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逃走

 緑色の髪をした、二十歳前後くらいの容姿で薄いワンピースみたいな服を纏っていた。女性のような姿だが、あれがドラゴン……。


『ここ、から、でていけ』


 今のは……魔物の言葉じゃない!? いや、人の言葉も混じってはいたがどっちとも聞き取れる感じだった。


「トモキさん、今言葉を……?」


「高度なドラゴンともなると人語も操れる、人の姿をしてるから出来るはずだが……片言だな」


 人間の姿をしているという事は、人間が出来る事はできるという事か。喋るというのも確かにできておかしくなさそうだ。


『宝、奪う者、ころ、す』


「敵意むき出しだな。これは危なそうだ」


「そんな事言ってる場合なの!?」


 もう一度容赦なく炎が飛んでくる。口から吐いてるのではなく、周りに浮かび上がらせて発射してくる。流石に人型だと口から炎は吐けないのだろうか。


 一発一発の威力は大したことはなさそうだが、かなりの物量で打ちまくってくる。ひらけた場所で出会ってしまったため遮蔽物がかなり少ない。


「このくらいなら……!! はああ!!」


 妹はラメルの町で見せた、拳を飛ばす技を使って近くに来た炎球を打ち落としていく。


「エミさん、すごいですにゃ」


 俺の目では追い切れないほどの弾幕だが、どうやら妹にはしっかり見えているらしい。どこまでも凄い妹だ。


「ありがとっ、でも、これ、思ったよりも、辛い……!」


 炎球のサイズは拳より大きい程度で飛んできている。それを一つ一つ落とすとなるとかなりの集中力が必要だろうし、技を覚えたばかりで使い慣れていないというのもありそうだ。


「エミ、でかいの一発、あのドラゴンに向かって打てるか? 隙を作って逃げるぞ!」


「な、なんとか。うぐぐ……はぁ!」


 特大、というほどではないが、ドラゴンを覆い隠せるくらいの拳を飛ばす。ドラゴンはそれに驚いたか、攻撃の手が止み炎球の勢いが弱まる。


「逃げるぞ! ってエミ!」


「エミさん!?」


 引こうとする瞬間、エミが膝をついていた。気づいたらマキから主導権を奪い妹を抱えあげて走っていた。叫んだのは俺だったかマキだったか。


 ドラゴンから全力で逃げる俺達だったが追ってくる様子はなく、すぐに安堵のため息をついた。


「危なかった、エミ、大丈夫か?」


「うん、なんとか」


 ふらふらと妹は立ち上がると、眩暈の時のようにその場にしゃがみこんだ。


「エミさん、少し休みましょう! 動くと危ないですよ」


 ファルネは妹の肩を支え、木に寄りかからせる。村長からもらったアイテムの中から水を取り出し妹に飲ませる。


「ありがとファルネ」


 少し落ち着いたようだが、顔色はあまり良くない。


「何言ってるんですにゃ、助けてもらったのはこっちですにゃ。エミさん、ありがとうございます」


 ファルネは妹のおでこや首に手を当てたりして様子を確認していた。


「エミ、これも飲め」


 町で買い物をしている時に一応買っておいたMP回復薬が役に立った。妹が弱ったのは一気にMPを消費しきったからだろう。


 MPは無くなっても死にはしないが、脱力感や病気に似た症状に襲われるらしい。全体の一割を切ったあたりになると倒れたり意識を失う人が多いそうだ。


 この感じだと妹もその症状だろう。もともと拳闘家という職業はMP消費をするような職業じゃない。だが妹は何故か技を覚えて使っていた。


 まあお兄ちゃんの妹とかいう不思議職業になってたから、覚えなさそうな技を覚えても今更感ではあるが。


「ん……んぅ」


 あまり動けなさそうだったので、回復薬の瓶を口にあてて無理やり飲ませる。


「どうだ、少しは楽になったか?」


「うん、でもちょっと苦い……」


 ファルネからもらった水も飲ませる。これで少しすれば回復するだろう。


「ファルネ、ちょっとエミを頼む。周りの様子を見てくる」


「わかりましたにゃ」


 妹たちから離れ一人になる。いや、正確には二人だが。


「なあマキ、あれどうするんだ」


(……エミちゃんに無理やり技使わせたの責められると思ったんだがな)


 俺が問うと、予想外の返事が返って来た。確かにその気持ちが無いわけではないが。


「あれはああするしかなかったし、たぶんエミもそうしただろう。むしろ早めに言ってくれたおかげであの程度で済んだんだ。感謝してるよ」


 あの時、マキが言うのがもっと遅れていたら倒れる程度では済まなかったかもしれない。もしかしたら全滅すらあり得た。


(妹思いなんだな)


「まあな。あいつは俺の大切な妹だ。絶対に死なせない」


(重い決意だな。だがそう言ってもらえると罪悪感が薄れて助かるよ。最初から逃げてればもっと軽い症状で済んだかもしれないのにって思ってたからな)


 マキもマキなりに妹の事を案じてくれていたようだ。なんだかそれだけでちょっと嬉しいような気がしてくる。


 家族や友人を大切にすると言った発言は、本当に信じてしまっても良さそうだ。


「それで、あのドラゴンどうするんだ? いきなり襲ってきたが」


(ふむ、俺の知ってるドラゴンはあんなに攻撃的じゃなかった。それにどうやら手負いだったみたいだな)


「あの強さで!?」


(ああそうだ。だからといってはあれだが、逃げる判断が遅れてしまった)


 あの強さで手負い、だから追ってこなかったのだろうか。おかげで助かったがあのドラゴンと戦うとなったらどうなるのだろうか。


(手負いならば、やはり夜を待とう。どっちにしろエミちゃんの回復が最優先だから、それまで休憩を取ろう)


「そうだな、そうしよう」


 パーティメンバーが万全でないのなら回復するまで待つのが一番だろう。無理して状況がさらに悪化するのだけは絶対に避けないとな。


(それにしてもいきなり体の主導権奪われたのには驚いたぜ。本当に好きなんだな)


「ば、好きって……。いやまあ妹としては好きだけど、これ本人に言うとなぁ」


(間違いなくつけあがるな)


 思いっきり優しく出来ない理由である。

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