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説明

「ところでエミ、さっきの拳飛ばしたのなんだよ」


「さっきの? 新技を覚えました!」


 えっへん、とささやかな胸を張るがお前あれかなり怖かったし下手したら頭吹っ飛ぶぞ。というかいつの間に覚えたのだろうか。


「たぶんPT組んでたからグルゴだっけ? 倒してレベルが上がったんだと思う。体が軽くなった感じがするよー」


 フンフンとシャドーボクシングを始める妹を横目に見る。そういえばこいつレベルいくつになったんだろうか。レベルが上がったのならステータスも上がっただろうし遠距離攻撃もできるなら相当強くなった気がするぞ。


「エミ、お前のステータス見てもいいか?」


「あ、私も気になる気になる。見て見て。触診して成長具合も確かめてみていいよ?」


 鑑定士の能力を使って妹のステータスをのぞいてみる。


ネーム:エミ 職業:お兄ちゃんの妹

レベル:41


 力  :200

 賢さ :39

 命中 :300

 回避 :250

 丈夫さ:46

 運  :100


「つよ!? なんだこれ!」


 いやそれよりも職業なんだこれ。自由すぎるだろ。


「どんなもんだったの?」


 俺に軽くスルーされるのももう慣れたのか普通に覗き込んでくる。ステータスは他人のを見ることができるのは鑑定士スキルを持つ者のみだが、自分のは鑑定してもらった人から見せてもらうことも可能だ。ただし普通の村や城、職業診断所では初回のみ無料で二回目からはお金を取られる。


 自分の村や馴染みの場所ならタダでやってくれる人も多いが、この辺が鑑定士が安定した職業たる所以である。鑑定士の能力持ってて便利だったな。


「ほーん、こんなもんか」


「こんなもんてお前……アンナさん13だったんだぞ……」


「だって私最後に見た時30超えてたし」


「お前お城行くときボコボコされてたよね?」


「お兄ちゃんに弱い所見せたくて攻撃モロに食らったら大惨事だったよ……」


「無駄な頑張りすぎる!」


 俺の妹は完全にアホだった。というかまともにやったら先生達より強かったんじゃ……。師匠鍛えすぎだろこいつの事。一体どこに向かうつもりなのか。


 でもこいつのレベルみたらあの強さは納得できるものがあるな。人を殴って浮かせるとか盗賊をあんな風に一方的に殴れるとかおかしいと思ったわ。


「そういえばお兄ちゃん、職業の固有スキルとか見られないの?」


「普通は見られるのかもしれないが、レベル1だから見られないのかもしれない」


 鑑定士のスキルがレベル依存とは聞いたことがない。でなければ大臣や鑑定士になった人が町や村から出ずにいたら鑑定に差が生じることになる。

 複数の鑑定士がいた場合レベルの高いほうに見てもらったほうが良いということになってしまう。レベル低いほうに合わせて商売してるなら別だろうが。


(お前のスキルはなんだか中途半端だな。鑑定士のスキルっていうよりも簡易鑑定士のスキルって感じだな)


「わかるのか?」


(俺を誰だと思っている。元魔王だぞ? たぶん鑑定士の能力は不完全な物まねによって手に入れたんだろう。心当たりはあるか?)


 最初に鑑定されたのは、勇者PTの科学者だったか。あの時は職業が表示されなかったけどそのあと城に行ったら鑑定士って言われたんだよな……。


(そうだな、相手の一部を食ったとか)


「食うわけないだろうか! いやでも待てよ、確かあの時メガネぶん殴って手に血が付いたかもしれない。こっちも手から血が出てたしその時舐めたかもしれない……」


(たぶんそれだな。物まねの基本スキルは相手の能力を見てからじゃないと真似できない。その科学者のスキルも本来の物じゃなかったからそういう見方なんだろう)


 つまり職業が科学者じゃないのは科学者としての能力を見てないから、という事か。鑑定士というのも科学者の一部に含まれるのならずいぶん中途半端に真似してるもんだな。


「……お兄ちゃん、誰と話してるの?」


「あ」


(あ)


 やべ、思いっきり声出してた。


「もしかして、マリーさんが死にそうだったのがわかったのってその誰かの入れ知恵か何か?」


 こいつたまに鋭いな。どうするべきか、いや決まってるか。普通親兄妹に魔王復活して俺の中にいますテヘペローって言ったら何て言われるかわからないがこいつ普通じゃないしな。

 隠し続けるのも無理があるだろうし丁度いいかもしれない。


「ちょっと説明しにくいんだがな……」


 俺はかいつまんでマキの事を説明することにした。証明しろと言われたらどうしようかと思ったが、実際にグルゴを倒したことで納得してもらえたみたいだった。


「へー、そんなことになってたんだぁ」


 あまり興味なさそうな感じではあったが、俺が生きていたことを喜んではいたみたいだった。ちょっと疑いのまなざしを向けられていたが事実なのだから信じてもらうしかない。


「じゃあお兄ちゃん、そのマキさんに代わってみてよ」


「え、なんで」


「害がないって言うなら直接話してみたいかなって思って。お兄ちゃんの命の恩人だしお礼も言っておきたいし」


「このままでも聞こえるぞ?」


「いいからいいから、ね? おねがい!」


 やたらと頼み込んでくる妹に違和感を覚えたが別にいつでも話す機会はあるだろうに。というか直接言わなくても聞こえてるんだが。


(なんだ、俺と代わるのが嫌か? 嫉妬か?)


「いや違うけど……」


(じゃあなんで嫌なんだよ)


「エミが何か良からぬ事を考えているような気がしてならない」


「ぎく」


「おいこら」


 妹にも聞こえるように言ってやるとわかりやすく焦り始めた。何も信じられないぞこいつ。


「いやほら! お兄ちゃん助けてくれたし? 私も助けてもらえたし? やっぱこうほら? なんかこうあるじゃん?」


「本音を言え」


「お兄ちゃんの体使う時にこっそり写真撮って私にください。出来ればお風呂とかそういうところでほぼ全裸の物を希望します」


「エミ、お兄ちゃん怒っていいかな」


「いやー!」


「いやじゃねぇよ! どこに兄の裸欲しがる妹がいるんだよあほか!」


「ここにいますし私はそれがおかしい事とも思わないし何だったら私の写真と交換してもいいし」


「誇らしげに言われてもな……そもそもマキに代わった所で俺の意識はあるぞ」


「え……じゃあお兄ちゃんが撮ってくれるって事?」


「やらんわ!?」


 下らない会話を続けつつ、やっぱり俺の中に魔王がいても変わらず接してくれる妹に感謝の気持ちを持つのだった。ちなみにマキはやっぱお前の妹おもしれーわと言ってずっと笑っていた。


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