第23話 迎えに来たのは断罪学生
――九時十五分。
私とエドワードは最高潮の緊張状態のまま、
しんと静まり返った理事長室で待機していた。
ちなみに、出された食事はとっくの昔に平らげている。
「エドワード……とうとう、
九時十五分になってしまいましたね……」
壁に掛けられている立派な振り子時計を
じっと見つめた。
実は先ほど、部屋中に九時を告げる
重々しい鐘の音が鳴り響いた瞬間。
私は不覚にも「ひゃいっ!?」と
情けない悲鳴を上げてしまっていたのだった。
それくらい、
今の私の精神は限界を迎えている。
「うん、そうだね……。九時に先生が
迎えに来ることになっているというのに……ハッ!」
突然何かに気付いたのか、
エドワードの顔が急激に青ざめていく。
「ど、どうしたのですか……!?」
「うん……今ふと思ったのだけど、
もしかして、もうすでに
『始まっている』のではないかと思ってね……」
「……始まってるって、一体何が……」
いやだ、怖い、これ以上は聞きたくない。
そう思いつつも、私は震える声で尋ねた。
「うん。これももしかしたら、
この断罪学園に転校してきた新入生に対する、
最初の『試練』なのかもしれない」
「し、試練って……?」
ますます私の声が震える。
「うん。つまり『放置』という名の試練だよ。
先生が僕たちを迎えに来ると言ったのは、
あの理事長のついた全くの嘘、でたらめだ。
ここへ僕たちを呼び出したこと自体が、
最初から罠だったんだよ」
「確かに、そうかもしれませんね……っ!
あの無駄に愛想のいい笑いには、
絶対に何か恐ろしい裏があると思っていました!」
理事長室で、堂々とフレデリック理事長を
悪人呼ばわりするエドワード。
そして、全力でそれに賛同する私。
「どこまで放ったらかしにされて、
僕たちが大人しくしていられるか……。
今もどこかから、
観察されているのかもしれない」
「それは、私たちの忍耐力を試されていると
いうことでしょうか?」
するとエドワードはパチンと指を鳴らした。
「それだ! アメリア!
この学園で僕たちが耐えていけるかどうか、
理事長はテストしているんだ。
ここで生き残っていくには、
僕たちは理事長が与えたこの
理不尽なテストに、
何としても合格しなければ……!」
「ご、合格しなければ……?」
「僕たちは、終わり……」
「お、終わりですか!?」
そんな! ここで私の人生は
詰んでしまうのだろうか!?
……あ。でも、そもそも婚約破棄されて
この島に追放された時点で、
私の人生はとっくに詰んでいたのだけど。
「……かもしれない。
これはあくまで僕の仮定だよ、
ごめん、アメリア。
君を怖がらせるつもりはなかったんだ。
だけど、あらゆる最悪の事態を
想定しておかなければいけないと思って……。
でも、大丈夫だ。
僕も一緒だよ。一蓮托生だ」
あぁ、本当になんて心強くて、
頼もしい言葉なのだろう。
お互いの目を見つめ合い、
運命を共にする覚悟を固めた時。
ガチャッ!!
いきなりノックの音すら無しに、
重厚な扉が乱暴に開け放たれた。
「「キャアアアッ!!」」
「「うわあああッ!!」」
あまりの恐怖と驚きに私とエドワードは、
お互いの体をぎゅっと抱きしめ合って
悲鳴を上げた。
心臓が口から飛び出そうなほど脈打つ中、
恐る恐る視線を向ける。
そこに立っていたのは不気味な教師ではなかった。
私たちと同じ制服を着た、
一人の見知らぬ男子学生だった。
「……あれ? もしかして、
お邪魔だったかな……?」
「「え?」」
その言葉に、私とエドワードは
お互い抱きしめあっていることに気付いた。
「そ、そんな!! お邪魔だなんて、
とんでもないです!!」
「はい! お邪魔なはず
絶対にありませんから......!」
エドワードと私は、
パッと飛び退くように互いの体を離した。
「ならいいけど……。それより遅れてごめん。
迎えに来るのが遅くなっちゃって。
先生たちがみんな手が離せなくてさ。
学年代表として、僕が君たちを迎えに来たんだ。
さあ、行こうか。二人とも」
「は、はい……」
「よ……よろしくお願いいたします」
エドワードの背中に隠れるようにして、
必死に声を絞り出す。
『断罪学生』が迎えに来たことで、
私たちの目論見は、もろくも崩れ去ってしまった――




