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第一話「再誕少女」/ 伏せられた瞳

少し遅れました……


いつぞやぶりに情熱が再燃して書き始めました。

リハビリも兼ねてなのでそのうち色々と再編集もするかと思いますが、お付き合いいただければと思います。


また舞台設定の都合上、ジャンルをハイファンタジーにしておりますが、私自身もっとしっくりくるものを探しております。指摘等があればこっそり変更するかもしれません。

「んん……」


ぼんやりと目を開ければ部屋は仄暗く、真夜中であることを伺わせた。耳に入る音は何もかもを流す雨音。


体を起こそうにも、怠さが勝ってしまう。自分の身体だというのに、まるで鉛を巻きつけられたかのようだった。


喉がカラカラに乾いている。深く息を吸い込むが奥にまで入っていかない。吸ったはずの空気が咳となって無理矢理押し出された。外に聞こえてほしくない音だが、きっと雨音がかき消してくれている。


「フゥ……フゥ……」


カーテンがかかった窓からは時間をうかがい知ることだできない。

少なくとも帰ってきた時は雨は降っていなかったと思う。どれだけの時間がたったのだろう。


ようやく見えてきた視界に映るのは見慣れた自室の天井だった。

いつもだったらはっきり見えるはずのそれは、夜闇に紛れて深く深く遠かった。


自分の呼吸が嫌に耳につく。聞かないようにしようとしても、雨音しかないこの部屋ではどうしてもまとわりついてくる。耳を塞ごうにも腕が上がらない。二の腕が嫌に重たかった。


いつの間にベッドで寝ているのだろう。

家に帰ってきた記憶はある。久しぶりの入浴に気分を良くしていたような気もする。夢でなければ。


疲れていたのは間違いない、と思う。いつものように魔法の練習をして、体力も魔力もかなり使っていた。馬車の中でも疲れ切ってしまったためか揺られていたことしか覚えていない。

記憶が霞んでいるのは疲れのせいなのか風呂の湯気のせいなのか。きっとどちらもなのだろう。


鉛のような重怠さも疲れのせいだとすれば納得できた。疲れを取るための睡眠だったのだろうけど、一度目が覚めてしまったせいか、時間の流れが遅いように思える。

せめてもの抵抗とばかりに首を傾けると、すぐ隣に誰かが座っていた。

部屋の明かりが乏しく表情は見えないが、瞼は降りている気がする。


(お母様……)


呼吸に合わせて影が揺れている。どれだけの時間をそうしていたのだろう。

雨のふる夜はまだまだ寒い。肩から羽織ったガウンがかなりズレていた。いつからかはわからないが、もしかしたらずっといてくれたのかもしれない。


もっと小さかった頃は夜の雷が怖くて、夜に雨が降ると決まって布団を被って目をぎゅっとつむっていた。近くに落ちたときは恐ろしい光と音で泣き出してしまうこともあった。

そんなときはよく子守唄を歌いながら添い寝をしてくれていた。


ホッとするとまた眠気が鎌首をもたげてきた。じわりじわりと意識にモヤがかかる。ただでさえ入らなかった腕の力が抜けていく。

でも、怖くない。


(おやすみなさい……)


もう雨は怖くない。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



(ここまでバタバタ走り回ったのも久しぶりだわ……)


夕飯を食べて帰ってきてみれば、家の中を慌ただしく侍女が走り回っていた。なんとなく見覚えのある光景で、既視感とともに焦燥感が身体の(うち)を這いずりまわった。


声を荒げていた一人を捕まえて問いただした。

帰ってきたことに気づいていなかったのか、慌てて頭を下げる。


「お、おかえりなさいませ……」

「挨拶はいいわ。何があったのか教えなさい」


一瞬、彼女の目が泳いだような気がしたが構っていられない。

困ったことに主人は視察で家を開けている。何かあったときに誰かが責任をとってくれるなどということはない。事態の把握が最優先だ。


「お、お嬢様が倒れられました。例の、です」

「それならあなたもなれているでしょう。慌てるほどのことですか」


はじめのうちは何をしていいのかもわからず医師を呼ぶことしかできなかった。とはいえそれも数年前、娘の体力も増えて自然と目を覚ますのを待つようになった今ではほとんどの者が最低限の対応はできるようになっている。


