回収
「え、ちょ! お兄ちゃん何してるの!?」
何してるのかは俺が聞きたい。マキさんなにしてるんですか。アンナさんも呆然とした顔でこっちみてるしこれ言い訳するの俺なんですよマキさん。
「むぐ……んぅ……」
マリーさんも苦しそうな声を出しているがマキは一向にやめる気配がない。どのくらいそうしていただろうか、時間的にはそんなに長くはないがキスというものを考えるとかなり長かったような気がする。
気のせいかマリーさんの顔は赤くなっていて、目もとろんとしている気がする。そしてアンナさんはずっと固まったままで妹に至っては何かぶつぶつ言っててこわい。
「……これで大丈夫だ。体の中の魔をほとんど吸い取ったから休めば良くなるだろう」
「トモキ、さん?」
アンナさんが疑問を挟み込んでくるが俺はなんとなく理解した。体の中にさっき魔法を使った時みたいな不思議な感覚がある。そして血の気の戻ったマリーさんの顔を見れば良くなったのだろうと想像もできた。
(じゃあ体返す)
「はい!? 急すぎない!?」
「トモキさん? なんで姉にき、キスをしたんでしょうか?」
「それはですね、なんというかさっき倒した魔物が言ってたんですが体の魔を高めてから食べるとかでどうやらマリーさんも魔を高められていたんですね。それが今逃げた魔物によってかなり危ないところまで高められていたらしくその魔を吸収させていただいて……」
「姉はそんなに危なかったんですか!?」
「ええ、血の気もなくなっていましたしかなりぎりぎりだったと思います……」
「そうですか、よかった。お姉ちゃん……」
マリーさんが大丈夫と聞いて優しく抱きしめる。気を失ってはいたがさっきよりも顔色が良い事に気が付いたのだろう、アンナさんは泣きながらも笑顔だった。
「で、私は納得してないけど説明してくれるのかなお兄ちゃん?」
こっちも笑顔だったが明らかに別物です本当にありがとうございます。
「いやほら危なかったんだって! 急がないと死んじゃったかもしれないんだぜ!?」
「それがどうしてお兄ちゃんにわかったのかなぁ?」
だめだこいつそこ突っ込んで来たら正直めんどい!
「それにねお兄ちゃん、そのマリーさんが危なかったっていうのにそれを吸い込んでお兄ちゃんがピンピンしてるのも、私不思議だなぁ」
手にはめたガントレットをガチンガチンやりながら聞いてきて怖い。いや殴ってきたりはしないだろうけどこの威圧感、グルゴよりもあるかもしれん。
「グーで行くか今夜私のベッドくるかどっちがいい?」
「どっちも勘弁してください……」
(相変わらず面白いなお前の妹)
笑ってる場合じゃねぇ!! 妹が詰め寄って来ている時にマキに話しかけられた。誰のせいだ誰の。
「じゃあ私にもちゅーしてくれる?」
「そ、それはかなり問題になるんじゃ……」
「ベッドに来るのとどっちが問題かな?」
今夜家にこない? ダメ? じゃあご飯行こうよご飯。みたいな大きい問題と小さい問題を比べられると小さい問題の方を選んでしまうという話を聞いた事があるがこれはどちらも大きい問題です助けてください。
「エミさん、トモキさんも困ってるみたいですし町の方々も助けないといけないので一旦外に戻りましょう」
「うー……」
納得いってないようだったがアンナさん助かりました。
他の人たちを見てみるとマキが言うには大丈夫だそうだった。全部で三十人くらいいるから一度町に戻って残っている人たちと一緒に運び出そうということになった。
と言っても町に残ってる人はほとんど連れ去れていたため、食料や生活用品などをダンジョン内に持ち込みその日はそこで夜が明けるのを待つことになった。
夜に町の外に出歩くのは危険だし、魔物が出てきても対処できる人たちがかなり少ない。そしてダンジョンを往復するとなると常に護衛していなきゃならなくなる。
それなので出来ればここで弱っている人たちに歩けるくらいまで回復してもらえるのが望ましいのだが、重症な人たちはかなり難しいだろうとのことだった。町に連れていきできる限り早く処置したほうがいい。
俺たちは町の人たちに盗賊もいたことを伝えたら渋い顔をされた。
「最近、冒険者だと言って五人の男たちが町の宿に来ていたんだがあいつらか……くそっ!」
町で宿屋をしている主人は無事だったらしく心当たりのある男たちに悪態を付いていた。町の人にしてみれば騙された気分なのだろう。かわいそうに。
ダンジョンの案内が終わって荷物を運び終えたら俺たちは地下の入り口を見張ることになった。魔物がまだダンジョン内にはいるので万が一に備えているというわけだ。交代交代で見張ることになり俺は最初に見張ることにした。
二人も回復したとはいえ、一度魔法を受けている。休憩は絶対にしたほうがいいと言っておいた。薬草や回復アイテムを使ってもいいが、精神が回復するわけではないしアイテムに頼るのはできるだけしたくない。休憩で回復できるならそっちのほうが健全だ。
一人で入口にいるとマキが魔法を使った時の事を思い出す。体の中がぐるぐるとかき回されるような感覚、そしてあの威力。詠唱のない魔法であの威力を出せるのはマキが魔王だからなのか、それとも魔物には魔物のやり方があるのだろうか。
俺にも使い方を教えてくれると言っていたが、やはり魔物としての使い方なんだろう。
闇の精霊の力、魔を体に吸収しても体調を崩さない所か良くなっていく。マリーさんから吸い取った魔はかなり濃く、レベルアップのログもしっかり流れていた。ただ、いつもみたいに体に熱が発生することはなくなった。マキの影響だろうか。
俺はこれからどうなるのだろうか、魔の力を使うから闇魔法使いとでも言っておいたほうが良いのか、いやそれだともし鑑定能力のあるやつに見られたら何故嘘をついているのか問い詰められるか。
人間から段々と離れていく自分が段々と怖くなりつつあった。戦闘中は気分が高ぶっててそんな事なかったが冷静に考えるとかなり危ない奴だと思われても仕方がないだろう。
俺はこれからどうしようか。エルフにあって呪いかどうかを調べるという目的も、マキがいるとわかった時点でほぼ達成したと言える。俺に出来る事、やりたい事。もう一度しっかり考えたほうが良いのかもしれない。
マキと出会って改めてそう思うようになった。




