表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石の支配  作者: シュシュ
第1章 『涙から始まる物語』
9/53

第8話『日常から引きずり降ろされた日』

 プシュンとトラックの止まる音が聞こえた。

 どうやら、着いたようだ。


「レルナ、ミドと組め!」


「了解!」


 レルナが笑顔で敬礼をした。


「よーし、ぱっぱと終わらせちゃおう!」


「おー!」


 ミドとレルナは、手を挙げて「頑張るぞー!」と言って、任務に出かけた。


 ♢♦︎♢


 それから数時間後、ミド達は見回りを行なっていたが、特に敵が居る様子はない。

「今回も楽に終わりそう」とレルナが豪語していたくらいだ。


「ミド、ここら辺で休憩しよう」


「はい!」


 二人は、近くにあった大樹の下に向かい、座った。

 大樹の周りはとても静かで、緑色の草が生い茂り、綺麗な花も沢山咲いている。

 楽園ーーまさにその言葉がピッタリだろう。


「よし、食べよう!」


 バッグから、ビスケットと水を出す。施設からの支給品だ。

 まず、ビスケットを齧る。

 少し固いけど、はちみつの良い味がする。

 更に、水も少し口に含んだ。


「軟水って美味しいよね」


「軟水?」


「知らない?カルシウムとかマグネシウムが少ない水で、さらっとしているの」


「初めて知りました……」


「リーブル区は、綺麗な軟水が出るんでしょ?私が住んでいた区はね、貧しい所で、しかも、硬水だったの。軟水と反対でカルシウムとかマグネシウムが多い水なんだけどね。体質が合わない人も居るんだよ。私、初めて軟水飲んだとき、感動しちゃったもん」


「そうだったんですか」


 ミドは知らないことばかりだ。

 ずっと、あの家に守られてきたから。

 お母さんは病気がちで、お父さんは全然家に帰って来なかった。だから、ミドは外のことを知らない。家族三人で外出すらしたことがない。


『お父様、いつ帰って来られますか……?』


『分からん。仕事が落ち着くまでだ』


『はい……分かりました』


「レルナさんは、どこの区の出身なんですか?」


「プティ区。小さくて、緑が豊かな町」


「プティ区……」


 プティ区のイメージは、有名な孤児院があったということだ。

 その孤児院は大勢の子どもを引き取り、育てている。

 なのに何故かは知らないけど、孤児院は潰れたらしい。


「さて、そろそろ戻ろっか。特に問題はないしね」


「はい」


 ミド達は立ち上がり、来た道に戻ろうとした。


 だけどーー


 バババン!!


