第一話「再誕少女」/ 再び夢を
いつぞやぶりに情熱が再燃して書き始めました。
リハビリも兼ねてなのでそのうち色々と再編集もするかと思いますが、お付き合いいただければと思います。
また舞台設定の都合上、ジャンルをハイファンタジーにしておりますが、私自身もっとしっくりくるものを探しております。指摘等があればこっそり変更するかもしれません。
魔法を使えることが一種のステータスである。こんなことは小さい子供でも知っている。人によってはそれが一生を決めてしまうし、貴族の家にとってそれが死活問題になることもあった。
だから魔力測定はニ年に一度、国の中心である王都に厳重な警備を敷いた上で行われる。その期間は約二週間。それだけの時間をかけて満十歳ないしは十一歳に達した国民の全てが測定される。
多くの一般民が国の用意した馬車で集められる中、貴族ともなると我が子の結果ですら政争の道具になる。そして自領に優秀な子供が出れば囲い込みに走るのだった。
「それでは本日の測定を行います。名前を呼ばれた方から並んでください」
前に並べられた測定器は三台。名前は一般民から呼ばれる慣わしになっていた。
これは家の情報を隠したい貴族の都合だが、多くの一般民が早く帰ってこいと言われているので思惑が合致したと言える。田舎でなくとも貴重な労働力だ。
前半に測定するほとんどの子供が魔法を使うのに必要な魔力を持たない中、時にザワザワと騒がしくなる。
聞こえてくる言葉を拾うと、どうやら魔力持ちのようだ。
「基準値クリア、と……君は十二歳になったら入学許可出るから名前教えてね?」
「ほ、ほんとに……あの、名前は――」
もちろんそれは嬉しい報告も多数あるが、一方で悲しいお知らせも多い。
「なんで俺が駄目なんだよ!!」
「基準値の半分じゃ推薦も何もないよ。測定は今年だけじゃないから安心しなさい」
「今年じゃなきゃ許してくれないんだよ!!」
後半に入ってすぐのあたり。今のは騎士爵の子だろうか。
爵位とは言っても一代限りとして授けられるものではそれほどの報奨金はない。今年こそ国の義務として無料で受けられる魔力測定だが、次からは有料になってしまう。きっと払えるほどのお金がないのだろう。
「測定を終えた方は結果を受け取って順次外に出てください。また、名前を聞かれたらちゃんと答えてください。繰り返します――」
名前を聞かれていた子たちには、これからも今までどおりの生活を送るという選択肢と魔法使いを目指すという選択肢が与えられる。
魔法を覚えるのは義務ではない。あくまで選択肢だ。
と、建前はそうなっているが、魔法使いを選ばなかった家族はやんわりと引っ越しを余儀なくされる。魔法技術や魔力持ちの流出を抑えるための措置だが、それ故ほぼ間違いなくどの家庭も進学を選んでいた。
順番が来た子たちが数を減らしていくと測定室もだんだんと静かになっていく。今この場に残っているのは今日測定する貴族の中でも本当にわずかだった。
「私は今日の監督者です。まずこの場で申し上げるのは、我々は王家直轄に所属しております。ご自分の家の権力でどうこうしようとは思わないでください。それから――」
貴族向けの説明となればどこか高圧的になる。立場をハッキリさせておくのは重要ではあるが、それ以上に面倒事を避けるためだ。
もしやってしまえばどうなるか。国民なら誰もが知っている。
かつて、この結果に納得の行かなかったとある貴族が測定官の一人に不利益を与えたのだ。当時の王家はこれに激怒。その貴族は断絶になったという。この国ではあまりにも有名な話だった。
「――以上で説明を終わります。それでは順番に開始します」
今までと同じように、測定は滞りなく進んでいく。
貴族に任じられているということもあり、基準値に満たない子は一人も出ていない。監督官もわかっているのだろう。名前を聞くこともなく手に持った書類にチェックをつけていく。
「やった!帰ったらお母様に話さなきゃ!!」
「こっちの属性もあるんだー。知らなかった」
「はーい。君たちも測定終わったら外に出てねー。次の子たちが待ってるからー」
結果が良かったのもあるだろう。ゴネるような子は一人も出ない。騒がしさはあるものの、それもすぐに遠ざかっていった。
やがて今日の最後の一人となる。その頃になると測定官も数を減らし、この場に残ったのは彼女を含めて三人だけだった。
「あなたで終わりですね。念の為中央で測定してください」
「わかりました…あの……」
「ご家族の方から話は聞いています。この二人が漏らすことはありません。そもそもそういう契約になっています」
少女は安堵したのか小さく息をつくと手を伸ばした。
測定にかかる時間は魔力量に比例するとは言え、時間のかかるものではない。三つ呼吸をする前には終わった。
