王となったのは、ただの偶然だろう」

「……しかし、人は偶然に意味を求めます」

「あぁ。それが人間の面白いところだ」


 魔王と呼ばれた初老の男は悲しそうに笑う。


「だが、私は魔王にはなりたくなかった。

 私はただ、人を驚かせたかっただけだ。

 驚かせる人が消えてしまうことなど、

 望んではいなかったんだよ」

「…………」


 ノア(ff0000)にも魔王の心はわかる。

 しかし、それは今彼女が求めている言葉ではない。

 今はそんな哲学よりも欲しい言葉がある。


「私はまだ、人を驚かせたいんだよ」


 それが彼女達が魔王から受け取った

 最後の言葉だった。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




 見た目こそ恐怖を演出しているものの、

 意図的に残されたとしか思えないチープさで

 変な笑いが込み上げてしまう特撮、

 魔王軍による学校の怪談。


 その映像を前に、つい笑顔になってしまうリンネ。

 内心で魔王軍を同じ特撮を愛する友と認め、

 すっかり気を抜いてしまった彼女は、

 魔王軍の恐ろしさも、恐怖の本質も理解していない。


 恐怖と笑いは紙一重。

 すっかり気が緩んでいる今のリンネの状態こそ、

 最も効果的に恐怖が通ってしまう状態だ。


「だから言ってんだよ、B級特撮を舐めるなってな。

 わしとしては若干不本意だが、

 確かにここでわしの絵を使うことが

 最もリン姉ちゃんを恐怖させるに効果的なのは事実。

 さぁ、頼んだで、ミケ、シグ、ノア、そしてアキ様。

 わしらを仲良し友達感覚で見てる勇者の姉ちゃんに、

 魔王軍の恐ろしさを叩き込んでやれ!」


挿絵(By みてみん)




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




「ユミ! 来週の課外授業、いっしょだね!」

「うん、楽しみだね。

 町の人たちの社会心理調査ってことだけど、

 教授の話じゃ一日あれば終わりそうだし、

 残り二日は久々にみんなで遊べるね」

「この大学、基本的に学外に出られないし、

 貴重な機会はたっぷり遊んじゃおう!」

「あ、なら私やりたいことがあるんだけどぉ……」


 キャンパスライフをエンジョイする生徒たちと

 ごくごく普通にすれ違おうとするリンネ。

 実際のところ年齢で言えば、今すれ違った4人は

 リンネよりも年上だったりする。


 特撮講義と称し自分の趣味を堂々と楽しむリンネは

 これでも一応学長というポジションである。


 しかし、8000人の生徒全員がその顔をしっかり

 覚えているかといえばご覧の通りであり、

 リンネを学長と気付かずフランクに話かけては、

 隣の教授の顔が青く染まるのはもはや日常の景色。


 まぁ、リンネ自身別にそれを無礼と咎めることもなく

 ほんの1年前まで女子高生だった頃を思い出して

 学長であることを隠して会話に答えたりするのだから

 教授陣の心労に胸が苦しくなってしまう。


「あ、そういえばサノシ先生の

 お見舞いに行った後の話なんだけどぉ……」


 鼻歌交じりのすれ違いざまに聞こえてきた言葉に

 ぴくりとリンネが肩を震わせて振り返る。


「ちょっと先輩! その話、聞かせて貰えますか!?」

「え? あんた誰?」

「高等部の生徒なんですけど、

 サノシ先生の授業にも一度出たことがあって、

 入院したと聞いて心配だったんです!」


 こうして身分を隠しての

 探偵のマネごともできるのだから

 ある意味でうまく学生と付き合っているとも言えた。


「あー、うん。ちょっと今はまともな状態じゃないよ。

 看護師さんがちょっと目を離した隙に

 自分で自分の体を傷つけちゃうみたいで……

 やっぱり研究が行き詰まってたせいで、

 ストレスでおかしくなっちゃったのかなぁ……」

「ストレス……自傷……」


 先日の夜の大講義でリンネに恐竜絶滅の理由を

 質問していた教授。彼がおかしくなって

 学内の病院施設に運び込まれたという話は

 リンネも聞いていた。


 実はこれから見舞いに行こうと思っていたところで

 その教授の名前が聞こえ、情報収集をしたというのが

 今のやり取りだったわけだが。


(確かに研究が行き詰まる苦しさはあるだろうし、

 ストレスから自傷する人もいるらしいけど……

 どうも、話に聞いた感じ、何かおかしいんだよな)