 突然、銃の乱射音が聞こえてきた。

 音はすぐ近く。

 そう、ミドの近くーー


「危ない!ミド!」


 レルナがミドを突き飛ばし、飛んできた銃の弾を避けることに成功した。


「あっれ〜外してしまいましたわ」


 ーーえ……。


 ミド達の目の前には、黒いゴスロリに茶髪のツインテール、緑色の瞳をした小さな女の子がガトリング銃を手に持って、浮いていた。


「敵が一体現れた!近くの人はミドと合流して!目の前の敵は私が受け持つ!」


 無線機で連絡した後、レルナはすぐにミドの方へ振り向いた。


「逃げて!」


「で、でも!」


「いいから早く逃げて!そして、誰かと合流しろ!」


 ミドはレルナと出会って、初めて怒った顔を見た。本気だ。

 けど、置いて行って良いのだろうか。

 もし、戻って来た後にレルナが倒れていたら。


「ミド・テトラを近くの味方の元に強制送還!」


「させませんわ。ねぇー?ロキーー」


「っ⁉︎ミド⁉︎」


「わたくしとお話しましょう?レルナさん?」


「え⁉︎」


 急にが立っている場所が変わった。

 さっきの楽園のような雰囲気とは違い、真っ暗な森の中だ。


「ニャー」


 猫の鳴き声が聞こえてきた。

 いつの間にか、僕の近くに居る。

 紫色の瞳に紫色の首輪をした猫。

 スリスリと足元に寄ってくる。

 猫にこういうことをされたら普通は和むのだが、この猫は何かが違う。不気味だ。


「ニャーオ?」


 人間の言葉で表すならどうしたの?だろうか。


「おいで、ニャナ」


 今度は白髪、薄い緑の瞳、黒いジャージのような服を着ている青年が現れた。

 ニャナと呼ばれた猫はその青年の元に行く。


「あなた達は、一体……。それにその猫は普通の猫じゃないですよね?」


「よーく、分かったにゃんね」


 そう言うとニャナという猫は、あっという間に人間の姿へと変わった。

 だが、いくら人間の姿とはいえ、猫耳や尻尾はそのままだ。

 ポケットには沢山のナイフが見えた。

 その一つを尻尾で取ると、子どもがおもちゃで遊ぶようにナイフを軽く上に投げたりしている。


「ロキ、そろそろいきますかにゃんね」


「うん。ミド・テトラ、あなたに付いて来てもらいます」


 ♢♦︎♢


『敵が一体現れた!近くの人はミドと合流して!目の前の敵は私が受け持つ!』


「どうやら、今回は平和にいかなかったようだねー」


 ペイアはつまらなさそうにして、通信を聞いていた。

 スマホをいじりながら、チョコを食べている。


「ペイアさん、ここでそういう行為は如何なものかと」


「へぇーシルラ、僕に嫌味を言ってるの?」


「そんな嫌味なんて……」


 ペイアはシルラに近づいて、耳元で囁く。


「普通はごめんなさいじゃない?バラされたいの?君の過去」


「っ⁉︎」


「みんな知っちゃったら、どんな顔するかなー?あ、新人のミドっていうお貴族様は、シルラに近づかなくなるだろうね。きっと、引くと思うよ」


「ごめんなさい……」


「じゃあ、許してあげる」


 そう言うと、ペイアは座っていた椅子に戻った。


「言動には気をつけた方が良いよ?」


「……」


 ♢♦︎♢


 バババン!


 一方、レルナは謎の少女と戦っていた。


「きゃはは!あなたも丁度、銃使いなのですわね」


「くっ、速い!」


 少女はガトリング銃をレルナに遠慮なく、撃ち込む。

 レルナも負けじと、動きを封じる為に拳銃で撃っていた。


 ーーあのガトリング銃、結構重い筈なのに何であんなに軽々と持っているの……?


「考え事している暇、ありますの?」


「がっ⁉︎」


 レルナの腹に少女の蹴りが入った。


「あなたは、随分あの少年に固執していますのね?」


「仲間だからだよ……」


「いや、仲間というよりも守るべき特別な存在という感じでしたけど?」


「な、何を言って……」


「教えなかったんでしょう?ヤヨイ国の私兵のこととか」


 言葉的にあの少女はヤヨイ国の私兵ということなのか。


「教える必要はない。私たちがーー」


「守るのだから」


「⁉︎」


「けど、現に彼は私達の空間に捕らわれていますわ。守れていませんよね?」


「助けに行けば良いこと!」


 レルナは少女の肩を狙い、撃つ。

 また、二発、三発と撃っていく。

 だが、少女は避けていく。


 ーー消えた⁉︎


 突然、後ろに気配を感じた。


「こっちーー」


 少女はガトリング銃の先を思いっきり、レルナの背中にぶつけた。


「かはっ⁉︎」


 ズキズキと傷が痛む。


「あなたは"またしても"守れない」


『おいおい、もう降参かー?』


『守るんじゃ、なかったのかよ?』


『う、うるさい!』


 

 ーーくそっ!こんなときに……。


「あらら、もう立てませんの?」


 少女はニヤリ。


「"仲間を殺した裏切り者さん"?」


「っ⁉︎何故……あんたが……」


「こちらには、そういう力を持った人が居ましてね。まだ、小さい男の子ですけど。あら、喋り過ぎましたわ。まぁ、私ったら!怒られてしまいますわ」


 少女は機嫌が良いように喋り続ける。

 言葉を発し続ける。


 ーー私は……仲間を殺した?


 殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した。


『レルナ--俺を』


 ーー嫌だ!思い出したくない……。


「あなたは過去に囚われているのに、過去から逃げるのですわね?」


「はぁはぁはぁはぁ」


 過呼吸が止まらない。


『嫌です……!』


『殺して』


『嫌ぁぁぁぁ!!!!!!!!!!』


『嫌ぁぁぁぁ!!!!!!!!!!』


 耳が壊れそうなくらい、叫んでいる。

 全てから逃げたくて、叫ぶ。

 少女はポンとレルナの肩に手を置く。


「あなたは所詮、自分の為にしか行動出来なかった偽善者です」


 ニコッ。


「あなたに私の愛銃を使うのは、もったいないですわ。裏切り者のあなたには、ナイフがお似合い」


 そう言って、少女はレルナの腕にナイフを刺し、腹にも刺した。


「あぁぁー!」


「さようなら」


 少女は一瞬で姿を消した。


 あぁ、こんなにも早く、死んでしまうのか。

 そうだよね。生きる権利なんか、ないからと勝手に納得してしまう。


 ーー死んでもいっか……。


「レルナ⁉︎」


 スイナがレルナの元に駆け寄る。


「しっかりしろ!」


 ーー殺して……。


『殺してくれ』


 ーー私を殺して。


『俺を殺してくれ』


「た、助けて……」


 ーー……⁉︎


 違う。こんな言葉が言いたかったんじゃない。

 私を殺して。みんなの重荷になりたくないから。


『重荷になりたくない』


「助けて……」


「あぁ!助ける!必ず!」


 スイナが止血帯をレルナの腕や腹に当てる。


 どうして……言えないの?

 私は殺して欲しいのに。

 殺して(助けて)……。


 レルナの目から涙が溢れてきた。


 ♢♦︎♢


「僕は付いて行かない!」


「おーまったせしましたわー!」


 先程、ガトリング銃をぶっ放していた少女が現れた。


 ーーレルナさんは……もしかして……。


 ミドはボウガンを手に持ち、決意した。


 人を傷つけることをーー


「あなた、あまり持ったことないんじゃないですの?手が震えてますわよ」


 バンッ!


「シク、大丈夫……?」


「掠っただけですわ……」


「ミド!すまない!待たせた!」


 スナイパーライフルを持ったアムールさんが走り込んで来た。

 そして、魔法陣みたいなのが出てきて、厚いコートと目の下に痣がある青年が出て来た。


「お前ら、戻るぞ。ボスが帰還しろとの命令だ」


「そうですにゃんね、シクも少し負傷しましたし」


「掠っただけですわ!」


「話は後で聞く、いいから来い!」


「じゃあな、また今度」


 そう言って、四人は消えてしまった。


「これが現実だ。私達は、人を殺さないと幸せになれない」


「そんなの……間違っています!」


「あぁ、そんなこと昔から分かっている」


「じゃあ、何故⁉︎人を殺し続けるのですか⁉︎」


「仲間が殺されたからだよ!!!!!」


「え……?」


「私は大切な仲間を二人、殺された。なのにっ……手が震えて、敵を倒せず、上司に倒してもらうという……甘ったれだった。だから!もう、そんなことを繰り返したくないからだ!!!!!!!!!!」


 アムールは必死にミドに訴えかけるように喋った。けど、


「間違っていると思います。人を殺さず幸せになれる道もきっとあります。だって、少し前まではーー」


「それは私たちStone houseの者達の努力の結果だ!貴族達のそれはそれは幸せな生活は私たちが守っているんだ!生まれた頃から恵まれている貴様には分からない……生まれた頃から檻に閉じ込められている身のことはな……」


 さっきの表情とは違い、ミドを軽蔑するような目になってしまった。だが、すぐにハッと気づき、「すまない……」と謝った。


「こちら、アムール。敵は消えた。こちらの被害はなし。どうぞ」


『OK、帰還して。どうぞ』


「了解した……戻れ。今は一人になりたい」


「はい……分かりました」


 ミドはアムールに言われた通り、彼女から離れた。


「あぁ……叫び過ぎてしまったな……」


 落ち込んでいると耳元で誰が囁いた。


『見殺した……弱虫……』


「ハッ⁉︎」


 振り向いてみると、誰も居なかった。


 ーーやっとだ……やっと撃てるようになったんだ。


「アムール!大丈夫か⁉︎」


「スイナさん……レルナ⁉︎」


 スイナが傷ついているレルナを抱えていた。


「ヤヨイ国の私兵と戦い、損傷したようだ」


「そうですか……」


「アムール、まずは帰ろう」


「はい、了解致しました……」


 アムールは心に悲しい思い出を秘めたまま、とぼとぼとスイナに付いて行くのだった。

 











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