「……なるほど。王には伝えなければなりませんが、よろしいですか」
「私はこの国の臣民ですので」
貴族であることはつまりそういうことなのだろう。
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朝来たときには人が押し寄せていた広場だが、夕方ともなれば人はまばらになっていた。規制線はとうに解かれ、みな思い思いに歩いている。
片方の壁際には小さな屋台が立ち並び、威勢のいい声を響かせている。中には売りきろうと安売りを始めているところもあった。
もう一方の壁には馬車がいくつか並んでいる。その中でも頑丈そうなしっかりとした作りの馬車に近づいていく。
手前に立っていた人が帽子を取り、深々と頭を下げているのが見えた。
向こうも気づいたのだろう。躊躇いなく馬車の扉が開かれ、中に入った。
「お疲れ様でした。お嬢様」
「戻りました。出発は明日の朝でよかった?」
「はい。本日は一泊する予定となっております。奥様も首を長くして待っておられることでしょう」
親が同伴することは貴族にとって珍しいことではない。明日からもまだ測定の日になっているのでどこもかしこも忙しくしていることだろう。
窓から見えるホテルも今日は泊まれない旨を掲げ、ホテルマンと思しき人がせわしなく走っている様子が見えた。臨時の日雇いなのかもしれない。
決して広くはない馬車の中、膝をついて出迎えてくれた彼女は最後まで椅子に座ろうとしなかった。護衛故と言ってしまえばそのとおりだが、話し相手なのだから同じ目線にいてほしいと思うのは少女のわがままなのだろうか。
程なくして昨日も泊まったホテルにつくと最上階から二つ下の階に案内される。時に迎賓館を兼ねるこの国で最高級のホテルにあっては、貴族とは言えおいそれと最上階に泊まることはできなかった。
「おかえり。今日は楽しかった?」
「はい。お母様も楽しまれたようで」
「ふふ。そうね」
少女の母親が穏やかな笑みを浮かべて出迎える。
傍らには丁寧に包まれた色とりどりの箱や袋が積まれている。なかなか遠出ができないこともあり、これでもかと買い物をしたようだ。
「娘も帰ってきたことだし、ホテルに夕食の準備をお願いしましょう」
「かしこまりました。伝えてまいります」
「今日は特別豪華にしてもらってね」
「あ、あのお母様―」
「結果、悪くなかったんでしょう? それならたまには奮発しないとね」
「…あり、がとうございます」
まんざらでもないようで、うつむき加減ではあるがはにかんでみせた。
従者にもそれが聞こえていたのだろう。扉が閉まる直前の顔には薄い笑みが浮かんでいた。
夕食までの時間は長いようで短い。今日一日張っていた気を緩め、身支度を整える頃にはあっという間だった。
置かれていたお茶菓子に手を付ける前に知らせが来ると、二人は揃って席につく。
「今日の恵みに感謝を」
「感謝を」
お父様には内緒よ、とクスクス笑いながら食べる食事は今までにないもので、二人はいつになく早く食べ終わってしまった。
それから眠りにつく間も二人は先程の夕食の感想や今日の出来事を話し合う。
食休みを挟んだ二人は今日はもう終わりとベッドに入りこむ。
仲の良い親子はもしかしたら傍目には友人同士の旅行にも見えたかもしれないほど楽しそうだった。
「あらあら。流石にもう眠いかしら?」
「そう…で……きょう…」
緊張感というのは気づかないうちに疲労が貯まっているものだ。
そっと伸ばされた手が少女の頭をゆっくりと撫でる。その動きにされるがまま、頭が上下した。
「無理しなくていいわ。明日の帰り道で話すことがなくなるでしょう?」
「……ふぁい…」
もう視線は母親を見ていない。
しばらく頭を撫でられた少女はやがてまぶたをおろした。それでも手の動きは止まらない。
「あなたが帰って来たときに落ち込んでる様子もなかったからきっといい結果だったのでしょう」
規則正しく繰り返される呼吸はなんの憂いも感じさせない。
そんな様子に微笑むと、手を止めと額にキスを落とした。
「今日もお疲れ様。おやすみなさい」
また一つホテルの灯りが落とされ、夜の王都に沈んでいく。
おそらく昨日の親子も明日の親子も、理由はともあれこうして寄り添っているのだろう。
どんな気持ちでいるのか。その答えを知るのは今日も夜空に浮かぶ月だけに違いない。
読んでいただきありがとうございます。
第一話はおおよその構成ができていたはずなのですが、書きたい場面が増えすぎてよくわからないことになってきました。
なにをやっているのでしょうね。
少なくとも切りのいいところまでは書き上げるつもりですので、お待ちくださいますようよろしくお願いいたします。




