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フェル 森で偶然助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと暮らしていく話  作者: カトウ


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いろんな希望や夢や野望

 349 いろんな希望や夢や野望


「多分、この辺なんだけどなあ」


 少し日当たりの良い緩やかな斜面で僕は立ち止まる。

 カバンから水筒を出して一口飲んだ。

 ひとりで山に入るのは久しぶりだ。村にいた時は毎日のように山に入っていたのに。


 急に仕事が休みになったから、このぽっかり空いてしまった1日をどう過ごそうか悩んでいた。


「気にせず好きなことをやってくれば良いだろう。多少お金を使って来たとしても私は良いと思うぞ」


 特別欲しいものがあるわけじゃないし、美味しい物はやっぱり2人で食べたい。

 フェルは今日は仕事だ。

 いろいろ考えてゴードンさんに教えてもらった香草の畑に行ってみることにした。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

 いつものように……と言うわけでもない。


 フェルに見送られて家を出る。


 山と言っても故郷の村のように魔物がいる険しいところではなく、ゴードンさんから教えられた場所は少し小高い丘のようになっていた。


「俺たちでも入れるくらいだからな。一応武器になるような物は持って行ってたが、心配ないぞ。あの森は大丈夫だ」


 山に入る前に市場に行ってゴードンさんに話を聞いて来た。行く前に農場にいる息子さんに言って香草を植え替えるための道具を借りて行けとゴードンさんが言う。


 ゴードンさんの家に着くと下の子達が僕に飛びついてくる。


「レモネードある?甘いお菓子は?」


「ちゃんとご飯を食べたらお母さんに出してもらってね」


 そう言って持って来た手作りのお土産をヘレンさんに渡す。


「植え替えするなら今が良い季節だと思うぜ。そこの井戸から水汲んで行きなよ。余計なことしなくても根っこを包んで水をかけとけばお前んちに着くまでは充分それで持つからな。それから植え替えたら最初は日当たりが良すぎるところには置かないほうが良いぞ」


「日光に当てたほうが良いんじゃないの?」


「風邪ひいたときと一緒さ。いきなり栄養だけ与えちまうと植物は疲れちまう。まずは新しい土に馴染ませて、ゆっくり休ませてやるんだ。どういう風に育って欲しいとかそういうのを考えるのはその後だな」


 長男のニコラスさんからはいつのまにかベテラン農家のような貫禄を感じる。


「親父の手帳は見たんだろ?いろいろ細かく書いてるけど、親父の日誌には大事なことが書かれていないことがけっこう多いんだ。なんか困ったことがあれば遠慮なく聞きに来てくれ。親父の代わりに市場にいることもこれから増えると思うからよろしくな」


 市場で野菜を売るのはセシル婆さんの教えなんだろう。買ってくれる人のことを知らなければ良い野菜は作れない。そう言ってセシル婆さんはリアカーみたいな台車を毎日引っ張って市場に来てた。

 ちゃんと畑の手入れをした後に。


 ニコラスさんはこの夏に結婚するそうだ。披露宴?結婚披露のパーティーで料理を作って欲しいと頼まれた。

 うちの畑で採れた野菜を自慢したいんだとニコラスさんが言う。相手は隣の集落の農家の娘さんらしい。

 こちらとしてもゴードンさんの良い野菜を自由に使えるんだ。なんだか楽しそう。二つ返事で引き受けた。


 森に入って少し緩やかな斜面を登るとゴードンさんの言っていた場所に着く。

 日当たりの良い場所で小休止する。


「多分この辺だと思うんだけどなあ」


 そう独り言を呟いて、カバンから水筒を出しお茶を飲む。

 