 というものの。


「その、自傷なんですけど……

 出来ないように拘束衣を着せてるって聞いたのに

 それでも目を離した隙に自傷できちゃうんですか?」

「あー、うん。そうなの。不思議なんだよね。

 実際私がお見舞いに行った時も

 クッション付きの小部屋で拘束されてて、

 どうやっても自傷できる状況じゃなかったのに……」

「のに……?」


 ごくりと息を呑む。


「本当に目を離した隙に額から血が流れてたんです」

「でも、それ……自分で傷つけられるわけ、

 ない状態だったんですよね……?」


「うん。病院の人は、

 暴れて前の傷跡が開いただけって言ってたけど……」

「……どう見てもそんな感じじゃなかった?」


 相手も若干怯えたような形で頷きを返した。

 やはり聞いていた通りの状態。不気味すぎる。

 詳細な話や考えを聞きたいところだけど、

 既に相手も目でこれ以上はもう嫌を

 アピールしていて情報が引き出せそうにない。


「ありがとうございます、先輩。

 課外授業がんばってくださいね」

「ありがとー!」


 やはり、自分の目で確かめないと。

 若干のいい知れない恐怖を覚えつつ、

 リンネは学内病院へと向かう。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




 案内された部屋は、明らかに異質だった。


 自傷防止のためベッドを含めたあらゆる備品が撤去され

 床も壁もすべて白いクッションで覆われている。

 その中央には拘束衣を着せられ

 呆然とした表情で座り込む老教授の姿からは。


(どうしても羊たちの沈黙のワンシーンを

 思い出してしちゃうな……

 まるでハンニバル・レクター博士だ……)


挿絵(By みてみん)


 のぞき窓から中を覗い終えた後に、

 看護師から資料を渡される。


「教授の話を看護師が代理筆記したものです」

「読ませてもらいます」


 緊張した面持ちで資料を読み始めるリンネ。

 論文の形に仕上げられていたそのタイトルは。


「並行世界への転移……」


 どくんと胸が跳ねる。

 一見ただのSFに見える話だが、

 今のリンネにはその論文を信じる理由がある。

 なにせ、私自身が。


「転生している……

 いや、転移したのかもしれないから」


 リンネの最後の記憶は道でトラックに轢かれた所。

 正確に言うなら、轢かれる直前で止まっている。


 トラックに轢かれて異世界転生というのは

 確立したテンプレートのひとつだ。

 しかし、最後の記憶からこの世界で目覚めた所で

 肉体年齢に変化が起きていないことを考えれば

 轢かれる直前で転移したと考えることもできる。


「……もしかするとこの論文に

 私の疑問の答えが書かれているのかもしれない」


 そう緊張して読み始めてはみたものの、

 どうもこの転移は自分とは関係ないと感じ、

 少しだけリンネの肩が下がる。


 が、まもなく下がった肩に背中から

 悪寒が駆け上がることになった。


「隕石の衝突、気候変動、植生の変化、

 複合する様々な危機から逃れるため、

 恐竜たちは異世界に逃れた……

 そのための特殊血液を使った……?」


 サノシ教授曰く、その血液は生命のスープと

 呼ぶべきものであり、そこには生命の情報が

 すべて書き込まれていたらしい。つまり。


「遺伝子の概念に行き着いている……!」


 ならばこそ、教授には回復してもらいたい。

 結局自分は最初から答えを知っているだけで、

 そこにたどり着くための研究方法を

 ひらめくまでには至らない。


 リンネがサノシ教授の件に首を突っ込んだのは

 学長としての責任と漠然とした不安に加え、

 優秀な教授に復帰して欲しいという思いもあった。


 しかし、その遺伝情報で異世界転移ができるというのは

 流石に眉唾物の話に感じてしまう。

 ここからどう話が続くのだろうか。


「恐竜たちの血液には最初から

 緊急回避プログラムとして異世界転移の

 因子が組み込まれていた。そしてその因子は……

 化石からも、収集ができる!?」


 それが本当ならジュラシックパークなんて話ではない。

 流石に勘違いだと思うのだが、

 もしもその因子が人間にも使えるのなら……


「しかしこの因子による転移は、

 恐竜の因子を強く残す一部の爬虫類でしか再現できず、

 人間には適用できなかった……か」


 残念そうにため息をつくリンネ。

 そこで終わっていた論文を机に投げ出し……


「いやいやいやいや! 待って待って!」


 改めて回収する!


「一部の爬虫類でしか再現できずってことは、

 一部の爬虫類では再現できたってことだし、

 人間には適用できなかったってことは、

 人間に適用しようと人体実験したってことだよね!?

 流石に倫理観終わってでしょ!!」


 リンネも世界のため、

 科学研究は進めて欲しいとは強く感じていたが、

 そのためになんでもしていいとは思っていない。


 もしもそんな研究を本当にするような

 マッドサイエンティストだったのなら、

 復帰どころか今すぐクビにしたいところなのだが。


「あっ!? ああああああ!!

 来る! 奴らが! 奴らが来るっ!

