表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/11

禁忌の愛

 通夜の帰り、私はなんとも言えない気持ちを抱えたまま夜空を眺めていた。

 今まで一緒に暮らしてきた祖母が死んだ。昨日は放心状態だったが今日になってようやく実感した。もういないんだ、と。

 私は一人涙を堪え、街を歩く。その時ふと小洒落たバーが目に止まった。

 こんな時にはやけ酒でもしないと、ささくれた気持ちは治らない。そう思い私は戸を開けた。

「いらっしゃい」

 カウンター前に座り、私は強い酒を注文する。いつもはあまり飲まないけれど、今日は特別。

 ごくりごくり。飲んでいると、色々なことを思い出して泣きそうになる。

 その時だ、少し離れた席にいた青年が私に声をかけてきたのは。

「やあ。どうしたんだい浮かない顔して」

 小汚い服の青年だ。彼の顔が見覚えあるように思えたので、私は訊いてみた。「どこかでお会いした?」

 が、青年は首を振る。「いいや初めてだよ」

 そりゃそうか。知り合いならすぐわかるし。

 私は酒の勢いで彼に事情を話してみることに。すると彼は「わかるよ」と頷いた。

「実は僕も親なしなんだ。君と違って、捨てられて孤児院育ちだけどね」

「え? 私も孤児院の出よ。0歳の頃に引き取られたの」

「へえ奇遇だね」

 それから私たちはしばらく談笑した。彼はとても愉快で、普通なら辛くて話せないような過去を、軽妙に語る。

 私は彼を楽しい人だと思った。もっと喋ってみたい。思い切って名前を聞く。陽太というらしい。

「私は陽子。捨てられた時、おくるみに書いてたらしいわ。名前までそっくりね」

 そしてまた会おうと約束し、別れた。


 数日後、彼と待ち合わせて一緒に買い物へ出掛ける。

 最初は友人のような関係のつもりだった。けれど彼とは気が合いすぎた。趣味、食べる物、好きな物。

 気づくと私は、いや私たちは――恋に落ちてしまっていた。

 まもなく同棲を始めた。祖母の死後ずっと一人だったからとても嬉しい。喧嘩することもなく平和な毎日。

 体を重ねた。愛し合い、すぐに結婚することが決まった。


 私は結婚式のドレスを用意。青いフリフリドレスはとても可愛い。彼には内緒だ。

 陽太は結婚に必要な戸籍謄本を取りに行く。捨て子に戸籍があるのかと驚いた。


 そして運命の日。

 ドレスを纏い私は結婚式に臨む。お互いの準備姿は見せないようにと決めたので、彼の反応が楽しみだ。

 壇上へ登り、美しい花嫁姿を晒した。客席の人々が感嘆の声を漏らすのが聞こえる。後は陽太を待つのみ。

 すぐに彼も姿を現した。が、少し暗い顔に私には見えた。

 どうしたのかと聞いても、「いや……」と言葉を濁すだけ。ドレスを褒めてもくれない。

 不審に思いつつも式は進んだ。司会が定番の言葉を述べる。

「では新婦、永遠の愛を誓いますか?」

 私は深く頷いた。彼とならそれを誓ってもいいと思ったから。

 次は彼の番だ。「新郎。あなたは新婦との末永き愛を誓いますか?」

 ずっと何かを言いたげだった陽太。やっと思い切りをつけたのか、パッと手を上げた。「一つ、言わなくてはならないことがあるんだ」

 視線が彼に集まる。私は妙な胸騒ぎがした。

「それが……」彼が言うにはなんと、私と彼が『双子』であるというのだ。

 その証明は戸籍だ。出生が同じ孤児院であり、拾われた日にちも同じだったらしい。

 慌てて孤児院に聞くと、確かに同じ場所で拾ったのだと言われた。――つまり陽太と私は、同じ親から生まれ捨てられた双子の兄妹だったわけである。

 しかしそんな話は信じられないし、信じたくない。だってそれなら私と彼は、禁忌の恋を犯したことになるではないか。

 でも思い当たる節はたくさんある。おかしなほど相性が良かったこと、初見の時に見覚えがあると思ったこと。認める他ない。

「だから、僕らは結ばれることが許されないんだ」

 そう、肩を落とし呟く彼。一方の私は、胸中にむらむらと激情が湧き上がり叫んでいた。

「嘘よ! あなたが兄さんだなんて! 悍ましいわ!」

 これがただの恨み言だと私にもわかっている。けれど、止められない。

「どうして言うの? 黙ってくれてたら私たちは!」

 式場に金切り声が響いていた。


 運命は私たちの愛を裂いた。

 彼は何か言おうとしたが、手を振り払い私は式場を飛び出してしまった。

 ――これからどんな思いで生きていけばいいのだろう。私のお腹には子供だっているのに。

 見上げるとそこには夜闇が広がっていた。祖母を亡くし彼と出会った夜を想起させる。

 ドレスを両手で引っ掴む。私は涙を流しながら、夜の街を駆け抜けた。



以上で、この短編集は終わりとなります。

お読みくださいましてありがとうございました。

ご評価やご感想、ブクマなどを頂けると非常に嬉しく思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