待機
「つまりドラゴンに奇襲をかけてる相手をぼっこぼこにする作戦だね?」
マキの作戦について二人は少し思案顔だったが、妹は考える事を放棄したらしく晴れ晴れとした顔で言った。
山賊狩りみたいな感じだが、言ってしまえば確かにそんな感じだろう。だがこれには一つ気になるところがある。
「トモキさん、作戦はわかりましたけど、その肝心のドラゴンさんは今どこに……?」
そう、ドラゴンは今どこにいるのか、だ。
「くくく、いいだろう。ファルネにも見せてやろう、俺の魔法をな」
マキは意味深に笑うと体の中の魔を、ぐるぐると練り始める。グルゴの時にもあった魔法を使う時の感覚だが、あの時よりも丁寧な感じがする。
「ト、トモキさんも魔法が使えるんですか……」
なんだこの魔法使えない見た目なのに魔法使える兄妹は、みたいな顔でファルネが見てくるが俺が同じ立場だったら間違いなく同じ顔をしているだろう。厳密には魔法ではないらしいが、周りからみたら違いはわからない。
「お兄ちゃんは色んな事できるよー」
妹からも支援が入るが、出来る事といったらマキが魔法使えるのと、相手の能力値を見る事くらいしかできない。二つ能力を持ってる時点で結構すごいが。
「……ふむ。場所はわかったが、思ったよりも近いな。あまり近づくと見つかる危険がある。もっと離れて様子を見よう」
マキは戦っていた場所からどんどん離れるように移動していく。ドラゴンはあのあたりにまだ留まっているのだろうか。
「ドラゴンの巣みたいなのがあるの?」
「ドラゴンは洞窟を寝床にするんだ。自分の体に合わせて作るし、そこに集めた宝とかも入れていくから結構な大きさになる。だから山に穴あけて住んでるってことさ」
確かに山ならもともとある窪みを掘っていくだけで洞窟が作れるだろう。水脈とかあれば、もしかしたら自然に大きい洞窟があっても不思議じゃない。
「さっきの魔法で山の地形も大体把握した。近くに隠れられそうな小さな洞穴がある、行こう」
「この山洞窟多いんですね、何か理由があるにゃ?」
ドラゴンが住めるサイズの洞窟や、人が入れるような洞穴、言われてみればこんなに密集してていいものだろうか。
「ラメルの町って水が綺麗って話だろう?」
「そうですにゃ、ラメルの水は元気の源ですにゃ」
ファルネは長く住んでいるわけではないが、それでも水は美味しく感じるようだった。獣人族は舌が発達していて、味などに敏感と聞いたことがあるからファルネが美味しいというなら美味しいのだろう。
「その水の源泉がこのあたりの山だ。湧き水が多い山には、水の通る道が必要になる。だから必然的に洞穴も多いってわけさ」
「なるほどにゃ……」
歩いていくと、マキの言う通り洞穴があった。
「思ったよりも広いかな、さて食事でもして夜まで待つか」
ボックスからお弁当を取り出しみんなで食べる。馬車の中ではファルネが放心状態だったので食べずにとって置いたのだった。
「このお弁当、マスターが作ったのかな?」
「そうみたいですにゃ。マスターは結界修理の人たちのお弁当も作ってるし、そのついでに作ってくれたのだと思いますにゃ」
町長の手作り、というのは正直なんだかなって気持ちもあったから良かった。とても失礼な話だが。
「ふむ、この水もやはり魔が含まれているな」
お弁当と一緒に渡された水にも当然ながら魔が含まれていた。お酒を水から作っているのは間違いない様だ。
(なあマキ、その魔はこの山の水には含まれてないのか?)
さっきマキは湧き水がラメルの水、みたいなことを言っていた。それなら、この山の水も魔が含まれているんじゃないだろうか。
「さっきドラゴンの位置を調べるときに探知を使ったが、間違いなく黒だ。魔を色濃く出してるのはドラゴンと、もう一か所。つまり水に魔を含ませてる場所だな」
(原因が見つかったのか!?)
その場所がわかったのなら、それを取り除くことができれば町長の頼みはほとんど解決したも同然である。
「見つけたが、今は取りに行かない。標的に気づかれるからな」
ドラゴンを襲う奴に気づかれたら逃げられる可能性があるからか。確かにそれだとまずいな。
(というかマキ、水に魔を含ませるアイテムなんかないって言ってなかったか?)
町長と話している時に、そんなことを言っていたような気がする。もしそれが出来るならマキの魔法は使い放題になるだろう。
「いいや、俺は難しいと言ったはずだ。ないわけじゃない。それにドラゴンが関わってくるならさほど難しい話じゃあないな」
(ドラゴンが関わると何かあるのか?)
「伝説級の魔物だ。秘めてる魔も尋常じゃないくらい高い。そのドラゴンが宝として常に持っているんだぜ、そんな魔に長い間さらされたら普通のアイテムも変化するだろうさ」
もともとは小さいドラゴンだと思っていたから、そんなアイテムはないだろうとの事だった。しかしフォレストドラゴンが守っていたのならあり得るらしい。
みんなで一応見張りをしながら、交互に休息をとり夜になるのを待つ。辺りには明かりもないのでかなりの暗さになるが、ファルネは夜目が効くし、マキは魔を通して見えるらしい。妹は野生の勘で見えるとか言っているがどうなっているのか。
「本当に来るのでしょうか……」
ファルネが不安そうな声を出している。あまり戦闘経験がないのかもしれない。人の事は言えないが。
「来るはず……と言ってるそばから来たようだ。探知に異常ありだ」
探知を張り巡らせていれば、魔物の動きや人の動きも確認できるらしい。結構高度な技術らしく、町で飲んでいたお酒の魔はほとんど使い切ったようだった。
「さてと、行動開始だ」
俺たちは夜の山をこそこそと、目的の場所まで移動を始めた。