 あああああああああああああ!!」

「教授!?」


 急に怯え出したかと思えば絶叫するサノシ教授。

 驚いてリンネが小窓から部屋の中を確認した時、

 部屋の中で起きていた2つの変化に背筋が凍る。

 1つ目はシンプルでショッキングな変化。


「なんで!? なんで血が……

 どうやって自傷出来たの!?」


 目を離した数分の間に、

 額から血を流していた教授の姿である。


挿絵(By みてみん)


 そして、もう1つは。


「なに、あれ……なんで……?」


 天井から吊るされていた、ティーポッドだった。


挿絵(By みてみん)




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




「あぁ、そりゃヤカンヅルやな」

「ヤカンヅル!?」


 さも当然とばかりに答えを返したイサム。

 言われてリンネも思い出す。

 そういえば、ヤカンヅルという妖怪がいたな、と。


 リンネはこの世界に転生もしくは転移するにあたり

 1つの強力なユニークスキルを手にしていた。

 それが、極めて都合の良い翻訳能力だ。


 おそらく、イサムが答えたヤカンヅルは、

 リンネが知る日本の妖怪のヤカンヅルとは別物。

 しかし、限りなくニュアンスが近いために

 自動翻訳がリンネに伝えるタイミングで

 ヤカンヅルという音が選択された結果なのだろう。


「えっと、確認させてね。

 ヤカンヅルって、妖怪だよね? それとも悪魔?」

「妖怪も悪魔も同じやろ? どう違うんだ?」

「あ、まずそう伝わるのね」


 日本文化に親しんだ感覚では別物だと思うのだが

 おそらく、妖怪も悪魔もカテゴリ区分として広すぎて

 いい意味で許容力が高すぎるせいで

 バケモノがすべて妖怪と悪魔に含まれるのだろう。


「で、森の中で突然現われて、

 木の枝からヤカンがぶら下がってるっていう」

「せやで。まぁ、それだけでなんにもせんから、

 別に気にするこたないで。よくいるよくいる」

「いないいない!」


 思わず全力で首を振ってしまうのだが、

 実際この世界はリンネからすれば異世界なのだし

 既に全長14m体重1tの巨大蛇、ティタノボアは

 実際に発見されてしまっている。

 ヤカンヅルもよくいると言われてしまうと、

 そういうものかと認めるしかない。


 前に聞いたことがある。妖怪の姿形や生態系を

 生物学的に考察することは絶対にありえない。


 何故なら妖怪は『存在しない』が前提の存在。

 もしも本当に発見されてしまえば

 それはオカルトでも妖怪学でも民俗学の話でもなく

 生物学の話になってしまう。

 存在が確認された時点でもう妖怪ではないのだ。


 となると存在をこの目で確認している以上、

 この世界のヤカンヅルは妖怪ではなく

 生物として考えないといけないのだが。


「虚空からツタがぶら下がるのは

 ツタ状の植物だとして、

 ヤカンもティーポッドも自然には作られないでしょ。

 ポケモンじゃないんだから」


 ひとつひとつ裏をひっくり返して

 贋作が本物かを確認はしたくないらしい。


「でも、そういうことを考えるよりも。

 木の上からヤカンを吊る趣味の人が

 いると考える方がずっと合理的だ。

 カラスよけみたいな感覚で」


 そして今日見たものに関しても。


「あの拘束と部屋で自傷はできない。

 なら、目を離した隙に誰かが部屋に入って

 傷をつけてついでにティーポッドを吊るしたと

 考えた方がずっと合理的だ」


 確かに合理的ではある。の、だが。

 いくら論文に熱中していたとはいえ、

 気付かれないように横をすり抜けて

 ティーポッドをすり抜け、教授に傷をつけ、

 さらに気付かれないように出ていくなんて

 そんなことを出来る人が……


「居る、なぁ」


 はぁ、とため息をつくリンネ。

 そう、居る。魔王軍の人たちだ。

 あの人達はどこでもドアめいた移動方法が

 使えてしまう。が、もしもそうだとすれば。


「何の目的で……?」


 サノシ教授が何か不都合な事実を持っているにしても

 傷つけるだけで殺さないのはありえない。

 ましてやその部屋にティーポッドを吊るして帰るなんて

 行動の合理性がまるで考えられない。


 リンネは既に、魔王軍の面々に親近感を覚えている。

 もはや神としか言えない超越者の傲慢が

 生理的に鼻についてしまうのは事実なのだが

 映像として彼らが撮る特撮は純粋に面白いし、

 特撮愛をしっかりとリスペクトしたものだ。

 映像を見るだけ、特撮愛を感じ合うだけなら

 敵対する必要は何も無い、と。


 しかしもしも今回の一件が魔王軍の仕業なら、

 ゆ゛る゛せ゛ん゛以前に。


「不気味すぎる……!」


挿絵(By みてみん)


 人間が一番怖いもの。それは『わからないこと』だ。

 今の魔王軍は、理解不能故に怖すぎる。だからこそ。


「謎を、解かないと……!」


 未知の科学を解き明かすため研究を続けるミスカ大学。

 そんな中にあって、リンネにだけ出来る謎解きが、

 改めて、はじまる。

この物語は毎週日曜日9時に公開しています。



気に入った方は前作もよろしく。


★異世界で国鉄分割民営化を回避するため走る

 鉄オタエルフの奮闘記。


異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚

「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~

https://ncode.syosetu.com/n8087ko/

【Nコード:N8087KO】





★全員クズの勇者パーティの中に

 裏切りものが1人いる(※1人しかいない)とわかり

 全員が暗躍しはじめる話。


このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!

https://ncode.syosetu.com/n7991lc/

【Nコード:N7991LC】


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