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フェル 森で偶然助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと暮らしていく話  作者: カトウ


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幕間 14

 350 幕間 14


 何をどうやったらこうなるんだ?


 帰って来てまず最初に思ったことはそれだった。


「あとは任せたとのことです」


「それは……この書類の件か?」


「いえ、全部だそうです。『お見通し』ならわかるだろ。だそうです」

 

「全部……あいつどこまでやらかして行ったんだ?」


「それは……その」


「いや、決してお前たちを責めてるわけじゃない。怒っているわけじゃないんだ。実際こうなることはある程度覚悟はしていた。腹が減っても『はらぺこ』に頼るなって、昔から言われてる事だからな」


 半年ぶりに帰って来てみたら王都の状況が劇的に変わっていた。ギルドだけならまだわかるのだ。王都が、街が、すっかり変わってしまっている。

 

 新しく出来た冒険者ギルドに来るのは初めてだった。ギルドの前の屋台にはどこも行列が出来ている。

 Bランクの冒険者、いや違ったな、もうAランクだったな。そのAランクの冒険者である『暴風』のセシルが一番行列の長い屋台の横に立っている。


「何してんだ?」


「おう、ライアン、なんだ、もう帰って来たのか?何って依頼に決まってんだろ。リンが臨月だからね。こういう依頼を受けて何かあったらすぐに家に帰れるようにしてんだ」


 そうか……。あっという間だな。歳のせいか最近、月日が経つのが早く感じる。あのちんちくりんだったリンがな……。


「依頼?」


「この辺の警備さ。見たらわかんだろ?『お見通し』」


「あのな、いくらなんでも初見でそこまでわかるわけねーだろ。俺は今さっき帰って来たばかりなんだぞ。この屋台はいったいなんだ?許可は誰が出してる?」


「王国だよ。レオ陛下が許可を出して商業ギルドが管理してる。アタシの依頼は商業ギルドからのものだね。依頼料はたぶん屋台の出店料から出てる」


「陛下が許可を?いつからやってるんだ?」


「もう3ヶ月以上経つんじゃないかね?ギルドが引っ越してすぐ、ケイがこの辺に屋台を出したいってローガンに言ったんだ。ああ、この店?スラムに住んでた子供たちがやってるんだよ。だけどケイが直接関わってるわけじゃない、小熊亭の従業員、覚えてるかい?スラムのカインだよ。アタシらが市場で働けるようにしてやった、あんたも紹介状を書いてくれたじゃないか。そのカインが取りまとめをしてて、売ってる料理は南地区の料理屋が寸胴鍋ひとつ分、それぞれ提供してんだ。とにかく味は保証するぜ。人気なんだ。買うならちゃんと列に並んでくんな」


 わからんな。いったいどうやったらこんな状況になるんだ?

 とりあえず言われた通りに列に並ぶ。ちょうどいい、執務室で食おう。


「いらっしゃいませー」


「お、なんかお前見覚えあるな。ここで働いてんのか」


「あ、ライアンのおじさん。久しぶりー。じゃなかった。いらっしゃいませ」


「このパンに具を挟めて食うのか。具は……いろいろあるな。何が良い?」


「どれも美味しいけど……僕はやっぱり小熊亭のが好き。お肉がとっても美味しいんだ。今日はお肉はあんまり入ってないけど……これね、隣のおじさんのお肉を一緒に挟んで食べるとすっごくおいしいんだ。とくべつな食べ方だよ」


「じゃあ小熊亭のやつにしてくれ。もちろんその『とくべつ』の奴でな。隣の屋台の串焼きの肉は買ってからまた並べば良いのか?」


「大丈夫だよー。僕たちが頼んであげるから。いくつ買ってくの?一個銅貨3枚で、2つ買うなら銅貨5枚。みんな2つ買ってくよ。おじさんの店の串焼きは2本買ったら銅貨3枚。一本なら銅貨2枚だよ」


「なかなか商売のやり方が上手いじゃないか。2つずつくれ。この売り方はお前たちが考えたのか?」


「うんとね、ずっと前にね。売れ残ったパンをもらって、おじさんのとこの串焼きのお肉を挟んでみたんだ。そしたらすごく美味しいんだよ。きっとみんなも食べたくなるねってエレンと話してたらロイさんがパンを増やしてくれて。だけどケイさんは銅貨5枚でお客さんをお腹いっぱいにしたいって言ってて、そしたら……」


「なるほどな。ケイが絡んでんなら納得だ。しかしあいつ……って、陛下?」


 隣の串焼きの列に並ぶ人たちの中に見覚えがある顔を見つける。汚れた作業着で昼食を買いに来た老人……。

 その御仁はこちらに目配せをして静かにしていろと合図を送ってくる。


「ライアン。ここじゃ野暮なことは言わない方がいいよ。なんとなくわかったろ?アタシらに警備の依頼が出てる理由がさ」


「おじさん!2本お願い。とくべつのやつね」


「まかしとけ、ちゃんとお茶飲んでるか?疲れたら次の奴に交代するんだぞ」


「大丈夫!おじさんこそちゃんと休まなきゃダメだよ。カインが言ってたもん。大人だって疲れるからみんなで助け合わなきゃダメだって」


「もう充分助けてもらってるよ。よし、焼けるぞ、パンは準備できてるか?」


 子供たちが手際よくパンに具材を挟み、隣の屋台の主人に手渡す。

 慣れた手つきで串から外された肉を挟み受け取ったスラムの子がきれいに油紙で包んでそれを持ってくる。


 早いな。いや、そうじゃないな。隣の店と協力してやってんのか?


