第一話「再誕少女」/ 白の恩恵
随分空いてしまいました。
難産だったのもそうなんですが、何より仕事の配置換えとか流行り病とかがですね……
メンタルに余裕がなくて現実逃避の時間が増えておりました。悲しい……
時間が空いたせいでキャラブレしてないか非常に心配ではありますが、お楽しみいただけると幸いです。
↓以下テンプレ
いつぞやぶりに情熱が再燃して書き始めました。
リハビリも兼ねてなのでそのうち色々と再編集もするかと思いますが、お付き合いいただければと思います。
また舞台設定の都合上、ジャンルをハイファンタジーにしておりますが、私自身もっとしっくりくるものを探しております。指摘等があればこっそり変更するかもしれません。
観光地として紹介されている土地の中でも、ここは特に人気の場所として数々の本に掲載されている。
年間を通して気温の変化が少ない山がすぐそこにあり、国有数の港街は新鮮な魚介類をところ狭しと並べて観光客を歓迎していた。冬は雪に閉ざされてしまうのが玉に瑕だが、それを含めてなお人々の口に上がるのだからその人気が伺いしれる。
「もう一泊できますか?」
本当なら今日までのつもりだった。
予定の日を超えて滞在することになったのは残念だが、一日くらいならしょうがないと割り切る他ないのだろう。
たまにはゆっくりしてもいいかと思う。帰ったときに小言が増えるのは間違いないだろうけど。
「あら、ありがとうございます。お客さん、運が良かったですねぇ。この時期は大体どの宿も埋まっているんですよ。うちもあと1部屋です」
この宿があるのは町外れも外れ。商人たちが使うであろう港からも、旅行者が使うであろう街道からも距離がある辺鄙な場所に建てられていた。
建物の外観もきれいで食事の質も悪くない。それを思えば本来は隠れ家的な宿なのだろう。
運がいいのかはさておき、こういった場所でも泊まれなくなるほどの賑わいを見せていた。
「宿屋街では断られ続けましたからね……」
「それはそうですよ。この時期は貴族様も商人さんたちもやってきますから」
人が集まるところにはそれだけ需要が発生する。街の中心に近い宿は貸切られているところすらあった。屋台にも目をやったが、売り切れを知らせているところも多かったように思う。
ため息を誤魔化すように長く長く息を吐いた。
大きな仕事がないからと気軽に来たはずだったものが、まさかこれほど大変になるとは思わなかったと言うのが本音だ。
呼吸に混じって時折飛び出そうとしてくる大きな塊は、朝には決して似つかわしくなかった。
「お客さんは掃除はいりますか?」
「いえ、結構ですよ」
貴重品の類は持っていくことにしているが、あまり大きい荷物は持っていけない。観光地に立つ宿で荷物を盗まれることはないだろうが、弄くり回されるのも御免だった。
「そうですか。あ、それと明後日はもう埋まってるので申し訳ありませんがこれ以上の連泊は受けられませんので……」
「大丈夫ですよ。多分明日には出るので」
目的はほとんど道すがら終わらせてある。帰りの道中でもこなす必要はあるだろうが、今日やらないといけないものは十分終わらせられる時間があった。
夕飯までには戻って来てのんびりするつもりである。
ーーのんびりしすぎて予定が崩れてしまったわけでもあるが。
(今日は丘の上に行ってみるか)
街の南には霊峰と名高い山がそびえている。急激に高さを増すその様は剣のようだとも槍のようだとも言われ、ありとあらゆる猛者たちの修行地になったと伝えられていた。
どこまで本当なのかわからないが、厳しい環境はそれだけでも彼らにとって価値のあるものなのだろう。
街を出て迷いなく進む彼を人々は不思議そうな顔をして見送る。それなり大きなリュックはしぼみきっており、武具を携えているような様子もない。修行に来た様子もないのに南の山に向かうのはこのあたりに住む住民くらいだ。
それでも本来なら最低限の装備は持っているはずだった。
「ここから先に行くのにその荷物で大丈夫かい?」
「はは。日帰りですから昼食さえあれば大丈夫ですよ。ご忠告感謝します」
「そうかい……気をつけなよ?」
時々声をかけられるが、そのどれもが荷物の少なさを心配する声だ。それだけこの道を歩くには不似合いな格好をしているのだろう。
好奇の目でないところがこの街の人の良さを感じさせた。
しばらく歩けば人も屋台も減り、疎らになり、気づけばすっかり街を出てそれなりに整備された道だけが人の生活を伺わせるようになっていた。