 フェルと出会った時のことを思い出した。


 その日はこんな風な天気の良い日で、狩りが下手くそな僕は狙った鹿をうまく仕留めることができなかった。

 打ち損じた矢を拾いに行ってキラキラ光ってる何かが気になり、近づいてみたら女の人が倒れてた。


 ずっと一緒にいれたら良いのにな。

 一目惚れしてしまったその女性の騎士のことでとにかく頭がいっぱいになった。


 立ち上がって水筒をカバンにしまうと見慣れた香草が生えていることに気づく。

 いつもケチャップに使ってる香草だ。これは少し多めに欲しい。

 日のあたり具合と山の斜面の構造を見てこの辺りかなと思ったところを探してみる。

 程なくして群生地を見つけることができた。すごいよゴードンさん。ちゃんと野生の植物が栽培できてる。


 すぐに使う分を採取してからニコラスさんに貸してもらった道具を使い、家でも育てられるように株ごとすくって根を布に包む。

 水は多めにかけとけばいいって言ってたな。魔法で出した水よりもゴードン農園の美味しい水の方が効果があるらしい。


 何株か持ち帰る分を作ってから気配察知を使えばよかったことに気がついた。

 そうだった。アルさんに教えてもらってたのをすっかり忘れてた。

 

 地面に薄く魔力を伸ばしていくとあたりの様子がわかってくる。だけど薬草と違ってあまり魔力を内包していないから気配察知だけでは香草の良し悪しまではわからなかった。


 いっぱいあるなー。全部は育てられない。市場で手に入りやすい物は諦めよう。そうなると何がいいかな。

 言ってしまえばお金さえあればなんでも手に入ってしまうのだけど。


 コリアンダーは小熊亭でもよく使う比較的安く手に入る香草だ。とりあえず収穫だけして足りなくなったらまた取りにこよう。日持ちもするし。


 収穫は少し面倒だけれどゴードンさんは出来るだけ畑のように比較的狭い範囲でいろいろ栽培していたみたいだ。

 その香草畑は少し斜面になっていて、うまく根付くように所々木を伐採していて、それぞれが育ちやすいように手を入れてある。

 なんかすごいな。


 まずはぐるっと周って何があるか見てみよう。ゴードンさんのノートには植えた香草の絵も描いてある。僕の知らない香草もあって、そういうものは実際に匂いを嗅いでみて何に使えそうか考えてみることにしてノートを頼りにあたりを探索する。


 これ……。


 そのうちのひとつからは懐かしい香りがする。


 これ、カレーの匂いじゃないかな。


 前にも使ったことがある。確か種だった気がするけれど。

 確かリンさんと一緒に森に入ったフェルが持って来て、カレー、そうだカレー(仮)とか試作して、途中でやめちゃった時の。


 すり潰して薬にもなるその香草は料理に使う分量を買うとけっこう値段が高いので買うのを諦めてた。

 欲しい。これ育てたい。


 だけどゴードンさんのノートには種から育てることと書かれている。移植はうまくいかなくて諦めたと育成日誌に書いてあった。

 春先の今はまだ花が咲いていなくて、ちょっと時期が早かったみたい。ダメ元で生えて来たばかりの若い株を選んで土ごと育成用の鉢に入れる。


 ちょっと楽しみになって来た。ダメだったら花が終わる時期に種を取りに来たらいい。最初から全部うまくいくわけじゃない。


 いつか美味しいカレーライスをフェルと一緒に食べるんだ。これはそのための挑戦なんだ。


 新しい目標ができるとなんだか楽しくなる。カレーうどんも良いな。フェルと2人でエプロンしながら食べるんだ。


 気がつけば辺りが暗くなって来ていた。

 お昼ご飯を食べるのも忘れてた。

 まだ日没までは時間があるけれど山の中では暗くなるのが早い。


 少し名残惜しいけれど今日はこれで帰ろう。帰ってからもいろいろやらなくちゃいけないし。


 夕ご飯は何を作ろうかな。


 山で採れた収穫をテーブルの上に並べてじいちゃんに自慢げに見せた時のことを思い出した。


 あの時とはもう、いろんな状況が変わっちゃったけれど、じいちゃん。これで良いと思うんだ。だってさ、フェルがいつも通り僕のそばにいてくれるんだもん。

 

 それ以上ってなんかあるかな?


 いろんな希望や夢や野望もあるけれど、今は好きな人に食べてもらう晩ご飯の献立を考えるだけでなんだか幸せ。

 


 


 


 

 これでこの章は一区切りとさせて頂きます。

 お楽しみいただけたら幸いです。

 

 


 


読んでいただきありがとうございました。


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