「エレンちゃん。ロイくんのパン、まだ余ってるかい?今日はこっちにお客さんがけっこう流れて来てるみたいなんだ」


「大丈夫ですよ。そろそろ追加のパンも届くから。そのカゴ2個持って行っていいです」


 ん?この辺りの屋台で協力し合ってやってんのか?中心でいろいろやってるのは……あの女の子か。よくわからんな。どうなってるんだ?


「ライアン。いきなりこれだと戸惑うであろう。少しお前にも説明が必要だな。お主のギルドで一緒に昼食でもどうだ?気を使う必要はない。ここでは農家の爺さんで通っておる」


「陛、下……」


「だから農家の爺さんで良いと言ってるだろう。そうじゃ、レオ爺で良い。あの子たちもそう呼んでおるからな」


 そう言われても気軽にそう呼べるわけがないだろう。自分から勝手に辞めたとは言え、自分もかつては王国の騎士だったのだ。


「レオ爺。もう作っていい?もう欲しいものは買えた?」


「いつもすまないな。今日は小熊亭にしよう」


「今日はケイさんの日だからね。いつもより美味しいんだ。もうすぐ売れ切れちゃいそう。お店でも食べれないからね、いつも大人気だよ」

 

 かつて自分が跪いていた君主がわざわざ自らから膝を折り、持って来た少女からサンドイッチをうやうやしく受け取る。

 陛下は持って来てくれたそのスラムの子供の頭を撫でる。


 子供たちもけっこう上等な服を着ているのだな。しかも見違えるほど清潔な格好をしている。少し前まではなんとかしてやりたいと思うくらいボロボロの服を着ていたのに。


「ライアン、行くぞ。料理が冷めてしまう。これは暖かいうちに食べるのが良いのだ。今日は当たりだぞ。最近は忙しいのか、ケイの作ったこの挽き肉のサンドイッチが店に並ぶことは少ないのだ。サルサとかあの若者は言っておったの。しかし、あの若者は面白い。その話も食べながらしてやろう。ローガンがまたいろいろやらかしおってな。じゃがそのおかげで今度、西の森に新しい街道を作れそうなのだ」


 西の森に?あそこは魔素が。


 ローガン。一体、何をやった。なぜこんなことになっている。

 

 お供もつけず汚れた格好で堂々と歩く王に続いて、ギルドに入る。


「その……、私はどこに座れば良いのでしょうか」


「そんな小さなことを気にするな。作法などどうでも良い。最近は地べたに座って食事をしたりするのだぞ。しかし気を使わせてしまったワシの方が悪いの。すまんかったライアンそこに座ってくれ」


 ギルドマスターの執務室。

 つまり私の部屋なのだが、初めて入ったのでまるで勝手がわからない。

 殿下はうろたえている私に気にするなと言い、先ほど買った屋台の料理の包み紙を嬉しそうに剥がしている。

 

「よくこの辺りで昼食をお食べになるのですか?」


「うむ。この屋台特区はかなり奥深いのだ。ちょっと見ない間に美味い料理がどんどん更新されていく。わしは悔しいのだ。仕事の都合があるゆえに、毎日のように通うことはできん。じゃからまずは常連に話を聞いてな、今、この辺りで一番美味いものを聞いてから買いにゆくのだ」


「レオ様……護衛の方から苦情が出ておるのでは?」


「そんなことは知らん。付いてくる護衛にも同じものを食わせておるからの。今のところ嫌がる者など誰もおらんぞ」


 それは……そうか。美味い昼飯が殿下の奢りで食えるのか。治安も良くなったことだし、周りが納得しているならばあえて咎める必要はないだろう。


「なんじゃ、お前もそれにしたのか?」


「屋台の子供にこれが一番おすすめだと言われ、それに従いました」


「なかなかやるのう。この辺りの屋台の中では1番の人気なのだぞ。ラビットサンドと皆は呼んでおる。しかも今日は本人が作っておると言っておったからの、わしは最初からこれに決めておった」


 一体誰からそんな情報を得ているのだろう。


 殿下は楽しそうに串から肉を取り外し、サンドイッチに挟め始めた。


「殿下、私のように最初から作ってもらった方が良いのでは?手も汚れませんし」


「わかっておらんのう。これは自分でこうやって作るから良いのだ。そして屋台は自ら行列に並び、自分の順番が来るのを静かに待つ。これが醍醐味というものじゃ」


 王国が平和になって本当に良かったと、目の前で嬉しそうにサンドイッチを頬張るそのお姿を見て心からそう思った。





 

 






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