国の中心部ではもうそろそろ暑くなり始める頃だろうが、極地に近いこのあたりは少し前にようやく雪解けを迎え、木々が緑を芽吹かせはじめ下草は少しずつ伸びてきている。ところどころに膨らんだ蕾も顔をのぞかせていた。
まさに麗らかという言葉が似合う空には小さな雲がいくつか浮かび、山向こうに向けて流れている。空高くを競争するその様子は、夏がそう遠くないことを教えてくれていた。
人の手がほとんど入らない山に降り積もる雪はどれだけ光を当てようと真っ白に輝いている。それは山を生業にする人々にとって視界を覆い隠すヴェールであり、隣に佇む隣人でもあった。
山肌を削り津波のように襲い来る姿は非常に恐ろしいが、春の訪れとともにすべてを潤す恵みに姿を変える。
私もそんな恵みを受ける一人。
静かな部屋にコトリと音をたてたのは、今日も変わらず湯気を纏った薬湯だった。雪解け水から煎じた薬湯は琥珀を溶かしたように鮮やかで濁りもない。
「ありがとう。今日もいい香りね」
「お嬢様を思って淹れておりますので」
これを飲むようになって数カ月。
最初のうちは強烈に感じた味も今となっては慣れたものだった。
母がどこからか入手してきた薬はもうすっかり日常になり、一日に三度、必ずと言っていいほど出てくる。
まだまだ不安はあるけれど、今までにないくらいくらい穏やかな日々を過ごしている。
検分した医師によると、少なくとも害をもたらすようなものは使われていないそうだ。どういう意図があるのかわからないものも混じっているらしいけれど。
「お嬢様はよくそれが飲めますね……」
「あら、私のために淹れてくれてるんでしょう?」
「味が酷くて最初は本当に毒かと思いましたよ」
側付きということもあり毒見役も兼ねている彼女は、必ず私より先に同じものを少しだけ口にする。
初めは医師立ち会いのもと行っていたが、問題ないと判断されたのかそれ以降立ち会いはない。
それでも彼女はほんの僅かとはいえ今も一緒に飲んでくれている。
「不味いとは思わないけど?」
「奥様もおっしゃってましたが、私にはちょっと……」
「薬だから美味しいとは思わないけれど、そこまで?」
この別荘に来る数日前、母も興味本位で飲んでみせたのだが顔を顰めて不味いと言い切った。とても飲めたものではないと。
私は薬だと思えばそうだと感じるくらいでしかないと思っているのだけれど、どうやら周りには不評らしい。
「これ、本当に薬なんでしょうか?」
「騎士の方で常備しているものが入ってましたから、薬なのは間違いないと思います」
「もっと不味いものだと思っていたのだけれど」
「少なくともわたしはよく使う薬と同じくらいには不味いです」
人によって味覚が違うのは当たり前だ。だとしても飲む人にによってこれほど感想が違うのは不思議なことだと思う。少なくとも領内でそんな話は聞いたとこがなかった。
「本当に不思議な話ね」
「一体何を使っているのかわかったものじゃないですが……」
すでに使いを出すこと三度。その度にもらえるのはわずかに一月分。毎回もう少しもらえないかと話しているそうだが、本人もいないのに判断はできないと突っぱねられるのだそうだ。
私としては王都に行ってみたいという気持ちもあり、それは望むところなのだけれど。
「ーーだめですよ?」
「まだ何も言ってないわよ?」
「表情からわかりますよ。もう少しだけお待ちください。去年も夏頃は少しマシでしたが、発作のときは酷かったではないですか」
「もう……付き合いが長いと隠し事もできないじゃない」
一応王都に行く話は進んでいるそうだが、彼女の言うように安心できないうちは難しいと言われている。
心配をかけている自覚があるだけに、これ以上我儘を言うことはできなかった。
「本邸に戻る頃にはお許しが出ますよ。きっと」
「そうだといいわね」
思わず漏れた小さな息が、テーブルの薬湯に映る彼女を揺らす。私に姉はいないが、いたとすればきっと同じように眉根を寄せているのだろう。
そんな表情をさせているのがいたたまれなくて、私は残りをすべて飲み込んだ。
どうか気づかれませんように。
読んでいただきありがとうございます。
少なくとも切りのいいところまでは書き上げるつもりですので、お待ちくださいますようよろしくお願いいたします。
あと、もしよろしければ評価や感想などをいただけると嬉しいです。もちろん理由さえあれば酷評も大歓迎です。