「そ、それがお風呂で倒れられまして……専属の者もあいにくと席を外しており、発見が遅れてしまいました」

「……っ!?」


風呂で意識を失ったということはそれだけで溺れてしまった可能性がある。

めぐり合わせが悪かったという他ない。それでも唇を噛まずにはいられなかった。


「溺れてはいないのね」

「浴槽にもたれかかっていたのでそれは大丈夫です。水も飲んでいないようです」

「なら――」

「――湯の温度が六十度に迫っておりました」


おそらく人が入れるような温度ではない。いるはずがない。


「湯の準備した者からも聞き取りましたがそんな温度になるはずがないと」


それはそうだろう。持ち回りで確認が来るようにしているのにそんなことをするはずがない。見つかればただでは済まないからだ。


「だから例の――」

「はい……」

「部屋にいるのね?」

「はじめに発見した専属の者がそのままついております」


後ろめたいところがあるのか、目を合わせようとしない。それでも頷くのは見えた。


足音が響くのも気にせず進む。玄関から程遠くある部屋に急いで入れば荒い息を吐く娘がベッドに横たわっている。

その横にはうなだれた鎧姿があった。


「奥様……」

「なぜ?」

「わ、わたしがお嬢様から離れてしまったから……」

「違う! なぜ見つけたお前が肩を落とす!? やるべきことがあるだろう!!」

「はっ、はい!!」


酷な話だとわかっている。それでもやらなければならないことだった。


「ほ、本日のお嬢様は普段と変わらないご様子でありました。疲れこそあったでしょうが、特にこれと言って気になったことはありませんでした」

「そう……あなたも疲れたでしょうから今日は休みなさい」

「し、しかし――」


憔悴しきっている様子がありありと浮かんでいる。起きたばかりの娘に見せられるような顔ではない。


「私がいるから問題ありません。まずはその顔をどうにかしなさい」

「……はい」


やはり疲れていたのだろう。フラフラと身体を揺らし、足を引き擦るように出ていった。


一人になると途端に部屋が静かに感じる。

他の誰かに任せるわけにもいかず、食事もここで済ませた。

ようやく着替えて戻って来たところで寒くなるからとガウンを受け取った。


時々誰かが来たが順番に休ませた。夜になれば流石に誰も来ないようになった。時々苦しそうにする娘の頭をなでながら短い睡眠を繰り返す。


気がつけばもう朝になろうとしていた。ぼんやりとカーテンが明るくなっていて、もうすぐ太陽も顔を出すのだろう。


肩にかけていたガウンは下に落ちてしまっていて、腕は冷え切っていた。

傾いていた首を上げるとギシギシと音がなったような気がした。


座って寝るべきではなかったかもしれないが、この部屋には寝るために使えるようなソファはない。与えたベッドが一台あるだけだった。そのベッドにはすでに一人横たわっている。


そっと頬を撫でるとくすぐったそうに顔が歪んだ。少し容態は落ち着いたらしい。部屋に飛び込んですぐには見られなかった反応だ。


(ひとまず安心できそうね……)


もう昨日になるが随分と忙しい日になってしまった。使用人たちにも無理をさせたことだろう。

部屋に飛び込んだばかりの頃の廊下から聞こえた喧騒はもう記憶の中だ。


もうすぐ専属の侍女も護衛も来るだろう。

今日の予定がなくてよかったと思いながらもう一度目を閉じた。

読んでいただきありがとうございます。

第一話はおおよその構成はできておりますが、時間が取れないため気長にお待ちいただけると助かります。

少なくとも切りのいいところまでは書き上げるつもりです。

次回は一回お休みして誤字脱字の確認をします。よろしくお願いします。

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